カルート国の商業ギルド(2)
ひとつ前の話の題を到着すると人々(3)から、カルート国の商業ギルド(1)に変更しました。
どんどん雰囲気が怪しくなってきた自称ギルドの所長は、奥から出てきた人相のあまりよくない、如何にも荒事担当者って感じの男に、レガート国の貴族が商品を売ろうとした場合は、4割の手数料を取れと命令する。
「それからお前達、コイツと商品売買する時は、必ず手数料を4割取ってギルドに納めろ!もしも規則を破ったら、罰金だからな!」
自称ギルドの所長は、シルバ皇太子達を睨み付けながら大声で脅す。
「商業ギルドが商人同士の売買で手数料を取っている国なんて、何処にも無いはずだけど、当然カルート王の承認は得たんだよな?」
突っ込み担当のサバブが、疑るような視線を向けて問う。
「カルート王? ……商業ギルドは独立した組織だ。会長が決められたことが全てだ」
商業ギルドの詳しい成り立ちや規則のことなど、何も知らない様子の所長は、少し口籠りながらも断言する。
「へえー、じゃあ、ここの商業ギルドは、国の管理下にも保護下にもないってことだよね。冒険者のドゴルは組合だけど、商業ギルドは国の管理下にあるって聞いたのに、違うのか・・・いや、他にもちゃんとした商業ギルドが在るのかも知れない。登録する場所を間違えた」
シルバ皇太子はしまった!という顔をして、まるで此処が偽物のギルドのように言う。
受付に居た職員達は青い顔をしてオロオロする。男性職員が何か言おうとして立ち上がるが、所長に睨まれ悔しそうな顔をして座る。
「おい、どうするんだ?早く登録を取り消そうぜ!ここは今年から、カルート国が運営するギルドじゃなくなったみたいだぜ。お嬢さん、登録を取り消すから金を返してくれ。出来るよな?」
フィリップは急ぎ足で受付に戻り、登録の取り消しをしてくれと受付嬢に頼み始める。
その様子を見たドブルクとサバブも、受付に登録証を出して返金を要求する。
「そんなこと出来るわけがないだろうが!とっとと出て行け!」
イツキ達7人は、自称ギルドの所長が命令した荒事担当の男に、有無を言わせず強制的にギルドから追い出されてしまった。
そしてそのまま荒事担当の男は、命令通りにイツキ達の……いや、イツキの側から離れないように見張り始める。
「仕方ないな。よし、果物でも買ってロームズへ向かおう」(サバブ)
「そうだな、誰が1番儲けられるか競争だぜ」(ドブルク)
「まあ俺に勝てるとは思えんがな」(フィリップ)
何だかんだワイワイと騒ぎながら、7人は市場に向かって移動を始める。
王都ヘサの台所と呼ばれる市場は、高級店が建ち並ぶ商業ギルド周辺より、南に20分歩いた馬車乗り場の隣の広場に在った。
市場には大小の露店が150店以上並んでいる。市場の中心には時計塔が在り、それを囲むようにベンチが置いてある。そして店は円形に向い合うよう配置されていた。
通路は荷車がすれ違うことが出来るよう余裕で広くとってあり、内側の店は右回り、外側の店は左回りで人が流れていく。外からの出入口は4ヶ所で、内側の時計塔やベンチに向かう出入口は5ヶ所在った。
普段なら賑やかで活気溢れる市場なのに、人々は商品を見るだけで、あまり買い物をしていなかった。
市場の入口に到着すると、【教会の離れ】で働く夫婦が荷車を用意して待っていた。
「お待たせ。遅れて悪いな。商業ギルドに行ったら、登録料が銀貨2枚になっててビックリしたよ。直ぐに買い物を始めるからよろしく頼むわ」
リーダー役のフィリップが、待たせていた2人だけではなく、市場の人達にも聞こえるよう大声で話す。
「おい、登録料が銀貨2枚だってさ。どうなってるんだ商業ギルドは?」
「客から手数料を取れとか、本当に勘弁して欲しい。これじゃあ庶民は買えないぞ」
「なんで急に商業ギルドは変わったんだ?」
フィリップの声を聞いた屋台の商人達が、困った顔で訂正した値札を見ながら、小声でヒソヒソと文句を言う。
値札の多くは値段表示が訂正され、プラス2割の料金が書き込まれていた。
よく見ると、市場のあちらこちらに人相の悪い男達が立っている。
突然の値上げ?に対し文句を言っている客に対し店主達は、「値上げはしていません。ギルドに支払う手数料なんです」と説明するが、買う立場の客からしたら値上げとしか感じない。
「おい、どういうことなんだ?こんなに高くっちゃ買えないじゃないか!」
店主の説明に納得しない客が大声を上げると、直ぐに人相の悪い男がやって来て「だったら買うな!」と言って脅し、信じられないことに暴力を振るった。そして自分のことを商業ギルドの職員だと堂々と言った。
「でもさあ、中心地じゃない市場や町外れには、商業ギルドの見張りは居ないよな。だったら客は此処では買い物しなくなるってこと?」(従者シーペンス)
「そうなったらきっと、店主は売値を下げるしかなくなる……それに計算が大変だ。このままじゃ売れなくなるか、仕入価格の方を値切って、生産者が生活できなくなるかのどちらかだな」
シーペンスに続きフィリップも、大きめな声で話しながら、客にも店主達にも聞かせるように、市場の中を移動していく。
イツキはある店の前で皮製品を手に取って、なんの皮か質問した。
「おい、コイツはレガート国の貴族だ。手数料は4割取れ!」
まだ買うとも言っていないのに、荒事担当の男が恫喝するように店主に命令する。
「今日から他国の貴族は、定価より4割高く買わなければいけないらしい。でも、いちいち客に何処の国の人ですか?貴族ですか平民ですか?と聴く店主が居るのかなぁ。それに、そんな値段じゃ買い物なんかしないよな。頭のいい貴族なら、供の者に買わせると思うけど、貴族じゃなければいいんだからさ。ハッハッハー」
ギルドが決定したことの欠点を、大声で指摘しながら余裕でイツキは笑ってみせる。
「な、何だと!」
「だってさ、僕が買いたい物をメモしておいて、数分後にその辺の誰かに買い物を頼めばいいだろう?それに、もしも僕みたいに子供のような貴族ではなく、大人の……そして伯爵様なんかが買い物に来て、貴方は他国の貴族だから4割高いですなんて言ったら、それはもう不敬罪だと言われても仕方ないよね。貴族に対する不敬罪……ああ怖い」
イツキは荒事担当の男の顔など見ずに、店主達に聞かせるように話す。
不敬罪……貴族の特権意識が高いカルート国では、貴族に対する不敬罪は重い。それも、レガート国では考えられないような理不尽な罪まである。
イツキの口から出た不敬罪という言葉に、店主達の顔色が悪くなる。
「ああ、僕はそんな威張った嫌な貴族じゃないから安心して大丈夫。もしも4割高い値段を言っても、突然剣を抜いたり、警備隊を呼びつけたり、商品をただで寄越せなんて言わないよ。僕はこの国の貴族じゃないから」
イツキは強烈な嫌みを言う。当然それはシルバ皇太子ご一行に聞かせているのである。
「それに、他国の貴族に無礼を働けば、それはもう国際問題だよな。そんな無礼な命令をした商業ギルドの会長は、レガート国と戦争でもしたいのかな?嫌だなあ戦争なんて勘弁してほしいわ」
フィリップもこれでもかと脅しを掛けていく。ただ命令で動いているだけの荒事担当の男は、不敬罪とか戦争なんて想像もしていなかった言葉を聞いて固まった。
「そう言えばさっき、この男、子爵家の当主である君に暴力を働いてたな。あれって完全に不敬罪だよな。しかも、同盟国であるレガート国の貴族だぞ……絶対に不味いだろう」
フィリップは美しい金色の瞳で荒事担当の男を睨みながら、フフフと不敵に笑う。
「そうだよな、あれは不味いよな。俺、いつでも証言するぜ」
なんとなく言葉のやり取りのコツが分かってきたシルバ皇太子が、追い討ちを掛けるように荒事担当の男を睨み付ける。
「言葉遣いもいただけないなあ……子爵様に向かってコイツってどうよ」
フムフムこんな感じなのかと分かったドブルクも、銀色の瞳を輝かせて追い込んでいく。
「…………」
不敬罪の怖さを知っている荒事担当の男は、何も言えずその場から立ち去っていく。
「よし、買い物するぞ!」と、19歳なのに16歳くらいにしか見えない童顔のエーベルが、元気よく右腕を上げ叫んだ。
イツキは5人に、誰が1番上手く買い物できるか(値切りも含めて)を競わせていた。全てが勉強であり試験なのである。
普段は市場で買い物などしないお坊ちゃんばかりだが、嫌な奴をギャフンと言わせた若者達に、商店主達は好意的だった。
今朝、市を開こうと準備をしていたら、商業ギルドの職員だと名乗る人相の悪い男達が突然来て、今日から2割の手数料を商業ギルドに納めろと言い出した。
そんなことは出来ないと抗議すると、人相の悪い男達は暴力を振るった。ケガをした者3名、商品を壊されたり店を壊された者2名。警備隊を呼ぼうとして商業ギルドに連れていかれた者2名。
何故、どうして?と理解も納得も出来ないが、等間隔に並んで見張りをしている人相の悪いギルド職員?が居るので、店主達は言う通りに値段を書き直したり、店の前に【今日から定価の2割料金が高くなります。商業ギルド】と板に書いて店先に置いたりした。
当然イツキ達は、見張りの男やケガをした店主達の様子を見て、そんなことだろうと予想をしていた。
予想はしていたが腹は立つ。だからつい、ケガをした店主に大丈夫かと声を掛けてしまう。そして、気の毒になってその店の商品を買ってしまう。
フィリップは、そんな5人の姿を見ながら、教会の離れで働く夫婦に、値段は適正かどうかを確認する。
どうやら今日から始まった制度?のようで、価格はいつもと変わらないと夫婦は答えた。だが、こんなことが続けば、便乗値上げをしたりする商店主は必ず現れるだろうと付け加えた。
荒事担当の男は居なくなったが、他の見張りは残っている。でも、貴族であるイツキが居るため、何も知らずにやって来た客が文句を言っても、暴力を振るうことはなくなった。
「ねえ知ってる?商業ギルドの職員って、ちゃんとした試験を受けて合格しないと、職員には成れないっていう法律があるんだよ。だからさ、あんた達は職員じゃないよね?だって、上級学校を卒業しているようには見えないもん」
見張りの中でも、先程客に暴力を振るっていた男の前に立ち、面と向かってイツキはケンカを売った。
「そうだよな。俺もそれ聞いたことがある。商業ギルドの職員でもないのに、堂々と職員だと名乗り住民や商人達に暴力を振るった。それって犯罪だよな」
シルバ皇太子は低い声で男に言う。その声は絶対に許さないう怒りが籠められている。
「おーいみんな!ここに居る見張りは、全員犯罪者だ!誰か警備隊か軍の者を呼んできてくれ。罪もない人に暴力を振るい恐喝したんだー!」
従者シーペンスは、有らん限りの大声で叫ぶ。ここは最大の見せ場である。
イツキ達の大きな声に、何事だろうかと人が集まって来て人垣が出来ていく。
「黙れ黙れ、俺達は商業ギルドの所長から正式に依頼を受けたんだ。犯罪者などではない!くだらん屁理屈を言って仕事を邪魔するなら、こちらが警備隊に突き出すぞ!」
見張りの男は少したじろぎながらも、駆け付けて来た仲間を見て強気で恫喝する。
「いいんじゃない。警備隊にどちらが正しいか決めてもらえば」
剣に手を掛けた男を見て、イツキは嬉しそうに微笑みながら言った。
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