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予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
イツキ、商会を立ち上げる

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丘の上のキニ商会スタート(2)

 3月13日午前、イツキはいつものように【丘の上のキニ商会】に顔を出していた。

 正式なオープンは16日だが、まだ商品も出来ていないし、1階の改装は始まったばかりである。


 商会の建物は、1階が大広間と事務室とキッチンとダイニングがあり、大広間の奥には商談スペースとして、小さな個室をいくつか作る予定である。

 2階は、古い本棚がある少し上等な部屋を商会長の執務室に、1番大きなロームズ辺境伯邸のリビングくらいの大きさの部屋は、婦人服部門の衣装製作室にし、2番目に大きな部屋は、車輪部門の事務室になった。

 2階には他にも6部屋あり、1つはカイン代表部長の執務室、1つは事務室、1つは婦人服部門の高級ドレス部、1つは既製服部に振り分けられ、残りの2部屋は服の保管室になる。


 商会の建物の大きさは、ロームズ辺境伯邸の2倍くらいあった。調べたところ、5代前の女好きな国王が、多くの側室を持ち、後宮に住めなかった側室や王子や王女を住まわせた建物らしかった。

 敷地内に在る倉庫のような建物は、1階が倉庫と風呂やキッチンになっており、2階は従業員の住居として使われていたようだ。こちらの建物の家具は価値なしと言うことで、そのまま置き去りにされていた。

 ちょっと手を加えれば、立派な商会の寮として使えそうなので、こちらも同時進行で改装工事が入ることになった。

 もちろん商会が使っていたので、敷地内に厩舎も在ったし荷馬車置き場も在った。


「いくらとり潰し物件でも、金貨500枚を値切るのはどうなんだろう?」


イツキは商会の門から建物を眺めながら、自分の屋敷の3倍以上の敷地のこの物件を、値切って良いのか不安になり質問する。


「商会長、この物件、建物には古くて価値がありませんので、土地代と思えば正当な価格です。ですが、改装費のことを考えると、最低でも金貨100枚以上は値切っていただかなくては」


ようやくイツキ君から商会長と呼ぶことに慣れてきた代表部長のカインは、経済学者らしく意見を伝える。

 経済学者として準男爵位を賜っただけあり、イツキが見込んだ通りカインは優秀だった。

 今年からロームズ辺境伯領の、農業ギルド立ち上げに伴う、経費やら必要なあれやこれやを算出してくれていたことが役立ち、商会立ち上げの準備は順調であった。




◇ ◇ ◇


 午前10時、イツキはホン領主屋敷の執事レトマスから連絡を受け、ホン領の織物問屋ササキヤ商会の商会長との商談をすることになった。

 商談場所は、もちろん【丘の上のキニ商会】である。

 イツキはカイン代表部長と一緒に、玄関前で出迎える。

 馬車から降りてきたのは、ササキヤ商会商会長と中継ぎのレトマスさん、そして、ササキヤ商会の事務長と営業部長の3人だった。

 

「ようこそ。突然のお願いにも拘わらず、ラミルまで来ていただきありがとうございます」


「やはり貴方でしたか。レガートの森では商隊と荷を守っていただき、本当にありがとうございます。命の恩人からのお誘い、飛んで来るのは当然のことです」


ササキヤ商会のササキ商会長は、満面の笑顔でイツキに右手を差し出し握手をする。

 そして、他のメンバーたちとも挨拶をして、カイン代表部長を紹介した。

 ササキは正直驚いていた。商談相手はあの時命を救ってくれた少年だろうと予想していたが、どう考えても軍か警備隊の精鋭部隊の団体だと思っていたのに、まさか少年が商売をしているとは、全く想像できなかったのだ。

 

『あの時、この少年がリーダーかと思ったのだが……思い違いだったのだろうか……』と、ササキは心の中で首を捻っていた。

 しかしそこは商人である。今日は商談だったはずだと気持ちを切り替える。


「ここは……確かホン領の商会の建物だったと記憶していますが……」


「はい、ギラ信教徒だったエデム商会の建物でしたが、ネイヤー公爵(ホン領主)様が売りに出されましたので、つい先日購入いたしました。元は王家所有の屋敷だったそうですが、今では倉庫同然です。改装中なのでうるさいかも知れませんが、どうぞ中へ」


イツキは笑顔で4人を商会内に案内して、だだっ広い1階に驚いている4人を見て、やっぱり誰が見ても不思議な建物なのだと認識する。


「変わった店内ですね……この広さは……」


ササキヤ商会の事務部長は、この広さは使い難そうだと言い掛けて止め、何のためにこれ程広い空間が必要だったのだろうかと首を傾げる。


「1階は商品の陳列も行いますが、定期的に既製服や高級ドレスの発表会や、ファッションショーという名の、独身男女のお見合いパーティーをする予定です」


「既製服……ですか?」(営業部長)

「ファッションショーとは何でしょう?」(ササキ商会長)

「お見合いパーティー?」(事務部長)


イツキの説明に、ササキヤの一行はピンとこなかったようで、3人とも首を捻りながら質問してくる。


「ハハハ、男性では想像が難しいのかも知れません。本日商談が纏まりましたら、うちの婦人服部門の者に詳しく説明させましょう」


イツキは笑いながらそう言うと、4人を2階に案内するため階段を上っていく。

 そう言えば、目の前の少年?は、この商会とはどういう関係なのだろうかと3人は考える。ササキヤの者は、旅の途中で知り合った少年だとしか聞いていなかったのだ。

 もちろんホン領主屋敷の執事レトマスは、自分の口から何も話したりはしない。

 レトマスはイツキとの約束を守り、イツキの身分を明かすことなく、商談の中継ぎを頼まれたとだけ伝えていた。


 2階に上がってくると、たくさんの女性たちの明るい声が聞こえてきた。



「僕は女性の力を最大限に引き出し、女性による女性のための既製服と高級ドレス作りを目指しています。目標は、大陸中の女性に【丘の上のキニ商会ブランド】の服を着てもらうことです。この場所が、大陸中の婦人服の流行を作っていきます」


イツキは自分の執務室に4人を案内すると、座って直ぐに自分の目標を語った。

 イツキの話は、とても斬新で驚くべき内容だった。

 商会のブランドとか、大陸中の流行を作るとか、あまりに壮大な話に戸惑うというか、度肝を抜かれた。見た目少年にしか見えない目の前の男は、いったい何者なのだろうかと興味も湧くが不気味でもあった。


「ご挨拶が遅れました、【丘の上のキニ商会】商会長のイツキと言います。この度、安価な既製服を大量に製造販売する事業と、最新のデザインと高級素材を使った、他に類を見ない最高級のドレスを作る事業の2つを同時に立ち上げることにしました。つきましては、あらゆる素材の布が大量に必要となり、是非ササキヤ商会に商品を卸して頂けないかと思った次第です」


イツキは立ち上がり、商会長として軽く頭を下げ挨拶をする。

 まさかの商会長だと知ったササキヤの3人は、慌てて立ち上がり商会長としてのイツキに挨拶を返した。


「イツキ様は商会長なのですか?お父様が亡くなられたのでしょうか?」


こんなにも若い商会長が居るのかと驚き、営業部長はつい質問してしまう。


「いえいえ、僕には親は居ません。それと【丘の上のキニ商会】は、3月10日に開業したばかりです。なにぶんにも新しい商会ですので、僕を信用してくださる方でないと、取引は難しいだろうと思い、ホン領主屋敷の執事であるレトマスさんに、無理を言ってお願いしました」


「開業したばかりの新しい商会・・・」


ササキはまたまた驚きながら、仲介してくれたレトマスに視線を向ける。

 視線を向けた先のレトマスは、何も言わず微笑んでいる。レトマスとササキは義理の兄弟である。そして、ホン領の男爵であり領主屋敷の執事である。そのレトマスが仲介したのだから、当然信用できる商会なのだろうと思っていた。いたのだが……開業したばかりの商会だったとは予想外であった。

 が、しかし、目の前の少年が、ただの少年であるはずがない。

 あれは絶対にレガート軍の精鋭部隊だった。そして信じられなかったが、イツキ君が指揮を執っていた。それは、間違いない。


『もしかしたら、何処かの侯爵家の子息……いや、軍上層部の誰かの子息……いやいや、イツキ君は今、親は居ないと言ったはずだ』


ササキは必死にいろいろ考えるが、自分の常識では考えが及ばなかった。

 商会を立ち上げるのには莫大な資金が必要になるのだ。国に届け出る時も、資産証明か領主の推薦が必要になる。商業ギルドにも補償金を預ける必要がある。


「失礼ですが、大量の布を仕入れる資金はおありでしょうか?」


ササキヤ商会の事務部長は、当然の質問をイツキにしてきた。


「はい、資金に問題はありません。我が商会の事業は、カルート国の貴族から発注を受け、レガート国の後援の元、発足しておりますので」


カイン代表部長は、にっこりと微笑みながら余裕の表情で答えた。


「はっ?レガート国の後援の元・・・?」


この時点でササキヤ商会の皆さんの、常識の範疇を越えてしまった。故に、虚言と疑われても仕方ない雰囲気になっていた。


「ある意味【丘の上のキニ商会】の事業は、個人ではなく国を相手にしていることになります。いろいろ込み入った事情もありますので、これより先の詳しい話は、僕を信用して取引を受けると了承いただいた場合に限り、お話ししたいと思います」


イツキは曇りのない清んだ瞳をササキに向け、本人無意識に只者ではないオーラを放ちながら、余裕の態度でそう言った。


 ササキヤ商会の事務部長と営業部長は、いったいどうするのですか商会長?という視線を上司に向けるが、肝心の商会長は下を向いたまま、何かをじっと考えていた。


『おかしい。こんな子供……いや、こんな若者が話せる内容じゃない。カルート国の貴族?レガート国の後援?・・・有り得ない。それに、この落ち着きはらった態度は何だ?思い出せ!こんな化け物……こんな常識外の少年がこの国に居たか?思い出せ!彼らは確か……ロームズ領に向かうと言っていた・・・はっ!』


ササキは何かを閃き、驚いたように目を見開きながら、ガタンと音をたてて立ち上がると、突然ドアの前まで下がった。


「このお話、喜んで受けさせていただきます。ササキヤ商会の名に懸けて、必ずや御期待に答えてみせます・・・ロームズ辺境伯様」


返事を返したササキは、イツキに向かって正式な礼をとり深く頭を下げた。そして、感動に胸が奮えてきた。


『このお方が、噂のロームズ辺境伯様なのだ!そうか、そうなんだ。そう考えれば全てに合点がいく。何故女性の服なのか?それはロームズ領が織物の町だからだ!そして常識外……そうだ、このお方ほど常識外の領主様は居ないだろう』


「頭を上げてくださいササキ商会長。此処に居るのは【丘の上のキニ商会】の商会長のイツキです。僕を信用してくださり嬉しいです」


イツキは自分が見込んだ通りの男だったと微笑みながら、心配そうにしていたホン領主屋敷の執事レトマスに視線を向け、にっこりと笑って頷いた。

 ササキヤ商会の事務長と営業部長も慌てて立ち上がり、上司である商会長の隣で「失礼しましたロームズ辺境伯様」と詫びながら礼をとった。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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