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予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
執行部と領主の仕事

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洗脳解除(2)

 同じ頃、ボルダン校長は1年のオーベル、ウダニスの2人を連れ、ブルーノア教1100年記念式典に参列する打ち合わせという名目で、ラミル正教会に到着していた

 到着後3人は、サイリス(教導神父)様からお話があるので待つようにと言われ、会議室に案内された。


「いいかね、2人は学校の代表として選ばれて来ている。くれぐれも失礼のないようにしなさい。本来サイリス(教導神父)様は、学生と面談されることなどない。大変名誉なことだぞ」


ボルダンは2人に向かって、厳しく注意を与える。

 注意された2人の学生は、サイリス様と聞いても、正直有り難いとも嬉しいとも思えなかったが、サイリスが国王と同等の存在であることは知っていた。


「おはようございますボルダン校長。サイリス様は現在来客中ですので、もう少しお待ちください。ああ、式典で学生が読み上げる祈りは、【祈りの3番、神の僕になりて】と決まりました。これからサイリス様の前で祈りを捧げていただきますので、練習をしておいてください。小さな子供でもスラスラと唱えられる祈りですが、間違えることがあってはならないので、この用紙に【祈りの3番】を自分で清書しておくことをお勧めします」


教会の事務官風?の男が会議室に入ってきて、ボルダン校長に挨拶をする。

 校長はその男を見て驚き、慌てて礼をとろうとするが右手で制される。

 そして、持っていた2枚のブルーノア教会の五星の紋章が入った用紙を渡された。

 事務官風の男は、焦げ茶の瞳を校長に向け頷くと、当たり前のように会議室の椅子に座り、年齢不詳な感じの美丈夫な顔で、何も言わず2人の学生をじっと見る。


 オーベルとウダニスは、面倒臭いと言わんばかりの態度で、渋々ペンを持つと用意された紙に【祈りの3番】を書き込み始める。

 オーベルは1行目で手が止まり、ウダニスは2行目で手が止まった。


「1099年1月2日、バルファー王はレガート軍・警備隊・各領主に向け、重大な命令を下された」


事務官らしき男はそう言いながら、《第1級通達文》と書かれた、赤い縁取りのある特別な用紙をテーブルの上に置いた。


*** 第1級通達文 ***


 ブルーノア教の【祈りの3番】を唱えなれないブルーノア教徒は、ギラ新教徒である。

 見付け次第、10歳以上の者であれば直ちに捕縛し、【破壊工作対抗部隊】に届け出ること。


 調査の結果ギラ新教徒であると判明した場合、貴族は爵位剥奪の上、全財産を没収し厳罰に処す。

 平民の場合は財産没収の上、その罪状により量刑を決定する。


 ただし、【祈りの3番】を全文書けた者は、洗脳解除の可能性ありとして、【破壊工作対抗部隊】監視のもと、ブルーノア教会で洗脳が解けるかどうかを確認する。

 洗脳が解けた者は、罪を償えば赦免されるものとする。


***  1099年1月2日  レガート国王 バルファー・レガート  ***


 第1級通達文は、国・王族・領主・国民に、命の危険が迫る緊急事態が起こった時や、重犯罪者に関わる情報が分かった時に出されるものである。


「君たち2人は、【祈りの3番】を唱えられず、書くことも出来なかった。よって、ギラ新教徒であると断定し、これより直ちに捕縛する」


立ち上がった事務官のような男は、美丈夫なのに睨み付ける眼力は鋭く、完全に上から見下す強者のような威圧感を放ちながら言った。


「な、なんだと!そんなことは許されない。わ、私は選ばれし者なのだ!ブルーノア教会の人間ごときが、男爵家の子息であるこの私を、捕らえることなど出来ない!」


オーベルはビビリながらも、完全に我を忘れギラ新教徒まる出しになっていく。


「残念だが、君の父親は既に男爵位を剥奪された。よって君はただの平民のギラ新教徒だ。それに俺は教会の人間ではない。君たち2人には、校長からの強い嘆願もあり、1週間の洗脳解除猶予を与える。その間に【祈りの3番】が唱えられるか書けるようになれば、鉱山送りにはならない」


男は冷たく現実を突き付け、会議室の外で待機していた部下を呼び、2人を監禁室に連れていくよう命令する。


「1週間の猶予を頂き、本当にありがとうございますキシ公爵様」


ボルダン校長は思わぬ恩情に感謝しながら、【破壊部隊】総司令官であるキシ公爵アルダスに深く頭を下げた。


「き、キシ公爵・・・では、校長は最初から・・・」


オーベルのように取り乱すこともなく、ウダニスはキシ公爵と校長の顔を見て全てを理解し項垂れた。




 ◇ ◇ ◇


 オーベル、ウダニス親子がラミル正教会に到着する少し前、イツキはサイリス(教導神父)の執務室で、キシ公爵、ホン領主、レン指揮官とお茶を飲みながら会議をしていた。


「イツキ君、それではこれから発見したギラ新教徒は、全員に洗脳解除のチャンスを与えるというのか?」


「はいレン指揮官。洗脳されて2・3ヶ月以内なら、洗脳が解ける可能性が高いと思います。1年以上の期間が過ぎている者は、無理矢理解除しようとすると酷い頭痛や胸の痛みに襲われ、気を失ったり倒れたりします」


 イツキはこの日、【洗脳解除】という新しい言葉を皆に伝えた。

 それは最近、ブルーノア本教会で発見された方法で、【祈りの3番】を唱えられなくても、紙に全文が書けた者の9割が、ギラ新教の教えから解放され、洗脳解除されたと報告があったのだとイツキは説明する。


「その時に使用するのがこの用紙です」と言いながら、サイリスのハビテは、ブルーノア教のシンボルマークである五星の入った用紙を執務机の上に置き、その用紙をイツキが皆に配っていく。


「どうやらギラ新教徒になってからの年月が長い者や、犯した罪が重い者ほど、【洗脳解除】され難いようです。中には強い意思で頭痛に打ち勝ち、何度も倒れながらも【洗脳解除】に成功した者もいたとか」


 用紙を配り終えたイツキは、【洗脳解除】に必要なことは、ブルーノア教会の用紙に【祈りの3番】を書き、神の僕としての責務を果たすと明記し、名前を書くことですと言って、1枚の見本となる紙をテーブルに置いた。

 

 その用紙には、年末にラミル上級学校で新しく発見された、ギラ新教徒の教師のサインがしてあった。

 イツキは全員に、上級学校での教師の暴言や態度について説明し、その身柄を教会に預けたのだと言った。


「彼は自分をブルーノア教徒であると言い張ったが、祈りの3番が半分しか唱えられなかった。そこで私は、貴方はギラ新教に洗脳されていると何度も説明し、【洗脳解除】の方法を試してみた」


そう言いながらサイリスのハビテは、その教師の1週間の様子を皆に話した。

 毎日礼拝堂で祈りを聞かせた後、【祈りの3番】を書かせてみた。始めの2日間は酷い頭痛で2行しか書けなかったが、3日目には苦しみながらも懸命に3行目を書いた。

 3日目の朝、ファリス(高位神父)が教師に向かって、貴方の子供は反逆者の子供と言われることになるが、それでもいいのか?と諭したところ、教師は涙を流しながらギラ新教徒の洗脳を解いて欲しいと懺悔した。

 6日目、頭痛に打ち勝ち教師は【祈りの3番】の全文を書くことができた。

 そして7日目、教師はとうとう【祈りの3番】を唱えられるようになり洗脳は解けた。


 洗脳から覚めたその教師によると、間もなく転校するかもしれないので、お世話になった先生にお礼がしたいと1年のルシフに言われ、11月末頃ついボンドン男爵の家に行ってしまった。それから自分はおかしくなり始めた気がすると語った。

 ロームズ辺境伯の名を聞くと腹が立ち、優秀な自分が準男爵なのは、国王のせいだと思うようになった。洗脳から解けると、何故そんなことを考えていたのか分からないと愕然としていた。

 その教師は今、ブルーノア教会の推薦で、家族と共にカルート国に移り住み、中級学校の教師をしている。


「悪いのは洗脳する者であり、洗脳された者ではない。しかし、洗脳を解くことが出来るのは、一部の者に過ぎないのが現状です。そして洗脳が解ける者は、自分のことを本当にブルーノア教徒だと思っている者だけです」


サイリスのハビテは少し残念そうに、でも前を向いて、この方法が、ギラ新教に対抗する一歩であることは間違いないと力強く言った。



「さあ、それではこれからやって来るホン領の2つの家族を、どう取り調べるか作戦を立てましょう。そして、当然その4人には【洗脳解除】が可能かどうかを試します。ただし、洗脳期間が長い者は、3日で頭痛に耐えられなくなると思うので、その時は【破壊部隊】の出番となります」


イツキはいつものようにニッコリと笑うと、洗脳が解ける者がいたら、自分に半日だけ取り調べさせてくださいねと付け加えた。



 ◇ ◇ ◇


 3日後の18日夕刻、ウダニス親子の洗脳が解けたと知らせを受けたイツキは、部活を休んでラミル正教会に来ていた。


「元々貴族ではないウダニス親子は、昨年10月くらいからボルグル元男爵との付き合いを始めたようです。息子同士が同じラミル上級学校を目指しているということで、ボルグルがラホエ商会に仕事を頼むようになったとか……洗脳のきっかけは覚えていないと言っています」


 4人の【洗脳解除】の様子をずっと監視していた【破壊部隊】副指揮官のフジヤが、洗脳が解ける瞬間に立ち会った時のことを説明をする。


 フジヤは、先日聞いていた話を参考にし、ウダニス親子にお前たちはボルグル元男爵に洗脳されて、ギラ新教徒になっていると告げた。

 このままだと反逆者として財産没収、息子は学校を退学させられ、2人は鉱山送りになる。それが嫌なら自分の力で洗脳を解くしかないと力説した。

 そして、午後の祈りを聞いたウダニス親子は、頭痛や息苦しさを耐え、【祈りの3番】を決死の覚悟で書きサインをした後は、祈りを唱えても頭痛や息苦しさを感じなくなっていた。


「良かった。ありがとうございますフジヤ副指揮官。ここからは僕の仕事です。彼らが再び洗脳されないよう、真の洗脳者を思い出して貰いましょう」


イツキは黒く微笑みながら、2人が監禁されている部屋へと、フジヤと一緒に向かうことにした。


 2人は洗脳が解けるまでは地下室に監禁されていたが、午後からは3階の鍵の掛かる部屋に移されていた。

 イツキとフジヤは部下に鍵を開けさせ、2人が居る部屋に入る。

 中に居たウダニス親子は、夜には償うべき刑を言い渡しに、【破壊部隊】の上官がやって来ると聞いていたので、神妙な面持ちで頭を下げていた。

 もしかしたら洗脳が解けたので、学校に戻れるのではないかと期待していたウダニスは、現れたのが3年の先輩でありロームズ辺境伯だと分かると、ガックリと項垂れ肩を落とした。


「こんばんはウダニス君。洗脳が解けたようで嬉しいよ。だが、罪は償って貰わねばならない。これから2人には、洗脳した人物を思い出して貰う。その上で、ラホエ商会には破壊部隊の工作員としての責務を負って貰う」


イツキは裁きの能力【銀色のオーラ】を纏いながら、瞳を闇色にかえていく。

  

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

次話は、イツキのほのぼの?学園生活のお話です。

来週はイベントが入るので、更新が遅れます。

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