イツキ、学生する(3)
フォース先生はフルム先生と同じ歳だが、カワノ上級学校の卒業生である。
「さすがフォース先生、ラミル上級学校の過去問は、チェックされていたんですね」
「イツキ君には敵わないがね。22年も前の解答文を使うとは脱帽だよ」
「そうか、今年はリバード王子が居るんだ。親子2代でこの解答文を見ることになるとは、バルファー王が知ったら驚くだろうね」
イツキがフォース先生と話していると、意味あり気に微笑みながら、フルム先生が会話に参加してきた。
「私なんて、2問目の解答が分かっているのに、暗号の解き方が分からないというジレンマに、最後まで苦しみましたよ。教師としてのプライドを、思わず捨てそうになりました」
終了5分前にようやく解き方が分かり、悔しい思いをしなくてすんだと、笑いながらカイン先生は言った。
「でも、カイン先生は、誰よりも早く3問目の解答を提出されましたよね」
「ええっ!そうなんですか?俺は結局3問目は解答できませんでした」
イツキたちの話を聞いていたらしい発明部のイルート先生は、しょんぼりしながら会話に入ってきた。
イルート先生とフルム先生は、バルファー王と秘書官の同期生である。
「学生たちに、イツキ君のメッセイージが伝わるといいですね。そう言えば、教師もイツキ君の挑戦を受けてもいいのだろうか?」
「もちろんですフルム先生。きっと先生方にも関係があると思いますので」
イツキは意味あり気に、にっこりと黒く微笑みながら、ぜひ挑戦してくださいとお願いした。
提出時間はバラバラだったが、学生で全問正解出来たのは、53チーム中、結局8チームだけだった。
成績発表は明日の昼食時間だが、今日の夕食時間は希望者多数により、イツキによる暗号問題の解説が行われることになった。
イツキは解答文を掲示板に貼り、夕食中の学生や教師の前に持ってきた。
【 暗 号 問 題 の 解 答 】
(1) 正義の行いとは、誰が決めるのか?
(2) 真の友に恥じない行いこそ、正義である。
(3) 夏大会は宝探しに行く
解答文を見た学生や教師たちから、「そうだったのか」とか「宝探しか~」と、悔しそうな声が上がる。
正解できなかった者は全員問題用紙を持参しており、イツキは1年生のことも考えて、1題目から暗号の解き方を解説していった。
2題目の解説を終えた時、勇気ある2年生から質問の手が上がった。
「すみませんイツキ先輩、真の友とは誰のことを指すのでしょうか?」
質問したのは、軍学校から成績優秀者枠の2年コースで入学してきた学生だった。
殆どの学生が疑問に思っており、質問したくても出来なかったので、『凄いなコイツ』という視線を集める。
「君にとって、1番大切な友とは誰だろう?例えば突然隣国が攻めてきて、王都が大混乱に陥ったとする。その時、君が守らなければならないと思う人は誰だろう?自分の行動を、卑怯だと思われたくないのは誰に対してだろう?今、この中に居る全学生を友として考えてみればいい」
【親友】とは自分がとても親しい友人を指すが、【真の友】は真を誓う友のことを指すと付け加えながら、イツキはにっこりと微笑んだ。
学生たちは「う~ん」と言いながら首を捻るが、2・3年生は直ぐにその答えが分かったようで、ちらりとリバード王子に視線を向けウンウンと頷く。
「さて、3題目の解説だが、これは答えを見れば成る程と簡単に分かるだろう。分かってしまえば難しくもないが、冬の裏……を夏だと思い付くかどうかだ」
「くそ~そうだったんだ」とか「宝は分かったのに……」と悔しそうな声が飛ぶ。
「さあ諸君!一緒に宝探しに行こう!今年の夏大会はワクワクどきどきがいっぱいだ。挑戦を受ける者の解答を、僕は楽しみに待っている」
イツキは腕組みをし、挑むような視線で皆を見て、ニヤリと笑った。
「絶対に謎を解いてやる!」と風紀部隊長のヤンが叫ぶ。
「俺は絶対にイツキ君と宝探しに行くぞ!」と第2親衛隊隊長のエンドが叫べば、隊員たち40人も「オーっ!」と右腕を振り上げて叫ぶ。
「一番乗りはイツキ親衛隊が貰うぞ!」と親衛隊長のナスカが叫べば「頑張りますイツキ様!」と親衛隊の29人が嬉しそうに声を揃える。
『う……う~ん、なんだかな・・・』と、イツキは慣れたような慣れない感じでハハハと微妙な顔をする。
今年の親衛隊は、完全エリート集団で固められており、文武両道を掲げている。
勉強が学年で10番以内に入っている者は、武術が苦手でも大丈夫だが、武術だけが秀でている者は正規親衛隊員には入れなかった。
1年生は、学年隊長のリバード王子以外は、春期試験の結果を見て隊員を受け付けることになっていた。
春大会2日目は、午後から行われるマラソン大会である。
昼食時間になり、昨日の成績を見ようと、我先にと食堂に向かって学生たちは走っていく。もちろん【廊下は静かに】という貼り紙はある。
最初の競技である100問試験は、以外にもパル、ルビン、デイルのチームと、植物部部長でありイツキ親衛隊副隊長のリョウガのチームが74点で同点トップだった。
2番目の競技である暗号問題は、風紀部隊長のヤンのグループと、執行部部長のヨシノリのチームが、110点でこれまた同点トップだった。パル、ミノル、インダス、リョウガのチームが100点だった。
2競技の総合得点は、1位が174点でリョウガとパルのチームが並んでいた。
6位までが155点以内に入っており、優勝の行方は最終競技のリレーマラソンが終わるまでは、分からない様相になっていた。
イツキはと言うと、マラソンには1度も参加したことがなかったので、2周だけ走ろうと考えて、体操着に着替えていた。
スタート時間が近付き、皆の緊張が徐々に高まっていたところ、3年エンドが率いていたポルムゴール部チームの1人が、直前の走り込み練習で捻挫してしまった。
「イツキ君、すまないが代理で走ってくれないかな?」
執行部部長のヨシノリが、エンドと教頭を連れて来て、イツキにお願いする。
「はい、いいですよ。マラソンに自信はないですけど……」
「ヤッター!全然大丈夫。どうせ総合得点で10位以内には入賞できないから、誰からも文句は出ないし、5点でも構わないよ」
エンドはイツキと同じチームになれることが嬉しくて、にこにこしながら嬉しそうに言った……いや、言ってしまった。
「へ~ぇ、僕の上級学校の思い出に、春大会のマラソンリレーは、5点だったと刻まれるのか……なんだか嫌だなぁ・・・同じ刻むのなら30点くらいは欲しいかなぁ……そう思うだろうナスカ?」
「もちろんですイツキ様。イツキ親衛隊のチームだったら、当然死ぬ気で走ります。第2親衛隊は……イツキ様が5点の記録を残してもいいと思っているのだろうか?」
イツキの隣に立っていた親衛隊長のナスカは、腕組みをしてエンドを睨みながら問う。
そして、ナスカの後ろに居た親衛隊の皆さんも「信じられない!」とか「あり得ないことです」と言ってエンドを睨む。
イツキはちょうどイツキ親衛隊の皆さんに向かって、ケガをしないよう頑張りましょうと号令を掛けていたところだったのだ。
間が悪いというか、空気が読めなかったというか、悪気もなく気を使った発言をしたつもりのエンドは、学校最強の親衛隊29人に睨まれてビビる。
「わ、分かったよ。全力で走って1位を目指すよ。第2親衛隊の力を見せてやる!」
エンドは青い顔をしながらも「イツキ君、また後で」と手を振り走り去った。
10分後、イツキは第1走者としてスタートラインに立っていた。
イツキが入ったチームは、運動神経抜群のエンドと、走るのが得意な2年生フォスキンのチームだった。
マラソンが強いのは体育部の連中で、日頃から走り込んでいた。
今年はポルムゴール部が誕生し、体育部の部員の数が半分になってしまったが、3年ミノル、パル、2年ナスカは体育部である。当然体育部の目標は5位入賞だった。
校長がスタートを告げる旗を振り、第1走者が一斉に走り出した。
イツキは同じ第1走者のミノルの後ろを、ぴったりとマークしながら付いていく。
中間値点でミノルは3位、イツキは4位につけていた。
イツキは第2走者のエンドに、5位でたすきを渡した。
「イツキ先輩、お疲れさまです」
イツキ親衛隊1年部隊長のリバード王子が、笑顔でイツキにタオルを渡してくれた。
「イツキ君ありがとう!俺も頑張るよ。絶対に5位入賞しよう!」
同じチームになったフォスキンは、キラキラした瞳でイツキにお礼を言って、自分も頑張ると気合いを入れる。
「イ、イツキ君、ハアハア……やっぱり君の運動神経は侮れないね。フウ」
イツキが自分の後ろを走っていたと知っていたミノルは、ハアハアと息を切らしながらイツキに声を掛ける。そして、持ってきた水筒をイツキに渡した。
剣術も体術もAランクであり、昨年は槍で指導もし、馬術で選抜選手に選ばれていたイツキは、マラソンはどうなのだろうかと全員の注目を集めていた。
「やはりイツキ君は凄いね」と、あちらこちらから感嘆の声が上がる。
「でも、弓はぜんぜんダメだよ。昔からきちんと引けない。だからレガート式ボーガンを考えたんだ」
「「ええ~っ?そんな理由で!」」
イツキの話に耳を傾けていたイツキ親衛隊の皆さんも、その他の皆さんも、イツキの苦手な競技を知ったことより、レガート式ボーガンの意外な誕生秘話に驚いて叫んだ。
レガート国や軍の為に、一生懸命に考え出された発明品だと思っていたのに、弓が苦手だったから?そこ?と全員が心の中で突っ込んだ。
「そうだよ。非力な人間でも扱える弓は便利だろう?力自慢でなくても戦える。だからレガート軍は、先の戦争で200人以上のレガート式ボーガン部隊を編成できたんだ」
「「なるほど・・・」」
軍学校や軍や警備隊から上級学校に編入学してきた学生は、納得したように頷く。
だが、現場経験のない学生たちは、如何に早く矢をセットし、如何に早く狙った的に射れるかなんて考えないので、曖昧な感じで「なるほど」と言った。
「実戦になったら動きながらでも、走りながらでも矢を射る必要がある。安定感が必要だ。そして、迅速に攻撃できなければ意味がない。飛距離は最大の課題だ」
イツキはついつい開発コースの授業のように話してしまう。
そういう観点からイツキの話を聞くと、苦手だったからということだけではなく、やはり考え抜かれて発明されていたんだと、改めてイツキの発明の凄さに気付く。
イツキがレガート式ボーガンについて説明している間に、第2走者が続々と帰ってきた。
エンドは頑張って、順位を4位に上げていた。イツキはアンカーを頼まれていたので、暫く休憩しながら出番を待つことにした。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
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