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予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
イツキ、商会を立ち上げる

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イツキ、笑いながら暗躍する(2)

 3月14日、ミリダ国との開戦という信じられない緊急事態に、レガート城は大混乱に陥った。

 レガート軍は夕刻、王都ラミルの軍本部から100人の精鋭を連れ、ギニ司令官が出撃した。

 警備隊本部は、ホン領とカイ領の治安維持のため、200人の隊員を派遣する。


「これが大陸戦争時だったら、一桁違う3,000人や5,000人を動かす事態だったのでしょうが、大陸戦争による人口の激減、その後の長きに渡る平和と、疫病の蔓延による人口減少により、何処の国も軍人の数は10分の1以下になっている。ある意味、無駄に死んでいく兵の数は少ない」


イツキは現実的な話をしながらチラリと時計を見た。間もなく午後9時である。


「それに・・・ミリダ国は今でも同盟国です。父親である国王を殺した皇太子は偽王です。近い内に再び政変が起これば、いえ、起こせばいいのです。ですから、レガート軍もミリダ軍も、国境で睨み合っている()()で戦わないのが最善です」


「「「…………?」」」


イツキは午後9時まで続けた問答の最後に、とんでもない投げ掛けをした。

 それはいったいどういう意味?……と問いたいが、それを誰がヤるのですか?と訊くのが恐くて、誰も問うことが出来なかった。

 そして、我々の努めはどんな時も、領民を餓えさせず搾取せず、信じられる領主であり続けることですと付け加え、話しを終え皆を解放した。



「イツキ君、今回は本当に助かった。ありがとう」


全員が席を立ったところで、バルファー王がイツキの側に来て礼を言った。


「はて、何のことでしょうか王様?それに、ホン領が勝てるかどうかは、これからの采配次第です。優先順位を間違えず、最善の策を速やかに実行されると、今度こそ私は信じたいと思います。ロームズ辺境伯の後任を決めた意味をお考えください」


イツキはバルファー王に対し辛辣に言った。そして、フィリップをロームズ辺境伯の後任に据えた意味を考えろと、厳しく現実を突き付けた。

 自分は、いつまでもレガート国に留まることはできないのだ。だから自分で自分の国を守れと言ったのだ。






 3月15日、領主会議2日目は、ホンとカイの領主、ギニ司令官が欠席した状態で始められた。

 本来ならミリダ国との対戦の話にすべきところだろうが、それは昨夜とことん議論した。実際の現状がどうなのか分からないので、戦争は専門家に任せて、カルート国のことを進めていく。


 返済方法は決まらなくても、お金を貸し付けることは決定した。

 そして、カルート国をギラ新教国にさせず、レガート国がカルート国を政治的手中に収めるために、大至急代表団を派遣することになった。


 団長としてマキ公爵、そして、現場に残り指揮を執る副団長としてカワノ領主が選ばれた。選ばれたと言っても、他に行ける人材が残っていなかったのだ。

 キシ公爵とマサキ公爵は既に国の仕事で重責を担っており、ホン公爵とカイ領主は国境を守る。ヤマノ領主は若い上にヤマノ領の立て直しの最中であり、【破壊部隊】の支援もしていた。

 残っているのは領主の居ないミノスと、学生のロームズ辺境伯だけなので、断ることなど出来るはずもなかった。


 責任者はマキ公爵だが、実質カルート国に滞在し、派遣団の指揮を執るのはカワノ領主である。

 ここに来てようやく、カワノ領主は己の発言が何を招いたのかを思い知った。

 カルート国の借金返済と、国の立て直しの責任を背負わされたのだ。


「それではマキ公爵、ラーレン侯爵(カワノ領主)、3日後の18日に派遣団を率いて出発してくれ。レガート国の未来が懸かっている。失敗は許されない。交渉は産業大臣と情報部司令官としてくれ」


バルファー王は力の籠った声と厳しい表情で、任命書を2人に渡した。



 休憩を挟んで、ロームズ辺境伯から出された議題の番となる。

 すこぶる顔色の悪いカワノ領主とマキ公爵にも笑顔を向け、イツキは2つのお願いについて話し始める。


「5月に行われる上級学校の夏大会ですが、今年も学生達には薬草採取をして貰おうと思います。今回は、学生が直接山や森に入り生息地を調査し、希少種を持ち帰り、キシ領とカイ領に作る薬草園に運びます」


イツキはそう言いながら、先日の校長会議で渡した資料を全員に配っていく。

 ある意味、戦時下に上げられる議題としてはどうなのだろうかと、皆は微妙な表情をするが、昨夜のシミュレーションの最後にイツキが言った、「レガート軍もミリダ軍も、国境で睨み合っているだけで戦わないのが最善です」という言葉を思い出し、何も異議を唱えなかった。


「あれ、今回は女学院も参加するんだね。しかも、香水?……新しい特産品?……金貨1枚?……イツキ君、次から次にお金を産み出してくれるね」


「マサキ公爵様、もちろんお金は大事です。でも私の目標は、女学院の学生や軍や警備隊の仕事で亡くなった隊員の家族に、仕事を創出することです」


配られた資料をパラパラと捲りながら、感心したように言うマサキ公爵に、イツキは皆とは違う次元の考え方を話す。

 イツキの考え方を聞いた領主や秘書官、国王は、やはり目の前に居るのは神父様なのだと思いを新たにする。

 本来なら自分達の仕事なのに、上位の神父様に心配を掛けさせてしまっている。・・・そう思うと、申し訳ない気持ちで一杯になる。


 当然のことながら夏大会の件は、全員一致で了承を得た。


「それでは次に個人的なお願いなのですが、ラミル上級学校とヤマノ上級学校の学生は、今回レガート大峡谷で薬草採取をします。それと、ロームズ医学大学薬学部の学生も、薬草採取と薬草探しをします。その為、学生たちの安全を確保する必要があります。そこで、上空からレガート大峡谷を確認したいと思います」


「「はい?」」

「「「上空から?」」」


コイツ何を言っているんだ?という視線が、一斉にイツキに注がれる。さっきまで有り難い神父様であるイツキに、心の中で深く頭を下げていたというのに失礼な連中である。


「はい、ブルーノア教会が誇る聖獣、空飛ぶ最強魔獣であるビッグバラディスのモンタンに乗ってです。実は年末から、あまりに忙しいので、ギニ司令官の領地ソボエからロームズまで、聖獣モンタンに乗って移動しています。朝飛び立てば夕方には到着できるので、ブルーノア教会には本当に感謝しています」


それが何か?とばかりに、にっこりといい笑顔で答えた。


「と言うことは、レガート国内での飛行許可をとりたいということかな?」


「はい王様。既にカルート城にはモンタンで乗り付けましたし、カルート国内では問題なく飛んでいます」


「は~っ……カルート国王が許可したのなら、母国が許可を出さない訳にはいくまい。カルート国からハキ神国軍を撤退させた聖獣様だ」


「「「なんだって!ハキ神国軍を撤退させた聖獣?」」」(領主たち)


「いや、俺は上級学校で行った領主会議の時に言いましたよね!2回目のハキ神国のカルート国侵攻の時、イツキ君が空飛ぶ魔獣に乗ってハキ神国軍を撤退させたと」


休憩後から参加していたヨム指揮官が、今更何を言っているんだアンタたちは!的な視線を領主達(キシ公爵を除く)に向ける。





 いろいろあった領主会議は、正午前にイツキの議案を了承したところで終了した。

 イツキは屋敷に一旦帰り、領主会議の決定事項をレクス22歳、事務長のティーラ43歳、事務長助手のリリス22歳に伝えた。


「それでは、立ち上げた【丘の上のキニ商会】はどうなさるのでしょうか?」


「事務長、フフ、それは当然このまま続行しますよ。これから僕は、カラギ伯爵にお金を貸します。そしてカラギ伯爵から返済してもらいます。ただ、稼いでから貸すので、暫く……そうですねえ、半年間はレガート国にお金を出して貰っときましょう。いや~車輪は全て僕が作るので利益も全部僕ですね。でも、技術開発部に試作品をお願いしているので、全ての車輪の利益の1割くらいは、カルート国の借金返済の立替金として差し上げましょう」


イツキは嬉しそうにそう言うと、事務長に利益修正をするように指示を出す。

 昨日の午後から、ずっと微笑みを絶やさないイツキである。

 分かる人には判る黒い微笑みを見て、レクスはゾッとしながら、これから先の苦労を覚悟する。


「先立つ資金の金貨600枚は、どうされるのでしょうか?」

「その件で、事務長に少し確認したいことがある。僕の部屋に移動して貰っていいかな?」


イツキは今日1番の笑顔で、ティーラを自分の寝室に案内する。

 イツキはベッドサイドのテーブルの引出しを開けて、黄金の鍵を取り出した。

 そしてその鍵を持って、寝室に置いてある高級家具の前に立つと、下段の扉を開け天板を覗き込み、鍵を鍵穴に差し込んで、カチャリと音をたてて右に回した。

 すると、パカリと10センチ四方の天板がカタッと下方に開いた。

 イツキはその開いた部分に左手を入れて、中から高さ4センチ、縦横8センチ程の、美しい細工の施された箱を取り出した。


「実は丘の上のキニ商会の建物には、ある秘密が隠されていました。それは、王家に伝わる宝玉類が、120年前に屋敷の何処かに隠されているという秘密でした。

 当時新築だったあの屋敷には、国王の側室が3人と王子2人、王女3人が住んでいました。側室たちは互いに牽制し合い仲が悪かった。

 それでも国王は側室や子供たちを愛しており、自分が死んでも困らないようにと、それぞれに王宮の宝物庫から、人数分の宝石類8品を持ち出し与えました。


 ところが、宝石を貰ったのが自分だけではないと知った側室の1人が、全てを独り占めしようと企み、全員から宝石を盗みました。それを、屋敷の中に隠したのです。

 犯人である側室は、泥棒が入ったのだと国王に報告し、再び宝物を貰おうとしたところ、本物の強盗に屋敷は襲われ、隠した側室が死んでしまいます。

 数十年後、亡くなった側室の子孫は、宝の地図は壁の中、そして宝は下にあるという書き付けを発見し、屋敷を我が物とし探したのです。

 その結果、地図と宝を探すため1階の壁を壊したけど、結局何も見付かりませんでした。むしろ、壊したことにより財産価値を落としてしまった」


イツキはそんな昔話をティーラに聞かせてから、テーブルの上に取り出した箱を置き、再び黄金の鍵を使ってゆっくりと開いて中を見せた。


「まあ!これは・・・さすが王家の宝。確かに8個。明日のオークションに出品しましょう。でも、先ずは2つくらいにしておいた方が良いでしょうね。ご主人様は、この宝石類の価値がお分かりですか?」


ティーラは目をパチパチさせながら、キラキラした瞳で見惚れながら主に質問する。


「いいえ、全く興味が無いので。でも、昨年僕はハキ神国のバカ王子が落としていった宝石を売ったことがあります。あの時は、もう少し小さな石が5個付いている金の腕輪で、金貨20枚(約200万円)になりました。このネックレスなら金貨10枚くらいかな」


「いいえ、その緑色の石は大変稀少なので、1つで金貨100枚は下らないでしょう」

「えっ?たった1個で金貨100枚?」


イツキは驚いて、持っていたネックレスを恐る恐る箱に戻し、ふーっと息を吐いた。

 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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