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予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
ミリダ国とカルート国

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170/222

最強魔獣襲来

新章スタートしました。

 パルはイツキたちの姿が見えなくなるまで見送ると、乗り心地が抜群に良くなった馬車まで走って戻る。今日の御者は管理人のドッターだった。

 これから急いで王都ラミルに戻り、警備隊本部のヨム指揮官の所へ行き、イツキの作戦を伝えなければならない。

 作戦が成功するかどうかが問題ではなく、イツキの行動がフライングだからである。

 まだスタートの号砲もなっていないのに、既に飛び出してしまっている。


 14日の夕刻出撃した100人の精鋭率いるレガート軍デルモント副司令官は、軍の馬車や馬を使って駆け付けるが、18日の夜でなければホン領に到着できない。

 数人の上官を連れ早馬で出発したギニ司令官でさえ、軍の馬を乗り潰しながらホン領に向かったとしても、到着するのは17日の夕刻である。


 イツキがモンタンに乗って到着するのは、本日16日の午後5時前の予定である。

 しかも、上空からこっそり戦況を確認し、現場で指揮を執っている【破壊部隊】のフジヤ副指揮官に作戦を伝えるという、裏技を使おうとしている。

 フライングと裏技・・・この作戦が成功したら、ギニ司令官やデルモント副司令官はもとより、国王や秘書官さえも出し抜くことになる。

 しかもリバード王子を使って・・・



◇ ◇ ◇


「イツキ先輩、凄いです!建物があんなに小さく……ああ!雲の切れ間からランドル山脈が見えます。信じられない。あそこに見えてきたのは、もしかして水の都ミノスですか?」


ソボエからずっとレガートの森の上空を飛んで移動してきたので、街並みを発見したリバード王子は、眼下に広がる景色に大はしゃぎする。


「リバード君、そんなに乗り出したら落ちますよ。ほら、手摺をきちんと持ってください。あれはミノスの街ですね。正面に見えるのがランドル山脈、右手に聳え立つ山がレガート山です。高さは4,000メートル。きっと薬草の宝庫だと思います」


はしゃぐリバード王子を引っ張りながら、イツキは景色の説明をする。

 イツキにとっては慣れたことでも、空を飛ぶなんて他の者には信じられないことである。はしゃぐなと言うのには無理がある。


「眼下に見えるヒミ川を上っていけば、カイ領までは直ぐです。カイの国境を先に確認し、その後はミリダ国とレガート国の境を流れるトルミ大河の上を飛んで移動します。一旦休憩しましょう」


イツキはこれからの予定を伝えながら、ミノスの街から少し離れた場所で休憩する。


 15分の休憩後、モンタンはカイ領の国境を目指して飛び立った。

 カイ領の国境は、ランドル山脈の麓に在るのだが、王都ラミルを基準にすれば標高は500メートルくらいである。

 レガート国とミリダ国の国境となっているトルミ大河は、ランドル山脈のミリダ国側に源流がある。カイ領付近では川幅も40メートルから60メートルの渓谷になっているが、ホン領辺りになると、川幅は300メートルを超え大河と呼ばれるに相応しい様相となる。


 両国とも灌漑工事をし、国境付近は穀倉地帯になっている。もしも国境付近で戦争が激化すれば、種を蒔いたばかりの農作物は大打撃を受ける。

 これまでトルミ大河は、何度も氾濫を起こしてきた。そのため多くの橋は流され、現在は丈夫な大きな石の橋だけになっている。それに、この冬は雪が多く水量が増しているので、兵士が川を渡るのは難しいだろう。

 橋の無い場所では渡し船があるのだが、今年は流れが早く半分も運行されていない。戦争になれば当然、運行は中止となるだろう。


「リバード君、あれがカイの街です。少し高度を下げますので声を出さないでください。もしも見付かると大騒ぎになりますから」


イツキはリバード王子に注意しながら、カイの様子を見る。

 カイの街に混乱している様子はないので、ミリダ軍はカイ領との国境には到着していないか、元々カイ領を狙っていないかのどちらかだろう。

 カイ領の中心地から10分ほど飛んだら、国境の上空に到着した。

 国境は未だ封鎖されておらず、両国から人の往き来が確認できた。


「イツキ先輩、カイ領は大丈夫みたいですね。ここから確認できる範囲にミリダ軍は居ません」


リバード王子は下を確認しながら、安堵したように言う。


「それでは、今度は低空でトルミ大河の真上を飛んでホン領の国境へ向かいます」


イツキはそう言うと、モンタンに西へ向かうよう頼んだ。



「川沿いに兵の姿は無し。ミリダ国は麦の収穫の真っ最中のようだ。本当に戦争になれば、収穫したばかりの麦を接収されてしまう」


イツキは独り言のように言いながら、刈り入れをしている農夫や一面の麦畑を見て、どうか戦争になりませんようにと神に祈る。

 低空飛行をしているモンタンは、当然トルミ大河沿いの人々の目に触れてしまう。

 驚いて腰を抜かす者や、立ち尽くす者、慌てて畑の中に隠れる者もいる。

 モンタンが何なのか、一瞬のうちに通り過ぎるので、きっと巨大な鳥くらいにしか認識出来ないだろう。本来モンタン……いや、ビッグバラディスは、こんな所を飛んだりしないので、誰も見たことがないはずである。



 午後4時、予定より1時間早く、イツキたちはホン領の国境付近に到着した。

 レガート軍は前衛が国境の橋の前に陣取り、後衛が国境検問所の中で待機している。


「おい!あれは何だ!」ホン領の駐留軍兵士が、空を見上げて叫ぶ。

「あれは、魔獣なのか?」ホン領の警備隊隊員が、恐怖のあまり顔面蒼白になる。

「ありゃぁビッグバラディスだ!ハキ神国軍を追い払った魔獣だ!それに、誰かがブルーノア教会の旗を振っているぞ」


イツキの指示で移動してきた、国境軍の兵士がモンタンを指差して叫ぶと、モンタンを知っていた建設部隊の兵士が、直ぐにフジヤ副指揮官が居る前線基地のテントに向かって走っていく。

 数人の兵は慌ててレガート式ボーガンを構えるが、ブルーノア教会の旗が見えるので、攻撃しないで震えている。思わず地面に平伏す者や、逃げ出す者もいる。


 モンタンは悠々と、前線基地のテントの真上をクルリと何度か旋回する。


「全員後退しろ!絶対に攻撃するな!あれはロームズ辺境伯様の聖獣だ」


急いでテントから飛び出してきたフジヤ副指揮官は、大声で号令を掛ける。そして、上空に向かって両手を大きく振る。

 イツキと共にロームズに向かった国境軍の者や、ロームズで共に戦った建設部隊の者が、モンタンが降りるための場所を開けるよう大声で指示を出す。


「ロームズ辺境伯様が乗っているらしいぞ」と伝えながら、国境に居た200人近い兵士たちは、円を描くように大きく後退し着地場所を作っていく。

 モンタンはゆっくりと降下してくるが、また少し大きくなったモンタンが起こす風で、小石は飛ぶ砂埃は舞う、立っている者は飛ばされそうになりながら、バッサバッサと羽音をたてながらモンタンは着地した。


 あまりの風で地面に伏せていた兵たちは、恐る恐る顔を上げ巨大な鳥を確認しようと視線を向けた。

 モンタンの正面に居た者は、予想を裏切る愛嬌のある顔に少し緊張が緩むが、他の角度からモンタンを見ている者は、恐怖で立ち上がろうとしない。


「お疲れ様。急に来て驚かせたな」


イツキは出来るだけ大きな声で言いながら、モンタンの背から降りてくる。

 イツキとモンタンの両方と面識がある者達は、直ぐにイツキの方に駆け寄っていく。


「これはロームズ辺境伯様、ようこそ。読み通りミリダ軍が来ました。現在睨み合いの状況ですが、明日には進軍してきそうです」


フジヤ副指揮官はそう言いながら、笑顔でイツキに握手を求めてきた。

 イツキも笑顔で握手に応え、「了解」と言って頷いた。


「全員整列!誰か後方部隊に伝令に走れ。全員集合だ!」


フジヤ副指揮官は大声で命令し、イツキの隣に居るリバード王子に視線を向け、この少年は誰?と問うように、イツキに視線を向け直す。

 イツキは面白そうに微笑んで、リバード王子を連れ整列している兵たちの前に出る。整列した兵たちは、領主であるイツキに軍礼をとる。


「現在、王都ラミルからギニ司令官と、100人の精鋭を連れたデルモント副司令官が此処に向かっている。ギニ司令官は明日、副司令官は明後日到着されるだろ。

 私は何度も言ってきたが、平和なレガート国など何処にもない!

 ミリダ国もそうだ!皇太子がギラ新教に洗脳され、父である国王を暗殺した。

 今ミリダ国は、レガート国の先の偽王が起こした、クーデターと同じ状況下にある。

 だからミリダ軍の兵士たちは、望まぬ行軍をしてきた。戦争をしたいのはギラ新教徒くらいだ。


 さて本日は、突然の開戦を未然に防いだ皆を激励するため、リバード王子が来られている。

 私とリバード王子は、今朝ラミル上級学校を抜け出し……ゴホン、今朝ラミルを出発し、ブルーノア教会の聖獣モンタンに乗ってやって来た。リバード王子から激励のお言葉を頂く。全員正式な軍礼をとれ!」


『ええっ!リバード王子?』

『こんな所までリバード王子様が・・・』

『ブルーノア教会の聖獣・・・』

『今、上級学校を抜け出してって言ったよな……』

『王子さまが、我々のために聖獣に乗って駆け付けてくださったのだ!』


感動したり、心の中で突っ込んだりしながらも、全員が正式な軍礼をとり頭を下げる。

 突然のリバード王子の登場に、兵たちの士気は一気に上がっていく。

 現在この場には、領主も居なければ軍の司令官も居ない。

 そもそも戦争をするために集められた訳でもなかったのだ。




 本来開戦となった時は、一般兵が中心となり前線に出て、国境軍は本部を設置したり偵察に回る。建設部隊は前線に出ることなどない。

 現在ここに居るのは、演習で来た国境軍100、国境の点検に来た建設部隊200、元々ホン領に駐留していた100、そしてフジヤ副指揮官の命令で、1日遅れでキシ領から駆け付けた駐留軍が100の、合計500人のレガート軍の兵達だった。それにホン領に居た警備隊が10人加わっている。


 13日に演習と点検でホン領まで来たら、突然ミリダ軍が侵攻しようとしているとの情報が届いた。

 国境軍はミリダ国に私服で偵察に行き、300人のミリダ軍の行軍を確認した。

 いったいどうなっているんだ!と、全員混乱していたら、新しくできた【破壊工作対抗部隊】のフジヤ副指揮官が説明を始めた。


「【破壊部隊】は今月始めに、ミリダ国に不穏な動きありとの情報を掴んだ。

 しかし軍上層部は、ミリダ国は同盟国であり、戦争を仕掛けてくるなど有り得ないと考えており、全く動く気配がなかった。

 そこで【破壊部隊】が、演習や点検の名目でお前達を動かした。

 戦争が起こらなければ、普通に演習と点検をすればいいだけの話だったが、残念ながら【破壊部隊】レン指揮官の心配が的中し、本当にミリダ国が攻めてきた。


 今回の戦争は、ギラ新教に洗脳され、父である国王を殺した、ギラ新教徒の皇太子が起こしたものである。レガート国とミリダ国の戦争に見えて、実はそうではない。

 これは、レガート国とギラ新教との戦争であり、昨年のロームズでの戦争と同じである。だからこそ【破壊部隊】が指揮を執っている」


フジヤ副指揮官は、熱と怒りを込めてミリダ国侵攻の真実を語った。 

 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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