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予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
領主と学生と教師

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132/222

前期スタート(ロームズ)

◇◇ ロームズ医学大学 ◇◇ 


 入学式後の午前11時、学生達はエントランスホールの掲示板を確認する。

 そこには、明日からの講義内容と時間割りが記入されていた。


「なあ、この必須科目の医学概論・薬学概論って、教授の名前が領主様になってないか?領主様って……上級学校の学生だったと思うけど……」


医学部の学生が教授名を見て、首を捻りながら疑問の声を上げる。


「なあデニス、君はラミル上級学校卒業生だったよな?どういうことか判るか?」

「いや、……イツキ君……じゃなかった領主様は確かに天才だけど、何も聞いてない。なあパルテノン、イツキ組のお前なら、何か知っているんじゃないか?」


デニスは近くに居たパルテノンを見付けると、全員の視線を集めながら質問する。


「確かに領主様は人並み外れた頭脳の持ち主だが、それは、もの心ついた頃から勉強を開始されたからだ。講義を受ければ判るよ。なぜ領主様が教授として教壇に立てるのかがね」


パルテノンは思わせ振りな回答をし、にやにやと笑ってそれ以上のことは言わない。


 ラミル上級学校の卒業生で、第1期生として入学出来たのは、医学部が奨学生のデニス18歳と化学部だったヨーテス18歳の2人で、薬学部がパルテノン17歳と植物部でイツキ親衛隊に入っていたエイブリン17歳、そして、特別医学部のクレタ17歳の、合計5人だった。



「ところで、講義って何語で行われるのでしょうか?」


皆に向かって不安そうに質問するのは、看護学部の学生だった。


「それは、ハキル学長、基礎医学のマーベリック教授、薬学部のムッター教授、イツキ教授がレガート国語と決まっています。他の教授も皆様レガート国語を話せますが、内科医のデローム教授はイントラ連合国語ですね。医師を志す者は、最低でも4か国語くらい話せなくてはダメです。薬学部の学生も看護学部の学生も、卒業するまでに4か国語の修得を目指しなさい。来年には、大陸中から学生がやって来るのですから」


そう言いながら薬学部助教授のシルビア31歳は、受講表の4時限目を指差す。週に3日、外国語を教える講義があるのだ。それは希望者だけが受講すればいいのだが、医師の卒業資格には4か国語が必要になる。これは、イントラ高学院の医学部と同じ条件だった。



 そして学生達は、少し離れた場所にある掲示板へと移動する。

 その掲示板には、アルバイトの募集が貼り出されていた。


● 学生寮の夕食作り 【急募】

*主な仕事内容 野菜の下拵え、食器洗い  

*時間 午後4時~午後8時  *募集人員 3~5人 

*時給 30エバー(300円くらい)から 時間と曜日は相談に応じる


● ロームズ農業ギルド立ち上げの手伝い 【急募】

*仕事内容 近隣農家の生産量の確認 生産種類の確認など

*時間 主に休校日で半日から終日  *募集人員 5~10人

*時給 35エバー


● 家具の組み立てと加工

*仕事内容 新しい学生寮、中級学校に家具を組み立て設置する

*時間 講義終了後から午後5時まで 休校日など *募集人員 10人くらい

*時給 35エバー~40エバー


● 大学内の掃除(研究棟を含む) 【急募】

*仕事内容 掃除・ごみ捨て

*時間 毎日講義終了後の2時間程度  

*募集人員 4人(他のバイトとの掛け持ち厳禁)

*時給 30エバー


◎ 定期試験で欠点を取った者は、アルバイトを禁止する。

◎ 全ての仕事で、バイト代は1週間の締めで支払われる。

◎ これからもアルバイトは増える予定。


 希望者は、1階事務室の生活支援課に申し込むこと。応募者多数の場合は、経験者を優遇する。経験を問わない仕事は、経済的な状況を考慮し、生活支援課で決定する。

 決定者は、5日間の試用期間後に本採用となる。



「思っていたよりバイトが多いな。これならなんとか生活できそうだ」

「良かった。俺……旅費で金使って、小銀貨3枚(3,000円)しか無かったんだ」


2人の男子学生が、目に涙を浮かべながら喜んでいる。他にもウンウンと頷いている学生の数およそ20人。

 貴族の出身ではない学生や、ナイトや準男爵家の学生は基本貧乏である。

 早速バイトを希望する学生達が、事務室に向かって移動を始める。




「やっぱり俺達は恵まれてるな」


ロームズ辺境伯枠で入った薬学部のヤスト19歳が、事務室に向かう仲間を見ながら呟いた。

 そんなヤストに「そうでもないさ」とパルテノンが呟き返した時、にっこりと黒く微笑む領主様が現れた。


「さあ、今日の食事分働いてもらおう。これから山に入って薬草採取するぞ!荷物は屋敷に寄るから置いてこい。1人袋一杯で終了しよう」


イツキはそう言いながら、縦横50センチの麻袋を嬉しそうに3人に配る。

 やっと国外の来賓を見送り、堅苦しい領主の仕事から解放されたイツキは、溜まったストレスを解消するため、薬草採取に出掛けることにした。

 お供に薬学部のシルビアと、薬草園で働く4人がついてくる。

 その様子を見ていた学生達は『領主様も薬草採取するの?』とか『ロームズ辺境伯枠って、超羨ましかったけど……大変そうだな』とか『山に登るのか……獣や魔獣は大丈夫なのか?』と驚いたり、同情したり、心配されたりする。

 よく見たら、領主様は剣を帯刀されているし、シルビア助教授は救急箱を持っていた。



 学生や職員が乗る荷馬車の御者は、薬草園勤務のレグル17歳だった。レグルはパルテノンの親友の一人であり、将来薬剤師を目指している。

 薬草園で働く4人は、女性のピアラ19歳も含めて、全員が荷馬車の御者の練習をしていた。薬草園で働くということは、必要な物を運ぶことから仕事が始まるのだ。

 もう1台の荷馬車の御者は、【領主様をお守りする会No.1】警備隊のセブル25歳だった。


「セブル、休暇はどうだった?」


「はい領主様。私はキシ領出身で、帰ったら役場が焼かれていたり、フィリップ様のご両親、前の伯爵様が暗殺されていて驚きました。あっちでは、ソウタ指揮官もフィリップ秘書官補佐も亡くなったと聞いていたので……ロームズに戻ってエイコムから事情を聞きビックリしました。でも、フィリップ様が生きておられて良かった。ミノスから学生達を引率して戻って来ましたが。モンタンの羽根のお陰で、魔獣に出会わず助かりました」


セブルはイツキと話せるのが嬉しくて、荷馬車に乗っているイツキから見えないと油断し、ヘラヘラとだらしない顔になっていた。

 一旦屋敷に戻ったイツキは、頼んでおいた全員分の昼食をメイドさんから貰い、荷馬車に積み込むと、鼻唄を歌いながら出発する。

 途中出会った領民達が、笑顔で挨拶したり手を振ってくれる。イツキも笑顔で手を振り返す。

 パルテノンとレグルは、領民に愛されているイツキに安心し嬉しくなる。


 イツキの容赦ない薬草採取は、午後3時に休憩は入れたものの、午後4時半まで続けられ、山に慣れていない学生や職員はへとへとだった。


「よーし、薬草園に植える薬草の苗や種も採取できた。明日は早速植え替えをして、種類毎に名札を立てるように。それと、明日から始まる学食から出る野菜くずは、堆肥に出来るよう教えた通り実験を開始してくれ」


「はい領主様」


薬草園勤務の4人は、明日からの仕事の指示を受け、元気に返事を返す。

 この4人は、薬草を育てることは勿論のことながら、土作りから堆肥作りも行う。大学の人糞だって無駄には出来ない。肥料作りは、ダルーン王国出身の教会技術者が指導してくれる。

 それに加えて、イツキはロームズ領独自の肥料を作り、農業ギルドで販売しようと目論んでいた。


 お金になり農業振興にも役立つであろう肥料は、薬草園勤務の4人とロームズ辺境伯枠の学生の努力と研究により、3年後にはランドル大陸中に拡がっていく。

 同じような研究は、レガート農業技術開発部でも行われるが、こちらは主に品種改良や、害虫対策が主な研究となる。

 ロームズ産の肥料により、これから襲いくる自然災害時に、レガート国民とカルート国民は、飢えずに済むことになるのだが、そのことは、リーバ(天聖)様やイツキでさえ気付いていなかった。




 1月16日、いよいよ大学の講義がスタートする。

 イツキの受け持つ医学・薬学概論の講義は、2時限目に行われた。

 必須科目は、全学生と専門医を目指す助手5人も加わるので、70人収容できる2階の2ー1の教室で行われる。


「学生の一部から、何故僕が教授なのかと、事務室に問い合わせがあったようなので、教壇の上に資格証明書を出しておいたが、全員見たかな?僕が医学の勉強を正式に始めたのは、4歳の時からだった。しかし、その頃に得た知識の中には、既に真実とは違うと判明したものや、より良い治療法が見つかったものもある。医学は日々進歩する。進歩させなければならない。だが、その進歩とは別に、医学における根本的な概念について学ぶのが、医学・薬学概論である」


イツキはよく通る声で、堂々と教壇に立ち話し始めた。

 学生も助手達も、イツキの出したブルーノア本教会病院発行の、医師資格証と薬剤師資格証を見た後である。驚きを通り越し得体の知れない生き物を見るような目でイツキを見て、黙って話を聞く。


「では早速今日のテーマについて話し合って貰おう。これから僕とじゃんけんをする。さあ始めるぞ」


突然イツキはじゃんけんをすると言い出し、学生達は困惑する。


「よしいくぞ!じやんけんポン・・・よしそのままで、僕に勝った者は立ち上がり、ステージまで来てくれ。あいこの者は後ろに、負けた者は中央に集まる。さあ、筆記用具を持って移動だ」


何がなんだか分からないけど、イツキの指示通りに移動していく。


「さて次は……係りを決めよう。これから僕とじゃんけんをして、勝った人は正論と思われる意見を。次に、負けた人はひねくれた意見を。そしてあいこの人は議長と書記をする」


イツキは学生達に考える時間を与えず、ポンポンと指示を出し、3つのグループをそれぞれの係りに分けた。

 学生達は「勝ったー」とか「負けたー」とか言いながら、あいこの者は急いで書記と議長を決める。


「さあ、ではテーマを発表する。前のチームは【金持ちの医者と貧乏な医者、どちらに診察して欲しい?】について。中央のチームは【よい医者とは?】について。後ろのチームは【戦場と疫病の町、医者はどちらが大変か?】について。分かりやすいよう例を書く。写したら直ぐにグループで話し合いを開始してくれ。この討論に正解はない。可能な限り意見を出し尽くせ」


そう指示を出すと、イツキは解答例を黒板に書いていく。


【よい医者とは】

◎正論 優しい医者  ◎ひねくれ意見 優しさより腕だよ 



 90分講義の時間が50分過ぎたところで、イツキはパンパンと大きな音で手を叩き「そこまで!」と討論を止めた。


「それでは前のグループの書記は前に出て、討論内容を発表してくれ」

「「「ええーっ!」」」


いきなりの発表に書記は慌てる。地味な書記の仕事に不満を持ったり、ラッキーと思ったりしていた者は、全員の前で発表するという大役にビビる。


 そんなこんなで学生と助手65人は、各グループの発表を聞きながら、全員が頷いたり首を捻ったりしながら、発表を無事に終えた。

 終了2分前、イツキはにっこりと笑って、全員に課題を出した。


「それでは、今日の3つテーマについて、自分のベストと思う意見を書いて、明日午後の講義までに提出するように。短い文章で構わない。持論はたくさん有と思うが、1枚のプリントに纏めるように」


イツキは前の席に座っている学生に、プリントを渡し後ろに回させる。

 ちょうど講義終了の鐘が鳴り、イツキは「では頑張ってくださいね」と言って教室を出ていった。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

次の更新は12日の予定です。

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