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予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
怒濤の後期スタート
12/222

戻る人、来る人

ランドル大陸の貨幣価値について。1エバーは、10円くらいの設定。

1,000エバー  =  銀貨1枚 (1万円)

10,000エバー  =  銀貨10枚 = 金貨1枚 (10万円)

100,000エバー =  金貨10枚 (100万円)

金貨2枚の給料は、現在日本では20万円くらいの給料です。しかし、平民は金貨1枚あれば、なんとか4人家族が生活出来ます。

家具やオーダーメイドの服などはとても高価です。陶器の食器も庶民には、なかなか買えません。武器や刃物も高価です。

◇◇ ラミル上級学校 ◇◇


 朝から徐々に学生たちが戻ってきた。半数以上は明日戻って来るのだが、遠い地方の学生は早目に戻ってくる。

 校長は北寮の移動に伴い、該当する9人の名前を、掲示板と寮の入り口に貼り紙をして教員室に呼び出した。

 それとは別に、執行部部長と風紀部隊長の連名で、入学の時に渡される【寮の決まりについて】の第1条と第3条の条文を、大きな文字で食堂の掲示板と全ての寮の掲示板に貼り出していた。

 そしてその条文の下には、全学生驚愕の事実が書き込まれていた。


《 北寮に伯爵家の長男を初めて入寮させたのは、ギラ新教徒でありヤマノ侯爵を毒殺した、元在学生ブルーニの兄カスナーだった。また寮の規則を破り、勝手に部屋替えをしていた元在学生のブルーニとドエルも、ギラ新教徒だった。

 しかし、彼等が上級学校を去った本当の理由は、上級学校対抗武術大会の帰路、執行部部長エンター、風紀部副隊長ヤン、風紀部1年部隊長イツキを、雇った殺し屋3人とヤマノ上級学校の学生1人と共に6人で、暗殺しようとしたからである。

 この、貴族の当主暗殺という暴挙は、治安部隊の助けにより解決された。》


 これを読んで移動しない伯爵家の長男は居ないと思われる。自分をギラ新教徒だと思われては、今後の学校生活に支障が出るだろうから。



「校長先生、伯爵家の長男が寮を出ていくのは別に構いませんが、侯爵家の子息である俺が2人部屋になるのは何故なんです?3男だからですか?」


かなりのお冠で文句を言っているのは、3年のネロスである。ネロスは体育部所属で、隠れイツキ親衛隊(第2親衛隊)に所属するイツキの崇拝者だった。


「そうじゃあない。しかし執行部部長は、君はきっと喜んで部屋を替わる筈だと言っていた。エンター君から手紙を預かっている」


校長はそう言いながら、エンターからネロスに宛てた手紙を手渡した。


「なんでエンター部長がそんなことを言うんだ?」


ブツブツ言いながら、不機嫌なままネロスは手紙を開いた。



 ネロス へ

 君の部屋を使うのは、君の好きな・・・いや、君が応援している人物だ。まだ公にされていないが、君には特別に情報を教えておこう。 

 彼はヤマノ領の伯爵になった。子爵家当主だったが、今回伯爵家当主に陞爵された。

 彼とヤマノ組の因縁は、君もよく知っていることと思う。そこで今回、彼を守るため君の同室は、学年トップであり親衛隊隊長のクレタにお願いした。

 クレタが同室であるメリットは、学年トップに勉強を教えて貰えることと、君の部屋を使うことになった人物が、親衛隊隊長と話す為、部屋に来る可能性があることだ。

 そして今回、部屋を替わってくれる御礼として、隠れ親衛隊副隊長のエンドが、その座を譲ってくれることになるだろう(インカが頼む予定)。

 ただし、この手紙を読んで直ぐに、校長に了承したと言わない場合、その権利の全ては、隣の部屋のYに譲られる。共に北寮で過ごせる喜びを噛み締めたまえ。 エンター



「校長先生、今から直ぐに部屋を替わります。ただ、今の荷物は全て2階に移動しても良いでしょうか?」


「ああ構わんよネロス。クレタは何も持ってこないようだから。少し狭いが我慢出来るかね?」


「もちろんです校長先生!家具移動の為、後輩を手伝わせます。それでは失礼します」


ネロスは嬉々として校長室を出ると、鼻唄を歌いながら北寮に向かった。

 ネロスの成績は危機的状況だったので、クレタの同室により卒業はなんとかなりそうだと、校長と教頭は安堵した。




◇◇ ロームズ辺境伯邸 ◇◇


 昨日も泊まった5人の内、ナスカとヤンは、朝からリンダの買い物の荷物持ちに駆り出されていた。クレタとエンターは事務処理を手伝い、パルは昨日に引き続きマサキ公爵邸へ従者の勉強に出掛けた。

 家に帰ったヨシノリは宿題の追い込みをし、インカは学校へ行き寮の部屋替えを仕切っていた。


「ごめんください。こちらはロームズ辺境伯様のお屋敷でしょうか?」 

「はい、どちら様でしょうか?私は事務長のティーラと申します」


今日は朝からやたらと来客が多い。イツキが屋敷を購入したと分かり、関係者が就任祝いだとか、様子見だとかにやって来るのだが、中にはお近付きになろうとやって来る商人達もいる。


「私はキシ公爵様の屋敷の者です。ロームズ辺境伯様はご在宅でしょうか?」

「これはお世話になっております。只今主は留守でございますので、私が用件を聞くよう申し使っております」


ティーラは内心穏やかではなかった。キシ公爵様は寄親である。失礼があってはならないのだ。


「キシ公爵様から、貴族として身の回りの物を揃えるようにと、準備金を預かってまいりましたので、受取書をお願いいたします」


事務長は自分の執務室に使いの者を通して、自分でお茶を入れお金を確認する。

 現在この屋敷にはメイドも居ないので、事務長は忙しかった。

 キシ公爵様からの準備金を確認した事務長は、思わず「まあ!」と叫びそうになったが、顔を引きつらせながらも微笑み、受取書を渡した。そして主に代わり礼を述べた。

 準備金は金貨50枚だった。それとは別に、1月から7月までの子爵手当として金貨14枚(1ヶ月金貨2枚)も頂いた。本来子爵手当は金貨3枚なのだが、1枚は上級学校の支払いに充てられている。


 次にやって来たのはヤマノ侯爵様の屋敷の者だった。

 ヤマノ侯爵からは、上級学校の寮に搬入する家具の目録と、4月から7月までの伯爵手当の金貨16枚(1ヶ月金貨4枚)を頂いた。


「主ヤマノ侯爵様が、気遣い出来ずに申し訳なかったと申しておりました。どうぞロームズ辺境伯様にそうお伝えください」


「はい、お心遣いありがとうございます。しかと主に伝えます」


妙に腰の低い使いの人に丁寧にお礼を言った事務長は、イツキが何故貧乏で、冒険者登録をしなければならなかったのか納得した。

 本来貴族に取り立てられたら、毎月寄親の所へ手当を貰いに行くのだが、主であるイツキ君は学生だったので、手当を貰いに行けなかった……いや、貰えると知らなかったのだろう。


 今日だけで金貨80枚も集まってしまった。27日にイツキから預かった金貨50枚は、あと4枚しか残っていなかったので、事務長としては一息つけるので有り難かった。

 正直これ程の大金を手にした経験がなかったティーラだったが、近々ドゴル不死鳥から金貨300枚が貰えると聞いていたので、貧乏男爵家の妻の金銭感覚から、段々領主の事務長としての金銭感覚へと切り替わっていく。切り替えなければやっていけない。

 まだまだ領主として必要な物は沢山あるし、従者になったパルの仕度(服、靴、生活用品他)もイツキから頼まれていた。


 本当はレガート式ボーガンや投石機の使用料として貰ったお金が、まだ700枚以上有るのだが、それはレガート城に預けてあった。何分ロームズ辺境伯屋敷には、警備兵さえ居ないので危険である。




 午後2時、ドゴル不死鳥やランカー商会に行っていた筈のイツキが、何故か軍の馬車に乗って帰ってきた。

 迎えに出てきた事務長とエンターとクレタの3人は、軍の馬車にも驚いたが、降りてきた人物を見てもっと驚いた。

 最初に降りてきたのはイツキ、次が秘書官補佐のフィリップ、ラミル正教会モーリス(中位神父)のハーベー、そして最後に降りてきたのはサイリス(教導神父)のハビテだったのだ。


 午後からイツキはラミル正教会でフィリップと合流し、サイリス(教導神父)のハビテと今後のことを話し合っていた。

 勿論連絡係りはイツキの相棒であるハヤマ(通信鳥)のミムで、フィリップが暮らしているキシ侯爵邸と、ラミル正教会に手紙を事前に届けていたのだ。

 時間のないイツキのことを考え、事務長のティーラにだけは、ある程度のことを教えて協力体制を取ることにしたのだ。


「これはいい!外見が地味だから領主屋敷には見えないし、表は有名な衣装店だ。レガート城に近く治安もいい」


馬車から降りたモーリス(中位神父)のハーベーは、屋敷を観察するように見て感想を言う。


「でも、中は何故か派手ですよ」

「この外見なのに中は派手なのかイツキ君?」

「フフ、フィリップさん見てビックリです。さあ皆さん中にお入りください」


イツキは3人を伴って屋敷の玄関へと向かう。

 事務長、エンター、クレタは、大物過ぎる人物の来訪に、正式な礼をとり深く頭を下げることしか出来ない。


「「「なんだこれはー!!!」」」


エントランスホールを見て驚き、リビングに入って3人は絶句した。


「事務長、紹介します。サイリス(教導神父)のハビテ様、秘書官補佐のフィリップ様、モーリスのハーベーさんです。7人分のお茶をお願いします」


「はい領主様。サイリス様、秘書官補佐様、モーリス様、ようこそおいでくださいました。事務長のティーラと申します。どうぞよろしくお願いいたします」


ティーラはやや震える声で自己紹介をし、再びドレスを軽く摘まみ女性がとる正式な礼をとった。そして急いでキッチンに向かいお茶の準備をする。


『ちょとーっ!なんで、どうして……?サ、サイリス様が……どうして秘書官補佐様がいらっしゃるの?……ダメよティーラ、落ち着くのよ。……私は領主屋敷の事務長なのよ!ファイト!笑って、震えている場合じゃないわ。スマイルよ……よし!深呼吸しよう……スー、ハー……あぁ良かったわ、高級な茶葉があって』


お湯が沸くまでティーラは、なんとか落ち着こうと懸命に頑張る。敬虔なブルーノア教徒のティーラにとって、こんな間近でサイリス(教導神父)様と御会い出来ることが信じられなかった。国王様と同等位とされるサイリス様が、自分の働いている屋敷に来られるとは……何故だろう?と首を傾げながらも、お茶のセットをワゴンに載せリビングに運ぶ。


 リビングのドアを開けると、自分の息子クレタやエンター君が、主であるイツキ様達の隣のソファーセットに座ったまま、不敬にも親しそうにサイリス様や秘書官補佐様と話をしていた。


「本日はイツキ君の屋敷を確認することも来訪の目的ですが、イツキ君について知っておいていただかねばならないことを話に来ました。ですからティーラさんも、クレタ君やエンター君と一緒にお座りください」


サイリスのハビテが、慈愛に満ちた笑顔でティーラに話し掛ける。

 ティーラは驚きながらも、息子クレタ、エンターが座っているソファーセットの空いている1人掛けのソファーに、軽く礼をとってから静かに座った。

 ティーラが座ると、ラミル正教会の教会警備隊の責任者であるハーベーが、ハビテに目配せをして立ち上がりリビングを出ていった。


「ハーベー神父は教会警備隊の責任者で、彼にはリビングの外で見張りをして貰います。そしてこれからこの屋敷は、ラミル正教会の警護対象となります。分かり易く言うと、今からロームズ辺境伯邸は、ブルーノア教会が警備を担当することになります」


ハビテは真剣な表情でティーラに事情を説明する。が、しかし、言われたティーラはどういうことなのか理解できなかった。 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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