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予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
ロームズ医学大学開校

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イツキ、仕事を増やす

それからアトスを加えた5人は、屋敷の馬車で野菜や肉の仕入れを担当するホームズ食料品店へ向かった。この店は、メイド頭のソルさんの義父が営む店で、ロームズで一番大きな食料品店である。


「これはご領主様。この度は学生の食堂の食材を任せていただき、本当にありがとうございます。どうぞ皆様お入りください」


ホームズは少し緊張した感じで、店の隣に新しく建てられた事務所に全員を案内する。

 これからは、ランカー商会とホームズ食料品店が力を合わせて、学生や大学職員の食を担当することになる。

 学食と寮食を担当するピータとエンディは、あらかじめ考えた1週間分のメニューを元に、必要な食材の分量を書いた発注表を見せた。


「こ、これは予想以上ですね。う~ん、ロームズだけでは到底賄いきれそうにない量です。一応お向かいのウエノ村と隣のカラギ町からも仕入れる予定ですが……」


想像以上の量に、ホームズは困った顔をして唸る。ランカー商会のアトスも、同じように唸っている。


「この際、近隣の町や村の農家と契約し、優先的に医学大学に商品を卸して貰いましょう。そして、契約農家を全て集めて話し合い、野菜が切れることがないよう、作物の収穫時期をずらしたり、違う野菜を植えてもらいましょう。契約期間は……先ずは4ヶ月くらいで。ランカー商会は特別会員証を使い、確実に医学大学が仕入れると約束し、至急農家を押さえてください」


「はい、承知しました領主様」


アトスは開校間際で間に合うかどうか心配になったが、覚悟を決めて返事をする。カルート国との取引は、ホームズ食料品店より融通がきくので担当せざるを得ない。


「ホームズさんは、ロームズ領内の農家さんを集めて、収穫量を確認してください。そうですね……春休みにロームズ領内に新しく農業ギルドを立ち上げましょう。責任者は僕が連れてきます。主な役割は、新しい野菜の栽培を奨励したり、価格を安定させること。全ての契約農家の野菜を、農業ギルドが一括して買い上げます。ホームズさんはギルドから仕入れしてください」


イツキは安定した食材を供給するために、どこの国もやっていない農業ギルドを立ち上げることを提案する。

 完全に思い付きである。

 いつもの如く、周囲を巻き込みながら、思ったことを実現化していく荒業を使おうとしている。


「あの~領主様……その仕事は役場でするのでしょか?それとも屋敷の事務官でしょうか?」


ちょっとビクビクした感じで、事務官のビンツが質問する。

 ビンツは【領主様をお守りする会】のNo.3のイツキファンである。しかし、これ以上屋敷の仕事が増えると、家令のオールズが不機嫌になり、きっと過労で倒れる。そして自分も倒れる……という未来が予想され、顔色が悪くなる。


「う~ん、とりあえず役場の中かな……新しい職員が来るから担当させよう。それに、薬草園担当で雇った4人にも仕事をさせるよ。中級学校の隣にいずれ建物を建てることにして、当面は医学生のバイトで回すことにしよう」


イツキは頭の中で、あれやこれや考えながら、それを声に出して勝手に段取りを決めていく。

 農業ギルドの設立・・・それだけでも大事業であり、思い付きで出来るとは思えないが……と、アトス以外の4人は考える。

 残念ながらランカー商会のアトス以外の4人は、イツキの無茶ぶりを知らなかった。



 ◇ ◇ ◇


 1月8日午後、ロームズ領と医学大学の新人職員54人が到着した。

 到着した職員達は、全員が医学大学に集合し、明日からの段取りの説明を受ける。

 完成したばかりの大学本館や研究棟を案内したり、これからの予定を説明するのは、教育部から出向してきたアンジュラ22歳とイシリア21歳である。

 到着した新人達は、真新しい大学を見学し、希望に瞳を輝かせる。


 最初の手続きは寮に入るか下宿するかを決めることで、それが決まったら布団を購入したりレンタルの申し込みをする。その後、全員が自分の生活する場所に荷物を運び込む。

 ちなみに、下宿希望者の内、女性職員は優先的に下宿を選ぶことが可能だった。

 今日は生活の準備を整え、長旅の疲れをとることを優先し、明日は午前中にロームズ領内を見学し、自分が働く部所を確認する。午後からは、ロームズ領の職員は役場で、医学大学の職員は大学の本館で、任命式が行われる予定である。

 



 職員を引率してきたイツキの従者パルは、職員とは別行動をとり、初めての領主屋敷にやって来て、その大きさに感動していた。


「イツキ様、ラミル屋敷の3倍以上の大きさですね。2階までが客室で、3階はどうなっているのでしょうか?」


門の所で出迎えてくれたイツキに向かって、パルは屋敷を見上げながら質問する。


「パル、3階は物置じゃないかな・・・誰も使ってないよ。実は僕も3階には上がったことがないんだ。よく見たら結構窓があるなあ……」


パルに答えながら、そういえば屋根裏を見たことがなかったとイツキは気付いた。というか、3階に上がる階段があったかな?と首を捻った。


「もしも部屋があれば、俺は屋根裏部屋でいいです。その方が緊張しなくていいし、足腰も鍛えられそうですから」


騎士の爵位を貰ったと言っても、パルは平民中の平民であり、どんな環境にも直ぐに順応出来るイツキと違い、屋敷を見ただけでビビっていた。

 そんな生粋の庶民であるパルを、微笑ましそうに見ているのは、やはり平民出身のハモンドだった。

 パルはラミルを出発する職員を引率し、ハモンドはミノスを出発する職員の引率をしてきた。ハモンドにとっては3度目のロームズである。


「俺も屋根裏部屋でいいですイツキ先生。今まで何度も来たのに、3階の存在を全く意識してなかったなあ……もしも使える部屋があれば、ロームズ辺境伯枠の薬学部の学生3人も、3階でいいんじゃないですか?」


ハモンドはそう言いながら、久し振りに屋敷の玄関の扉を開けた。

 パルを家令のオールズや屋敷で働いている者に紹介した後、イツキとパルとハモンドは、メイド頭のソルさんと一緒に屋根裏を確認することにした。

 驚いたことに3階に上がる階段は、2階の物置?の中にあった。これでは人目につかないはずである。急な階段を上っていくと、屋根裏は予想より広かった。

 ソルさんによると、カルート国では使用人用の部屋は屋根裏に在るとことが多いそうで、天井は低いもののしゃがむ必要はなく、窓は小さいが眺めは抜群だった。

 3分の1は広い空間で物置として使えそうだし、部屋も4人部屋が3つ、2人部屋が4つと個室が2つあり、思ったより部屋数も多く掃除をすれば充分に使えそうだった。


「これは……お宝を発見した気分ですね。レガート国では使用人の部屋は1階と決まっているので、まさか部屋が在るなんて……これで国賓や来賓が来る入学式の時も、医学大学の研究棟に移動せずにすみます。ベッドは設置してあるので、家具や布団の手配をしましょう。書類倉庫としても使えるので大助かりです」


様子を見にやって来た家令のオールズは、驚きながらも大喜びして、掃除や家具の手配等を、早速使用人や事務官に指示する。

 問題があるとしたら、3階に上がる階段が急で狭いことだろうか……


「これからロームズ正教会に行く。疲れていると思うがハモンドもパルもついてきてくれ。ソウタ師匠の様子を診にいく」


イツキはそう言うと、ハモンドに御者をさせて教会へと向かった。



 教会に到着すると、ちょうどマーベリック教授が来ていた。


「領主様、昨日から足の指全ての感覚が戻ってきました。動かすことは殆ど出来ませんが、痛みも感じますし親指は少し動かすことが出来るようになりました」


マーベリック教授は感動したように言いながら、今月中に全ての指を動かせるようにし、来月には足を自分の意思で持ち上げられるようにしたいと張り切る。


「それは吉報ですマーベリック教授。夏には歩けるようになり、秋には馬に乗れるよう頑張ってください。秋には第1回の学会を開催して、この結果を発表しましょう」


「ちょっと待て、頑張るのは俺だろうが!それに、他人事だと思って俺を見世物にするんじゃない!」


自分の目の前で、勝手に交わされるこれからのリハビリ予定に、当事者なのに置いていかれているソウタ指揮官が噛みついた。


「嫌だなあソウタ兄さん。入学式の2日後(17日)から、ソウタ兄さんには医学大学警備職員10人の指導教官をしていただきます。それまでに体を鍛えておいてくださいね。働かざる者、食うべからずです」


イツキはにっこり黒く微笑むと、容赦なく仕事をふる。


「・・・おいハモンド、お前はずっとこっちに居るのか?イツキ君を何とかしてくれ」


一緒に来ていた直属の部下であったハモンドを見付けると、イツキの文句を言いながら八つ当たりをする。


「何とかと申されましても、領主様の師匠への熱き思いに感動しまして、及ばずながら私も、ソウタ指揮……ソウタ兄さんのリハビリを応援したいと思います」


ハモンドは少しだけすまなさそうな顔をするが、これがソウタ指揮官にとって最善の方法だと信じているので、逃げ腰の上司の話は聞かないことにする。


「これから定期的に、領民と職員と大学生に、軍事訓練を義務付ける予定です。僕はこのロームズを、大陸一防衛力の強い町にするつもりです。ソウタ兄さんには、その指揮を執って貰います。1週間以内に計画書を出してください。ハモンドは一緒に計画書を作成するように」


「「…………」」


そんなこと、なんにも聞いていなかった2人は、顔を見合わせながら固まった。

 ここでもまた、どんどん仕事を増やしていくイツキであった。

 しかしそれは、結局自分の仕事を増やしているのだが、今日も領民のため、師匠のため、学生のために頑張っているイツキには、泉のように湧き出るアイデアを、止めることは出来なかった。


 無言で固まる2人を見て、同情の視線を向ける基礎医学担当のマーベリックは、自分にも直ぐに、その無茶振りが降りかかろうとしていることを知らなかった。




 ◇ ◇ ◇


 1月9日午前、明日の中級学校仮入学に向け、新1年生がロームズにやって来た。

 まだ校舎が完成していないので、1年間は医学大学の研究棟の2階に間借りする。

 初年度の定員は、一般クラス50人、特進クラス40人の合計90人である。

 来年からは、一般クラスが100人になり2クラスに増え、特進クラスは40人1クラスのままで、1学年140人になる予定だ。


 今年の入学者の内、本国からの入学者は2人で、ロームズ領内の入学者は43人。隣のカラギから18人、ウエノ村から5人、校区外であるカルート国からの入学者は20人で、合計88人だった。

 特進クラス希望者は、入学後の初めのテストで、基準点を越えた者だけが特進クラスで勉強することが出来る。

 特進クラスは1年生の学年末の試験で、レガート国語でAを取ることが必須になっている。2年生からレガート国語で授業が行われるのだ。


 今年からロームズの初級学校では、レガート国語の授業が加わる。

 レガート国語とカルート国語は似ているので、初級学校から学んでいれば、3年後にはレガート国語で授業を受けることが可能になるだろう。

 イツキはロームズの住民にレガート国語を使うように強要するつもりはない。

 だが、ここはレガート国なので、中級学校からはレガート国語での授業を行う。そして卒業後、本国で働いたり進級しても大丈夫なように指導するのだ。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

次話は、医学大学入学式の予定です。


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