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予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
領主と学生と教師

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新しい生活(ロームズ)

◇◇ ラノス王子 ◇◇


 つい先日まで戦争をしていた国の要人達とのパーティーだと思うと気が沈む。

 私は従兄弟であり従者のクロダとそう話しながら、午後6時から行われるパーティー会場であるリビングへと、重い足取りで向かった。


 早目にリビングへと向かっていると、先に会議室に来て欲しいと家令のオールズさんに頼まれ、2人で会議室に案内された。

 そこには、自分達と同年代だと思われる2人の若者が、楽しそうにロームズ辺境伯様と話をされていた。


「やあいらっしゃい。こちらは僕の友人でカルート国皇太子シルバ様と従者のシーペンスさんです。シルバ様、こちらのお2人も僕の友人で、ハキ神国第2王子ラノス様。そして従者であり従兄弟のクロダさんです」


なんと、ロームズ辺境伯様が紹介されたのは、カルート国の皇太子だった。


「はじめましてラノス王子、クロダさん。シルバと言います。年齢は18歳です。私は2年前に、ギラ新教徒の大臣に殺されそうになった時、イツキ様に命を救われ、つい先日も、ギラ新教徒に乗っ取られた商業ギルドを取り返していただきました」


目の前のシルバ皇太子からは、驚いたことに全く悪意が感じられず、しかも、大臣に殺されかけたとか、商業ギルドが乗っ取られたとか、信じられないような国家機密を話しながら自己紹介してきた。


「はじめましてシルバ皇太子、ラノスと言います。年齢は同じ18歳です。えぇー……オリが迷惑をお掛けして申し訳ありません」


私は2度に渡る戦争を先に詫びる。


「あぁ……ギラ新教徒であるオリ王子ですね。ラノス王子が悪いわけではありませんが、誰もあの男の暴挙を止められなかったのは残念です。でもまあ、うちの国も、ギラ新教の大師やオリ王子に通じていた、伯父であり大公であった男の暴挙を、誰も止められなかったので、おあいこですね。もちろん、伯父はギラ新教徒でした」


シルバ皇太子は笑いながら、自国の大公であり伯父のことを自虐的に話した。

 そして憎々しそうに、ギラ新教に操られた王族や大臣のせいで、多くの民を失い国庫を空にしたのだと断言した。


 同じ王子なのに、いや、皇太子だからだろうか、客観的に戦争やその背景を判断し、憎むべき元凶である敵の存在を明確にしている。

 同じ年齢なのに……自分より遥かにしっかりしている。

 つい先日、伯父である大公を捕らえたことまで教えてくれた。


「シルバ皇太子は国を立て直しながら、懸命に敵であるギラ新教と洗脳された者と戦っています。最早、国と国が争っている場合ではないのですラノス王子。ですから、シルバ皇太子は、ハキ神国のオリ王子は憎いが、敵はギラ新教なのだと認識されています」


ロームズ辺境伯様が、穏やかに微笑まれながら説明された。


「私は何度も兄やその母親から殺され掛けました。ロームズに立つ前夜にも、王宮の寝室に刺客を放たれ、逃げるようにロームズに来ました。恥ずかしいです。私は未だに……性悪な側室や兄と戦っているつもりでいました。ロームズ辺境伯様に命を救われたのは、これで2度目になりますが、いつも逃げるだけで精一杯でした・・・戦う相手であるギラ新教に対し無知であることは、王子として……あまりにも責任不足でした」


私は恥ずかしくて情けなくて、思わず下を向き泣きたい気持ちになった。


「ラノス王子、2年前の私もそうでした。国王である父は、伯父や大臣達に逆らえず、王権を弱体化させました。私は大臣に殺されそうになり、イツキ様に助けられた時、初めて敵の正体を教えられたのです。その後はブルーノア教会の助けで、ようやく戦う準備を整えたところです。私たちの敵は同じです。これからは、手を取り合ってギラ新教と戦いましょう」


シルバ皇太子はそう言いながら、笑顔で私に握手を求めてきた。


 あぁ、この王子もずっと苦労してきたんだ。そして戦ってきたんだ。

 だからこそ、同じ敵と戦う先輩として、こうして手を取り合おうと言ってくれるのだ。


「ありがとうございますシルバ皇太子。そしてロームズ辺境伯様。これからはもっと敵を知り、力をつけ、必ず王宮からギラ新教徒を追い出して見せます。どうぞ私を仲間にしてください」


「私からもお願いいたしますシルバ皇太子、イツキ様。力なく逃げてきた情けない私達ですが、これからは、同志と認められるよう懸命に努力致します。そしてラノス王子を助け頑張りますので、同志の末席にお加えください」


私がシルバ皇太子の手を取り握手すると、従者のクロダは正式な礼をとり、震える手をシルバ皇太子に向かって差し出した。




 午後6時になった。

 私はシルバ皇太子という戦友を得て、昨日までの自分とは違う自分で、特別医学部に入学する学生の顔をして挨拶をしていく。

 私はこれからロームズ辺境伯領で、ギラ新教を知り戦う力をつける。そのためにも今夜のパーティーは、笑顔で外交し自分を売り込まなくてはならない。

 

「ロームズ辺境伯様は、2人の王子様とはお知り合いだったのですか?」


驚いたような顔をして質問してきたのは、レガート国の教育大臣である。


「はい、お2人とも2年前からの友人です。出会った場所は別々ですが、これからは同じ大学で学ぶ学友ですね」


イツキ様は、嬉しそうに笑顔で私達を紹介してくださった。

 誰だお前ら?という視線を向けていた要人達が、ホストであるロームズ辺境伯様の極上の笑顔を見て、みな笑顔で挨拶を返してくれた。


「ロームズ辺境伯は顔が広いですね。ハキ神国の王子とも知り合いなのですか?しかし、ロームズはハキ神国の王子に戦争を仕掛けられたはずですが……」


イントラ高学院の事務長が、不思議そうな顔をして質問してきた。

 やはり・・・普通は誰だってそう思うだろう。私は少し不安になりながら、イツキ様の返答を聞く。


「いいえ、これまでの戦争は、全てギラ新教の指示で、ギラ新教に洗脳されたオリ王子によって引き起こされたものです。オリ王子は、憐れな操り人形に過ぎません」


イツキ様の返答は鮮烈だった。返答を聞いた事務長は目をパチパチさせ言葉が出ない。

 パーティー会場に居た全員が聞き耳をたてており、他国の王子をそこまでバッサリと言える領主に、あるものは畏怖の念を抱き、ある者は同意し大きく頷く。

 目の前にいる領主の正体を知らない人間は、きっとこの15歳の青年に戦慄するだろう。それだけ桁外れのことを言っているのだから。


「2年後に私がハキ神国に戻ったら、必ず兄を、いえ、洗脳され国を破滅に追い込む洗脳者を追い出します」


気付いたら私は、兄であるオリに、宣戦布告をしていた。



 私の言葉(決意)を聞かれたイツキ様は、にっこりと微笑まれ、シルバ皇太子はウインクをした。意外とお茶目な皇太子に、なんだか楽しい気持ちになった。

 ロームズ辺境伯様から、これからはイツキ君と呼ぶように指示……というかお願いされたので、大学内以外ではイツキ君と呼び、大学ではイツキ教授と呼ぶことにした。


 私とクロダは、イツキ君との出会いを神様に感謝し、今日の日を、一生忘れないと神様に誓った。





◇◇ パルテノン ◇◇


 入学式の朝、同じロームズ辺境伯枠で入学したダンとヤストと朝食を食べていると、イツキ君が3人の青年を連れてきた。

 その3人の服装は、平民よりも上質で華美ではなかったが、物腰や雰囲気が公爵家の子息であるヨシノリと同じだったので、直ぐにハキ神国の王子達だとピンときた。


「新しい仲間を紹介する。特別医学部に入学する2人と、来年から聴講生になるシルバだ。特別医学部の2人は、卒業するまでこの屋敷で一緒に生活する予定なので、協力し合って生活してくれ」


「ハキ神国から来たラノスと言います。18歳です」

「同じくクロダ19歳です。よろしくお願いします」

「カルート国のシルバ18歳です。時々ロームズ領にお邪魔しますのでよろしく」

「こちらこそよろしく。俺は薬学部のダン18歳。生粋の平民だ」

「よろしく。同じく薬学部でヤスト19歳。親は騎士爵だが貧乏だ」

「パルテノン17歳、薬学部です。男爵家の長男です。よろしくお願いします。シルバ皇太子、ラノス王子、クロダさん」


「「……えっ?王子?」」


ダンとヤストは、思わずフォークを持ったまま立ち上がり、信じられないという顔で茫然とする。そして、どうしたらいいんだー!という引きつった顔でイツキ君に視線を向ける。


「そうそう、ラノスはハキ神国の第2王子、クロダは王子の従者で父親はハキ神国軍の総司令だ。シルバはカルート国の皇太子で、3人とも僕の大切な友人であり同志だ。ヤスト、ダン、パルテノン……そういうことでよろしく。同じ下宿人として仲良くね」


よろしくねって……そんな極上の笑顔で言われても、普通は無理だって!楽しく話しながら食事するなんて、常識じゃ出来ないんだよ!相手は王子様に皇太子様だよ?ねぇイツキ君……俺、ちょっと泣いてもいいかな?

 3人とも、やんごとない感が半端ないよ!あぁ……胃が痛い……




◇◇ クレタ ◇◇


 明日は入学式で、お茶目な事務官のユリーサさんが、ウインクをしながら単位の取り方や受講の注意事項を教えてくれた。

 なかなか面白い女性で、僕がイツキ親衛隊の隊長だったとイツキ君から聞いたらしく、「よろしく同志」と言って握手を求めてきた。

 これはイツキ君との結婚を狙う類いの女性かと思ったら、遠くから眺めて応援するのが生き甲斐なのだと力説された。確かに同志だ。

 なんでも、【領主様を愛でる会】なるものを立ち上げるとか・・・既に希望者は10人以上居るらしい。男も4人居るということで、きっと元イツキ親衛隊とか第2親衛隊だった奴等だろう。

 残念ながら、自分にはイツキ君をゆっくり愛でる時間がない。


 イツキ君から頼まれたハキ神国の2人と友人になり、出来るだけ行動を共にしながら……医療開発課の仕事もしなくてはならない。

 早速3日前に、ソウタ指揮官用の車椅子?なる物の設計図を渡された。

 医学大学の研究棟の一室を借りることになったので、職場は目の前で便利だが、夕食を食べる時間もない。



 今日からいよいよ講義が始まった。

 初日からイツキ君のカリスマ性が炸裂し、学生達はイツキ君の資格に度肝を抜かれ、じゃんけんに戸惑い、風変わりな講義に惹き付けられた。

 昼食時間の学食内は、イツキ君の講義の話題で盛り上がっている。


 僕はラノス王子とクロダさんと一緒に定食を食べながら、ラミル上級学校でのイツキ君の様子を話した。

 大国の王子との食事に緊張するかと思ったが、普通に話しながら食べ残すこともなく完食した。あまりの美味しさに2人も驚いていた。

 僕たち3人……いや、ハキ神国の王族2人を、皆は遠巻きに見ながら距離を置いている。それが普通の常識人だろう。僕だってイツキ君に頼まれていなければ、一緒に食事など出来ないだろう。


 他国の王子に取り入っていると思われるのは嫌だが、護衛も兼ねているので、近付いてくる奴等のチェックもしなくてはならない。

 どんどん常識から外れていく自分の感覚に、もう笑うしかない。

 学内に【領主様を愛でる会】が発足したとラノス王子に教えたら、何処で入会手続きをしたらいいのかと本気で尋ねられた。しかもキラキラした瞳で……

 イツキ君……君はどんだけファンを増やすんだろうか?


 僕は講義終了後、ラノス王子とクロダさんを連れてユリーサさんの元へと向かった。

 この際だから僕も登録することにしたら、ユリーサさんから「副会長の座を用意しておいたわ」とウインクしながら耳元で囁かれた。

 どうやらこの女性(ひと)とは、長い付き合いになりそうだと、そんな予感がした。 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

出張で歩き疲れ、筋肉痛で更新が遅れました。東京駅構内の、人の移動速度についてゆけず四苦八苦……

都会には住めないと実感しました。

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