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予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
領主と学生と教師

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イツキ、報告を聞く

 1月27日、明日は久し振りの外出可能な休日ということで、学生達はどこか落ち着きがない。

 3年A組で午前中普通に授業を受けていたイツキは、3時限目が始まる前に校長室に呼び出された。


「イツキ君、キシ中級学校の元教師の件と、ホン領の1年生2人の件を、新しい治安部隊に届けておいた。新しい治安部隊は【破壊工作対抗部隊】という名前らしい」


 ボルダン校長は、ギラ新教徒の疑いがある者の情報を、直ぐ王宮に報告していた。

 昨年の校長会議で、ギラ新教徒の疑いがある学生や教師を発見したら、直ぐギニ司令官に報告することが義務付けられていたのだ。


「ありがとうございます校長。それで医療コースの改革案は、教育大臣に渡していただけたでしょうか?」


イツキは戻って直ぐに医療コース改革案を作成し、校長に届けてもらっていた。


「ああ、驚いていたが、至急女学院を含めた校長会議と担当者勉強会を行うことになった。期日は2月13日に決まったが、イツキ君の都合はどうだろうか?」


「はい、今のところ問題ないですが、次の領主会議の日程が決まっていません」


 イツキとしては、特産品やポム弾の販売を急ぎたいので、早く領主会議をして欲しかったのだが、連絡がないことを少しイライラしていた。


「ところでイツキ君、提案とお願いがあるのだが……」


校長は申し訳なさそうに言い出し、少し躊躇いながら【上級学校卒業資格について】という規約の写しをテーブルの上に置いた。


 *** 卒業資格について ***


 上級学校に在学する学生の卒業資格は、半分以上の授業に出席し、卒業試験において基準点を取ることが必要である。

 ただし、戦争や内乱、国王や領主の命令での欠席、伝染病の流行などが原因で休んだ場合、校長と教育大臣がそれと認めた欠席については、出席扱いとできる。


 また、軍学校・軍・警備隊から入学を認められた入学者は、1年、又は2年の期間を選択し、その規定の出席日数を満たし基準点を取れば、卒業と認められる。


 * * * * *


「これは卒業資格に関する規約なのだが、教育大臣と協議した結果、イツキ君は入学当初、既に治安部隊に所属していた。なので、元々3年間勉強する必要はなかったのだが、私やギニ司令官のミスで、1年生からの入学にしてしまった。本来なら2年生か3年生から始めるべきだったのだ。そこで、イツキ君のこれまでのあらゆる成績を考慮し、既に卒業資格をクリアしていると結論が出された」


校長は深く頭を下げながら、この件に関する指摘は、数人の領主様から上がったのだと説明した。

 イツキ自身、1年生から始めるのが普通だと考えていた。しかし、軍に所属していたことは事実であり、そうであれば、2年生か3年生から始めるのが正しかったのだ。

 イツキはウ~ンと唸りながら、どうしたものかと考える。

 正直、昨年の卒業生と同じ卒業年度になるのには抵抗がある。


「分かりました。飛び級制度が出来たことを善しとし、卒業資格を得たことに同意します。ですが、卒業は今年度の日付でお願いします。フーッ……それで、僕を卒業扱いにして、なんのお願いがあるのでしょうか?」


イツキは何だか厄介ごとが待っているようで気が重い。


「いや、本当に申し訳ない。実は、これまで人気のなかった開発コースを選択する学生が増えて、武器担当のイルート君と、金属・木工加工担当のエドガワ君だけでは、講義が回らなくなった。と言うか……講義のレベルについて、2人の教師は自信を無くしている」


 校長の話によると、ポムを使ったアタックインやポルムという、これまでの常識を越えた発明をイツキがしてしまったので、ポムを使った物を発明できると思っていた学生達から、文句を言われ、真剣に講義を受けようとしないのだと説明された。


「でも、ポムを使えたとしても、製作の基本的知識を持っていないと、発明なんて出来ませんよ。それに、特産品は特例であり、ポムによる研究開発は、技術開発部が行うことになっています」


なんて面倒なことになっているんだ!と、イツキは心の中で大きな溜め息をついた。

 本来なら、5時限目は文官コースと経済コースの授業を受けている予定だったのだ。

 ボルダン校長も、そんなことは重々承知の上である。しかし、医療コースでイツキが教師をしていると知った開発コースの学生は、当然うちのクラスの授業もと期待してしまう。それはそれで無理からぬ話である。


「校長は僕の学ぶ権利を奪って、教壇に立たせたいと?……それならば授業料と寮費は無料にしてください。それに、僕に授業を任せるのなら、教材費がかかりますので覚悟してください……ああ、それと、何があろうと試験問題は作りませんよ。特に医療コースの問題を僕が作ったら、ラミル上級学校は完全に不正を疑われます」


「そ、それはもちろんだ。試験問題まで頼んだりしないよ。週に1度でいいから、開発コースの講義を頼みたい。教材費の件なら心配要らない」


校長は額の汗を本気で拭きながら、医療コースの授業がない金曜日に頼みたいと頭を下げた。金曜日……それは今日のことである。

 そして校長は、開発コースで使っている教科書をテーブルの上に置き、ダブらない内容で頼むと再び頭を下げた。


 何度も何度も頭を下げる校長の姿を見て、段々と気の毒……いや、弱いもの虐めをしているような錯覚が起こる。どう考えても学校の要望の方がおかしいのだが、少しだけ責任を感じない訳ではない。


「では、いっそのこと5時限目は全て講義を受け持ちますので、ひとつお願いをきいてください。火曜日の経済コースの授業で、僕の出すテーマでの授業の許可をください」


イツキはそう言うと、手の空いている経済コースの先生方を集めて欲しいと頼んだ。


 

 

「実践的な授業として【ロームズ領の農業ギルドの立ち上げについて】を、テーマにして勉強したいと思います」


イツキは3人の経済コースの教師に向かって、自分の考えているテーマを伝える。

 そして、医学大学と学生寮の食材を安定供給するために、領主自ら【農業ギルド】を立ち上げたいのだと説明した。


「では、授業が実際【農業ギルド】の運営を左右するということなのか?」


化学部の顧問であり、槍術の指導者でもあるカインが、驚いた表情で質問する。


「はい、そうです。しかし農作物は待ったなしの状況ですので、失敗しようと止まることはできませんが……」


イツキはカインに向かって、ロームズ領内では賄いきれないので、カルート国の農家も巻き込むことになりますと付け加えた。 

 実践的も実践的。同時進行で状況を把握し、対策をたて、最善の方法を考えていく……なんて楽しそうな授業なんだろうと教師達はワクワクする。

 しかし、責任も大きい。なにせ講義で提案した方法を実践して、失敗する可能性も大きいのだ。考えられるリスクを拾い出し、被害や損害は最小限にしなければならない。だが、それにも増して国内……いや、何処の国にも存在していない【農業ギルド】を立ち上げる手伝いが出来るのだ。


 経済や商業を教える者として、こんなチャンスに出会えるなんて……と、教師達は興奮する。


「新しく出来た農業開発部にも協力を頼みたいと思います。小さな領地であるロームズで【農業ギルド】が上手く稼働できれば、モデルケースとして国内外に拡大することも可能だと思いますが、どうでしょうか先生方?」


「確かにモデルケースとしては申し分ない。大きな領地で実験的に始めるには、あまりにもリスクが高いからな」


カイン37歳は、キラキラと瞳を輝かせ、新しい試みに心が躍ってしまう。


「そうですね。領主がイツキ君だからこそ、対応が迅速に出来ます」(教師A)


 すっかり話は盛り上がり、いつの間にか昼食時間を10分過ぎていた。


 イツキは急いで食堂に向かいながら、5時限目の開発コースの授業内容を考える。

 本日の4時限目は体術である。しかしイツキは5時限目の授業の準備をするために、楽しみだった体術を休むことにした。





 そして迎えた5時限目、工作棟に登場したイツキを見て、学生達は大喜びだった。


「皆さん、これから僕は毎週金曜日に課題を出します。課題はチームで挑戦することとし、全5チームの中で1番の成績を出したチームには、5点を差し上げます。そして僕に勝てた者にも5点差し上げます。1番早く100点を獲得したチーム又は個人に、ポムを使った発明品作成の許可を出します」


「オオーッ!チーム戦で100点……」


学生達は、講義を聞くのではなく、課題の物作りで競争するという授業方法に、直ぐに遣る気スイッチが入る。

 開発コースの学生は25人。5人一組で5チーム作り、学年で偏らない工夫するようイツキは指示を出した。


「さあ、今日の課題を出す。全員自分のノートの1ページを上手く切り取ってくれ。白紙のページでなくてもいい。そして縦横15センチにきっちり切ること」


イツキはそう言うと、自分用に切り取った紙で、飛行機を折り始める。

 ロームズ屋敷で人質の解放作戦をしていた時、イツキは屋敷から飛行機を飛ばしたことがあった。実はそのアイデアは、イツキがブルーノア本教会で生活していた3歳の時、紙で遊んでいる時に偶然発見したのだが、誰にも言わずにいた。


「見本を見せる。これは紙を折って作った飛行機というものだ。こうやって上に向けて投げて飛ばす」


イツキはそう言いながら、見本に作った物を飛ばして見せる。

 見本はわざと左右対称にはしておらず、3メートルも飛ばず右に大きく傾いて落ちた。

 それでも学生達は、紙が空中を飛ぶという概念が無かったので、驚いて大きく目を見開いた。


「制限時間は20分だ。20分後に1番遠くまで飛ばすことが出来たチームには5点、僕の作った飛行機と決勝戦を行い、僕の記録よりも飛行距離が長かったら5点を与える」


イツキは自分の折った紙飛行機を、見本として教壇の上に置き、挑発するようににっこりと笑った。


 20分後、各チームは5人の中で一番遠くに飛ばせた者を代表者とし、5チーム対抗戦に挑んだ。

 そして、1番になった3年リョウガの作った紙飛行機と、イツキの作った紙飛行機で、決勝戦が行われた。

 リョウガは植物部部長でイツキ親衛隊の副隊長だが、2年生で文官コースの認定試験に合格していたので、3年からは開発コースをとっていた。


 そして結果は、イツキの圧倒的勝利となった。


「ええーっ!何で、どうしてあんなに飛ぶんだ!」と全員が驚く。

 イツキの紙飛行機は、先を尖らせたシャープな外見に折り方を変えていた。


「では、問題だ。僕の作った紙飛行機だが、角度を変えると飛距離は変わる。そして、飛ばす時の力のかけ方でも飛距離は変わる。残りの時間で、僕と同じ折り方で紙飛行機を作り直し、角度と力の加減を記録し、最善の方法を導き出せ」


イツキの号令と共に、イツキの作った紙飛行機に全員が群がり(何故か教師のイルートとエドガワも参戦していた)、折り方を確認すると急いで作り直していく。

 何度も何度も飛ばす実験を繰り返している25人+2人に向かって、授業終了5分前、イツキはストップを掛けた。


「それでは、次回までに課題を2つ出す。1つは今日の実験から分かったことを纏めること。もう1つは、何故僕の作った紙飛行機が、皆より飛んだのかを考えてくること。当然これは遊びではない。解答は飛行機の図を用いて説明されていなければならない」


「ええーっ……課題……」


楽しく遊ん……実験していた学生は、まさかの課題に少し不満を漏らしそうになったが、尊敬するイツキから、楽しい授業をまた受けるためグッと我慢した。

 これからイツキの鬼度が益々上がっていくことを、まだ誰も知らなかった。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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