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予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
イツキ、商会を立ち上げる

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モンタン登場

 結局イツキは、レガート国 VS ミリダ国の今後について、考えられる未来予想を皆で討論し、剣の練習をする時間が無くなってしまった。

 イツキは今回の領主会議で学んだ、考える力をつけさせるということを実践した。


 戦うなら如何に戦うか? (軍コース)

 戦争になった場合の治安維持は? (警備隊コース)

 ギラ新教の思惑通りに戦争をした場合、レガート国の損失は?(経済コース)

 外交的戦略と、戦わない方法はあるのか? (文官コース)

 戦争が本格化した場合、教育現場でできることは何か? (教師)

 自分が司令官だったら、どんな作戦を立てるか?(全員)


 イツキは全員に課題を与え、制限時間を2時間とした。

 もちろん強制ではないので、参加するしないは自由である。そして、途中退場し風呂に行くのもOKだし、地図や参考資料の持ち込みもOKだった。


 本来、国の大事である戦争について、上級学校で議論されることはタブーであった。

 素人が論じるべきことではないという風潮があり、教師も学生もこそこそと不安を口にしたり、敵国を悪く言うくらいしか出来なかった。

 そもそも、上級学校に正しい情報がもたらされる可能性は低かった。


 そのタブーを打ち破り、堂々と課題として論じる機会を与えられた教師や学生は、自分達も国のために何か出来るかもしれないと、イツキの課題に真剣に取り組んだ。

 イツキは各コースを回りながら、矛盾点を指摘したり、発想の転換を促したりしながら、一緒に議論に参加した。

 戦争を実体験しているイツキの話は、学生では気付かないことがたくさんあり、担当教官でさえ教えを受けている学生のようだった。


「みんな聞いてくれ!正しい答えなんか無いんだ!戦況や外交は常に変化する。今は正しいと思えた作戦も、1週間後には役に立たなくなることだってある。だから柔軟に考えることが大切なんだ。絶対に勝てそうな戦略があっても、戦うことが正しいとは限らない。学生だからこそ考え付く方法だってきっとある。これは試験じゃない。考えることが課題だから、奇想天外なアイデアだって大歓迎だ」


イツキはケンカ腰で意見を戦わせている学生たちに、正論が全てではないと諭す。


「例えば、もしもカイ領の国境にミリダ軍が攻めてきたとしよう。僕ならランドル山脈に住む獣や魔獣を使って、ミリダ軍を撤退させる。ホン領に向かって進軍してきたら、橋に油を撒き火を放つ。国境にかかる橋の大半は石で出来ている。・・・そんなことを考えると楽しいだろう?我々は学生だ。本当に戦地で戦うわけではない。それに、考えるのはタダだし、誰にも迷惑をかける訳でもないからな」


イツキは皆に向かってにっこりと微笑み、おまけにウインクまで付け加えた。

 尊敬し憧れるロームズ辺境伯の、意外なおちゃめさを知った学生たちは、イツキの悪戯っぽい笑顔とウインクに、益々惚れ……ファンになっていくのだった。


 予定の2時間が来たところで、イツキは全員に向かって爆弾発言をした。


「え~っ、王様から正式に許可を頂いたので、皆さんにご報告とお願いがあります。

 僕はブルーノア教会から、空飛ぶ聖獣をお借りすることが出来ました。名前はモンタンといい、とても可愛い顔をしたビッグバラディスです。

 性格は大人しく愛嬌があります。攻撃しなければ決して人を襲うことはありません。

 上級魔獣のビッグバラディスは、魔獣を食べることで魔力を維持しているので、人を食べることは無いと断言します。

 そんなモンタンが、明後日の夜までに、この学校のグラウンドに飛来する予定です。

 もちろん、モンタンの背には僕が乗っています。大きな風が起こり砂埃がしますが、危険は無いので安心してください。

 教会の聖獣ですので、決して攻撃したりしないでくださいね」


「「「ええぇ~っ!?」」」

「「「上級魔獣ビッグバラディス?」」」


イツキは再び極上の笑顔でお願いしたが、お願いされた学生や教師の驚きと動揺は半端なかった。

 当たり前である。

 どこの世界に、空飛ぶ最強魔獣に乗る学生が居るというのだろうか?

 そして、上級魔獣が校庭に飛来する?可愛い顔??危険は無いので安心???


「本当だ!俺はモンタンの頬を何度か撫でたことがあるし、ロームズでは普通にモンタンが上空を飛んでいる。しかも領民にも大人気だ。それに、イツキさ……イツキ君はモンタンに乗って、カルート城にも行っている。しかも、鳴き声が可愛いんだ!」


全員が動揺する様子を見たイツキの従者パルは、立ち上がって大きな声で説明する。

 パルの説明を聞いて、それなら大丈夫だろうと思う者と、どうしても最強魔獣に抵抗がある者とに分かれた。しかし、王様の許可を得ているので反対するのは難しい。


 そんなこんなの夜は更けていき、残念そうなデイルには「また今度な」と告げ、剣の練習は来週に延期された。






 翌16日の朝、空が白み始めると同時に、上級学校の正門をロームズ辺境伯屋敷の馬車が出ていった。今日学校は休みだが、一般の学生は外出できない。


「イツキ先輩、本当にモンタンに乗せて貰えるのですか?」


「そうだよリバード君。これからラミル正教会に寄って、レガートの森の近くに位置しているソボエの町に向かう。昼前には到着すると思う」 


「ソボエ……?ああ、ギニ司令官の領地ですね」


未知なるものへの好奇心で瞳をキラキラさせたリバード王子は、モンタンに会えることが嬉しくて、わくわくしながらソボエがギニ司令官の領地だと答えた。


「イツキ様、本当に作戦を決行されるのですか?」


「パル、現場の状況次第だ。既に開戦しホン領内にミリダ軍が侵攻していたら、何もせずに戻ってくる。僕はあくまでも教会の人間として中立の立場だからな」


 イツキの作戦を止めたいパルが、確認しながらイツキに問う。だが、そんなことは無理だろうとは分かっているのだが、不安で問わずにはいられないパルだった。

 なんたって、今回の作戦にはリバード王子を巻き込んでいる。はっきり言って臣下として大問題である。

 モンタンの飛行許可と、王子を連れ出すことは全く関係ないことである。

 一緒に馬車に乗っているリバード王子は、ソボエでモンタンに乗せて貰えるとしか思っていない。まさか自分もホン領まで連れていかれるなんて、ちっとも思っていなかったのだ。


「もしかしてイツキ先輩は、僕を学校まで送ったら、モンタンに乗ってホン領まで行かれるのですか?」


 イツキは詳しいことはソボエに到着してから話すよと、リバード王子に黒く微笑みながら伝える。

 途中ブルーノア教会に寄って、イツキは教会のブルーの旗を借りる。

 心配するサイリス(教導神父)ハビテには、大丈夫、心配ないよとだけ言って、さっさとイツキは旅立ってしまう。ハビテからしたら、何処がどう大丈夫なのかさえ分からない。




 午前10時、早めの昼食をソボエの町で食べた3人は、馬車をレガートの森の入口につけて、森の中に少しだけ入っていく。

 すると、昨日の朝レガートの森に向けて放していたハヤマ(通信鳥)のミムが、嬉しそうにピーピーポーと鳴きながら上空から降りてきて、イツキの肩にとまった。


「やあミムご苦労様。モンタンとは会えた?」


イツキの問い掛けに、ミムはポーポーと鳴いて、イツキの頬に頭を擦り寄せる。

 イツキは笑顔でありがとうと言いながら、ミムの頭を何度も撫でてやる。

 イツキたちはもう少しだけ歩き、少し開けた場所までやって来た。


「モンターン降りといでー!」とイツキが大きな声で叫ぶと、上空から大きな羽音が聞こえてくる。そして直ぐに強い風が吹き始め、木々は音をたたて揺れ始める。

 パルはリバード王子を安全な場所まで下がらせ、飛ばされないように姿勢を低くしてモンタンの飛来を待つ。

《 モンモーン 》と可愛い声がしたかと思うと、風で小石や小枝が舞い上がる。


 リバード王子はイツキからモンタンの話を聞いていたので、怖れることはなく必死に目を開けて、モンタンの着地する姿を見ていた。


「お、大きい!想像よりもずっと大きいですイツキ先輩!」


リバード王子は感動したように叫ぶと、ゆっくりとイツキの側まで近付いてくる。


「モンタン、僕の後輩のリバードだよ。これから一緒に乗せてくれる?」


《 モンモン! 》


モンタンは「いいよ!」って答えながら、頭をウンウンと縦に振ってくれた。


「モンタン、リバードと言います。どうぞよろしくお願いします」


リバード王子はイツキに促され、少しだけ怖そうにモンタンの頬に手を触れる。

 するとモンタンは、もっと撫でてくれと顔をリバード王子に近付けてくる。


「モンタンは本当に甘えん坊なんですねイツキ先輩」


全くビビることもなくモンタンの頬を嬉しそうに撫でているリバード王子を見ながら、かなりビビってしまった自分を思い出しパルは少しへこんだ。


「やあモンタン。イツキ様とリバード王子を頼んだぞ。すまん、鞍をつけさせてくれ」


パルもモンタンの頬を撫でながら本気で頼む。どうかリバード王子が落ちませんようにと祈りながら、モンタンの背にイツキが作った鞍のような落下防止装具を装着していく。


 全く恐れないリバード王子は、ひょいひょいと装具に登っていく。


「リバード王子、これから一緒にホン領へ行って戦況を確認してきましょう」


落下防止装置をキョロキョロと確認しているリバード王子に向かって、イツキは当然のことのように告げた。


「えっ?ホン領までですか……それでは、明後日まで学校を休むのですか?」


ホン領までは、辻馬車だと6日、馬車だと5日、早馬だと3日半~4日の道程である。いくらモンタンでも、まる1日は必要だと思っているリバード王子は、ホン領に向かうことより、学校を休むことの方が気になったようである。


「ホン領までは6時間くらいですよ。だから明日には戻る予定です。校長には言ってありますから心配要りません。それに、戦争が始まると、王族や領地持ちの貴族は、休んでも欠席になりません」


やや、本筋から外れた説明をするイツキは、リバード王子の気になる部分が欠席だったことが可笑しくて、クスクスと笑ってしまう。ある意味、将来の国王としての大物振りを感じながらも、実の弟との外出が楽しみなイツキだった。


「パル、何かあればミムを飛ばす。明日中に帰らなかったら、ミムが届ける手紙の指示に従ってくれ」


「はい、承知しましたイツキ様。くれぐれも無茶なさいませんように。リバード王子もお気を付けて」


パルは2人に深く頭を下げて挨拶し、強風を避けるため木の陰に避難する。


「リバード君、命綱は結んでありますが、僕にしっかりと抱き付いていてくださいね。それじゃあ出発!モンタンよろしくね」


イツキの掛け声に合わせ、モンタンは大きく両翼を羽ばたかせ、上空へと舞い上がっていく。

 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

考えていたストーリーを変えるため、暫く更新が遅れると思います。

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