開校式・入学式(3)
医学部の学生担当事務官が挨拶を終え教室を出ていくと、ベルガは自己紹介をすると言い出した。
「それじゃあ右の席のセイラさんから自己紹介をしてくれ。今回最高得点で入学を決めたセイラさんには、前期のクラス代表を頼む。これから3年間、よき友であり、よきライバルになる仲間達だ。よろしく頼む」
「「「ええぇーっ!最高得点!」」」
我こそは首席合格だと思っていた男子学生は、ベルガの発言に驚きの声を上げる。
「ラミル女学院卒業のセイラ17歳です。女医への道を開いてくださったロームズ辺境伯様には、本当に感謝しています。出身もラミル。実家は薬種問屋で貴族ではありません。医師資格を取れたら、薬剤師の資格も取りたいと思っています」
「「オオーッ!」」
ダブル資格取得を目指す才女の言葉に、男子学生は思わず感嘆の声を上げる。
それから順に全員が自己紹介をし、明日の入学式の説明を聞いてホームルームは終了した。
1階1ー2の教室では、特別医学部の担当になった事務職員のユリーサ21歳が、クラス担任であり担当事務官として挨拶をしていた。
「始めまして事務職員のユリーサです。特別医学部の学生は5人と少ないですが、医師資格取得を目指す方も、補助医師または内科医の資格取得を目指す方も、目標達成に向け頑張ってください。特別医学部の特徴は、必須科目の取得以外は自己選択で勉強科目が選べることです。ただし、取りたい資格によっては、必須科目以外にも必要な単位がありますので、教授と相談の上で受講を決めてください。それでは、自己紹介をしましょう」
ハキ神国語でA、イントラ連合国語でBを取っていたユリーサは、王宮で侍女をしていた。仕事としては他国からのお客様にお茶を出したり通訳をすることだったが、あまりにも仕事がつまらなくて、ロームズ医学大学で働くことを決心した才女である。
特別医学部の学生は、内科医の勉強をし補助医の資格を持っている者が2人と、全く医学の勉強をしていなかったクレタ、ラノス王子、クロダの3人を合わせ5人だった。
当然自己紹介では、技術開発部医療開発課で働きながら勉強をするクレタにも、ハキ神国から来た王族2人にも、遣る気満々で医師資格を目指す補助医の2人は驚いた。と言うより、思わず立ち上がり開いた口が塞がらなかった。
当然イツキが合格させた者たちである。ハキ神国語もイントラ連合国語も話せる、優秀な補助医であり常識人だった。
「このクラスの5人は、薬学部の講義も、看護学部の講義も受講が可能です。資格取得を目指さない人は、幅広く医学を学ぶことが可能な、夢のようなクラスです」
ユリーサはそう言いながらにっこりと笑い、2年間よろしくねとウインクをした。
男爵家の長女であるユリーサ21歳、身分や家柄にも拘らず、男とか女にも拘らず、結婚なんて絶対にしないと日頃から豪語している、美人なのに化粧っ気なしの、武術も出来る才女だった。
彼女の生き甲斐は、美少年を少し離れた場所から眺めることで、現在医学大学内で【領主様を愛でる会】の会長に立候補している。
ちなみに、薬学部の学生担当教官は助教授のシルビア31歳で、担当事務官は人手不足のため、助手のミリアン20歳が兼務していた。
看護学部の学生担当教官はおらず、看護学教授リーズの助手であり、将来ブルーノア教会病院発行の看護師資格取得を目指すマリア18歳と、同じくリーズ教授の書類担当である助手のライラ17歳が担当することになった。
午後4時、カルート国のシルバ皇太子が、マリアノ国務大臣、ガウル産業大臣、従者シーペンス、護衛4人を連れてロームズ辺境伯屋敷に到着した。
来賓担当のエリーザが、直ぐに全員を客室に案内し、護衛以外の4人を領主の執務室に連れていく。
「ロームズ辺境伯様、先日はカルート国の商業ギルドを助けていただきありがとうございました。お陰さまで、真の黒幕を捕らえることが出来ました」
シルバ皇太子は執務室に通されると直ぐに、正式な礼をとり深く頭を下げた。
「私からもお礼を言わせてくださいロームズ辺境伯様。まだ全ての偽ギルド職員を捕らえてはいませんが、数日内には必ず、商業ギルドからギラ新教徒を排除いたします」
イツキとはロームズ辺境伯杯の後で面談した産業大臣のガウルも、正式な礼をとりながら頭を下げ、他の2人も同じように礼をとった。
「これは、ご依頼のあったものです。本当に、本当にレガート国は、優秀な秘書官補佐をお貸し頂けるのでしょうか?」
「国務大臣、フィリップは既にレガート国の秘書官補佐を辞めています。今は私に仕えてくれているので問題ありません」
イツキはそう言いながら、差し出された黒革のファイルを受け取った。そのファイルには、カルート国王の国印が入っていた。
医学大学の見学は明日にし、シルバ皇太子一行は少し休み、午後6時からのパーティーに出席してもらう。
午後6時、ロームズ辺境伯であるイツキの挨拶の後、医学大学ハキル学長の乾杯の音頭でパーティーは始まった。
出席者は医学大学が、ハキル学長、ソデブ副学長を始めとする教授陣5人。
レガート国からは教育大臣と副部長、国務費担当大臣、人事部長と副部長、カイ領主の子息クスコ、ロームズ領男爵の役場長、準男爵のオールズとグライス。
カルート国はシルバ皇太子、国務大臣、産業大臣。イントラ高学院からは、副学長と事務長。そしてハキ神国からラノス王子と従者のクロダが参加した。
ある意味4か国の代表格である者たちが一堂に会することなど、長く平和が続いていたランドル大陸では、あえて必要なかったと言っても過言ではない。
戦争後の処理のため、ハキ神国とカルート国、ハキ神国とミリダ国、ハキ神国とロームズ辺境伯の正式会談はあったが、平和的な会談など記憶にない。
もちろん、冒険者のドゴルは、大陸で統一された組織であり、大陸会議なるものがあり、協力し問題を解決したりしている。
商業ギルドも統一組織に近いが、国同士に何かあれば敵対することもある。
そんな横繋がりが希薄になってしまった現在のランドル大陸で、今日のパーティーには大きな意味があった。
それは、若き次代の国王が、他国の大臣や有識者と面識を持ち、外交する機会を得たことに他ならない。
イツキは、シルバ皇太子とラノス王子に、大きなチャンスを与えたのである。
そして他の出席者には、時代は変化しているのだと感じさせる目的があった。
イツキは積極的に2人の王子を連れて挨拶をして回る。
「ロームズ辺境伯様は、2人の王子様とはお知り合いだったのですか?」
驚いたような顔をして質問してきたのは、教育大臣である。
「はい、お2人とも2年前からの友人です。出会った場所は別々ですが、これからは同じ大学で学ぶ学友ですね」
イツキはニコニコと極上の笑顔で答える。
「学友って……領主様は教授ですから教える方ですよね?」
ノーテス教授が、イントラ高学院の副学長を連れて話に参戦?してきた。
「ノーテス教授、教授1年生の私にとって、教えることを学ぶ大学でもあります」
「え~っ……それはどういう意味だろうか?ロームズ辺境伯は、医学大学で教鞭を執るつもりなのか?教授?……貴方は上級学校の学生だと聞いているが?」
イントラ高学院の副学長は、怪訝な顔をして敬語も使わずイツキに問う。
副学長は、ロームズからお引き取りいただいた外科医のヴァンド教授から、ロームズ医学大学は上級学校の学生が運営するとんでもない大学であり、レガート国王は医学をバカにしていると告げられていた。
だから、名医であり学生達から人気の高いノーテス教授に、イントラ高学院に戻ってくるように言うため、学長から密命を受けてロームズに来ていたのである。
「当然じゃろう副学長。ロームズ辺境伯は、物心ついた時から本教会病院で学び始め、あのパル院長がみっちり5年もかけて医学を教え、昨年本教会病院発行の、医師資格と薬剤師資格を取った天才じゃぞ。上級学校は、友達作りのため行っているに過ぎん」
ロームズ医学大学の副学長であり、イントラ高学院の外科医に、最新医療の講義を行うブルーノア本教会病院のソデブが、ちょっと不機嫌な顔で言う。
お前はブルーノア本教会病院が育てた医師であるイツキに、何か文句でもあるのか!という意味で文句を言ったのである。
イントラ高学院の副学長は、ソデブの話(文句)を聞いて青くなる。
イツキに対する失礼な態度より、ブルーノア本教会病院の外科副部長を怒らせたら、2度と講義に来なくなるかも知れないのだ。自分の失態(失言)で、そんなことにでもなれば副学長の地位が危うくなってしまう。
「そ、そうだったのですか。ブルーノア本教会病院発行の資格を……それでは安心ですね。いや、それなら教授と呼ばれていても納得がいきます」
なんとかその場を繕うしかない副学長は、懸命に言葉を探し引き吊った顔で無理矢理に笑った。
そんなこんなで、ロームズ辺境伯屋敷初のパーティーは、美味しい料理で客を満足させ、有意義に終えることができた。
1月15日午前9時、ロームズ医学大学の開校式が始まった。
式の会場は医学大学本館3階の大講堂である。大講堂は350人が収容でき、少々広すぎるが、今日の参列者は来賓の他にも大学職員や建設関係者、役場の職員、地域の世話役も呼ばれており、学生よりも参列者の方が多かった。
医学大学の本館は、ロームズの全住民が苦労して建てたものである。
開校式には列席していないが、気持ちは領主様や学生たちと共にあった。今日の開校を心から喜び、町に医学大学が出来たことを誇りにしている。
「これより、レガート国立ロームズ医学大学の開校式を執り行います。開校の挨拶をされるのは、ハキル学長です」
進行役はレガート国教育部の副部長である。
「学長のハキルです。本日、ランドル大陸3番目となる、医学専門の学校が完成いたしました。そして1期生となる学生60人を迎え、今日ここに、ロームズ医学大学として開校いたします。我が校は【命を尊ぶ心・真実を見極める目・全力で戦う精神】をスローガンに掲げ、医師、薬剤師、看護師を育成します。本校は女性にも医師への道を開き、専門医の育成、薬草研究者の育成、高い知識を持つ看護師の育成も行います。夏までに附属病院を建設し、実践的な教育を目指します。開校にあたり、ご尽力くださいました多くの方々、ロームズの住民の皆様、そしてレガート国王バルファー様、ロームズ辺境伯様、ありがとうございました。そして、これからもご協力とご支援いただきますようお願い致します」
ハキル学長は短く挨拶をまとめ、関係者へのお礼と、今後の協力を要請し挨拶を終えた。
会場の全員が立ち上がり、開校を祝い拍手をする。
学長の挨拶だけという短い開校式を終え、続いて入学式が行われる。
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