採用試験と面接(1)
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午前中に店を購入したイツキは、昼食を食べながら、明日からの予定を事務長のティーラとつめていた。
「明日4日の午前中が丘の上のキニ商会の面接で、5日の午前が王宮での面接ですね。それで、商会の事務職員は2人、雑務が1人ですね」
「うん、もしもティーラさんの眼鏡に適う人材が居たら、この屋敷の事務職員にしてもいいし、侍女として働いて貰っても構わない。そろそろティーラさんにも部下を持って指示に回って欲しい。それに、商会の面倒までは見れないと思うし」
「まあ、本当ですか?それは嬉しいです。商会の立ち上げはこちらで行いますので、商会を管理する代表者が必要です。2つの事業を同時に展開させるので、2人は必要なのですが……服の方は女性でも構いませんが、車輪の方は如何いたしましょう?」
ティーラは、仕事の内訳と必要な担当者の人数を書いた紙を、イツキの前にスッと差し出し、屋敷で人を雇えるのだと分かると、嬉しそうに微笑みながら車輪部門の人材について質問した。
さすが出来る事務長である。必要な人数とそれに伴う経費が計算してあった。
「2つの事業とも副部長はカルート国のホーエンにするので、その上……その上に置ける人材かぁ……教師を引き抜いたら校長に恨まれるだろうなぁ……」
イツキは科学部の顧問であり、槍でお世話になった、経済をメインで教えている教師のカインを思い浮かべながら、やっぱり無理だろうなあと腕を組んで考える。
『いや、待てよ、この事業は国策でもあるわけだから、1年間……いや、半年間だけ出向して貰えばいいんじゃないか?うん、そうだ。ラミル上級学校の教師は国の職員だから、農業技術開発部に出向しているポート先生と同じだ。それに、経済の教師は人数にゆとりがあったはず……」
イツキはムフフと黒く微笑み、この機会に独身のカインを結婚させようと、要らぬお節介まで考えて、教育大臣宛の手紙を書くことにした。
「ティーラさん、もしかしたら、学校のカイン先生を引っ張れるかも知れません」
「カイン先生というと、科学部顧問のカイン先生ですか?」
「はい、そうです。上級学校には絶対に必要な先生ですが、半年間だけ出向していただきましょう」
イツキは既に決まったことのように話しながら、1週間以内に段取りしますと宣言した。気の毒なカインである。
◇ ◇ ◇
5時限目の講義を終え、ホームルームに出た後、イツキは事務職員の筆記試験を行うために特別教室棟に向かう。今回の会場は1階の中教室である。
イツキは何人が応募するのか聞いていなかったので、ガラリと戸を開けて驚いた。
そこには、22人の学校職員の夫人や娘、教師の姉妹まで試験を受けにきていた。
イツキは解答用紙を配り、氏名・年齢・最終学歴・職歴・紹介職員との間柄を先に書くよう指示を出した。
そして問題を配ると、試験問題の後半にある、問4~7までを解くように言った。
今回の問題は計算問題が中心で、最後の問7だけは集計とまとめ問題になっていた。
ものすごい気迫で問題を解いていく女性の姿に感心しながら、40分後にイツキは試験を終了した。
ロームズ辺境伯屋敷の地図を黒板に書いたイツキは、事務職員の面接は午前8時からで、雑務希望者は午前10時半から行うと告げた。
ちなみに、純粋に雑務の仕事を希望した者は12人で、事務職を受験した全員が、事務職がダメだったら雑務でも構わないとイツキに希望した。
◇ ◇ ◇
3月4日午前8時、事務職員の面接が始まった。
面接をするのはティーラ1人である。
面接人数は34人、一人にかけられる時間は約5分である。
イツキと従者のパルが採点した試験結果を見ながら、ティーラは家族構成や1日か半日かの希望を聴き、いくつかの質問をしていく。
驚いたことに、ティーラが上級学校に在学していた時の同期生や後輩が数人いた。ティーラは学生時代、ぶっちぎりの首席だったので、皆ティーラのことを覚えていた。
領主様であるロームズ辺境伯屋敷の事務長が、まさかの女性だったと知った受験者達は、益々イツキの評価を上げた。
そして、絶対に合格したい!だって、凄い高給なんだもん……と気合いに気合いを入れる。それに、医学大学の運営者であり天才発明家の領主様・・・そんな凄い領主様の元で働けるチャンスなんて、もう2度とこないだろうと分かっていた。死ぬ気で頑張るのは当然である。
ティーラは自分の下で働いてくれる人材も探しながら、出来るだけ能力が高く、貴族のお客さんの対応も出来る女性が居ることを願いながら、ヘトヘトになりながらも面接を終えた。
結果発表は3月7日の予定である。
◇ ◇ ◇
その頃イツキは、王宮侍女長の紹介で、女性のドレス等を作っている衣装店を訪問していた。お供はリンダ(ドッター夫人)である。
服装は、いつもの華美ではない、なんとか貴族に見える程度の服だった。
エントン秘書官の家の管理人を長く続けているリンダは、秘書官の家が貧乏子爵だった時代から、様々な商会や店を見てきたし、他の貴族家の侍女長との付き合いも多かった。
そして、衣装店の噂もよく知っていたので、新事業の協力依頼をするのに相応しい商会や店であるかを、見極める適任者であった。
孫も同然のイツキの役に立てることが嬉しくて、リンダはノリノリでお供をしてくれている。
それに、主エントンが、もしかしたら結婚するかもしれないのだ。そうなれば女性のドレスもたくさん準備しなくてはならない。侯爵夫人として、恥をかかせることなど出来ないし、立場的にも社交の場に出ることが多いはずなのだ。
作戦としては、かわいい孫が新しく婦人服の店を出すので、協力して欲しいと話を持ち掛けてみる。それで反応をみて本当の身分を明かし、詳しい話を切り出す。
向かう店は2店。
最初の店は、王都ラミルで1・2を争う老舗の高級ドレス店ラメール商会だった。
「あんたらね、商売をなめてるのか?そんな成人したばかりの素人が、簡単に出来る商売とは違うんだよ。それに高級ドレスが、どれ程高いか知っているのか?まあ、どうしても職人を貸してくれと頼まれれば、1人月に金貨10枚は必要だ。店の取り分は金貨9枚、高級ドレスと同じ金額は貰わないとな」
「はあ・・・高級ドレスは金貨5枚くらいでは?」
「ばあさん、アンタねえ、うちで1番高いドレスはそのくらいするんだよ」
リンダはイツキを見て首を横に振った。
この店は老舗なのだが、昨年、今の商会長に代わってから、評判が悪くなっていた。貴族以外には服を売らず、貧乏な貴族には横柄な態度をとるようになっていた。
そして、言うことをきかない高給取り(月給金貨1.5枚)のデザイナーやお針子たちを辞めさせ、新しく金貨1枚で働く若い娘を雇い直していた。
「いろいろと勉強になりました。どうやら僕には場違いのようですね」
「ああ、2度と来るな!」
イツキはそう言うと、それ以上何も言わずに店を出ていった。
イツキたちが出ていって直ぐに、高位貴族を担当している営業の女性が帰ってきて、商会長に向かって言った。
「今の女性は、秘書官様の家の侍女長さまだけど、ご注文だったの?」と。
商会長はそんなバカなと笑ったが、一抹の不安を感じて外に飛び出していく。
すると、小型だけど妙に豪華な馬車が、店の少し先から出発するところだった。
イツキは小者になど興味はなかったが、リンダはホホホと不敵に笑っていた。
後日ティーラが聞いた噂では、ラミルに住んでいる伯爵以上の多くの貴族家から、この商会は出禁にされたとか・・・
リンダはイツキに対する暴言を、そのまま友達に伝えていた。ただそれだけである。
「うちの主は、2度と来るなと怒鳴られましたのよ」って、にっこりと笑って……
イツキとリンダが次に向かったのは、最近オープンした新しい小さな店だった。
店の名前はリリアン衣装店で、高級ではない服を作っている店だった。注文があれば高級なドレスも作れる力を持っていて、王宮で働く若いメイド達からは大人気の店だった。
「ええっ、本当ですか、指導するだけでお金が頂けるのですか?実は、私たちはとある商会を突然クビになり、力を合わせて半年前に店をオープンしたのですが……前に働いていた店から凄い嫌がらせを受けて……が……頑張っていたけど、大家さんが急に、急に家賃を倍にすると言われて……ううぅ」
店長のエリザベス32歳は、思いもよらない話に喜んだかと思うと、話しながら次第に顔を歪めて泣き始めた。
「エリザベス、私たちに倍の家賃なんて払えないわ……やっぱり女だけで、女だけで商売をするのは……無理だったのかしら……ううっ」
お針子担当のエレナ21歳も、悔しそうに言いながら涙が我慢出来なかった。
「お客様、急に泣いてしまい申し訳ありません。私はデザイナーのレイナと申します。2人に代わり私がお話をお聞きします」
レイナ28歳は丁寧に頭を下げて、用意してきたお茶をイツキとリンダに淹れてくれた。
その所作は美しく、しっかりと教育された貴族の家の者のようだった。
「失礼だけど、貴女は貴族の家の方かしら?」
「はい、貴族とは言っても貧乏な準男爵家ですけど」
「それでも、女学院は卒業されたのね?」
「はい、両親は懸命に働き、1人娘の私に教育を受けさせてくれました。店長のエリザベスとお針子のエレナは商店の娘ですが、同じようにラミル女学院を卒業しています」
リンダの質問に、レイナはゆっくりと答えていく。自分達は女学院を卒業しているけど、服を作るのが大好きで、同じ商会で働いていた仲間なのだと。
リンダはイツキを見て、ゆっくりと笑顔で頷いた。
イツキも笑顔で頷き、まだ泣いている2人を含めた仲良し3人組に向かって、突然あるお願いをする。
「いっそのこと、これから作る僕の店で働きませんか?店はこれから改装しますが、とても楽しい企画もあるので、そうだ、これから店に行ってみましょう」と。
そして、いきなり店から少し離れた場所に置いてあった馬車に乗るように言われた3人は、ビックリして目をパチパチさせ、あまりに豪華な馬車とイツキを交互に見る。
「ど、ど、どちら様でしょうか?」
店長のエリザベスは震える声で、恐る恐るイツキではなくリンダに質問した。
「私は秘書官ビター侯爵家で働く者です。ご安心なさい。怪しいものではないわ」
リンダは動転している様子の3人を安心させるように、優しく微笑みながら答える。
イツキは少し狭いですけどとにっこりと微笑み、3人を自分の馬車に乗せた。
3人は初めて乗る高級馬車に緊張しながら、これは夢?夢なの?と思いながら、行き先も分からないまま連行?されていく。
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