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予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
イツキ、商会を立ち上げる

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エイダモと侍女長

 3月6日、今朝はランカー商会でエイダモ商会の商会長と会う。

 エイダモ商会の商会長は、ランカーの幼馴染みであり、上級学校2年トーイの父親でもある。

 

「はじめましてエイダモさん。キアフ・ルバ・イツキ・ロームズです」


「はじめましてロームズ辺境伯様。御目にかかれて光栄です。息子のトーイからイツキ様のご活躍はいろいろ聞いております。この度は仕事のご依頼だとか……どのような商品でしょうか?」


エイダモ45歳は嬉しそうに挨拶すると、キラキラした瞳でイツキを見る。

 商会長にしては痩せ型で、目が少し窪んでいて今にも倒れそうに見えるが、ランカーによると昔からこんな感じの風貌だったらしい。

 何かをとても期待している様子に、イツキはちょっと申し訳ない気持ちになりながらも、早速商談に入ることにした。


「はい、作っていただきたい物がありまして、それはポムを使った車輪です。依頼主は実質的には僕ですが、実際にお金を払うのはカルート国のカラギ伯爵です。そしてカラギ伯爵は、そのお金をレガート国から借りて支払います」


「ええっと……それではお金の出所はレガート国で……ご依頼の仕事は、カルート国の伯爵様が発注され、それをロームズ辺境伯様が受注された・・・と考えれば宜しいのでしょうか?」


「はい、そうです。僕は昨日【丘の上のキニ商会】という名の商会を立ち上げました。僕の商会がエイダモ商会に仕事を依頼することになります。その商品を考えたのは僕ですが、試作品を作っているのは・・・レガート軍技術開発部です」


なんだかややこしい話をしながら、この仕事には国が大きく関係しているのだとイツキは説明を始める。

 そもそもことの始まりは、カルート国の財政難から来ており、レガート国はカルート国の崩壊を阻止するために資金を出し、かつ、自国も利益を得るのだと。

 なので、かなりの量を生産することになり、カルート国の命運がかかる大事業なのだと、ちょっぴり脅しをかけてみたりもする。

 ここでビビってしまうようでは、とても国策に近い事業は任せられない。


 イツキは製品がどのような物かを簡単に説明し、ポムを使ったその車輪は、大陸中に販売されるだろうと付け加えた。

 あまりにも大きな話に、エイダモは体が震える思いだったが、その大きな責務と利益を天秤にかけ暫く考える。


「ロームズ辺境伯様。遣らずに出来ないとは言いたくありません。うちは販売ではなく、もの作りに人生を捧げる職人の商会です。私と職人たちの誇りに懸けて、車輪を作りたいと思います」


エイダモは決心を決め、ポムについて勉強し、技術開発部の指導に従いながら、必ずや良い車輪を作ってみせますとイツキに誓い、必要なら工場を自費で拡張すると言った。


「この件は、ご領主であるマキ公爵様の了承が必要なので、正式な契約は14・15日に行われる領主会議のあとになります。その頃には試作品も出来ているでしょうから、16日にロームズ辺境伯邸で詳しい打ち合わせを行いましょう」


エイダモの決意を聞いたイツキは立ち上がり、笑顔でエイダモに握手を求める。

 エイダモも立ち上がり、よろしくお願いいたしますと深く頭を下げ、大事業に加わる重責に緊張しながら、イツキに右手を差し出した。

 結局エイダモは、領主会議が終わるまで王都見学をしながら、ラミルで待つことになった。



 ランカーとエイダモは、笑顔でロームズ辺境伯を見送ると、新しく建てたピカピカの屋敷のリビングに戻ってきた。


「成人したばかりの領主様は、いったいどんな御方なのだろうかと想像していたが、想像以上に若く可愛い顔をされていたが、話の途中から妙な汗が止まらなくなった」


エイダモは息子のトーイから、ロームズ辺境伯様は天才であり、光であり、学校一の美男子であり、誰にも真似できないカリスマ性の持ち主であると聞いていた。

 確かに素晴らしい発明家であり、見目麗しく、独特の雰囲気があった。しかし、表現するのは難しいが、笑顔の裏に覗く威圧感は……得たいの知れない何か……そう、強いて言うなら全てを見透かされているような恐ろしさがあった。


「あの方の外見に惑わされたら痛い目に合う。突然の無茶ぶりは当たり前、どんな困難なことも嫌だとか出来ないとは言えない。何せご本人が、不可能を可能にしてしまわれるので。……それはもう神懸かっている程に。だから遣るしかない。エイダモ、俺は心底嬉しいよ。お前の苦しむ姿が見れて」


「何だよその言い方は!そ、そんなに大変なのか?でも、お前は王都に屋敷まで建てたじゃないか」


 ロームズ辺境伯御用達の商会になってから、ランカー商会は飛躍的に成長した。それは友であるエイダモにとって羨ましいことだったが、ランカーの含みのある話し方と、よく見たら随分痩せた感じになっている姿に気付き、一抹の……いや、とんでもない不安感が押し寄せてきた。


「確かに、イツキ様は信用した仲間を裏切られることはない。それどころか体を張って守ってくださる。だが、不正や悪を許されることもない。ある意味、絶対、敵に回したくない人物だ」


「・・・分かった。心して頑張るよ。でも、俺はこれ以上痩せられないぞ……」


ちょっと困った顔をしてエイダモが真面目に言ったので、ランカーは友の身体を見て思わず吹き出した。




 ◇ ◇ ◇


 3月7日午前8時、王宮待機棟1階の広間の掲示板に、モデル・デザイナー・お針子・案内係りに選ばれた合格者の名前が貼り出された。

 それはそれは大騒ぎになったことは言うまでもない。


 モデルや案内係りは、べつに仕事を辞めるわけではないが、デザイナーとお針子に選ばれた者は、王宮勤めを辞めることになる。

 直ぐ直属の上司に報告し、許可されれば3月15日付けで退職する。

 デザイナーに選ばれたのは3人で、お針子に選ばれのは2人だった。


 そして皆が驚いたのは、デザイナー枠で試験を受けていた侍女の2人が、退職すると書かれていたことだった。

 この2人は、仲間である侍女やメイド達からも一目置かれる優秀な侍女で、1人は王妃様のお気に入り、もう1人も憧れの後宮勤めだった。

 それなのに辞めるんだ・・・もったいないなと掲示板を見て皆は思ったのである。


 デザイナーやお針子は、王様も認められたカルート国を救うための事業に協力するという名目で辞めるので、上司としては止めることが難しい。

 しかしこの2人は、求人には書かれていなかった事務職に転職する。そこで問題を回避するために、侍女長が自主退職扱いにしたのである。


【丘の上のキニ商会】の代表部長に合格したのはエミリア30歳で、王妃や側室や王子達が暮らす後宮の侍女だった。

 王妃の性格では、お気に入りのエミリアを、カルート国の事情などでは、辞めさせてくれそうになかったので、侍女長が一計を案じ違う理由で辞めさせることにしたのだ。


 王妃は今年に入り、ロームズ辺境伯のことを悪く言うことが多くなっていた。

 ロームズ辺境伯は国王に媚びて領主になったとか、キシ公爵やヤマノ侯爵にも媚びて爵位を得たとか、王妃とは思えない言動の数々に、後宮で働いている者は首を捻り、王妃に疑念を抱く者も出始めていた。


 ロームズ辺境伯は【結婚の救世主様】と呼ばれており、領主就任式では高級シルクのハンカチを、惜し気もなく皆にプレゼントし、今回は女性の為に新たな産業を立ち上げてくださるのである。

 そうなのだ。ロームズ辺境伯は、侍女やメイドから絶大な人気があったのだ。

 おまけにウルトラ美少年である。王宮で働く若い女性から【弟にしたいNo.1】の称号と、【そっとお見守りしたい領主様No.1】の称号まで持っていた。

 しかし、王妃カスミラはその事を全く知らなかった。そして興味も無かった。


 王宮の中には色々な派閥がある。当然、侍女やメイドの中にも派閥はあった。

 表向き侍女長は中立の立場であるが、決して王妃を支持してはいなかった。かと言って側室エバ様側の人間でもなかった。

 だからこそ、王妃に疎まれることなく侍女長を続けていられるのである。




 それは、侍女長がまだ侍女だった16年前のことである。

 担当していたのは、暗殺されたバルファー皇太子の母である王妃様だった。

 そして、バルファー皇太子の婚約者であったカシア(イツキの母)の存在を、知ってる数少ない侍女だった。

 婚約発表の直前にクーデターが起こり、国王も王妃も殺され、バルファー皇太子は逃亡者になった。

 宮殿内の怪しい動きを察知していた王妃は、クーデターの前日に「バルファーの婚約者カシアを守りなさい」と、今の侍女長に命令を下していた。


 侍女長はクーデターのあった夜、偶然休みをとっていたので事件に巻き込まれなかった。そして身の危険を感じた侍女長は姿を消し、王妃の命令を守るためカシアの行方を懸命に探した。

 婚約者の兄であったエントンの家の管理人リンダから、カシアがカイ正教会で世話になっていると知った侍女長は、カシアの妊娠を喜び、出産の直前までカシアと連絡をとり守っていたが、バルファー皇太子がレガート城奪還の為に城を包囲してから、バルファー皇太子の側(バルファー軍本部)で働き始めていた。


 そんな侍女長は、カシアが暗殺されたと知り絶望した。王妃様の命令を守れなかった責任をとり、死のうとしていたところをエントンに見付かり止められた。

 必ずや行方不明の赤ん坊(第1王子)を探し出し、暗殺者を捕らえるまでは死ぬことは許されないと、侍女長はエントンと神に誓った。

 バルファー皇太子が城を奪還した半年後、その誓いを守るため、エントンから密命を受け侍女長に就任した。


 その密命の内容は、カスミラ王妃の動向を探り報告せよだった。


 それは何故か?・・・それは侍女長が王妃付きの侍女として後宮で働いていた時、懐妊したカスミラが「私はあの女に勝った。この子こそが第1王子」と呟いたのを聞いたからだった。

 それ以降、秘書官と侍女長は、カシアの死に王妃カスミラが関わっているのではと、ずっと疑念を抱いていたのだ。


 そこで王妃の動向を探るため、侍女長の密命を受け、12年間後宮で働いていたのが、【丘の上のキニ商会】の代表部長に決まったエミリア30歳だった。




 そしてもう1人、キシ公爵の密命を受けて、侍女として後宮に潜入していたのが、ロームズ辺境伯邸の侍女長兼、事務長ティーラの補佐として就職が決まった、リリス・ミリグ・デルトン22歳だった。

 リリスはキシ公爵家の直系家臣である子爵家の娘だったが、側室の娘でもあり次女だったので、自力で生活しようと王宮の受験をしたところ、キシ公爵から呼ばれ密命を受けたのだった。

 リリスは主キシ公爵様を尊敬しており、自分の役目をしっかりと果たしていた。

 リバード王子が2度目の毒で死にかけた時、王妃付きの侍女がリバード王子の食事当番を代わっていたことを調べて報告していた。


 しかし最近カスミラ王妃は、キシやヤマノ出身の侍女を毛嫌いし、酷い扱いをするようになっていた。

 少しでも気に入らないことがあると、叱責し物を投げ付けることもあった。

 見かねた侍女長が、偶然ロームズ辺境伯から依頼された求人に、リリスを推薦したのである。リリスを邪魔者扱いし始めていた王妃は、辞めることを反対しないだろう。

 もちろん侍女長は、リリスがキシ公爵の密命を受けて潜入しているとは知らなかったが、その優秀さはよく知っていた。


 王宮という所は様々な思惑が渦巻いており、うわべだけでは誰が味方で誰が敵なのか分からない場所である。

 リリスはキシ公爵様から了解を得て、今度は同じキシ領の子爵でもあり、ロームズ辺境伯様でもあるイツキを、命懸けで御守りし尽くすよう新たな命を受けていた。



 イツキの全く知らないところで、王妃カスミラの動向を探っていた2人が、イツキの元で働くことになった。

 そのことが、後にイツキの運命を大きく動かすことになる。

 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

侍女長の、意外な過去が判明しました。

そう言えば、ティーラも結婚前まで、暗殺された王妃様の侍女でしたね。

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