カルート国資金調達計画(3)
王宮に向かう途中、イツキはふと、とある商団のことを思い出した。
その商団主と出会ったのは昨年の5月で、場所はレガートの森だった。
ロームズの危機を知り駆け付ける途中、レガートの森の休憩所で、極悪非道なギラ新教の手下5人と、ホン領の老舗織物維問屋のササキヤ商会の3人と護衛の5人に出会った。
ササキヤ商会の商団長ササキは、ホン領からロームズに仕入れに出掛けた帰りだった。色々あってイツキたちはギラ新教の手下を捕らえ、イツキはお礼に、商団長のササキから新品の黒革のリュックを貰っていた。そのリュックはお気に入りで、新型レガート式ボーガン(折り畳み式)を持ち歩く時に必ず使用していた。
イツキはドッターさんに行き先変更を告げ、ホン領主ネイヤー公爵のラミルの屋敷に向かってもらった。
ホン領主の屋敷は、レガート城前の大通りを西に進み、技術開発部の前を通り過ぎた1キロ先にあった。
イツキはドッターさんに、家令か執事に会いたいと門番に告げさせた。
ホン領主屋敷は、ラミルに在るどの領主屋敷よりも大きく、建物も豪華というか派手だった。イツキの屋敷の倍以上の大きさがあり、外壁は濃い緑色に塗られており、角の部分や窓枠は金色に塗られていた。
3階建ての建物も凄いが、庭も完璧に手入れされており、これぞ金持ち名門公爵家という感じだった。
ホン領主屋敷の門番は、ロームズ辺境伯の馬車だと分かると、丁寧な挨拶とともに屋敷の正面まで案内してくれた。そして屋敷の中から執事を連れて戻ってきた。
「これはロームズ辺境伯様。ようこそおいでくださいました。当屋敷の執事レトマスでございます。本日は領主ではなく私にご用とか……」
ホン領主屋敷の執事レトマス52歳は、噂通りの若き領主に微笑みながら、丁寧に礼をとり挨拶をした。
主ではなく何故自分なのだろうかといぶかしがりながらも、全く表情には出さずにリビングまで案内する。
執事レトマスは、執事と言うより警備隊長と言うのが相応しいくらいに、ガッシリ体型をしていた。
メイドに目配せをするとにっこりと笑い、来客用の豪華なソファーセットの前までイツキを案内すると、イツキが座るのを待ってレトマスも座った。
「本日は突然訪問してしまい申し訳ありません。実はホン領の、ある商会についてお尋ねしたいことがありまして、急ぎの案件だったもので、失礼を承知でやって来ました」
「ホン領の商会で、何か問題でも起きたのでしょうか?……まさか、新たなギラ新教徒が居たのでしょうか?」
イツキの用件が商会の問い合わせだと分かると、無表情だったレトマスの表情が変わり、不安そうに質問する。
「いいえレトマスさん。実は新しい産業を起こそうかと思いまして、ホン領のササキヤ商会との取引を考えています。商団長とは少しだけ面識があるのですが、商会の状況が分からないので、ここに来れば情報が聞けて、中継ぎをお願いできるのではないかと……」
「えっ、ササキヤ商会ですか?・・・え~っ、はい。ササキヤ商会は200年以上続く老舗の織物問屋で、経営状況は安定していたと思います。織物関係ですと、ホン領内では1番大きな商会となります」
レトマスは内心穏やかではなかった。レトマスは男爵であるが、平民であるササキヤ商会から妻を迎えていた。いわば、レトマスにとってササキヤ商会は身内だったのだ。
「そうですか、それでは安心ですね。ササキヤ商会の商団長……いや商会長なのかな?……ラミルに呼んでいただくことは可能でしょうか?」
「はい、それはもちろん出来ます。・・・ん?今、ロームズ辺境伯様は、新しい産業を起こすと仰いましたか?」
「ええ。詳しいことは話せませんが、大量に布が必要になると思いまして」
イツキはそれ以上語らず、にっこりと微笑むだけで話を止めた。
そこにメイドさんが、豪華なカップとポットを載せたワゴンをゴロゴロと移動してきて、優雅な所作でお茶を淹れてくれた。
遠慮なく頂くことにし、嗅いだことのない香りのお茶を口にした。香りは華やかだが味はほんのりと甘味があった。何でもミリダ国のお茶らしい。
イツキは10分くらいホン領の話を聞いたところで、最後のお願いをした。
「お願いがあるのですが、私のことは名前ではなく、【リュックを貰った少年】が、商談したいと言っているとお伝えください。私は領主としての力は使わず、いち個人として商会長にお会いしたいのです」
イツキは持っていた黒革のリュックをテーブルの上に置き、良い物をいただきましたと言ってリュックを見せた。
そしてイツキは、ササキヤ商会の商会長が商談に応じてくれるようなら、面会日程が決まり次第、屋敷に連絡して欲しいと頼み、お土産にペンを渡しておいとました。
イツキは一旦屋敷に戻り、昼食を食べてから王宮に向かうことにした。
「今日のようによく晴れた春の日には、徒歩で行くのが1番だよね。外門の中はそろそろたくさんの花が咲き始めた頃だしね。ティーラさん、お知恵をお借りしたいので、王宮に一緒に来てください。僕とパルでは、女性のことは分からないので」
イツキは昼食を食べながらそう言うと、事務長のティーラとレクスに、カルート国が破綻寸前であることと、その窮状を何とかするため、一肌脱ぐことになったと説明する。
「それでは、女性用の既製服を大量に作るのですか?」
「はいそうです。何処の国の女性の服も、今のデザインでは仕事がしずらく、特に農作業などの外の仕事では汚れてしまいます。洗濯だって大変だと思うんです」
イツキは真剣な顔をしてしみじみと語るが、男性の、ましてや領主様の発言とは思えない話の内容に、ティーラもレクスもどう答えていいのか分からない。
どこの世界に、女性のドレスの洗濯について、大変そうだと思い至る領主がいるのだろうか?絶対に居ないと2人は突っ込みたかったが、ここはひとまず我慢する。
「昨年僕は少しの期間、女装をして活動していたことがあったのですが、その時あまりの不便さに驚きました」
イツキは当たり前のように、何でもなかったことのように女装したことを明かす。
「ああ、あの時は完璧な女装でしたね。でも、あまりにも動き回るので裾がヒラヒラして……何度注意したことか・・・はぁ・・・」
ロームズでのことを思い出し、心配性の兄2号のレクスは、特大の溜め息を吐いた。
「ええっ……別に中身は男なんだからいいじゃん」
「…………」(ティーラとパル)
「はあ?全く自覚が足りませんね。本人以外、誰も女の子として疑っていませんでしたよ!しかも、本気で恋してた可哀想な奴だって1人や2人じゃなかったですがぁ?」
「…………」(ティーラとパル)
「そ、そうだったけ?」
「は~っ・・・もう2度と女装はやめてくださいね。心臓に悪いですから」
イツキはどうしてそこまで怒られるのか分からないが、レクスが不機嫌になり文句を言うので、続きはレガート城ですることにし、パルとティーラを連れ徒歩で出掛けた。
本来であれば、国王に了解を得てことを進めるべきである。
しかしイツキは、だいたいの段取りをした上で、ダメだと言わせない体制を先に作ることにした。
午後2時、イツキは一旦パルを屋敷に帰し、ティーラと2人で侍女長の執務室にやって来た。
「まあ、ロームズ辺境伯様、ご無沙汰しております。ティーラが一緒ということは、お見合い作戦パート3の件でしょうか?皆、首を長~くしながら待っておりました」
あまりにも忙しそうなイツキに遠慮して、なかなかお見合い作戦が実行できない侍女長は、部下や親たちにせっつかれて、そろそろ連絡を……と思っていたので、嬉しそうにイツキたちを見て言った。
そしてメイドに向かって、新作のデザートとお茶を至急持ってくるよう指示した。
イツキは『しまった!忙しくてお見合い大作戦を忘れていた』と、動揺しそうになったが、はっ!と何かがひらめき、開口一番、とんでもない思い付きの話しを始めた。
「ご無沙汰して申し訳ありませんでした侍女長。あれからいろいろ思案していましたが、ようやく新しい形のお見合いを思い付きまして、その件も含めて、お見合い予定の女性や、王宮で働くオシャレな女性の力をお借りしたい案件があり、本日はやって参りました」
イツキはキラキラの営業スマイルで、すっかり忘れていた【お見合い大作戦】を誤魔化すように微笑んだ。
イツキはいつもの如く大きな紙を取り出すと、紙の上部にすらすらと何やら書き始めた。
【カルート国を救え!オシャレで産業を起こし、ファッションリーダーになろう!】
( サブテーマ 来たれ!働く姿が美しい女性 )
◎ 高級ドレス 及び 既製服のデザイナー募集
オシャレに興味があり、服が作れる人。またはデザインができる人。
王宮勤務または、女学院卒業者に限る。
◎ モデル募集
新作の既製服を着て、ファッションショーに出場できる独身女性。
(出場特典として、ショーで着た服はプレゼント。町に出て素敵な服を自慢しよう)
◎ お針子さん募集
学歴、家柄、未婚、既婚、年齢、問わず。
広く募集するので、自薦他薦どちらでも大丈夫です。
● 待遇
* デザイナー 1ヶ月 金貨2枚から (売上により上乗せあり)
* 針子 1ヶ月 銀貨8枚~金貨1.5枚(経験者優遇)
《面接 及び 説明会》 3月5日 午前9時から午後2時 (貴賓館2階)
★★★ 特記事項 ★★★
ファッションショー当日は、独身男性多数による既製服の人気投票あり。
ショー終了後、モデルさんは独身男性との懇親会あり。
モデルではなくても、既製服お買い上げの独身女性は、懇親会にご招待。
ロームズ辺境伯 キアフ・ルバ・イツキ・ロームズ
もう無茶苦茶である・・・
思い付きとは言え、必要事項は記入してあり、【お見合い大作戦】もブチ込んであった。
「まあ、こんな感じのお願いですね」と、イツキはさらりと微笑みながら言った。
「「どんな感じのお願いよー!」」と、あきれ顔の2人は突っ込んだ。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。




