新しい生活(ラミル1)
1月12日夜、北寮3階にある3年ヨシノリの部屋にイツキ組が集まっていた。
「今日の議題は、執行部と風紀部選挙についてと、イツキ親衛隊について、そしてリバード王子の守り方についてだ」
今日も公爵家の子息らしい貴公子振りで、ヨシノリは議長を務めていく。
この1年間で随分と成長し、しっかりしてきたと自分でも実感しているヨシノリは、せめてイツキ君が不在の時くらいは、この中で唯一イツキ君の正体(リース様)を知っている自分が、皆を纏めるのだと決意していた。
ヨシノリは冬休みの間、父親であるマサキ公爵から、ロームズ辺境伯領主就任式の日の出来事を聞いていた。
ミノスの領主が洗脳され、イツキ君は王様や領主達の為に、大量の血を流しながら【禁忌の祈り】を捧げ倒れたと。
いつも命懸けで戦っているイツキ君のことを思えば、自分はまだまだ頑張りが足りないと思うが、出来ることをするしかない。
「実は俺、イツキ君から風紀部のメンバーを聞いているんだ」
「それは本当かヤン」
ヤンの言葉に、ミノルが直ぐに反応する。
「ああ、隊長が俺で副隊長がミノル。2年部隊長がホリーで、1年部隊長はソウタ指揮官の甥のデイルだ」
少し驚いた顔をしているイツキ組のメンバーの顔を見ながら、ヤンは続けて親衛隊の希望も聞いていると告げる。
「イツキ親衛隊の隊長は2年のナスカ。副隊長は植物部のリョウガ。3年部代表がパルで2年部代表がルビン。そして1年部代表がリバード王子だ。第2親衛隊はエンドが隊長で副隊長はなし」
「「「ええーっ!リバード王子?」」」
ヤンの発言に全員が驚きの声を上げる。
「イツキ君は、新入生の人間性が分からない1年間は、リバード王子の親衛隊を作らせない方がいいと……そして、名前はイツキ親衛隊だけど、実質的には、来年そのままリバード王子親衛隊に移行させるらしい。イツキ親衛隊に入ることで、リバード王子の安全度は上がる」
「いや、それって、来年俺はリバード王子の親衛隊長になるってことか?」
ナスカは驚くと言うより戸惑いながら、ヤンに確認する。
「確かに……他に適任者は居ない。執行部や風紀部より、親衛隊の方が堂々とリバード王子を守れるし、お前なら北寮は間違いないし、誰も文句を言わないだろう」
自分の親衛隊にリバード王子を入れ、1年部代表にすることで堂々とイツキ組に入れることが出来る……さすがイツキ君だとヨシノリは納得しながら頷く。
「でも、王子様が領主の親衛隊に入るって……大丈夫なのか?」
発明部のインダスが、首を捻りながら心配そうに訊ねる。
「心配ないさ。リバード王子はイツキ君が大好きだし、きっと喜んで引き受けるだろう」
ヨシノリはにやにやしながら、リバード王子と従兄弟のケン君が、どれ程イツキ君を慕っているのかを話して聞かせる。
「それで、執行部のこともイツキ君から指示があったのか?」
「いや、それは無かったよヨシノリ」
「それじゃあ……1年生にケン君を入れたらいいだけだな。前期は3年生が多いが仕方ない。部長が俺で副部長にイツキ君かな……副部長は留守がちでも問題ないから」
そう言いながらヨシノリは、残りのメンバーにもう一人の副部長を誰にするかを問う。
話し合いの結果、北寮であることと経験を積ませるために、2年のイースターを副部長にすることになった。
イースターは青い顔をして無理だと断ったが、全員がそれをスルーした。
結局執行部は、部長が3年ヨシノリ、副部長が3年イツキと2年イースター。他のメンバーが3年インダス、2年トロイ、そして1年がケンと決まった。
「では、新しくイツキ組に加えるのは6人だな。3年がイツキ親衛隊で植物部のリョウガ。2年がルビンとホリー、1年がリバード王子とケンとデイル。では早速、明日には6人を呼び出すぞ。それで、選挙の推薦者はどうする?」
「ヨシノリ、俺が同じキシ領のデイルの推薦者になるよ」(ミノル)
「じゃあ、俺は2年のホリーの推薦をする」(ナスカ)
「では僕は、ケン君の推薦をしよう。他の者は立候補ということでいいな?」
ヨシノリはポンポンと話を纏め、明日の夜は新しく加わる6人を含めて、また会合をすると言って締め括った。
1月13日昼食時間、イツキの親友であるナスカは、1年の時に前の席に居たヤマノ領のルビンとホリーの席まで行き、食後に話があると呼び出した。
「ルビン、ホリーとクラスが別れて寂しくないか?」
ナスカはルビンをからかうように、にやにやしながら言う。
「余計なお世話だナスカ!お前こそイツキと別れて寂しいんだろう。それで、いったい何の用だ?俺は忙しいんだ」
何故かこの2人、会話をすればこんな感じで憎まれ口をきく。
その様子を見ているホリーは、いつもの駆け引きにやれやれと溜め息を吐く。
「イツキ君からの伝言だ」
「「えっ?イツキ君から」」
「ああ。ホリー、お前は風紀部の2年部隊長になれ。推薦者は俺だ。ルビン、お前はイツキ親衛隊の2年部代表だ。イツキ君のご指名だから断るなよ」
相変わらずニヤニヤ笑いながら、でも嬉しそうにナスカは2人に伝言を告げる。
「イツキ君の指名?」(ホリー)
「どうして俺がイツキの親衛隊に入るんだよ!」(ルビン)
「なんだルビン、嫌なのか?それなら断れよ。希望者は山のように居るからな」
意地の悪い顔をして、ナスカはわざと突き放す。
「だ、誰も嫌だとは言ってない……イツキが……どうしてもと俺に頼むのなら、なってやっても構わないぞ」
ルビンは照れながらも、口調だけは横柄である。
「あっそう。無理に頼む気はないよ。ホリーはいいんだな。それじゃあホリーは今日からイツキ組だ。ようこそホリー。今夜ヨシノリ先輩の部屋で選挙の会合をする」
どう答えていいのか分からず、何も返事をしなかったホリーは、ナスカにより勝手にイツキ組に入ることが確定してしまった。
「イツキ組……俺が?……ヤマノ領だけど大丈夫かなぁ?」
「何言ってんのホリー?イツキ君はヤマノ領の伯爵だろうが」
「う、うん……そうだな」
「イツキ君が言ってたぞ。ホリーは将来ヤマノ領の次期当主を支える人間になると」
「えっ?イツキ君が?・・・分かった。しっかり剣の腕を研き代表選手になるよ。そしてイツキ君の期待に応えられるよう風紀部で頑張るよ」
ホリーは凄く嬉しそうな顔をして、素直にイツキの指示に従うことを了承した。
「えっ?……いやナスカ……お、俺は?」
置いていかれた感じのルビンは、この世の終わりでも迎えたような顔をして、目に涙を溜めナスカに質問する。
「あのなあルビン。イツキ親衛隊の隊長は俺だ。そして1年部代表はリバード王子だ。その意味が分かるか?イツキ君は、俺とお前にリバード王子を守れと言っているんだ。甘っちょろいことを考えているんなら引き受けるな!俺達イツキ組は、命を懸けてギラ新教と戦っているんだ!」
ナスカは厳しい顔ではっきりとルビンに言う。いつまでもお坊っちゃん風を吹かしながら、イツキ君を下に見るような言い方しか出来ないルビンに、大人になれ!現実を見ろ!とナスカは願いながらルビンに迫る。
「分かった。俺は、今から生まれ変わるよ。イツキ君のために、そしてリバード王子のために、必ず全力を尽くす。だから、だから俺をイツキ組に入れて欲しい」
ルビンは涙を溢しながら、本当は嬉しくて堪らなかったと告白しナスカに頭を下げた。
冬休みに家に帰った時、父親はポム弾製造の責任者になっていた。その仕事はロームズ辺境伯からきた仕事で、ロームズ辺境伯のお陰で、領主エルト様の信用を再び得ることが出来たのだと聞かされた。
父親からイツキ伯爵家の派閥に入ると言われた時、飛び上がって喜んだくらいなのに、素直に頭を下げられない自分を反省し、ホリーと共に尊敬するイツキ君の期待に応えるとナスカに誓った。
同じ頃、イツキ第2親衛隊の隊長になったエンドが、北寮でパルの同室になっている植物部のリョウガに声を掛けていた。
「リョウガ、お前さあ、3年になっても当然イツキ親衛隊に入るよな?」
「なんだエンド、お前も入りたいのか?でも、隊長がまだ決まってないし、イツキ君が承認してくれるかどうかも分からないからなぁ……」
「隊長は決まっている。イツキ君が2年のナスカを指名した。そしてリョウガ、イツキ君はお前を副隊長に指名した。指名を受けるなら、お前は今日からイツキ組に入ってもらう。詳しい話は今夜ヨシノリの部屋で話す」
「なんだって!イツキ組……いや、俺が副隊長だと!それもイツキ君の指名?」
リョウガは顔を真っ赤にし、大きく目を見開き固まった。
『勉強を頑張って北寮に入れただけでも幸運だったのに、まさかのイツキ組?……いや待て、そんな凄い幸運が、この俺に訪れる訳がない。こいつもイツキ君の信者だけど、俺は崇拝者だ……レベルが違う!このニヤケ顔はなんだぁ?まさかの……いや、これは悪戯じゃないのか?』
リョウガはあれこれ考えながら、最高の妄想から最低の想定をしてエンドを睨んだ。
「おいエンド、俺をかついでないよな?まさかの冗談とか言ったら、お前とは絶交だ」
「俺はイツキ君の指名で、第2親衛隊を任された。そっちの方が気が楽だし良かったよ。詳しいことはヨシノリに聞いてくれ。イツキ組へようこそ」
エンドは嬉しそうに笑って、新しい仲間に右手を差し出した。
同じ頃、食事を終えたミノルは、ソウタ指揮官の甥であるデイルに声を掛けていた。
「デイル君、少し話があるんだがいいかな?」
ミノルは爽やかな笑顔と、3年生らしく落ち着いた感じで質問した。
「すみません。名前と身分を名乗って貰えます?」
「……あ、ああ、俺はミノル・イミグ・ボラス。同じキシの出身で男爵家の次男だ」
ミノルは少しカチンときたが、笑顔を崩さないよう心掛けて答えた。
「フ~ン、それで、同郷の先輩だから言うことを聞けとでも?」
デイルは不機嫌そうに、とても最上級生である3年に向かってとる態度とは思えない、まるで見下した感じでミノルを睨んだ。
これは……一筋縄ではいきそうもないなと思ったミノルは、自分が話すよりヨシノリの方が良さそうだと考え、本当の用件を言うのを止めた。
「まさか。ここはラミル上級学校だ。身分や家柄なんて大した役にも立たない、実力こそがものをいう場所だ。君は……ソウタ指揮官には似ていないんだね」
ミノルはそう言うとニヤリと笑って、学食のトレイを返却口に持っていくため、クルリと向きを変えその場を立ち去った。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
しばらく更新は、3日おきになりそうです。




