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予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
ミリダ国とカルート国

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175/222

フィリップ笑う(1)

◇◇ フィリップ情報部司令官 ◇◇


 気付けば午後6時、なんだか目が疲れたと思ったら、執務室の中は既に暗くなり始めていた。

 誰も居ない部屋のランプを自分でつけ、疲れた目元を揉み解す。


 予想以上に使えないカルート国の大臣や高官は辞めさせたが、新しい人材を確保する為に、毎日午後から面接をする。

 この際、年齢や身分や性別など構っていられない。

 求人表には完全実力主義をうたい、実力次第で1年間に3階級出世も可能とした。

 特に、10年前辺りに突然首を切られた、真面目に働いていた文官や軍人を優遇すると注釈をつけた。

 大公派に辞めさせられ、現在不遇な職に就いている者たちを掘り起こし、即戦力として働いて貰う。



 イツキ様の命令でカルート国に赴任して10日が過ぎた頃、俺は邪魔者を消すため最初の爆弾を投下した。


 2月3日、各部署の5年分の決算書と、本年度の予算書の査察を断行!

  

 当然査察中は、査察官の帰宅を禁じ、面会も外出も禁止した。

 徹夜は当たり前であり、情報部のある1階の大部屋と、3階の執務室と会議室の前には、カルート軍の精鋭部隊に見張りをさせた。


「いいかお前たち、少しでも多くの不正を見つけろ!多く見付けた者は、1階級昇進させてやる。それか、ボーナスポイントを10貯めて、レガート国に研修に行かせてやる。無能な大臣と副大臣を辞任させられたら1ポイント。罷免させられたら2ポイントだ!」


シルバ皇太子の側近4人を含む10人を前にして、俺は発破をかけた。

 罰則を科して働かせるより、褒美や特典を与えた方が、遣る気が上がるのは当然であり、初っ端から嫌な上司を演じるつもりもない。


 今回の査察官に選んだのは、4人の側近の友人や、ユリス商会のセルト男爵と商会の番頭だった。

 下手に地位のある者では、何処にどんなしがらみが有るか分からない。査察はスピードと正確さが重要であり、手心や手抜きは許されない。


 3日後の2月6日に、査察結果を国王に報告し、査問委員会にかけられた。

 ちなみに、査問委員は俺とシルバ皇太子と国務大臣の3人である。

 カルート国には、査察官も居なければ、査問委員会も無かったので、やりたい放題だった。



 2月7日、不正が発覚した部署(全部署だった……)の大臣と副大臣を呼び出し、問答無用で不正を突き付けた。

 2日の猶予を与え、申し開きと弁明のチャンスを与えた。

 当然とかげの尻尾切りなんて甘いことは許さない。

 部下の責任をとるのは当たり前であり、不正に気付かなかった無能な大臣は要らない。勿論、部下の失敗ではなく、大臣や副大臣、部長の指示によって行われた不正があれば、罷免は免れない。

 予算書や決算書を作成した事務官は、犯罪者の如く監禁され取り調べを受けさせた。


 その遣り口……その手法について、文句を言う者は当然居たが、文句を言った大臣や高官には「来週には、貴殿の領地にも査察官が向かう予定だ」と言うと、直ぐに文句を取り下げた。分かりやす過ぎて笑えた。

 明らかに横領だと判明したものについては、関係者を有無を言わせず投獄した。

 証拠隠滅なんて、出来る訳がないと強く知らしめねばならないし、情報部には、その権限と力があるのだと周知させる必要があった。


 だから、不正に関わっていない者でも平等に取り調べたし、嫌疑が晴れれば釈放し、情報部から潔白を認められた善人だと、王宮のホールに貼り出された善人リストに記名された。

 善人リストに記名されると、腕に【優秀者】という腕章を付けることが可能になる。

 これが真面目な文官たちに好評で、積極的に取り調べに応じる者も居たし、積極的に不正を密告する者まで現れた。

 密告者に関しては、後日多方面からその者を調査し、真面目に働いていた者だと確証を得たところで、情報部にスカウトした。



「スケルト、君の密告は非常に役に立った。君のその不正を許さない正義感は、情報部でこそ活かされると思うのだが、どうだ、シルバ皇太子直轄部で働いてみないか?」


「えっ?私は善人リストに明記され【優秀者】に成りたかったのですが……」


恐怖の抹殺者とか、最強最悪の裁き人と噂されている俺に向かって、教育部のスケルト(準男爵家長男26歳)は勇気を出して返答してきた。


「きっと君は密告者であると上官から認知される。そうなると、君は何処の部署に行っても、重要な仕事を任されなくなるだろう。それよりも情報部に所属し、全ての部署の不正を暴きながら、横暴な上司に苦しめられている仲間を救う為に、文官の戦士として戦って欲しいんだ」


「文官の戦士……仲間を救う……う~ん・・・分かりました。情報部で頑張ります」


スケルトは覚悟を決めて返事をし、俺と笑顔で握手を交わした。

 情報部に所属する特典として、文官採用試験に、上級学校の同期生や身内等の知り合いを、身分に関係なく2人まで推薦できると告げる。

 善人の友達は、基本的に善人が多い。真面目に黙々と事務仕事をこなしてくれれば良いので、上級学校を卒業さえしていれば、特別優秀である必要はないと付け加えた。


「ええっ!私が推薦人になれるのですか?」

「ああそうだ。君が信用できると思う者を推薦してくれ」


俺は優しく微笑み、3日以内に推薦人を提出するように指示を出した。

 カルート国の文官採用試験は、貴族と平民では採用枠が大きく違っていた。

 どんなに優秀でも、平民では採用されるのが難しかったのだ。

 優秀な平民より無能な貴族の子息が、堂々と採用される国だった。




 2月13日、俺は第2の爆弾を投下した。


 文官全員に全ての業務を中止させ、【能力テスト】を実施したのだ。

 能力テストの結果には、2通りの結果発表を用意させてもらった。


 A案・・・結果の発表はしないが、平均点以下の場合、階級を下げられても良い。

 B案・・・階級は下げたくないので、テスト結果は発表されても構わない。


 他の案? そんなものは存在しない。

 面白いことに、貴族家の長男はA案を選択する者が多かった。プライドだけは高いということだろう。

 だが、1階級しか下げないとは、何処にも書いていない。

 そして何を勘違いしたのか、自分は優秀だと思っていたB案の選択者の多数は、18日に貼り出された【能力テスト】の結果発表を見て愕然とした。


《 能力テスト結果発表 》

 【最高点 100点】【平均点 56点】

◆ 85点以上の者を1階級昇進とする。

◆ 75点から84点までの者は、文官として普通の能力者であると認める。

◆ 50点から74点までの者は、毎日午後5時から6時まで、普通の仕事が出来るレベルに到達するまで、補習勉強を義務付ける。

◆ 30点から49点しか取れなかった者は、文官として認めない。階級は下げないが減給の上、文官補佐として与えられた雑務等の仕事をする。

◆ 29点以下の者、王宮で働くことを認めない。階級は下げないが減給の上、地方への物資運搬業務または、軍と警備隊物資部の仕事をする。

(注意事項 物資運搬業務と軍と警備隊物資部は、不正を行った場合や、不正を見逃した場合、階級上位者が責任を負い罷免となる)


 上記のことがデカデカと書かれた結果表には、テストを受けた全員の名前と、当然のことながら得点は1点刻みで公開されていた。

 そして、テスト結果を受け入れられない者は、自ら辞職することを認めると、俺は親切にも追記しておいた。

 この日から27日までの10日間、王宮で働くメイドや少数の侍女たちは、嬉しそうにテスト結果を見て笑っていた。どうやら相当鬱憤が溜まっていたようだ。


 【能力テスト】の結果、退職希望者10名、階級を下げられた者58名。49点以下での減給者42名だった。これで110人分の賃金の削減が出来る。



 補習勉強で助かったと思った大多数の者は、午後5時から始まった勉強会に出て、顔を真っ赤にすることとなる。

 補習を担当したのは、王都ヘサの王立ヘサ女学院の美人教師と、毎日日替りでやって来る助手の女学生4人だった。

 カルート国のヘサ女学院は、生粋の貴族のお嬢様だけが通う学院である。

 王宮で働くエリートを気取っていた者は、独身の女学生から無能な男だと認識されることになる。

 決して怒って赤くなったのでなく、恥ずかしくて赤くなったのである。


「はじめまして。皆さんの補習を担当するヘサ女学院のマリエル教授です。独身者の皆さん、婚約者に婚約破棄されないためにも、早く補習を達成されることをお勧めしますわ。それから既婚者の皆さん、わたくし、今年度の卒業生の集いの主幹を務めています。その意味がお分かりですわね」


超美人経済学教授のマリエル31歳は、それはそれは美しく微笑みながら言った。

 補習を受けていた60人の男たちは、恥ずかしくて下を向きながらも、美しいマリエルにボーッとする。

 まあいい、これからお前らは地獄を見るんだからなと、俺は補習会場である大会議室の後ろに立ちニヤリと笑った。


「補習内容は簡単です。簡単な計算問題と集計問題だけです。3日に1度だけ書類の間違い探しをしていただきます。ああ……それから、毎日4人の教え子を連れて来るので、この娘たちより早く正確に問題をこなした方には、スタンプを押します。3つ貯まったら補習は終了です。こんな優しい課題を出されるなんて、情報部の司令官様は、お優しい方なのでしょうね」


 美人の顔など見飽きていた俺だが、この教授とは何だか通じるものを感じる。

 この微笑みは、苦しむ姿を見るのが大好きな、ダメなヤツを虫けらのように蔑むことに、悦びを感じる人間の微笑みだ。同類の女を初めて見て、俺は少し心が弾んだ。 

 これから何日も、選び抜かれた優秀な女学院の学生と事務処理の競争をし、勝てるまで補習をしなければならない奴等に、俺は同情する気持ちなど全くない。


 今回女学院から講師を呼ぶにあたり、俺は女学院の卒業生と在校生に、文官として王宮で働く道を開くことを校長と約束した。

 試験に受かれば、卒業生については本年度20人、来年度から必ず10人の枠を取ると確約していた。

 ちなみに今回文官に行った【能力テスト】と、全く同じテストを女学院の経済コースの学生に行ったところ、平均点は82点だった。

 これで、女性の文官を無能だと言う奴は確実に減り、採用に反対するバカ親の勢力を抑えることが出来るだろう。

 自分の息子が補習している時点で、文句を言う権利()()ない。



 優秀な男性の文官たちは、堂々と女学院の学生にアピールできることを喜んだ。

 その喜びの気持ちを長く続けさせる為に、85点以上の得点を取り、1階級昇進した者には、直ぐに新たな任務を与えた。

 それは、現在カルート国の国金は、いくら残っているのかを調べさせることだった。


 そして2月23日、判明した衝撃の事実に、情報部の15人と85点以上をとった優秀な文官36人は絶句した。

 俺は怒りのあまり財務部に殴り込みをかけ、財務大臣を即、反逆罪で牢にぶち込み、副大臣以下の役職者全員に、投獄・全財産没収・さらし者になるの内どれかを選ばせ、全員を王宮ホールに座らせ2日間さらし者にした。


 さらし者たちの後ろの掲示板には【カルート国の国金は、あと3ヶ月で無くなります。すみません。財務部】と書いて貼り出しておいた。


 2月25日、俺は怒りを抑えられないまま、第3の爆弾を投下した。  

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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