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予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
領主と学生と教師

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校長会議と講習会(2)

 驚いている校長たちに、2枚の資格証を取り出し見せる。

 そして唐突に切り出した。


「今のままの学び方では、ロームズ医学大学の入学者の半数以上が他国の学生になってしまいます。僕としては完全実力主義を掲げているので構わないのですが、医学大学の半分の運営費はレガート国が出しています。にも拘わらず、合格者が半数にも満たないということでは、レガート国の教育水準が低いと誤解される可能性があります」


「なんですと、国立大学なのにレガート国の学生を優先して入学させないのですか?」


ラミル女学校の校長は、それはおかしいだろうと疑問を口にする。


「そうです。レガート国は半分の資金を出していますし、ロームズ辺境伯様もレガート国の領主ですよね」


マキ上級学校の校長も、レガート国の人間を優先すべきだという感じの意見を言う。


「その意見を、イントラ高学院でも言えますか?イントラ高学院は、全ての国に門戸を開いています。そして学生の割合で決して自国の学生を優遇などしていません。試験の結果が全てです。だからこそ優秀な医学生が育ち、各国に医者が居るのです。医術を志す者に国境はありません。キシ領に出来るレガート国立病院は、8割が他国の医者になるでしょう」


国立学校と医学という2つの観点を、どの方向から見るかで意見は違ってくるが、国内に専門性の高い高等教育学校を持っていなかったレガート国は、教育を世界基準で見ることに慣れていなかった。


「…………」


校長たちは出かかっていた意見を、渋い顔をして取り合えず引っ込める。


「大国であるレガート国が、自国のことだけを考えていては笑われます。だからこその教育改革なのです。今年度は正式な開校ではありませんから、自国の学生を入学させました。フッ……別に、試験に合格すればいいだけなのです。他国の奨学生以外が入学できないくらい、レベルを上げれば済む問題です」


イツキはフッと不敵に微笑みながら、何でもないことのように言う。

 だが、校長たちはその微笑みにゾッとした。

 その言葉が、普通の大学運営者や領主から発せられたのであれば、それは理想論だと反論することも出来る。しかし、13歳で医師資格と薬剤師資格を取得した桁外れの天才の口から出たとなれば、出来ない無理だとは反論し難い。


「それでは、イツキ君のいう改革をすれば、レガート国の学生の合格率は上がると言うことなのかな?」


「もちろんですボルダン校長。現在医療コースの授業の課程には無駄が多すぎます。それは1年間学んでみて実感したことです。教育内容の問題ではありません。効率の問題なのです。2年間で終えられる内容を、3年間で合格するのが普通だと思わせているから、学生はダラダラと勉強するのです」


そこからイツキは、切々と医学教育と学習方法について語っていく。

 君ごとき学生が……なんて思える校長は1人もいない。

 そもそもロームズ辺境伯はレガート式ボーガンを作り、国難である薬草不足を、アタックインとポルムゴールという特産品を発明して解決し、最近は新しいペンまで発明したらしいと言われている。よく見たら、ラミル上級学校のボルダン校長とラミル女学校の校長は、見慣れないペンを持っているではないか……!

 イツキの熱い意見を聞きながらも、何故か数人の校長の視線は、新型のペンに羨ましそうに向けられていた。


「僕は今、上級学校の卒業資格を与えられ、薬草学、経済コース、開発コースの授業を受け持っています。学び方を変えるだけで知識はグンと伸びてきます。医学も技術も進歩してこそなのです。これから皆さんに僕が作ったペンを差し上げますので使ってみてください。教育の中にも進歩と改革は必要です。誰もが、これくらいの物を簡単に発明できる世の中にしてみたいと、皆さんは思いませんか?」


 イツキが合図を出すと、後ろの席で控えていたオーブ教頭が、全員に箱入りのペンを渡していく。

 まだ入手できていなかった校長たちは、目を輝かせながら話題のペンを手に取り、じろじろと見回し、早速使用してみようと、テーブルの上に置いてあるインクをペンに注入していく。


 ペンに夢中になっている校長も居たが、そうではなく冷静にイツキの話を真剣に聞いていた校長も居た。そんな校長の1人が、ボルダン校長に向かって質問した。


「ラミル上級学校の学生は、最新の医学と最新の技術開発の知識を、ロームズ辺境伯様から教えて貰っているということですかな」


もの凄く不機嫌というか許せない……という表情をしたキシ上級学校の校長が、ボルダン校長に尋問する。


「それは不平等でしょう!うちだって最新の知識を学生達に教えたいですよ」


ホン上級学校の校長も、納得できないと言いながら文句を言い始める。


「い、いや、薬草学は後任の教師が来ないので、その間の……臨時教師として教えて貰っているが、最新の薬草学ではない」


ボルダン校長は青い顔して、懸命にそうではないと両手を振って説明(言い訳)する。


「ではボルダン校長、開発コースの授業は最新の知識なのですね!」


立ち上がって抗議するのはマサキ上級学校の校長である。

 こうなっては他の校長も、ゆっくりとペンを眺めている状況ではなくなる。


「皆さん落ち着いてください。僕が今、開発コースで教えていることは、確かに教科書には載っていないことばかりです。ですが、ポムを使った物を開発しているなんてことはありません。あれは、技術開発部が総力を上げて研究しているので、学生がどうこう出来る物ではありません。あと3年は学生では無理でしょう。……僕の授業はある意味最新かもしれませんが、……試しに僕の講義を受けてみますか?」


イツキはニヤリと笑うと、挑戦するように校長たちを誘う(挑発する)。


 30分後、用意されていた紙を使って、特別教室棟の廊下で、童心のような顔をして紙飛行機を飛ばしている校長たちがいた。

 そして楽しそうに図書室に戻ってきた校長たちに「僕の出した課題は2つです」と言って、イツキは教師の顔で黒板を指した。

 その内容を見た校長たちは「ウウッ」っと唸って、まるで宿題を出された学生のように嫌そうな顔をした。


「僕の授業は、開発コースの教師も一緒に受けています。他校の開発コースの教師も学びたければ、いつでもどうぞ。毎週金曜日が僕の担当です。もしも希望者があればの話ですが」


そう言ってイツキは笑ったが、校長たちは色めき立った。

 経験したことのない授業内容、出された課題にも驚いた。学ぶということは、こんなにも楽しいものなのだと、改めて感じた校長たちである。

 当然全員が、遣る気満々で希望したいと手を上げた。

 学ぶのは開発コースの先生ですよね?と、ついイツキは突っ込みたくなった。


 そんなこんなで予定外?の授業も終わり、休憩を挟んで夏大会の議題へと進んでいく。



「それでは続きまして、夏大会について、ロームズ辺境伯様から、薬草についての話があります」


教育大臣はそう言いながら、全員に資料を配っていく。


◇◇◇ 夏大会において上級学校の学生が出来ること ◇◇◇


 《 各領地で薬草分布を調査し、発見した薬草の株を持ち帰る 》


 見本の薬草資料を見ながら、より多くの薬草を発見し、発見場所の様子をスケッチする。

 印を付けた薬草を発見した場合は、周囲の土や植物と共に掘り持ち帰る。

 

【注意事項】 森や高い山に入る場合は、護衛に冒険者を同行させる

   

☆ 持ち帰った薬草は、農業開発部・キシ薬草園・カイ薬草園で栽培する

 希少種を発見した場合は、レガート国が買取りする。(買取り価格はドゴルの鑑定額の半額とする)

 薬草販売をした場合の利益の3分の1は学校の収入とし、備品の購入や教師の研修費とする。3分の1は学生の活動費とする。残りの3分の1は、奨学基金とする。


 収入は領主に報告し、監査は領主に一任する。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 図書室内に沈黙が流れる・・・


『また薬草……』

『今度は本当に採取するんだ……』

『夏大会が、段々バイトになっていく?』


校長たちはどうしたものかと思案するが、反対とも賛成とも言い出せない。

 昨年、領民に採取させた薬草を売った10%の利益は、学校で栽培する薬草の種や苗購入の為に与えられた。その後、学校で栽培した薬草はラミルの薬種問屋に売られ、その売値の6割は学校のものになり、残りの4割は新たな種や苗を国が買い付ける資金になった。

 学校によってばらつきはあったが、意外と収入になっていた。


「昨年の夏大会は、薬草採取にご協力いただきありがとうございました。発案者の僕も、なんとか暴動を防ぐことができて安堵しました。少しは学校のお役にも立てましたでしょうか?」


イツキは自分が発案者だったとあっさりとばらし、お金も入りましたよ……ねぇ?と含み笑いをする。


『なんだと!あれはロームズ辺境伯のアイデアだったのか?』

『そうだ、うちは職員寮のベッドを新しくし、食堂のテーブルも買い替えた』

『そうだったんだ。ありがとうロームズ辺境伯。競技用の馬を5頭買えたよ』


校長たちは、既に臨時収入を有効に使っていた。女学院の校長たちは、かやの外ではあったが、危険がないのならうちだって参加したい!と思ったりする。


「今年度は、女学院にも協力をお願いしたいと思っています。女学生には、新たなレガート国の特産品作りを手伝って頂きたい。その内容は【香水作り】になります。5月は花の1番多い季節です。専門の技術者を送りますので、他国にも負けない素晴らしい香りの物を期待しています」


イツキは女学院4人の校長に視線を向け、当然やりますよね?的に微笑んだ。

 今日1番の極上の微笑みに、4人の校長は戸惑う。

【香水作り】なんて、男の自分達では全く発想できない代物だった。

 イツキは一応、全ての上級学校の校長に【香水作り】の要項を配っていく。


 そして1本の美しい小さな瓶を、テーブルの上に置いた。


「この瓶は1本で銀貨3枚(3万円)しますが、この美しい小さな瓶に詰めた香水を、金貨1枚(10万円)で売りたいと考えています。既にレガート国は、アタックインという高級品の輸出を始めました。当然買うのは王族や貴族です。この販売ルートを使わないのは勿体ないでしょう?」


『勿体ない……?』


この制服を着た学生、いや領主の頭の中は、どうなっているのだろうかと考える。段々イツキの思考に、付いてこれない感じになっている校長たちである。 


『この領主は、いったい学生たちを何処に導くつもりなのか?』と思案する。


「花の栽培は、そんなに難しくはありません。事故や病気や戦争で夫を亡くした女性にも、きちんと収入になる仕事があればと、僕はずっと思っていました。製造は国策として農業技術開発部で、そして、女学院の卒業生が研究者となって働けたらと考えています」


今度はにこりともせず【香水作り】の目的と将来を語った。

 その表情は間違いなく、民や弱者を大切に思う領主様のものだった。


『ああそうか……目の前の学生服を着た領主様は、いつも国民のため、弱者のため、多くの者に雇用の機会を与える為に頑張っているんだ』


 校長たちは、イツキの、ロームズ辺境伯様の考え方の基本が何であるかを、改めて理解した。そして、何故だか泣きそうになった。  

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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