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予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
領主と学生と教師

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イツキ、教師になる

 教室に入ってきた人物に、全員の視線が集中する。

 そこに現れたのは、華美ではない平服姿のイツキだった。


「「ええーっ!イツキ君?」」


2年生3年生は、全員が驚いて立ち上がったり叫んだりするが、イツキを知らない1年生は「だれ?」って言いながらポカンとイツキを見る。


「少し遅れたが、薬草学の授業を始める。号令をかけるのは誰だ?」

「は、はい、イツキ君、お、お、俺です。起立!礼!」


植物部3年のデロイは、突然現れたイツキに動揺し、喜びのあまりどもってしまう。


「デロイ君、教壇に立っている時は、イツキ先生でお願いします」


イツキはそう言うと、爽やかににっこりと微笑んだ。

 前年度イツキ親衛隊だったデロイは、『ぎゃー眩しい!』と心の中で叫びながら、イツキに名前を呼ばれて感動する。

 他の2・3年生も、久し振りに見るイツキに感動し、キラキラした視線を向け、イツキの授業が受けられる幸運に感謝する。

 1年生は、どう見ても同じ歳くらいの学生?のようなイツキを見て、目をパチパチさせながら不思議そうな視線を向ける。


「授業の前に言っておく。新任の教師が赴任してくるまで、僕が薬草学の授業を受け持つことになった」

「「「えええぇーっ!!」」」


1年を含む全員が、またまた驚きの声を上げた。そして、イツキファンの皆さんは、どうかこのまま新任の教師が来ませんようにと祈ったりする。


「僕の授業は厳しいぞ。毎回授業の終わりに小テストをする。次の授業から、小テストの得点順に席替えをする。そして、医学大学や医院の助手を目指す者は、必ず2年間で認定試験に合格してもらう。合格した進学希望者は、3年生から医学大学コースを選べるものとする。進学を望まない者は、2年間で医療コースを終了する。これはまだ確定ではないが、近い内にそうなるよう僕が国と交渉する。このカリキュラムによって、2年生から医療コースに変わっても、医学大学への進学の道が確実に開けることになる」


「おおーっ!」と2年生から声が上がる。イースターの他にも、2年から医療コースに変更した学生が数人居たのだ。


「3年生で認定試験に合格していなくても、別途テストを行い、僕が考える基準をクリアしていたら、進学希望者は医学大学コースの講義に切り替える。それに伴いクラス替えをする」


「オオォーッ」と、医学大学を目指す3年生が声を上げる。


「もちろん、1年で認定試験に合格したら、2年目から医学大学コースに進むことが出来る」

「…………」


残念ながら、1年で認定試験合格を目指す者は居ないようである。


「僕自身が受ける授業の関係もあるが、僕のテストに合格し、医学大学コースの授業を受ける者は、1年間限定で僕が担当することになる」


「オオォーッ」と再び3年生は声を上げ、2年生は悔しそうに唇を噛む。来年イツキはもう居ないのだ。

 でも、薬草学だけなら分かるけど、認定試験に合格しているとは言え、何故イツキ君が医学大学コースを教えることが出来るのだろう?と、イツキの天才振りを知っていても、2・3年生は首を傾げる。



「すみません。イツキ先生は学生なのですか?」


何も知らない1年生が、瞳に怒りを滲ませて、不機嫌な顔で質問してきた。


「ああそうだよ。僕は3年生なんだ」

「では、何故学生のあなたが、教師の真似をしているんですか?それに医学大学コースを教えるって……冗談で言ってるんですよね?僕は真面目に医者を目指しているのに……」


イツキが3年生だと分かり、これは茶番劇なのだと憤慨する。


「ああ、自己紹介をしていなかった。僕はキアフ・ルバ・イツキ・ロームズという。僕は13歳の時に医療に関する資格を取得した。そのことは校長や教頭も知っている。だから僕は、こうして教壇に立っている。次の授業に資格証を持ってこよう」


「ええぇーっ!何の資格?」と、イースター以外は大声で叫んでしまった。


 イツキはいたずらっ子のような表情で、楽しそうに笑って取り合えずごまかした。

 イツキとしては、領主や大臣や高位貴族達には、自分が医師資格を持っていると知られているはずなので、冬休みの間に学生達にも知られただろう思っていた。


 だが、世間というものは、そんなに簡単ではなかった。

 イツキの真の実力を知っている者達は「ロームズ辺境伯は、医師資格も薬剤師資格も持っている天才だ」と、堂々と公言しているのだが、そのことを信じられない者や、認めたくない者にとって、イツキは異質な領主であった。

 特にプライドの高い貴族には、秀で過ぎているイツキは妬まれ嫌われる。そして「あれは嘘だ」と陰口を叩かれたりする。

 よって、優秀な学生であり領主であるイツキのことを、話題にしたくない貴族が意外と多かったのだ。イツキと同世代の子息が居る貴族などは、特にその傾向が強かった。


「し、失礼しました。わ、私はキシ領のオルテスといいます。貴方がロームズ辺境伯様……そして医学大学の創立者……」


質問した1年オルテスは、大きな衝撃を受けたようで、謝りながら呆然とする。

 彼はキシ領の準男爵家の子息で、キシ領に出来るレガート国立病院に、何がなんでも医師として勤めたいと思って、必死に勉強し2番の成績で入学し北寮に入っていた。

 そして、キシ領の子爵でもあるロームズ辺境伯様のことを、とても憧れ尊敬していたのだった。


「別に構わないよ。僕は今ロームズから戻ったばかりで、制服に着替える時間もなく、ここに立っている。1年生は全員はじめましてだな」


イツキはそう言うと、先輩としてにっこり笑う。


 1年生達は入学してから先輩方に、数々のイツキ伝説を聞かされていた。

 そして、本人が不在であるにも拘わらず、執行部選挙において最高得票数を取って、副部長に就任していた。優秀な先輩方が親衛隊を作り、その親衛隊に入れない者は、第2親衛隊に入っているという。

 1年生で認定試験に2つも合格した学校一の天才であり、あのレガート式ボーガンを作り、薬草不足解消のため特産品まで作った。国に対する数々の功績と活躍により、異例の14歳で領主に任命され、昨年末に正式にロームズ辺境伯様になられた。


 どんな容姿なのかと先輩に問うと、ある者は美少年だと言い、ある者は可愛いと言い、またある者はカワカッコいいと言う。総評として容姿端麗で文武両道・・・

 本当にそんな人間が居るのだろうかと、1年生達は疑い始めていた。

 だが、今年の1年生には、昨年の卒業生や、現在3年生に在学している兄が居るという者が12人もいた。

 この12人は、家で耳にたこが出来るくらいイツキ伝説を聞かされていた。なので、ロームズ辺境伯様は、本当に凄い先輩なんだと力説していたらしい。


 そして今日、噂の先輩に実際に会ってみると、聞いていなかった医療関係の資格まで持っていることが判明した。

 何よりも笑顔が素晴らしい!あの笑顔……なんだか癒される……

 キラキラした視線が増し増しになった教室内である。


 が、残念ながら授業が始まると、そのキレッキレの話し方や説明の仕方、そしてガンガン進む内容に、ぼんやり、うっとりと、顔を眺める暇などなかった。

 終了10分前には、本当に小テストが行われた。その内容は鬼であった。

 次の授業から、学年関係なく成績順で座席が決定する。完全に下剋上の世界だった。


 5時限目が終了し、イツキは3人の学生から今日の授業内容の質問を受けていたので、教員室に戻るのが遅くなった。

 校長から、授業内容やテストに関係する資料も必要だろうからと、教員室に専用の机を用意しておくと言われていたのだ。

 途中イツキを見付けた学生から、揉みくちゃにされながらも教員室に辿り着くと、今度は教師達に囲まれた。



 イツキは30分ほど、医学大学や領主の仕事等の質問に答え、医療コースに携わっている、病気について教える内科助手の資格と医療コース教員の免許を持つロジャー先生(32歳)と、同じく内科助手の資格を持つイワコフ先生(48歳)と、これからの医療コースについて話し合いをした。

 ちなみに、内科助手の資格は、イントラ高学院で2年間学び試験に合格すれば貰え、もう1~2年間外科の勉強をして試験に合格すれば医師資格が取れる。


「えっ?今イツキ君は、医学大学で講義をしたと言ったかな?」


2人の先生に、ロームズ医学大学やイントラ高学院の試験に合格させるために、2年で学べる課程に変更した方がいいと説明しながら、イツキが医学大学での様子を話していると、ロジャー先生が不思議そうな顔をして聴いてきた。


「はい、僕は13歳の時に医師資格と薬剤師資格を取っています。イントラ高学院には行っていませんが、物心ついた時からブルーノア本教会病院で学んでいたので、2つの資格は本教会病院発行の資格になります。なので、教授として教壇に立っています」


「「…………」」


そう説明するイツキの笑顔は、爽やかな分、2人の教師には不気味に映った。

 確かに、教師になって初めて、凄いと思う優秀な学生に出会った。天才的だし教えてもいないことを答えられた。認定試験は満点だったし追記までしてあった。


『全て当然のことだったのか・・・』


2人の教師はは~っと深く息を吐き、凄いと驚いた感動を返せ!……と一瞬思ったが、驚くところはそこじゃなかったと冷静になり、再び大きな溜め息をついた。

 教頭がいっそのことイツキ君を教授にしたいとか、冗談のように言っていたが、あれは冗談じゃなかったんだ。

 恐るべし15歳の領主!やっぱり本物の天才だった!と2人は納得することにした。

 結局2人はハハハと無理に笑いながら、イツキの提案を受け入れることにした。


 これまで通りイツキは医療コース1年目の学生と2年目の学生を分けて薬草学を教え、3年目の学生の希望者全てを(試験無しで)医学大学コースに進ませることにした。

 新任の教師が決まるまで、イツキは週に3日授業を受け持つことになった。



 医療コースの打ち合わせを終え、イツキがやっと寮の部屋へ行こうと席を立つと、泣きそうな顔をした発明部顧問のイルート先生と、困った顔の校長と教頭に声を掛けられそうになった。

 嫌な予感しかしないイツキは、「あー疲れた」と言いながら首と肩を回し、「早く寮の荷物を片付けなきゃいけない」と言うや否や走り出し逃げた。


 イツキは北寮で制服に着替え、執行部室に向かおうとしていると、北寮と1年生の東寮の間に在る風呂の裏から、言い争うような声が聞こえてきた。


「お前ごとき貧乏な平民が、リバード王子に話し掛けるんじゃない!」

「俺は、ただのクラスメートとして話していただけだ!」

「なんて生意気な奴だ。同じホン領の人間として恥ずかしい。お前のその、さもしい根性が目障りなんだよ!」


180センチはある体格のいい1年生らしき学生が、160センチくらいの同じ1年生の胸倉を掴み、今にも殴りそうな勢いで罵声を浴びせていた。

 罵声を浴びせている男の連れらしきガッシリ体型の学生が、抵抗出来ない160センチくらいの学生の尻に、思い切り蹴りを入れニヤリと顔を歪めた。


「ラミル上級学校は、伝統と誇り高き完全実力主義の学校だ。貴族だろうと金持ちだろうと関係ない。王子だからと特別扱いもしない。僕は誰にも負けないくらい貧乏な学生だったが、王子だろうと公爵家の子息だろうと、普通に話し掛けている。今見た暴力行為は、風紀部の取締り対象になる」


イツキは再び蹴りを入れようとしていた男の後ろから、大きな声で注意した。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

次話の更新は、29日の予定です。

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