フィリップ笑う(2)
「それで、3ヶ月で底をつく国の資金をどうしたらいいか、皆さん考えて来ましたよね?まさかのノープランなんて認めませんよ。何も策を考えてきていない者は、私の決定に従うことになります。策がないということは、即ち国が滅んでも良いと考えている反逆者と同じ。・・・これ以上私の機嫌を損ねないでください」
俺はずらりと並んだ大臣・副大臣・軍司令官・警備隊指揮官を前にして、これでもかと睨みを効かす。
国王なんて、俺と視線さえ合わせようとしない。
愚王ではあるが悪人ではない。しかし、国の金も管理できないとなれば、無能なだけでは済まされない。王として責任はとって貰おう。
俺は司会進行役として、高給取りから順に回答するように指示を出す。
「わ、私は先日大臣に就任したばかりで、し、仕事の内容さえ把握出来ていない」
初っ端からこの体たらくだ。既に溜め息をつくのにも疲れ、フンと鼻で笑って、これ見よがしに出席者名簿をテーブルの上で広げ、法務大臣の名前を、赤インクでこれでもかと塗りつぶす。
「だから?だから何なんです?国が破綻するのは仕方ないと?そういうことかな法務大臣。まあいい。策がないということは、私の出す策に、異議を唱えないということだな」
俺はそう言いながら、一応法務大臣に確認しておく。
俺が出す策がどういうものかが分からないので、当然いいとは返事をしないが、怯えたような目でチラリと俺を見て無言で下を向いた。
「バカらしい、金がなければ借りればいいじゃないか」
「そうですね人事担当大臣。それで、何処から借りるつもりです?当然そこまで考えていますよね?お金がなければ借りればいいなんて、10歳の子供でも考えつきますよねえ」
「金を持っている商人でいいだろう」
当然だろうとばかりに、腕組みをした人事担当大臣は偉そうに言う。
「それで、高い金利は誰が払うんです?担保は何にするんです?ああ……この城でも担保にしますか?半年後には、この城はどこぞの商会の屋敷になるわけだ。それとも、貴方が金利を払ってくれるとでも?」
「な、何を言うんだ!無礼じゃないか伯爵ふぜいが!」
「はっきり言ってやろう。無能な文官をたくさん雇い、無能な上官に法外な給金を払ったことで、国の財政は大きく傾いたんだ。噂では、就職の斡旋で随分と稼いだようだな。国金を1番無駄遣いした張本人が誰なのか、さあ皆さん、誰が悪いのか、誰の責任なのか・・・なあ、名前を言ってみろよ外務大臣」
上品さの欠片も、貴族としての気品もない感じで、俺は他人事のように話を聞いている外務大臣に話を振る。口調には完全に脅しが入っている。
その途端に、他の出席者に緊張が走る。
王宮では今、【責任】という言葉に過剰に反応する者が増えていた。
いつ自分が責任を問われるのかと、ビクビクしながら登城を拒む大臣さえ現れる始末である。
どうやら俺は、あの諸悪の根源である大公を、失脚させた中心人物だと噂になっているらしい。
大公の絶対的な権力と高圧的な態度に、この場に居る連中は慣れきっていた。だから、俺はそれを逆手にとって、悪ではなく正義で脅しをかけている。
俺は立ち上がると外務大臣の隣まで行き、答えるまで顔をジーッと覗き込んでやった。
シルバ皇太子の側近によると、不細工な顔だった大公より、整い過ぎている顔に慣れていない分、俺の金色の瞳に直視されると恐怖で震えるらしい。訳が分からん!
「・・・た、確かに、先日の能力テストは酷かった。あれでは、まともに計算も出来なかっただろう。……そ、その点で言えば、人事担当大臣のせ……人事担当者が悪いと思う」
外務大臣と人事担当大臣は、同じ派閥の仲良しである。それが分かっていて俺は質問している。外務大臣は、【責任】という言葉を出さなかった。
「成る程。人事担当者が悪いと……ふ~ん。それなら悪い人事担の責任者には、何も罰を与える必要はないのだろうか?どう思うかな教育大臣」
外務大臣の隣で、イライラを募らせている様子の教育大臣36歳に、俺はにっこりと笑いながら質問した。
「先の戦争で優秀な教師や学生を多く失った。失脚した教育大臣はクズだったが、教師を雇う金など無いと人事担当大臣は私に言った。だが、バカで無能な文官1人に払う給金で、教師が2人は雇えたと思うと、俺は【責任】を取るべきだと思う。それに、商人に金を借りたら国が潰れると分からない者が居るとは……本当に信じられない」
やる気と正義感溢れる新教育大臣は、恨みも込めて辛辣に言い放った。
教育大臣はシルバ皇太子の派閥で、大公時代に冷遇されていた1人である。
俺は「成る程」と答えて席に戻ると、再び出席者名簿の2人の名前を、赤インクで塗りつぶした。もちろん、人事担当大臣と外務大臣の名前である。
そして教育大臣の名前には、青いインクでゆっくりとマル印をつけた。
そんなこんなの問答があったが、まともな解決方法が提案されることはなかった。
なんなんだお前たちは!本当に腐っている!全く現実が分かっていない!
「俺はカルート国が破綻しようが構わない。俺は爵位に未練などないし、領地も持っていないからな。
善人の振りをしたギラ新教徒の商人に国を乗っ取られようが、国の名前がギラ新教国になろうが構わない。
ギラ新教がお前たちを貴族のまま雇ってくれるかどうか知らんが、まあ、直ぐにレガート国に戦争を仕掛けることになるだろう。そして、完膚無きまでに叩き潰される。
ギラ新教の駒として逆らわずにいれば、殺されることはないだろう……たぶん。
それか、まともなレガート国に全てを任せ、レガート国の属国になるのもアリだな。
その場合は、レガート国の貴族が要職を占め、伯爵以上の上位貴族の数は半数以下に減らされるだろうが、国が潰れることはない。
そうだ、いっそのことレガート国に金を借りて、借金が返せなければ、ロームズのように国土を差し出せば良いじゃないか。それなら誰も今の仕事を辞めなくてもいいし、これ以上の責任もとらなくてもいいぞ。
取り潰された貴族の領地は今、皇太子殿下の直轄地になっているから、ここに居るお前たちには実害は及ばない。
だが、ずっと借金を続けられる訳じゃあない。
自分達の努力で支出を減らし、税収を増やさなければ、結局この国は潰れる。
国が潰れるということは、ここに居る全員が職を失い、貴族ではなくなり、住むところも失うということだ。
3月10日まで待ってやろう。領主を含めた貴族会議で最終決断をする。
生ぬるいことを考えていたら、俺はお前たちを見捨てる!
この国を真に救いたいと思う奴は、いつでも俺の執務室に来い!考えを聞いてやる」
俺は話し終えると、真っ青な顔をしている国王も皇太子も無視し、全員を置き去りにして会議室を出た。
ああ、ロームズに帰りたい・・・イツキ様、俺に活を入れてください。
そうだ、怒りの感情に支配されないよう、ヘサ正教会で午後の祈りでも聞こう。
2月30日、人事部担当大臣と副大臣は、1年間無報酬か免職プラスさらし者で選択させた結果、投獄やこれ以上の責任追求を恐れ、免職プラスさらし者を選んだ。
これで、害にしかならない大臣は全員居なくなった……はずだ。
3月6日、イツキ様から吉報が届いた。
レガート国が、無利子で半年分の資金を貸してくれると決定した。
先日の会議以来、国を思う真面目な文官や、新しく要職に就いた上官たちが、俺の執務室にやって来るようになった。
俺は皇太子を含めたそいつらを集めて【新しいカルート国をつくる会】を立ち上げさせた。代表は教育大臣である。
遣る気になった者をどんどん起用し、軍や警備隊を含む全部署に改革案を提出させた。ただ提出させるのではなく、イツキ様直伝の競争を取り入れた。
素晴らしい予算削減案を提出した部署には、俺個人から褒賞金を出した。
仕事の効率化や働き方改革を行った部署には、シルバ皇太子が褒美を出した。金は無いので、宝物庫から献上品として貰った食器等を下した。
3月19日、マキ公爵を派遣団の責任者として、レガート国の上層部63人が、王都ラミルを出発したと知らせが届いた。到着予定は24日である。
レガート国では死んだことになっている俺は、ここに居てもいいのだろうか?
まあ、フィリップと呼ばれて反応しても問題ない。今の俺はカラギ伯爵であり、泣く子も黙る情報部司令官だ。
はあ?侯爵になれ?大公の持ってた領地をやる?何を言い出すんだ国王!
要らんわそんなもん!
俺はイツキ様の半身だ。イツキ様のために生きることが悦びだ。
今頃イツキ様は、ミリダ国の問題を片付けて、春休みのことでも考えているに違いない。
レガート国の派遣団が到着する24日までに、最大限の努力を見せるため、10日の貴族会議(男爵以上の貴族)で決定したことを、確実に行使しなければならない。
【 貴族会議決定事項 】
◆ 国金不足分として、レガート国より金貨8万枚(80億円くらい)を借り入れる。
◆ 現在の爵位の維持を望む者は、指定の金額を3月22日までに納める。
《公爵》金貨100枚 《侯爵》金貨80枚 《伯爵》金貨50枚 《子爵》金貨30枚 《男爵》金貨20枚
◇ 指定の金額を払えない貴族は、払える金額の爵位に降爵される。
◇ 特別な理由(戦後の復興・災害等)で、支払いが困難な貴族は、査察官の取り調べを受け、認定されれば減額される。
◆ 国王任命の貴族は、支給される貴族手当てを、借金返済までの間半額とする。
◆ 上記の決定事項に承服できない貴族は、貴族位を返上し平民になることができる。
(注釈)貴族位を返上した者の領地及び全屋敷は、全て国の物となる。
◆ 領地を所有する貴族は、住民の税額を、3%以上上げてはならない。違反者は厳しく取り締まる。
領主は納税を上げるために、新しい産業を興す努力を行う。この時、情報部はレガート国などと協力し、知恵や技術を提供する努力をしなければならない。
◆ 産業を興したり商業を盛んにし、納税を増やした領主には、その功績により、皇太子直轄地を新しく任せる。
◆ 現国王ラグバス・カルート・ダヤは、1099年12月30日をもって、リバード皇太子に譲位する。
1099年3月10日 公爵 サビゾ・フォン・カルート 公爵 ホーブス・フォン・エーモス 以下貴族の名前が続く(男爵以上の貴族71人)
3月20日、貴族会議の決定事項を受けて、貴族位を返上したのは子爵2人、男爵6人だった。全員が領地を持っておらず商会を経営していて、潰れる寸前の国の貴族に未練はないらしい。だが、貴族主義のカルート国で、同じ生活が出来るとは思えない。
指定の金額を払えず、爵位を落とした貴族は3人だった。無理して払った貴族は半分くらいだろう。まだまだ絞り取れそうだが、今回はこのくらいにしといてやる。
次がないと言った覚えもないし、これ限りだと決定書に記入されてもいない。
今日も【新しいカルート国をつくる会】の勉強会だ。
会員は60人を越えた。軍や警備隊の上官も熱心に参加している。
特に警備隊の奴等には、何処からか俺がレガート国の【王の目】を率いていたとの噂が広がり、キラキラした瞳で熱い視線を向けてくる。鬱陶しいことこの上ない。
教育大臣が嬉しそうに執務室に迎えに来た。仕方ない行くか、と言って俺は笑った。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
次回の更新は、29日(月)の予定です。




