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予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
ミリダ国とカルート国

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密談(2)

 葬儀終了後、ご遺体を先導するかたちで、かすり傷で療養することを決めたギラ新教徒と思われる伯爵が、馬車で国境の街ハシヤに向けて出発した。

 イツキはケガ人の様子を診るため、救護テントに向かう。

 すれ違う兵も、テント内のケガ人も、イツキに向かって深く頭を下げ礼をとるようになった。()()祈りを聞き、()()()奇跡を体験すれば、当然と言えば当然の行動だが、イツキが昨日と変わらず医師として振る舞っているので、思わず平伏しそうになったが我慢した。


「神父様、本当に申し訳ありませんでした。我々の無礼な態度は許されるものではありませんが、どうぞお許し頂きたく・・・」


「ああ、ケルベス副指揮官、なんのことでしょう?私は教会の人間として行動しただけです。どうぞ礼をお解きください。治療が終わったらラテス指揮官と一緒に、少しお話したいことがあるのですがよろしいですか?」


緊張した表情でイツキの前で正式な礼をとり、深く頭を下げるケルベスの礼を解き、イツキは笑顔で会談のお願いをする。


「はい、もちろんです。指揮官もそれを望んでいます」


そもそも教会の上位神父様が、用もないのにこんな所(今まさに戦争を始めようとしている場所)に来られる訳がないのだ。しかも、凄く目立つ最強魔獣である聖獣に乗って。きっと、重要な用件があるからこそ、お助け頂けたのだろうとラテス指揮官もケルベスも考えていた。




 1時間後、完全に人払いをしたミリダ軍の本部テントの中で、イツキは2人の指揮官と向き合っていた。


「今回レガート国は、ミリダ国を敵だとは思っていません。真の敵はギラ新教だと理解しています。ムルギス皇太子は、ギラ新教に洗脳されています。ハキ神国のバカ王子オリも、ギラ新教に洗脳された操り人形に過ぎません。ミリダ国は今、崩壊寸前のハキ神国と同じ道を歩もうとしています」


会談の冒頭で、イツキはいきなり核心をつく話を始めた。


「ギラ新教に洗脳されている?」(ラテス指揮官)

「ハキ神国のオリ王子は、洗脳された操り人形?」(ケルベス副指揮官)


「そうです。このまま本当にムルギス皇太子が国王に就任すると、ハキ神国同様、ミリダ国は何度もレガート国に戦争を仕掛け、そして国の資金は底をつき、経済は停滞し国は衰退します。ハキ神国にはもう、戦争をする資金はありません」


「「…………」」


何も言い返せないどころか、ギラ新教について多くを知らなかった2人は、イツキの話に愕然とする。

 ギラ新教の活動について理解できていない様子の2人のために、イツキはレガート国の先の偽王によるクーデターの話と、カルート国の大公の話、そしてハキ神国の実態について、詳しく分かりやすく話して聞かせた。

 全ての戦争や内乱を操っていたのは、ギラ新教の大師ドリルであり、大師イルドラだったのだと。


 2人の指揮官がしてきた質問には、包み隠さずイツキは答えた。

 その内容には、他国だけではなくレガート国の機密事項さえ含まれていた。


「そのような国家機密を、我々は聞いても良かったのでしょうか?貴方様は、レガート国の方ではないのですか?」


イツキのことを、レガート国のロームズ辺境伯ではないかと思っていたラテス指揮官は、驚いた顔で確認するように訊いた。


「カルート国は破綻寸前、ハキ神国も内乱寸前、ダルーン王国は王族が殺し合いをし、レガート国は国王と王子が命を狙われ、ミリダ国も破滅に向かっている今、何を隠す必要があるのでしょう?このままでは、全ての国がギラ新教に滅ぼされるのです。悠長に語っていては、ミリダ国の王妃や王女、そして真の王に成るべき幼い王子が殺されてしまいます」


「「・・・!!」」


話がここに来て、ようやく2人の指揮官は、イツキが何を話したかったのかを理解した。


「確かに私は今、レガート国で仕事をしていますが、本来私は、何処の国にも属していません。それはレガート王も承知の上です。私は教会の人間として、大国レガートを導く使命に従っているだけです。私は欲張りなので、ランドル大陸全ての人が、安心して暮らせることを願っています。そのために、命を懸けてギラ新教と戦っているのです」


イツキの黒い瞳は清んでキラキラと輝いていた。そして2人の指揮官には、イツキの体を覆う光の輪のようなものがずっと見えていた。


『ああ、この御方は本当に上位の神父様なのだ』


大陸全ての人の幸せを願っているという目の前の神父様に、ありがたくて平伏したい気持ちに駆られるが、なんとか我慢して椅子に座っている2人の指揮官である。


「私の立場上、ミリダ国の偽王を討て……とは言えません。ただ、このままではミリダ国は滅びる。さて、どうしたらいいと、どうすべきだと思いますか?」


イツキは軽く【銀色のオーラ】を放ちながら、2人の指揮官に問う。

 急に肌寒くなったと思ったら、2人は突然息苦しくなり始めた。

 そして恐る恐る目の前の神父様を見ると、黒い瞳が闇色に変わっていた。……!! これが神気なのだと分かった瞬間、体がカタカタと小さく震えだした。


「お、王妃や王女、そして王子様をお守りせねばなりません」


軍を預かる者として、何を最優先すべきなのかを理解し、ラテス指揮官は答える。


「クッ……ムルギス皇太子を、国王暗殺罪で捕らえねば……いえ、捕らえます」


ケルベス副指揮官は、言葉を詰まらせながらも、覚悟を決めるしかないという固い表情で、辛そうにやや小声で呟くように答えた。


「本当に国を守りたいのであれば、今の言葉を必ず実行してください。ギラ新教と、ムルギス皇太子の目を欺くため、レガート軍とは戦争をしているフリをしなければなりません。国境で指揮を執っていると思わせ、迅速に動いてください。ミリダ国を救えるのは、お2人と、ギラ新教に洗脳されていない愛国者だけです」


イツキは【銀色のオーラ】を解き、にっこりと笑った。

 

 


 そうと決まればレガート軍との話し合いをしなければならない。

 しかしその前に、イツキはミリダ軍の中に居るギラ新教徒を追い出すため、2人の指揮官に策を授けた。

 先ず、【祈りの3番】を全員に唱えさせる。唱えられない者が居たら、それは間違いなくギラ新教徒である。ギラ新教徒には、魔獣ゼノの被害が出ていないか、川上に向かって調査に行かせるという策だった。

 誰だって戦争で死にたくはない。別に魔獣ゼノと戦う訳ではなく、ただ調査をすればいいという仕事なので、喜んで2週間は国境から離れてくれるだろう。


【祈りの3番】を唱えさせた結果、中尉2人、大尉1人がギラ新教徒の可能性が高く、当然だが3人は貴族だった。


「これからレガート国との戦争が激化すれば、川を渡ることも考えられる。よって君たち3人の任務は、非常に重要なものとなる。川沿いの村の被害状況を確認しながら、住民にしっかりと注意するよう伝え、魔獣ゼノの調査をしてくれ」


ラテス指揮官は、急遽全隊員の前で出発式を行い、特別手当てを持たせて追い出した。

 特別任務を言い渡された3人は「必ずきちんと調査します」と誓って、それはそれは嬉しそうに旅立って行った。




 時刻は午前10時半、イツキはラテス指揮官とケルベス副指揮官と一緒に、国境を渡るため橋の前までやって来た。

 ミリダ軍の兵たちは、ありがたい神父様をお見送りしようと、橋の手前で整列していた。

 イツキは橋を背にして立つと、整列しているミリダ兵の1人1人に視線を向ける。

 すると、空からスーッと太陽の光が降りてきて、イツキだけを明るく照していく。

 それは不思議な光景で、見上げる空の雲はまだ厚く、何処にも雲の切れ間など見えなかったのだ。

 ああ、これも神のお力なのだろうかと兵たちは思った。


「今、ランドル大陸は、戦乱と混乱の時代に突入しています。何が正しいのか、自分はどうすべきなのかを考え、国のため、愛する家族を守るため、勇気を持って()()()と戦ってください。私は、いつもどんな時も、世界が平和であることを祈っています」


 イツキは話しを終え、ミリダ兵に向かってにっこりと、慈愛深く微笑んだ。

 その瞬間、それは起こった。

 突然自分達にも太陽の光が降り注ぎ、辺りが明るくなったのだ。


「えっ!」と思わず皆は声を上げ、空を見上げた。


 見上げた空の半分には、青空が広がっていた。

 ほんの数十秒前まで、そこは確かに重い雲に覆われていたのに・・・


 皆はポカンと口を開けたまま、暫く呆けたように空を見ていた。

 春風がそよそよと通り抜け、土手の草木が気持ち良さそうに揺れていた。




 ◇ ◇ ◇


 レガート軍本部のテントの中には、正方形のテーブルと椅子が6脚配置されていた。テント入口から見て右側にレガート軍代表の2人を、左側にミリダ軍の代表2人を座らせ、テントの奥にはリバード王子が座り、イツキは入口に近い場所に座っていた。

 双方の代表者が自己紹介し、イツキはリバード王子を修行中の弟子だと紹介した。自分のことはブルーノア教会の神父であり、今は中立の立場であると断言した。


「それでは、レガート軍代表者とミリダ軍代表者による、第1回戦争回避作戦会議を行います」


「第1回?それでは第2回とか3回もあるということですか?」


「もちろんですフジヤ副指揮官。お互いの意思確認は最も重要なことですし、情勢は変化していくものです」


イツキは勝手に会談の名を決め、議長のような立ち位置で会議を進行していく。

 イツキの働きにより、双方とも戦争を回避する方向で同意していたので、戦わなくて済む方法を話し合うのである。

 だが、なかなか良い案は浮かばず、4人の軍人は腕を組んで「う~ん」と唸る。


「こちらとしては、戦いをしていない名目が必要です」


「兵の数や武器の数の違いで、戦うのは不利だというのではダメなのですかラテス指揮官?」


奇跡の世代であり建設部隊隊長のモース33歳は、明後日にはレガート軍の数は600人を越えるので、互いに睨み合ったままなのだと言い訳出来るのではと質問する。


「それは難しい。必ず勝てると皇太子は思っているので、どんなに犠牲が出ても、徴兵すればいいと考えるでしょう。取り合えず2週間の時間が稼げれば、戦争を回避できる可能性はあります」


「2週間?その間に何かあるのですか?」


レガート軍代表のフジヤ副指揮官が、どういう意味なのか分からず質問する。

 流石に自国の皇太子を失脚させる予定ですとは答えられず、ラテス指揮官とケルベス副指揮官は顔を見合せ、困った表情でイツキに視線を向ける。


「国王を暗殺したムルギス皇太子は、まだ正式に国王に就任していません。なのに勝手に軍を動かした。もしかしたら異議を唱える領主や臣下が居るかも知れません」


イツキはラテス指揮官に代わり、ミリダ国の現状を客観的に語る。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

次回の更新は、20日(土)の予定です。

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