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予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
領主と学生と教師

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校長会議と講習会(3)

 昼食を挟み午後からは、4時限目の武術の授業の間に、医学コースの教師たちに新しいカリキュラムについての講習会をする。そして5時限目は、イツキの行う講義を見学して貰うことになっている。

 講習会の会場は、医療コースの授業で使う3階の教室である。

 13校ある上級学校から、最低でも2名は出席しているので、参加者は30人である。


「皆さんこんにちは。医学大学の運営責任者キアフ・ルバ・イツキ・ロームズです。ラミル上級学校の3年生でもあります。本日は、医学大学受験に向けた対策のためにお集まりいただきました」


校長会議の時とは違い、口調も明るく畏まらない感じでイツキは話を始めた。

 そして、校長会議でも話したように、医療コースの改革が必要な理由を説明した。

 校長たちとは違い、教師たちもイツキと同じように考えていた者が多く、ウンウンと頷きながら静かに話を聞いている。


 改革に賛成する者が多い中、一人の教師が手を上げてイツキの話を遮った。


「すみませんロームズ辺境伯、1つどうしても確認したいことがあるのですが、質問してもよろしいでしょうか?」


「はい、キシ上級学校さん何でしょうか?」


「医学大学職員の助手を受験した学生が、試験問題を作ったのはロームズ辺境伯様だったと言っていたのですが、それは本当のことでしょうか?」


キシ上級学校の教師は、やや冷めた視線をイツキに向けながら質問した。


「それならば私も質問があります。医学大学の受験に論文問題がありましたが、その採点を全てロームズ辺境伯が行われたと聞いたのですが本当でしょうか?」


ラミル女学院の教師が、何故貴方が採点をするのでしょうか?的な感じで質問する。

 そのことを知らなかった教師たちも「えっ!論文の採点を?」と驚いた顔をして、ざわざわし始める。


「そうですよ。助手の採用試験問題も、論文問題も、入試問題も僕が作りました。ああ、大学の入試問題は、難し過ぎると教授たちに指摘され、5分の1ほど訂正しましたが……採点については、助手の採用試験問題と論文は全て僕が採点しました。特に論文は、出題した僕が採点するのが当然だと思います」


イツキはフゥと小さく溜め息をついた。やっぱり教師たちにも、自分の資格のことは伝わっていなかったのだと。

 仕方ないのでイツキは鞄の中から2枚の資格証を取り出し、右端に座っていた教師から順に回覧するよう指示する。

 教授選考の時も思ったが、医学系の教育者はプライドが高く、自分と同じレベルか、それ以上のレベルの者でないと聞く耳を持てないようだ。

 全員が確認するまで、イツキは医学大学の講義で出題したテーマを、ハキ神国語で書いていく。


(1)【金持ちの医者と貧乏な医者、どちらに診察して欲しい?】

(2)【よい医者とは?】

(3)【戦場と疫病の町、医者はどちらが大変か?】


 驚愕の表情で固まっている者、信じられない者、信じたくない者、何度も首を横に振り現実を受け入れられない者、異質な物を見るように目を見開く者……ごく一部だけ、納得したように頷く教師も居た。


 誰も口を開くことはない。いや、開くことができない。

 上級学校に於いて、教師の中では自分こそが1番頭がいいと思っているのが、医療コースの教師たちである。

 補助医資格か薬剤師資格を持っていることが絶対条件の教師たちは、当然イントラ高学院の医学部2年コース以上、又は薬学部を卒業した秀才ばかりである。


「黒板に書いたのは、先日僕が医学大学の医学・薬学概論という講義で、学生達に出したテーマです。3つのグループに分け、それぞれのテーマについて、一般的にこうだと思うという意見と、それを否定する意見を出させました。正解はありません。考えさせることが大切なのです」


イツキはイントラ連合国語で、ゆっくりと無表情なまま話し始める。

 イントラ高学院で教授になれる最低条件が、ブルーノア本教会病院発行の資格証を取得していることである。そのことを卒業生である教師たちは、当然よく知っていた。


「もしかして皆さんは、医学大学の運営を任されている僕が、医師資格も持っていない、ただの上級学校の学生だと思われていたのでしょうか?昨年1年生だった僕は、医療コースの認定試験を満点で取得しました。まぁ当然のことですが……医師としての僕が学んだ結果、あまりに無駄が多いことに気付きました」


今度はハキ神国語で少し怒ったように、イツキは改革が必要だと思ったきっかけを話す。そして、「次は何語で話しましょうか?ダルーン王国語でもついてこれますか?」と言って、にっこりと、それはそれは美しい顔で笑った。

 この笑顔には、イツキを否定的に思っていた教師たちが凍り付いた。


 確かにレガート式ボーガンとか、特産品とか、天才らしいとは聞いていたが、医療分野では自分達が(まさ)っていると思い込んでいた。

 なんだか重ーい空気が漂う。別に誰もイツキの悪口を言った訳でもなく、批判した訳でもない。ただ、質問しただけだが、ばつが悪くて顔が上げられない。


「さあ、それでは先程の続きに戻ります。ここに、僕が作成した訂正前の医学大学の試験問題があります。僕としてはこのレベルくらいの問題で、70%以上の正解を合格ラインにしたかったのですが、実際は問題の5分の1を基礎問題に変えました。これから各学校に2冊ずつ、この試験問題を差し上げます。どうぞ参考にしてください。ああ、今年同じ問題が出題される可能性は20%くらいですかね」


今度は少し崩した感じの怖くない笑顔で、イツキは試験問題を皆に見せた。


 教師たちは、喉から手が出るくらいに欲しかった試験問題を頂けるらしい……と分かると、急に我に返ったように稼働し始め、代表者は教壇まで試験問題を受け取りに行く。


「他国の上級学校には、昨年実際に使用した試験問題を配ります。ちなみに、昨年の問題はイントラ高学院の試験よりも難しかったようです。僕は結構負けず嫌いなので、イントラ高学院よりも入試が簡単だと言われるのは、我慢できません。昨年のロームズ医学大学の合格点は、基本問題を増やしたのにも関わらず、正解率62%以上となりました」


「「「62%以上……」」」


初めて知った合格ラインに、どうリアクションをしていいのか皆は迷う。


「さあ、そこで改革案が必要になるわけです。僕は完全実力主義です。僕が運営している間は、レガート国の学生だからと言って、甘くすることはないでしょう。今回最高得点で合格したのは、ラミル女学院の学生でした」


「ええーっ!女子が最高得点だったのか……」

「やったー!女子でも頑張れば首席合格できるんだ!」


女学院以外の教師はがっかりし、女学院の教師たちは喜んだ。特にラミル女学院の教師は立ち上がり万歳する。


「僕は実力重視なので、男女の区別も年齢も、身分も出身地も、全く気にしません。今年度、最高得点で合格するのは、何処の学校の学生になるのか楽しみです」


イツキは然り気無く、教師たちにライバル意識を持たせていく。

 教師だって、負けたくないという気持ちを持つことで、情熱を注ぎ授業を工夫したりするだろう。そして、学生の学力が上がり、レガート国の学生がたくさん合格できるだろう。

 皆の遣る気に火をつけたところで、イツキは具体的な改革方法を、作成した要項に沿って説明する。

 要項の内容を確認しながら、イツキはどんどん話を進めていく。


 教師たちは、まるで学生のようになり、真剣に質問し、聞き漏らさないよう要項にたくさんの書き込みをしながら、懸命にイツキのスピードについていこうとする。


 4時限目の終了を告げる鐘が鳴る頃には、イツキと教師たちの間には、学生の学力向上に対する連帯感が生まれていた。





 5時限目は、野外活動をしている軍コースの大教室に移動し、他校の教師たちは、ロームズ医学大学・イントラ高学院への進学を目指す、進学コースの講義を見学する。


「簡単な基本問題は出来ていて当たり前だ。勉強の仕方は個人で違って構わないが、2年間で学んできた学習内容を、復習しようと考えていると覚えられないぞ!自分で教科書を作るくらいの気持ちが大切だ」


イツキは勉強の仕方について質問してきた3年生に、勉強方法の一例を伝授していた。


「例えば、2年間で学んだことを、5月までに1冊のノートに纏めあげる。6月からはそのノートを暗記する。そして、9月から問題集を解いていく。医学部なら、問題集の85%以上正解しなければ合格できない」


「ええーっ!」


学生たちは85%と聞いて驚く。合格ラインの70%を目指せばいいと考えていた者は、そんなのムリだと悲愴感が漂う。


「自分で問題を作るのもいいだろう。友達と問題を出し会うのもいい。時間をどれだけ有効に使えるかが重要だ。医者や薬剤師としての実力が70%以下だと、5人に1人は助けられない。君たちは、患者を助けたいのか? それとも稼げればいいのか?」


イツキの授業は独特だった。常に自分はどうしたいのか?何をしたいのかを考えさせるのだ。


「どんな時も、目の前に患者が居ると思え。熱で苦しむ患者が居たとして、その患者が金持ちの場合ならこの薬、貧乏ならこの薬……そこまで想像していないと、実際に処方する時に役に立たない。難しく考える必要はない。目の前に16歳くらいのとても可愛い女の子が居ると想像してみる。その娘はあまりお金を持っていない様子だ……さあ、何を処方する?」


イツキがそう言うと、学生たちは一斉に答えを見付けようと教科書やノートを捲る。

 今日の講義のテーマは【熱】についてだった。


 3分後、ミニ黒板に全員が答えを書いてイツキに見せる。

 イツキは4人の学生から答えの説明を聴いた。患者を診察して処方を考えるのに、3分以上は掛けられない……というのがイツキの持論である。

 答えた学生のうち、まあまあ高価な薬草を答えた学生が居た。イツキはその薬草を選んだ理由を質問する。

 学生は答えていわく「安い薬草の場合、高熱には対応できないかもしれない。少しだけ熱を下げるより、一旦強い薬草で熱が下がるかどうかを試す方がいい」と。


 4人の答えは全員同じではなかったが、イツキはどの答えも間違ってはいないと答えた。何故なら、病気の種類によっては、安い薬草では結局熱が下がらず、再び高価な薬草を買うことになるケースも多いからだと言った。


「それでは、その可愛い女の子が、安い薬草では全く熱が下がらなかった……その時考えられる病気は何だろう?」


イツキは再び全員(見学していた教師を含む)に質問を繰り出した。

 今度は10分の時間制限で、答えを出させる。もちろんその間、イツキは患者役になり、質問を受け付ける。何時から熱が出たか?他の症状はないか?痛みはどんな感じの痛みか?他の家族にも同じ症状の者が居ないか等、様々な質問がイツキに飛ぶ。

 そして10分後、全員がミニ黒板に答えを書いてイツキに見せた。



 見学に来ていた教師たちは驚いた……というか驚愕した。

 授業の内容が、あまりにも実践的だったのだ。

 必ず時間内になにがしかの答えを書かねばならない。本を見ても構わないとは言え、これは大変な作業である。確かに自分で教科書を作っていれば、何処に何を書いたのか記憶している。それなら探しやすいだろう。


『なんて容赦ない授業なんだろう……』

『寝る暇なんか何処にもない……常に頭をフル回転させねば置いていかれる』


 医師資格も薬剤師資格も持っているとは言え、そこは上級学校の学生でありまだ15歳……教科書のお復習(おさらい)をしているくらいに考えていた教師たちは、ブルーノア本教会病院発行の資格証の恐ろしさを知った。

 自分達がイントラ高学院で学んだ授業より格段に厳しかったのだ。


 講義終了5分前、顔面蒼白になっている教師たちに向かってイツキは言った。教え方を真似する必要はないと。如何にして覚えて欲しいことを頭に刻ませるか……その為の工夫は先生方の個性を出せばいいのだと。


 そうは言われたが、イツキの授業があまりにも印象的過ぎて、イツキの教え方を真似る(参考にする)教師が大多数だったとか……

 そして教師全員が、またイツキの授業を見学させて欲しいと校長に懇願し、3ヶ月に1度は見学しても良いと決定した。 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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