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予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
執行部と領主の仕事

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カルート国資金調達計画(4)

 3月2日午前9時、イツキはカルート国産業部副部長ホーエンを連れ、国王との謁見を王の執務室の隣の貴賓室で待っていた。

 イツキが国王に会うのは領主任命式以来2ヶ月半振りくらいだが、イツキにとってはあっという間の時間だったのに対し、国王にとっては長い長い時間であった。

 昨年の12月にイツキは、国王(レガート国)に対しリース(聖人)として関わることを拒否した。そして、治安部隊指揮官補佐を辞め軍の活動からも退き、領主としての活動以外では会うことはないと断言していた。


「どうしてイツキ君は、カルート国の産業部副部長を連れてきたのだろう?」


久し振りに息子であるイツキに会えると喜んだら、謁見の用件がカルート国についてのお願いだったので、ややがっかりしながら、親友であり腹心の部下でもあるエントン秘書官に訊ねた。


「イツキ君はカルート国の皇太子とは友人ですから、何か頼まれたのかも知れません王様。それにロームズはカルート国の中に在りますから、産業分野で協力するのではないでしょうか……」


エントン秘書官も、久し振りに会える甥に喜びながらも、イツキの謁見の意図は、想像くらいしか出来なかった。


 イツキは久し振りに入った貴賓室の中を懐かしそうに眺めながら、国王と初めて会った夜のことを思い出していた。

 あれから1年しか経っていないのに、随分と昔のことのような気がするイツキは、ふと、王様はきちんと休まれておられるだろうかと思った。それは、息子としての感情ではなく、医師として国王を心配する気持ちの方が強かった。

 王宮警備隊の隊員がドアをノックして、「王様のお越しです」と声を掛ける。

 イツキとホーエンはドアの近くまで下がり、礼をとって入室を待つ。


「待たせたね。礼を解いて座ってくれ」


バルファー王は明るい声で2人に声を掛け、丸いテーブルの奥の席に座った。


「王様、本日は突然のお願いにも拘わらず、謁見いただきありがとうございます。こちらはシルバ皇太子の側近であり、産業部のホーエン副部長です」


「バルファー国王様。初めて御目にかかります。カルート国産業部副部長ホーエンと申します。御会いできましたこと心より感謝申し上げます」


イツキに続きホーエンは、深く頭を下げたまま緊張しながら挨拶をする。


「初めましてホーエン副部長、秘書官のエントンです」

「初めまして秘書官様。ホーエンです。どうぞよろしくお願いいたします」


ホーエンは1度立ち上がり、再び秘書官の前で深く礼をとり、この方が噂の王の懐刀にして、王の次に権力(ちから)をお持ちの秘書官様なのだと緊張を強くする。

 秘書官が椅子に座ったので、イツキ、ホーエンの順で座っていく。


「王様、本日はカルート国に関する重要なご報告と、心からのお願いと、私個人からの提案をお持ちしました」


イツキは真面目な顔をして、王様の瞳を真っ直ぐに見て切り出した。


「報告とお願いと提案? ほう……いいだろう。では、報告から聞こう」


他国の人間が居るので、バルファー王は王らしい威厳のある話し方で返事を返した。


「実は、私の信頼できる者に調べさせましたところ、カルート国は、3か月後に国の資金が底をつき破綻すると判明しました」


「「なんだって!3か月後に破綻する!?」」


「はい間違いありません王様、秘書官」


思わず立ち上がり絶句する2人に、イツキはとんでもない現実を突き付けた。

 バルファー王と秘書官は、イツキの隣に座るホーエンが、突然立ち上がり土下座するのを見て、話が本当であると思わざるをえなかった。


「お2人とも、どうぞお座りください。そこで心からのお願いなのですが、カルート国の()()貴族に、お金を貸して頂きたいのです」


「さる貴族?国の金が無いのなら、国王が頼みに来て、国に貸すのが普通ではないのか?何故さる貴族なんだ!」


秘書官は納得できない話に、つい語気が強くなる。


「大変残念なことですが、破綻寸前の現実をきちんと受け止め、国王や大臣たちが今の窮状を何とかしなければと動いていない・・・それがカルート国の現状です」


「なんだと!国の資金が底をつきかけているというのに、国王は何をしているんだ!大臣たちはどんな金策をしているんだ!」


到底信じることなど出来ない話の内容に、当然の質問をするバルファー王である。


「金策?……金策など誰もしていませんよ。そんなことをしたら、数ヵ月後にはカルート国の名前はギラ新教国に成ってしまいます。常識ある判断すら出来ない……フーッ、それがカルート国の貴族です」


「・・・信じられない……何てことだ……」


バルファー王は、テーブルに肘をつき頭を抱えて特大の溜め息をつく。


「そ、そんな無責任が通ると思っているのか!自分達は何もせず、他国に金を借りて、どうやって返すつもりだ!」


エントンはあまりの内容に怒りが押さえられず、イツキではない、此処には居ないカルート国王や大臣たちに怒りをぶつける。


「それでイツキ君に、レガート国の領主であるロームズ辺境伯に、カルート国の誰かが金を貸してくれと頼んだのか?」


「いいえ秘書官。それさえも考え付かない・・・それが現実なのです。もしも僕がロームズの領主でなければ、そしてギラ新教がいなければ、カルート国が崩壊しようと構わない。でも、現実は残酷です。今、カルート国が崩壊すれば、多くの餓えた難民が豊かなレガート国に流れ込み、貴族たちは自分の身だけを守り、ギラ新教徒になるか他国に逃げるでしょう。シルバ皇太子がいくら頑張っても、時間を掛けて腐ってきた体質までは、直ぐに変えられないのが現実なんです。それに、そうじゃない!それではダメだ!と指導できる者が居ないのです」


イツキは悲しそうな表情で、財務大臣や他の大臣たちの横領、財産隠し、大公による長年の悪政とギラ新教への資金の流失などを説明し、資金だけでなく、人の援助こそが必要なのだと説いた。


 そしてイツキはホーエンを立たせると、借金の申込書、返済計画書各2通を王様に渡すよう指示した。


「急な話で申し訳ありませんが、ことは急を要します。これから大臣たちを集め会議をお願いします。その後で僕からの提案をさせてください」


イツキはそう言うと再び礼をとり、顔面蒼白で涙を流しているホーエンを連れて貴賓室を出ていった。





◇◇ バルファー王と秘書官 ◇◇


 イツキたちが去った貴賓室で、2人は呆然としていた。

 あまりにも信じられない話だった。

 この話がイツキ以外の者から来たら、信じるつもりもないし隣国を愚弄する不敬者として捕らえるところである。

 しかし、信じたくない話だが、信じるに足るイツキが持ってきた話なのだ。


 2人は何度目かの溜め息をつき、提出された書類に目を通す。


「借金の申込書の借り主は、カルート国カラギの管理領主フィリップ・ロム・カラギ。そして保証人がロームズ辺境伯。……カラギ……?聞いたことのない町の名前だ」


秘書官はそう呟くと、急いでカルート国の地図を部下に持ってこさせる。


「フィリップ……先日イツキ君から出された伯爵任命届けには驚いたが、フィリップの名前はロームズに変わっていた。であれば、このフィリップは別人と見て間違いないだろう。それに、カルート国の伯爵だ」


「そうですね王様、フィリップはカルート国でも使われている名前ですから」


2人はイツキが保証人になっている時点で、カラギ伯爵は信用できる人物に違いないと判断していた。


「この車輪は分かるとして・・・何故女性の高級ドレスと既製服なんだ?車輪はポムを使うと書いてあるが・・・」


バルファー王は返済計画書に書かれている2つの商品について、どうしてもドレスと既製服が理解できず首を捻りながら呟く。

 普通の男性の反応はこんなものだろう。イツキの発想の方が変わっているのだ。


「しかし、どうして製造するのはレガート国内なのでしょう?」


秘書官も首を捻りながら、イツキの詳しい説明を聞かなければ、理解できそうにないと判断する。


「そもそも、国の年間予算の2割に相当する金貨8万枚(80億円くらい)もの大金を、個人に貸し出すことを議会が了承するとは思えんが・・・貸さねばカルート国は崩壊しギラ新教国になる……ハーッ、どれだけ腐っているんだカルート国は!」


バルファー王は国王として、隣国の無能な王も、先代の王も、ギラ新教徒だった大公も、何よりも大臣や領主たちが許せなかった。




 1時間後、急遽会議室に集められた各大臣や部長以上の上官たちは、国王からカルート国の財政状態を聞いて激怒していた。


「自分達が無能なことに気付きもせず、ロームズ辺境伯様を頼るとは!」

「無能な国王など辞めさせてしまえ!」

「勝手に崩壊すればいいんだ。他国にまで迷惑掛けるなよ!」

「レガート国なら、直ぐに無能な大臣を辞めさせ、領主を交代させるぞ」

「金を貸すより、レガート国が統治した方がいいんじゃないか!」

「先ずは全貴族から金を出させるべきだ!自分達は何も痛い思いをしないつもりか!」


大臣や部長たちから様々な意見……というか怒りの声が飛ぶ。

 まさかここまでだったとは、誰も予想すらしていなかったのだ。


「ロームズ辺境伯によると、国王の兄である大公一派が、真面目に働き仕事のできる大臣たちを、犯罪者に仕立てて殺害し、常識ある部下たちを罷免した。残ったバカな貴族を傀儡として大臣や上官に任命した。……偽王時代のレガート国と同じだ。その体制が10年続いた結果が今の崩壊を招いたんだ」


秘書官は皆の怒りは最もだと理解した上で、崩壊の危機を招いた原因を説明した。


「カルート国は同盟国だが、ここ15年は外交を疎かにしていた。ある意味レガート国は平和ボケしていたのかも知れん。最初の戦争の時の横柄な態度を、もっと疑問に思うべきだったのだ。それが出来なかったから2度目の戦争にも出兵し、ロームズやカルート国を守らねばならなくなった。フゥ、国の上層部を無能な者に替えさせたギラ新教は、さぞかし操り易かったことだろう」


バルファー王は自分やレガート国の反省すべき点も挙げながら、これを他人事と考えるべきではないと付け加えた。


「カルート国の貴族は、国が崩壊しても自業自得だ。しかし、民に責任はない。カルート国は貴族絶対主義だからな。どんなに腹がたっても、崩壊に向かわせているのはギラ新教だ。真の敵を見誤るな。このまま崩壊させると、カルート国の名前はギラ新教国になる。そうなると、レガート国が被る損失は計り知れない」


会議前に怒りの感情を出し終えていたバルファー王は、皆を見て冷静にそう言った。

 国王が冷静に話せば、大臣たちも冷静にならざるをえない。

 

 結局全会一致で、カルート国の崩壊を阻止することに決まった。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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