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予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
イツキ、商会を立ち上げる

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丘の上のキニ商会スタート(3)

 ササキヤ商会との商談も無事に終わり、後のことはカイン代表部長と、婦人服部門の部長エミリア(後宮から引き抜いた)と、エリザベス(リリアン衣装店)の3人に、にっこり笑って……丸投げした。


 昼前、イツキは予約を入れていたマキ公爵の屋敷に向かう。

 他の領主屋敷で初めて食事をご馳走になるので、イツキはやや緊張していた。

 ホン領主の屋敷は派手で大きかったが、マキ公爵の屋敷もまあまあ派手で、大きな1本の木が屋敷の庭に在るのが特徴的だった。なんでも樹齢500年だとかで、キニの木のように横に枝を張る木ではなく、3階建ての屋根よりも高く、縦長の二等辺三角形のように見映えの良い木だった。


「本日は昼食時にお邪魔して申し訳ありません」

「いやいや、この時間を指定したのは私だよ。よく来てくれたねイツキ君。明日は領主会議だが、その前に重要な話でもあったかな?」


イツキはマキ公爵の執務室に通され、超ご機嫌なマキ公爵から質問された。

 イツキは豪華過ぎて座るのがもったいないような、毛皮の敷かれたソファーに座わらされ、何となくお尻が落ち着かない。金持ち領主の実力を思い知ったイツキである。


「はい、実は明日の領主会議の前に、ぜひともマキ公爵様にご相談したいことと、了解を頂きたいことがありまして」


イツキはやや引き吊った笑顔で答えながら、妙に親切なマキ公爵の態度に戸惑う。


『ああ、そうか……領主就任式の時の祈りか・・・』と、イツキは自分がリース(聖人)の力を使ったことを思い出した。きっと領主たちは、自分のことを高位の神父だと知ったはずだ。だが、それをホン領主もマキ公爵も口に出さないところを見ると、秘書官かマサキ公爵あたりが、何か、そう、いつも通りでとか、そんな感じで伝えたのだろう。


 詳しい話に入ろうかというところで、食事の準備が整ったと執事さんが呼びに来た。

 豪華な屋敷の来客用のダイニングは、やっぱり豪華だった。テーブルもテーブルクロスも食器も、磨き込まれた銀のスプーンやナイフも。そして驚いたことに、来客用のダイニングルームは3つあり、今日は少人数の来客の部屋が使われているとか……ふぅ。


「遠慮なく食べてくれ、それで、相談事とは何だろうか?」


正方形のテーブルにイツキと向い合わせで座ったマキ公爵は、優雅な所作でハムを切りながら訊いた。


「はい、領主会議の議題に上がるのですが、3か月後にカルート国が破綻します」

「ぶほっ・・・ゴホゴホ、ゴホゴホ、ウーッゴホゴホ」


マキ公爵は思わずむせこみ、し、失礼と言いながら慌てて水を飲んだ。


「な、なんだって!カルート国が破綻する?」


驚くというより、全く信じられないという顔をして、イツキをの瞳を見て確認する。


「残念ながら、確かな情報です。そこで早急に対策が必要になり、先日破綻回避の策を考え、王様や秘書官、大臣たちに提案し了解を得ました。しかし、僕の考えた対策には、マキ領の協力が不可欠となります」


「いや、私は誰からも報告を受けてないぞ!どういうことだ?」


 当然王宮には親しい大臣や、マキ領出身の大臣や副大臣が居る。普通なら、緊急事案や重要事項を極秘に連絡してくれるのだ。なのに何故連絡が来ないんだ!と腹が立つというか、連絡が無かったことにショックを受けた。


「それは、僕が王様や秘書官、大臣の皆さんに強力な箝口令を敷いたからです。この件が不用意に広がると、国内の混乱はもとより、カルート国の破綻を加速させてしまいますから。それに・・・ランドル大陸の、本格的な混乱は、始まったばかりです」


イツキは完全に、リース(聖人)の顔をして話している。マキ公爵がリースだと知らなくても、シーリス(教聖)くらいに思っているだろうと推察し、イツキは真剣な顔をして、いや、本人全く無自覚に神々しい感じで話している。


「…………」


マキ公爵はゴクリと唾を呑み込むと、やはり、やはりこの御方は三聖(天聖・聖人・教聖)のお一人なのだと実感する。これまで感じなかった威圧感というか神気にあてられ、思わず平伏したくなる。


「まあ、それは明日の話ですね。今日のお願いは、カルート国の危機を救うため、ポムを使った新しい発明品を考えたのですが、それをマキ領の商会に作って貰いたいのです。既にエイダモ商会とは下話をしています」


イツキはそう言って、重い空気を吹き飛ばすように、にっこりと笑った。

 すると、まるで妖精でも居るのかと思うような小さな光の球体が、キラキラと輝きながら部屋の中を飛び始めた。

 ボーッとしているマキ公爵に「美味しい料理ですね」と話し掛け、イツキは現実世界に意識を戻させる。


 そこからは、マキ領で作る【車輪】についての説明をしながら、マキ領の果たす役割がどれ程大きいのか、どれ程重要な拠点であるのか等を、詳しく説明していく。


 今日もイツキの語りは快調だった。

 まるで新しい能力(ちから)でも使っているかのように、イツキワールドに引き込んでいく。

 話を聞いているマキ公爵は、まだ試作品さえも出来ていない【車輪】を思い浮かべ、マキ領の益々の発展と、2つの国を繋ぐ、いやカルート国を救うという使命を、神より与えられた戦士のように、嬉々としてイツキ(三聖様)の話に聞き入っていく。


 マキ公爵、完全にイツキの信者……いや、熱心で敬虔なブルーノア教徒になっていた。





 ◇ ◇ ◇


 午後6時、イツキはホン領主であるネイヤー公爵屋敷に来ていた。

 こちらも事前に予約をとり、ホン領主の希望で、夕食時間に面会が決定していた。


「ロームズ辺境伯様、ササキヤ商会の件、本当にありがとうございました」


玄関先で迎えに出てくれた執事のレトマスさんが、嬉しそうに頭を下げて礼を言う。そして、いずれ分かることですからと、自分の妻はササキヤ商会の商会長の妹であると打ち明け、黙っていたことを詫びた。


「いいえレトマスさん。どうやら僕には、必要な人を引き付ける能力があるようなんです。ですから、僕とササキ商会長の出会いも、僕とレトマスさんとの出会いも、偶然ではなく必然であり、運命だったのだと思います」


イツキはそう言うと、嬉しそうににっこりと笑う。

 その笑顔が眩しくて、レトマスは思わず惚れそうになる。……いや、もちろん恋愛感情ではなく、一人の人間としてのイツキの魅力にである。



「よく来てくれたロームズ辺境伯。ラミル正教会の洗脳解除では本当に世話になった。お陰で先月末に、領内の掃除は終わった。……と、思いたい。まさかの数に絶句したが、ギラ新教の恐ろしさを実感した」


少し早目の夕食を食べながら、ホン領主はしみじみと言う。


「歳のせいかこってりとした物が苦手になってきたので、若いイツキ君には物足りないと思う料理だ。足らなければ肉を追加するので遠慮なく言ってくれ」


「ありがとうございます。僕には目の前にある料理でも食べきれないと思います。いつもの学食は、この半分くらいの量ですから」


イツキは笑いながらそう言うと安堵した。何せ昼にご馳走を食べていたので、こってりボリュームのある料理が出てきたら、とても食べきれないところだった。


「さっきまでササキヤ商会の商会長と話していた。用件は新しく興す産業の件かな?」


「はい、その件と、あつかましいお願いと、大事な話があります。ササキヤ商会の件は、既にお聞き及びのご様子なので、その件は了解を得たと考えてよろしいのでしょうか?」


「ああ、もちろんだ。ホン領にとっては有り難い話だ。反対する要素がない」


当然だという顔で、ホン領主は機嫌良くグラスのワインを飲み干す。


「ありがとうございます。それでは、あつかましいお願いなのですが・・・」


「あの屋敷は古くて価値が無い。分かっている。大恩あるイツキ君から儲ける恩知らずではない。内金の金貨250枚で譲ろう。不動産屋の話では、改築に金貨300枚は必要だと聞いている。しかも内装の壁には、ホン領の石材を使うようだし、大勢の者が我が領の特産品である磨き白石を目にするだろう。私は儲かる話が大好きなんだよイツキ君」


ホン領主は、イツキの話を途中で遮り、これぞ金持ち領主の貫禄!という感じで、ごく自然に、さらりと商会の建物を半額にしてくれた。

 イツキが驚いて目を見開いたのを見て、ホン領主は満足気に笑った。


「ありがとうございます。ここは、若輩者の領主として、大先輩のお言葉に甘えさせていただきます」


イツキは本当に嬉しそうに笑って、ゆっくりと頭を下げた。

 その嬉しそうな笑顔は、どう見ても成人前の少年のようであり、思わず庇護してやりたくなるとホン領主は思った。が、『何をバカな』と思い直し、大それたことを考えている己を反省する。

 そもそも、守られているのは、自分達の方ではないかと自分に言い聞かせる。


 少し気持ちを切り替えようと、メイン料理を食べながら、ホン領主はイツキにカルート国の状況などを訊いてみる。

 そこで、イツキから商業ギルドの乗っ取り事件の話を聞き、思わずフォークに刺した鶏肉を、ポロリとテーブルの上に落としてしまった。


「な、な、なんだって!ギラ新教徒が商業ギルドを乗っ取った?しかも、その黒幕が大公だと!」


ホン領主は大きな衝撃を受けたようで、暫く肉を落としたことにも気付かず、目を見開らいたまま絶句した。

 再起動したホン領主は、ギラ新教の組織力に驚き、決して油断してはならないと自分を戒めた。

 そして、新年の感謝祭の日まで、他国のために働いていたイツキに気付き、なんとも言えない気持ちになった。



「ネイヤー公爵、これから話すことは、領主としてではなく、教会の人間としての話になります」


食後のデザートが運ばれて来たところで、イツキは本題に入った。

 いつもは必ず自分のことを【様】付けで呼ぶイツキが、様を付けなかった。そればかりか、一瞬で室内の空気が変わった。

 ホン領主は驚いた顔をして、執事のレトマスや給仕をしていた侍女たちに、部屋から出ていくよう指示を出した。そして、ゴクリと唾を呑み込み、姿勢を正してイツキの言葉を待つ。


「確実な話ではありませんが、近いうちに……いえ、もしかしたら既に、隣国ミリダでクーデターが起こります。直ぐに国境の守りを固めてください。ミリダ国は・・・ギラ新教の手に落ちました」


 ガターン!と椅子が倒れる大きな音がして、ホン領主は立ち上がりテーブルに手をついたまま固まった。そして、カタカタと体が震え始めた。


「旦那様、如何されましたか?何かありましたでしょうか?」

「な、なんでもない!呼ぶまで入室を禁じる」


大きな音を心配した執事レトマスに、ホン領主は大きな声で叫んだ。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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