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予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
領主と学生と教師

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校長会議と講習会(1)

2月12日、イツキは久し振りにランカー商会のランカーとドゴル不死鳥に来ていた。


「大変遅くなりましたが、約束分の200を納入します」


ランカーは、申し訳なさそうに店長に頭を下げた。


「いえいえ、ミノス領のごたごたで納入が遅れると知らせを受けていたので、予約した冒険者には2月中旬になると言ってあります。ただ……次回分の予約申し込みが既に200ありますから、次の納入予定を教えていただきたい」


店長はそう言いながら、予約票の束をテーブルの上に置いてみせる。


「国内販売分の次回発売は、4月上旬くらいになります。来月は警備隊の納入があるので。それで、不死鳥のロームズ店の準備は出来ましたか?」


「はいロームズ辺境伯様。建物は先月末に完成し、そろそろ荷物も到着する頃だと思います。ロームズ店用のポム弾100を先に頂いたので、カルート国のドゴルから直ぐに予約が入るでしょう。ポム弾の販売を、ロームズ領民以外はカルート国のドゴルでしか買えないと決めたので、混乱はないと思います」


店長はお茶を飲みながら上機嫌で答える。

 隣に座っていた副店長が、イツキとランカーの前に、代金の入った袋を置く。


「それと、1つお願いがあります。9つの上級学校で大人数の冒険者を護衛に雇う予定があります。その人数確保を各ドゴルにお願いしてください。安全な場所は初級冒険者でも構いませんが、森や山に入る時は中級以上の冒険者を頼みたいと思います。参加特典はポム弾の無料配布です」


イツキはとんでもないことを、いつものようにサラリと切り出した。

 そこからイツキは、まだ確定ではありませんがという前置きをして、5月にやろうと考えていることを説明する。



◇ ◇ ◇


 次にランカー商会に寄ったイツキは、ペンの販売状況やラミルに住んでいる貴族の動向や噂を聞く。


「ペンの販売は、領主就任式の日にご予約頂いた方までは販売を終了いたしました。その後も数人の貴族の方から注文を頂きましたが、製造が間に合わないので12月25日で、全ての予約受付を終了しました。その後の問い合わせには、4月から1人限定2本まで販売すると説明しています」


 ランカーは、領主就任式以後に予約にやって来た貴族の予約票をテーブルの上に置き、その中から付箋の付いている数枚の予約票を抜いた。


「これが強盗に入られる前に、無理難題を言ってきた者の予約票です。50本以上の予約や、製造している場所を聞き出そうとする者、販売権利を買い取りたいと言い出した者、高額の手数料をちらつかせ取り引きさせろと強要した者……怪しいと思った者は10人いました」


特にしつこく取引を強要してきた商会や貴族の予約票5枚を並べ、ランカーはフーッと大きな溜め息をついた。


「まさかペンの工場が、ヤマノ領の元貴族の屋敷の離れだとは、誰も気付かないでしょう。それにその屋敷は新しい治安部隊である【破壊工作対抗部隊】、通称【破壊部隊】の訓練施設ですから、訓練も兼ねて警備は万全です」


イツキは愉しそうに笑いながら、しかもその屋敷の名義は領主であるヤマノ侯爵だから、普通の貴族では手を出せないだろうと付け加えた。

 そして、イツキは自分が掴んでいる強盗犯の情報を伝える。

 犯人は、高額の手数料をちらつかせたホン領のエデム商会であり、その後ろにはミリダ国のバラムド商会が付いているのだと。


「ミリダ国のバラムド商会……王族がバックに付いていると噂の商会ですね」


ランカーは声のトーンを落とし、イツキに問うように視線を向ける。敵の正体を知り、明らかに緊張した表情に変わった。


「僕の手の者が、ミリダ国に潜入している。もう暫く用心してくれ」

「分かりましたロームズ辺境伯様。引き続き護衛を雇うことにします」


いい噂を聞かないその商会の名に、ランカーは改めて警戒心を強くしながら頷いた。



◇ ◇ ◇


 ラミルの屋敷に戻ったイツキは、事務長のティーラと【お見合い大作戦パート2】の打ち合わせをした。

 今回のメインは、伯父であるエントン秘書官なのだが、見合いだと言うと断られそうなので、あれこれと作戦を練る必要があった。

 昼食後ティーラは打ち合わせを兼ねて、侍女長と会うために王宮へと出掛けた。


 現在イツキはかなり意識して秘書官や王様、ギニ司令官とは距離をとっていた。

 だから、余程のことがなければ王宮に行くことはないし、12月のギラ新教襲撃以来、イツキはこの3人とは目も合わせようとはせず、領主の仕事以外では接触も一切していなかった。


「イツキ様、何があったのかは詳しく存じませんが、エントン様がすっかりしょげていらっしゃいます。そろそろ許して差し上げることは出来ませんでしょうか?」


家の管理をしてくれているリンダ(ドッター婦人)が、イツキの好きなハーブティーを食後に出しながら、困ったような顔をして頼んできた。

 リンダは元々ビター家(エントンの家名)の管理人で、朝夕はエントンの家で家事をしているが、エントンが仕事で出掛けている昼間は、イツキの屋敷の仕事をしてくれている。夫のドッターは、イツキの屋敷に住んでいるので、両方の家を行ったり来たりしていた。


「ねえリンダ、今度秘書官にお見合いをさせようと思っているんだ。エルビス(エンター先輩)は独立したし、僕はいつ本教会に戻るか分からない。奥さんがいれば寂しくないし、子供だって恵まれるかもしれない」


イツキはリンダの話を然り気無くスルーし、話題を切り替えてリンダに告げる。


「えっ?エントン様にお見合いを?本当でございますかイツキ様」


リンダはパーッと明るい顔をして、嬉しそうにイツキに問う。


「うん。僕は生きているし、もう誰かを探したり待つ必要はないだろう?」

「……はい。それが本当に叶うのなら、リンダはもう思い残すことはありません」


 全く結婚する気のない主のエントンに、ずっと心を痛めてきたリンダである。

 リンダにとって孫のような存在のイツキは、何よりも大切な存在である。生きていてくれただけでも有り難いと思っている。でもイツキは、自分をエントンの妹であるカシアとバルファー王の息子だと、決して認めることはない様子なのだ。

 だから、本当に主エントン様が結婚してくだされば、それは夢のようなことだった。


「リンダは僕が、ブルーノア教会のリース(聖人)だと知っているんだろう?」

「……はい。サイリス(教導神父)のハビテ様からお聞きしました」


「あのねリンダ。実はエルビスには妹がいるんだ。その妹は、僕と一緒に本教会で育てられた。そして、僕と同じ使命を持つ聖女様なんだ。他にも、ギラ新教から世界を救う使命のリースが4人居る。その内、見付かっていないリース3人も探さなきゃいけない。僕は、……レガート国に長くは居られない運命だ。だから、エントンさんには結婚して幸せになって欲しいんだ」


イツキは優しく微笑みながら、涙もろいリンダが泣き出すのではないかと心配する。


「分かりましたイツキ様。リンダにお手伝いできることがあれば、何でも言ってください。イツキ様のお言葉はカシア様のお言葉です。きっとカシア様も、いつまでたっても結婚しないエントン様のことを、ご心配なさっていることでしょう。やります!いえ、やりましょうイツキ様」


泣き出すかと思ったリンダは、まるで戦士のように力強く、拳を握り締めて協力を約束してくれた。これで作戦が実行しやすくなった。いや、成功率が格段に上がった。

 イツキはムフフと笑いながら、自分は一切顔を出さず、自分が関わっているとは思わせない方法で、エントンに見合いをさせる方法をリンダに話していく。


「承知しました。私はこれからイツキ様の屋敷で、夫と一緒に仕事をしたいと願い出ます。そして、代わりにエントン様の身の回りのお世話をする侍女を雇うので、数人の試験をして欲しいと頼みます。候補者は5人で、1人4日間働いてもらい、エントン様に選んで頂きます」


リンダはイツキの提案に頷きながら、確認するよう作戦内容を復唱する。


「でも、そこから先は、選ばれた女性に頑張ってもらいます。決して侯爵婦人候補者だと気付かせず、侍女のように振る舞うことを、必ず約束させてください。そうでないとエントンさんは、気が休まらないでしょう。気付いたらその女性が側に居ることが当たり前になるまで、忍耐強い女性でないと結婚は難しいと思います」


イツキは全ての作戦行程をリンダに伝え終えると、あとはティーラさんと相談して進めてくださいと頼んだ。


「ああ、笑顔の可愛い少し気が強い女性(ひと)を、侍女長に頼んであります」


イツキの人選にリンダは嬉しそうに頷き「さすがイツキ様です」と感心するリンダであった。




◇◇ 校長会議 ◇◇


 2月13日、今日は全上級学校の校長を集めた校長会議である。

 女学院の校長まで集めて行われる校長会議は、教科書の大幅改編、就職試験問題の内容変更、学校規則の改定など、教育部から重要伝達事項がある時に行われてきた。

 会議場は、国立であるラミル上級学校で行われるのが通例だった。


「本日は、急な招集にも拘わらず、全員にお集まり頂きありがとうございます。本日の議題は、ロームズ医学大学開校に伴う、医療コースのカリキュラム変更のお願いと、昨年に引き続き、夏大会に於ける上級学校の国民への貢献についてです」


議長である教育大臣のホランドは、招集の目的を分かりやすく説明する。

 しかし校長たちは、『夏大会に於ける国民への貢献?』と、聞いていなかった議題に全員が首を捻る。


「医療コースのカリキュラムの変更については、ロームズ辺境伯様より説明していただきます。・・・夏大会の件についても、ロームズ辺境伯様から提案があります」


そう言うとホランド大臣は、会議の会場である図書室の廊下の窓を開け、執行部室で控えていたイツキを「おーい、イツキ君」と呼び出す。


『領主様に向かって、おーいイツキ君でいいのか?』と校長たちはまた首を捻る。

 ホン、キシ、マキ、ラミルの女学院の校長にとっては、初めて対面する領主様である。いろいろと噂は聞いてはいるが、実際に会うのを楽しみにしていたのだ。

 イツキが図書室の戸を開けると、全員が領主様に対し正式な礼をとり頭を下げる。


「おはようございます皆さん。ロームズ辺境伯キアフ・ルバ・イツキ・ロームズです。本日は、ロームズ医学大学の運営者であり大学教授として、お時間を取っていただきました。ご存知の方もいらっしゃると思いますが、僕は13歳でブルーノア本教会病院発行の、医師資格と薬剤師資格を取得しています」


イツキは礼を解くやいなや簡単な挨拶の後、自分の経歴について話し始めた。


「ええっ!医師資格と薬剤師資格?」

「大学教授?」

「ブルーノア本教会発行の資格だって!」


殆どのの校長から驚きの声が上がる。特にロームズ辺境伯と初めて対面した女学院の校長たちは、まだ少年のようにあどけなさが残るイツキの顔を見て、本当に成人したばかりの領主なのだと驚いていたのに、そこに大学教授とか医師資格とか言われて、驚かずにはいられなかった。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

五月晴れの爽やかな風が通り抜ける部屋で、まったりと食後のコーヒーを飲む。

なんて贅沢な時間の過ごし方だろう。

やった~午後から休みだ!さあ、続きを書こう。

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