表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
怒濤の後期スタート

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/222

執行部、風紀部選挙(1)

 1098年8月1日、ラミル上級学校の後期がスタートした。

 後期の主な行事は、9月10日~30日まで秋大会。11月15・16日に秋期武術大会の2つである。他には、11月25日が入学試験、12月5日に合格発表、12月10~14日には卒業・進級試験がある。


 昨日学校に戻ってきたイツキは、北寮へと引っ越しをした。イツキの左隣の部屋はエンター部長、右隣はマキ領の侯爵家の長男で、警備隊コースを選択している3年生だった。

 北寮から出ていった4人の伯爵家の長男に代わり2人部屋になったのは、イツキに部屋を譲ってくれた3年ネロスとクレタ先輩、もう1部屋は2年生主席のリョウガと2位のパルだった。リョウガは準男爵家の長男で、植物部に所属するイツキ親衛隊員だった。


 北寮の部屋替えが発表されて学生が1番驚いたのは、パルが北寮に入ったことだった。北寮はどんなに成績が良くても貴族しか入寮出来ない決まりがあったのだ。

 平民であり奨学生のパルが何故?・・・と全員思ったが、よく見るとパルの名前が変わっていた。『平民が何故貴族に?』と皆は疑問に思った。

 平民が貴族に成るなんて、普通では有り得ない。父親が余程凄い手柄を立てたのだろうと皆は噂し合った。誰もパル自身がナイトになったなんて想像もしなかった。だが、パル君と呼んでいた担任の教師が、ギラス君と呼び始めたので、パルが当主なのだと皆の知るところとなった。


 イツキが北寮に入るのは元々当然のことだったので、大して大騒ぎされることもなかった。が、しかし、朝礼の出欠確認の時、担任のポート先生がキアフ・ヤエス・イツキと名前を呼んだので、1年A組は騒然となった。


「イツキ君は、4月にヤマノ領の伯爵に陞爵した。これからは忙しくなるので時々欠席することになるだろう。イツキ君の成績を抜くチャンスだ!みんな頑張れよ!」


ポートはにこにこしながら教え子達にはっぱを掛けた。


「それは無理です!!!」と全員が即答したのは……まあ仕方ないのかも知れない。


 イツキと親友ナスカが座っている席の前には、ヤマノ領のルビン坊っちゃんとホリーが座っていたが、当然驚きショックを受けた。同級生がヤマノ領唯一の伯爵家の当主になったのだ。

 自分達の家は不名誉にも降爵されたのに、何故キシ領の子爵であるイツキが?と納得がいかない。

 ショックのあまり青い顔になる2人に「これからはイツキ君に従えよ、お2人さん」とナスカがからかった。


 今日は始業式後に全員で学校内を大掃除して、ホームルームで後期の予定を聞いたり、武術変更希望や部活変更希望届を提出して、午後からは部活や自由時間となる。

 ホームルーム終了後、当然イツキはクラスメートに囲まれることになった。


「なんで、どうしてイツキ君がヤマノ領の伯爵になったの?」

「夏大会の途中から休んでたけど、体の調子はどうなの?」

「今度は領地持ちになったの?」

「ルビン、ホリー、お前達は知ってたのか?」


あちこちから色々な質問が飛び交う。ルビンとホリーは何も答えず下を向いている。


「僕がヤマノ領の伯爵になった経緯は話せないが、僕の領地はレガート大峡谷だから領民が居ない。だから統治する必要がないんだ。伯爵と言ってもヤマノ領に屋敷も持ってない。ほぼ名ばかりの伯爵だよ」


イツキは淡々と自分の境遇を話していく。伯爵に成ったからと威張る訳でもなく自慢する風でもない。

 皆は「へ~そうなんだ」と納得したような、しないような返事を返す。


「ルビン、ホリー、僕は名ばかりの伯爵だから、ヤマノ領のことは知らないことばかりだ。だから色々教えて欲しいんだ。今までヤマノ組と対立してきた僕だけど、ルビンとホリーはクラスメートで仲間だとずっと思ってきた。だからこれからも助け合う仲間でいてくれるよね」


イツキはそう言いながら立ち上がり、ルビンとホリーの前に移動して、ニッコリ笑って右手を差し出した。

 クラスメート達は興味津々で、3人の成り行きを見守っている。

 自分の目の前に差し出された右手を見て、ルビンとホリーは頭を上げ、やっとイツキの顔を……極上の笑顔を見る。


「仕方ないな、何も知らないんじゃあ教えてやるしかない。ホリー、お前が色々教えてやれよ。俺は……まあ……クラスメートとして、これからも仲良く……してやっても……いいかな」


いつものプライドの高いルビン坊っちゃんらしく、素直じゃないけど立ち上がり、右手を差し出しイツキと握手をした。続いてホリーも「何でも聞いてくれ」と言いながら、固く握手を交わした。

 教室内に歓声と拍手が起こり、クラスメート達は胸を撫で下ろしながら、イツキを祝福した。



 昼食時間には、イツキがヤマノ領の伯爵に成った話は全生徒の知るところとなった。

 全てを知っている親衛隊隊長のクレタが、主だった隊員を連れて声を掛けてきた。


「イツキ様、伯爵ご陞爵おめでとうございます。我ら親衛隊はこれからもイツキ様をお守りし、イツキ親衛隊の名に恥じぬよう精進して参ります」


クレタの深いお辞儀に合わせ、隊員達も「おめでとうございます!」と言いながら、嬉しそうに頭を深く下げた。

 久し振りにイツキを見た親衛隊や隠れ親衛隊のメンバーは、嬉しそうなイツキの笑顔に癒され、喜びを噛み締めた。勿論その光景を、忌々しそうに見ている元ヤマノ組のメンバーや、驚きと憎しみを込めた視線をイツキに向けるルシフも居た。





 昼食後、執行部と風紀部の役員は執行部室に集合した。


「明日から後期役員の立候補の受付が始まる。後期は選挙活動期間が短いので、演説は6日で投票は8日になる。後期はパルテノンが受験の為引退し、パルも引退する。そこで後任について話し合う」


執行部部長のエンターが、後期役員について意見を求める。


「ちょっと待ってくれ!パルは何故引退するんだ?」


何も聞いていなかったパルと同じクラスのミノル(執行部副部長)が、エンター部長とパルの方を見ながら質問する。新しく会計になったばかりの発明部のインダス2年と、引退する植物部部長のパルテノン3年も、初めて聞いた情報に首を傾げた。

 この3人は、イツキがロームズの領主になったことを未だ知らなかった。


「その件について夕食後、北寮の俺の部屋でイツキ組の会合をするから、その時に事情を話す。新しい候補者も一緒に話を聞いてもらう」


エンターはそう言うと、候補者の名前を挙げていく。

 結局風紀部の2年部隊長候補は、新しくイツキ組に入った第2イツキ親衛隊のエンドを、パルテノンの代わりに1年A組であり、ナスカとルームメートのイースターを推薦することになった。

 イースターの説得は、イツキとナスカが担当することになった。




 イースターはカワノ領出身の子爵家の長男で、目標はカワノ領を正しく導ける人間になることだった。成績は常に5位以内に入り正義感も強い。前期まではイツキとルームメートだったし、信頼できる友人だった。

 文官コースだが、子爵家の跡取りなので武術は剣術と体術を選択している。外見は整った顔立ちのやや細身、部活は植物部で部長のパルテノンを尊敬している。

 イツキ親衛隊に入りたかったがルームメートでは、あまりにも恥ずかしいので遠慮していた。しかし、寮が別になったので後期から親衛隊に入ろうかと考えていた。

 そんなイースターは部活の途中で、イツキとナスカに風紀部室に呼び出された。


「イースター、君は後期からイツキ親衛隊に入ると噂で聞いたが本当かな?」

「ええっ!なんで、ナスカ、何処で聞いたの?」

「それよりもイツキ君とお近付きになる方法があるぞ」


ナスカは意味あり気に微笑むと、イースターの目の前のテーブルの上に、執行部役員立候補申込書を置いた。


「えーっ!無理無理!俺なんか無理だって!」

「何が無理なんだイースター?」

「ああっ!パルテノン先輩!」


部活の部長であり尊敬するパルテノンが、突然風紀部室に入ってきて問う。


「俺は受験の為に後期は執行部役員から降りる。そんな俺の後任になるのが嫌だと言うのかなイースター君?」


「え~っ……そう言う訳ではありませんが、勉強と部活の両立で既にいっぱいいっぱいかなぁ~っと・・・」


パルテノンの厳しい視線にたじろぎながら、イースターは言い訳を試みる。


「ほほう……植物部の部員がそんな弱気でいいのか?それに、執行部役員になれば、君の知らないイツキ君を知ることが出来るぞ!イツキ君の秘密を知りたくないのか?親衛隊も大事だが、もっと側でイツキ君を守りながら協力してみたくはないのか?」


パルテノンはニヤニヤしながら、ナスカ同様意味あり気に微笑むと視線をイツキに向け、仕上げは頼んだぞと小さく頷いた。


「イースター、僕は本当に信頼出来る仲間を集めて活動している。メンバーにはパルテノン先輩もナスカも居る。皆は【イツキ組】と呼んでいるみたいだけど、是非イースターも仲間になって欲しいんだ。夕食までによく考えて返事をしてくれ。勿論これまで通り、食事はイースター、ナスカ、トロイの4人で食べるよ」


イツキはそう言うと、執行部役員立候補申込書の推薦者欄に自分の名前を記入して、ニッコリと微笑んでイースターに渡した。




 夕食時間、イースターは一大決心をして食堂に向かった。そこには、発明部の部員に囲まれ楽しそうに笑っているイツキが居た。

 自分の為に空けられていたトロイの隣に座ると、イースターは申込書を取り出しナスカに渡した。それに気付いたイツキはイースターに極上の笑顔を向けた。

 少し離れたテーブルから、いつもの「ギャー!」と叫ぶ親衛隊の先輩の声が聞こえたが、イツキは気にすることもなくイースターに右手を差し出し固く握手を交わした。

 そしてイツキは、トロイを含めた3人を北寮の自分の部屋に招待した。


 イツキの居ない間に運び込まれた家具は、インカ先輩が指示して設置されていた。ヤマノ侯爵から届けられた家具類は、どれも派手ではなく落ち着いたデザインだった。クローゼットにはキシ公爵から用意して貰った服や靴の他に、ヤマノ侯爵から贈られた服も入っていた。ベッドはセミダブルで、布団には青く美しい織物のベッドカバーが掛けてあった。


「なんだが落ち着いた部屋だな。ヨシノリ先輩の部屋はゴージャスな感じで、インカ先輩の部屋は凝った高級家具が凄い。エンター部長の部屋は実用的かつ豪華」


「ナスカ、俺は商人の家の息子だから分かるんだが、これは一見地味だがかなりの高級家具だ。どれも珍しい黒ラブデルの木を使っている。主に王宮で使われている筈だ」


ランカー商会の息子トロイは「凄いな~」と感心しながら家具を値踏みする。


「まあ座って」と言いながら、イツキは皆にお茶を淹れる。イツキの大好きなハーブティーである。北寮は1階に湯沸かし室があるので、お湯の準備が簡単に出来た。

 皆は5人が座れるソファーセットに座って、イツキの淹れたお茶を飲む。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ