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予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
ロームズ医学大学開校

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121/222

到着する人々(2)

「はじめましてカルート国王様、お久し振りですシルバ皇太子。感謝祭の休日に突然お邪魔してしまい申し訳ございません」


イツキは30分以上待たされ、ようやく王宮警備隊の隊長に案内され、謁見の間にやって来た。部屋の入口で正式な礼をとり挨拶する。

 城を守っていた警備隊長は、イツキがロームズ辺境伯だと名乗っても直ぐには信じてくれず、確認出来るまで時間が掛かり、尚且つ信用できないのか、謁見の間の中まで付いてきた。


「いや構わんよ。ロームズ辺境伯とシルバは友人だ。友が訪ねてくるのは大歓迎だよ。警備隊長、ロームズ辺境伯は国賓だぞ。少しの失礼もあってはならない」


カルート国王ラグバスはイツキには笑顔で応えて、警備隊長には厳しい口調で注意し、直ぐに下がるよう命令した。

 警備隊長が部屋を出ていくと、シルバ皇太子は急いでドアを開け廊下を確認する。警備隊長が去っていくのを確認すると、シルバ皇太子はラグバス国王と共に、慌ててドアの前まで下がりひざまずいた。


「イツキ様、無礼な態度をとり本当に申し訳ありませんでした」(シルバ皇太子)

リース(聖人)様、カルート国を2度も救っていただきありがとうございます。部下の無礼な態度……本当に申し訳ございません」


ラグバス王は深く深く頭を下げ、感謝と謝罪の言葉を述べる。気の弱い国王は、体をカタカタと震わせて赦しを請う。


「ラグバス王、シルバ皇太子、どうぞお立ちください。今日の僕は半分ロームズ辺境伯、半分リースとしてやって来ました。カルート国に新たな危機が迫っています。その危機を知らせ、解決策を授けるために急ぎやって参りました」


イツキは上座には座ることなく、立ったまま来訪の目的を告げる。


「新たな危機・・・それはいったいどのような・・・」(ラグバス王)


ラグバス王もシルバ皇太子も、一瞬で顔色が悪くなる。

 感謝祭の日に、ブルーノア教会のリース様が危機を知らせに来られる……それは当然火急の用件であり余程のことなのだと思うと、ゴクリと唾を呑み込み緊張する。

 イツキは大声で話す訳にはいかないので、シルバ皇太子の執務室に移動することを求め、ついでにカルート城の中に悪意のある者が居ないかチェックするため、城の案内をして貰うことにする。


 今日は感謝祭なので警備の者も侍女も、最低限の人数しか働いておらず、城の中を歩いても3人しか出会わなかった。それはそれで……かなり不用心である。

 幸いイツキの視たところ怪しい者は居なかったので、シルバ皇太子の執務室に入ると、早速カルート国の新たな危機について話を始めた。




◇ ◇ ◇


 その頃、イツキと一緒にやって来た神父の格好をしたフィリップは、ヘサ正教会サイリス(教導神父)のミラン様と面会していた。

 ミラン55歳はレガート国の出身で、グレーの髪に銀髪が混じった珍しい髪を後ろで括り、グレーの瞳は慈愛に満ち、サイリスとしての風格と威厳を漂わせていた。


「それではあの魔獣……いえ聖獣は、ロームズ辺境伯様が乗って来られたのですね。分かりました。直ぐに住民に説明します」


ミランは驚いた顔で返事をすると、空飛ぶ魔獣がやって来たと、教会に逃げ込んでくる者や、たまたま感謝祭の祈りに来ていてパニックになっている住民達に説明するため、急いで大聖堂に走って向かう。


「皆さん私はサイリスのミランです。先程カルート城に飛んで来た魔獣は、ブルーノア教会の聖獣で、レガート国ロームズのロームズ辺境伯様が乗ってこられたそうです。決して人を襲うことはありません。どうか安心してください」


ミランは大きな声で住民達に伝え、心配は要らないと笑顔をつくる。

 本来サイリス(教導神父)様は、高位貴族や王族しか面会することが出来ない偉い神父様である。そのサイリス様が突然現れ、笑顔で心配要らないと説明された。


「あれが、ブルーノア教会の聖獣?」

「空飛ぶ大型魔獣のビッグバラディスが?」


当然のことながら、ああそうなんだ……と、皆が納得するはずもなく、恐怖心は減ったが騒ぎは収まらない。


「俺はカルート軍に勤めているが、あれは、あの聖獣様は、ハキ神国との戦争の時、俺達カルート軍を救ってくださった聖獣様だ!決して失礼があってはならない!」


カルート軍の大尉だという男は、大きな声で叫んでその場にひざまずいた。


「俺も見た!確かにハキ神国軍を追い払ってくださった聖獣様だ!」

「それじゃあロームズ辺境伯様が、カルート国を救ってくださったのか?」


他にも戦争に行っていた軍人や警備隊、駆り出された住民達が「俺も見た!」「間違いない!」と証言しながらひざまずいていく。

 その様子を見たサイリスのミランは、ここぞとばかりに仕上げにかかる。


「皆さん、そのことは秘密です。ロームズ辺境伯様が聖獣に乗っていらっしゃるということは、これからもカルート国は、ヘサの街は守られているということです。今日は感謝祭です。どんな軍隊をも蹴散らせる、ロームズ辺境伯様と聖獣に感謝申し上げ、祈りを捧げましょう」


ミランはそう言うと祭壇の上でひざまずき、神に感謝の祈りを捧げ始めた。

 王様と同等位とされるサイリス(教導神父)様がひざまずかれたのである。当然住民達もひざまずき、自分達を、カルート国を守ってくれる聖獣様とロームズ辺境伯様に、感謝の祈りを捧げていく。


 あの空飛ぶ魔獣は教会の聖獣であり、教会の聖獣を操るロームズ辺境伯様は、自分達の……カルート国の味方なのだと、敬虔なブルーノア教徒の頭の中に、しっかり、くっきりと刷り込まれていく。

 そしてサイリス様が秘密だと仰った話は、瞬く間にヘサの街に広がっていく。


 ヘサ正教会のミランは、12月にミリダ国から移動してきたばかりである。

 ミランは、ロームズの領主になったイツキと、シルバ皇太子を支えるため、リーバ(天聖)様の命令でヘサに来ていた。

 もちろんミランは、イツキがリース(聖人)様であると知っているし、ロームズ正教会ファリス(高位神父)のシーバスが尊敬する先輩でもあった。


 ミランの後ろで他の神父達と一緒にひざまずいていたフィリップは、ミランが住民達を収める様子を見て、その手腕に脱帽していた。

 ミランはヘサ正教会に赴任する前に、ロームズ正教会に寄り、シーバスから色々なことを聞いていた。なので、フィリップがイツキ様を守る役目の者だと知っていた。



 上手く住民を収めたミランは、執務室でフィリップからの用件を聞く。


「なんですって!商業ギルドが乗っ取られているのですか?」

「はいミラン様。イツキ様は、現在カルート国王とシルバ皇太子に会っておられます」


フィリップは面会の目的を話し、そう断言するきっかけとなった、ランカー商会が受けた被害について説明していく。




◇ ◇ ◇


 午後7時、イツキとフィリップとシルバ皇太子は、ヘサ正教会の【教会の離れ】で、明日の作戦会議をしていた。


「シルバ皇太子、信用できる従者や部下は何人くらい居ますか?」


「はいイツキ様、国務大臣の息子であり上級学校の先輩でもあるシーペンス18歳と、近衛師団の皇太子付きの4人は、私が選んだ側近です」


「シルバ皇太子、僕のことはイツキ君でお願いします。それでは明日の午前に集合できるのは何人でしょうか?」


「1番歳上のホーエンはハビルの実家に帰っています。明日だと4人です」


シルバ皇太子は、イツキはいったい何をする気なのだろうかと首を捻りながら答えた。


「それでは具体的な作戦は明日の朝説明しますので、平民の服装で此処に集まってください。昼には商業ギルドが開くので、みんなで登録に行きましょう」


イツキは楽しそうにそう言うと、教会警備隊に護衛させてシルバ皇太子を城に帰した。




 翌朝フィリップは、教会の離れで働く夫婦に、あるお願い事をしていた。

 これから商団を装って買い物に出掛けるので、荷馬車の御者と案内役として同行して欲しいと。そして、店の売値が適正であるかどうかを、合図で教えて欲しいと頼んだ。


「世の中の物価を知ることは、王族として大事なことです。人や物を見る目を養うことは、民に寄り添う王に必要なことですから」


フィリップはキラキラした笑顔で、もっともらしい説明を夫婦にする。

 夫婦は、イツキとフィリップのことを、本教会から来た王族担当の教育係りであると、ヘサ正教会のファリス(高位神父)様から説明を受けていた。なので、昨日まで神父の格好をしていたフィリップを、本教会の偉い神父様だと思っており、フィリップの説明に成る程と納得していた。


「僕はレガート国の商人を演じます。そして、シルバ皇太子と従者の方々には、商団で働く為に雇われた者に成りきっていただきます。たとえ商人に絡まれたり、暴言を吐かれたりしても、決して騒いではいけません。もしも皇太子だと知られると命を狙われる可能性がありますから」

 

イツキはフィリップとは違い、厳しい顔をして夫婦に注意事項を伝える。

 教会の離れを任されていた夫婦は、懸命に国を立て直しているシルバ皇太子を知っていたので、喜んで協力を約束してくれた。



 午前11時、シルバ皇太子は普通の馬車に乗って、仲間を連れてやって来た。


「ロームズ辺境伯様、シルバ様の命をお救いいただき、本当にありがとうございました。私は従者のシーペンスです。父は国務大臣をしております。フィリップ様、お久し振りです。どうぞよろしくお願いします」


シーペンス18歳は正式な礼をとり、イツキとフィリップに向かって深く頭を下げた。

 フィリップとは、条約書や学生や職員の移動に便宜をはかって貰う打合せをした時に、全員が会っており面識があった。

 シーペンスは金髪を肩の長さできちんと揃え、グレーの瞳や顔立ちから、聡明さが滲み出ているイケメンだった。剣の腕前は、上級学校時代に武術大会で優勝したらしく、長身で細身の外見からでは気付き難いが、結構鍛え上げられているようだった。


「サバブ22歳、近衛師団所属、皇太子殿下付きです」

「エーベル19歳、同じく近衛師団、皇太子殿下付きです」

「ドブルク18歳、同じく近衛師団、皇太子殿下付きです」


残りの3人は、軍礼をとりながら自己紹介をし、よろしくお願いしますと頭を下げた。

 どう見ても貴族の子息ですという匂いがプンプンして、イツキは心の中でハーッと大きな溜め息を吐いた。


「皆さん、これから一緒に商業ギルドに登録に行きます。……が、その前に、平民と同じような服装をしていても、貴族様ですと言わんばかりの雰囲気を消すため、これから少し訓練をしていただきます。上手く演じられなければ、悪を懲らしめることは出来ません。僕の訓練は厳しいですが、覚悟してください」


イツキはにっこりと黒く微笑み、5人が全く予想していなかった訓練を始める。

 それはそれは容赦ない訓練で、言葉遣いを間違えたり、受け答えを間違えると、当然のことながらペナルティを与えた。

 今回のペナルティは……3回間違えたら通りに出て唄を大声で歌うというものだった。


「いやいや、それでは困ります。ではなく、いやいや、それじゃあ困るんだが……でしたよね。これでペナルティ2ですエーベルさん。死ぬ気でやってください」


予想以上のお坊っちゃん振りに、イツキは思わず【銀色のオーラ】を無意識に放ち、部屋の温度を下げてしまう。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

更新が遅れてすみません。年度末の忙しさを、完全になめてました・・・

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