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予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
ロームズ医学大学開校

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感謝祭 

 12月25日午前、本教会病院から、ソデブ副学長・リーズ看護学教授・シルビア薬学助教授・看護師2名の合計5人が到着した。

 5人の住居はまだ完成していないので、1月3日までロームズ辺境伯屋敷に滞在することになった。

 本来なら、ロームズ正教会の宿舎で生活するところだが、今そこにはソウタ指揮官とフィリップ達4人が宿泊していた。

 職員宿舎が完成したら、女性4人はそちらに移ることになるが、ソデブ副学長は暫くロームズ辺境伯屋敷で指揮を執って貰う予定である。


 昼食はイントラ高学院の教授4人と、ブルーノア本教会病院組の5人の顔合わせも兼ねて、学長ハキル主催の会食会になった。

 医学に於いてはブルーノア教会病院の方が格上なので、副学長になったソデブが場を仕切っているが、ソデブは元々気さくな性格であり威張ったりしない。イントラ高学院の4人も、イツキの志を支持する者達であり、和気あいあいと話も弾む。


「皆さんは3月から6月まで、ここロームズがギラ新教徒によって占拠され、ハキ神国のオリ王子に乗っ取られようとしていたのをご存知でしょうか?」


食後のお茶を飲みながら、ソデブ副学長は落ち着いた口調で質問する。


「いいえ、それは初耳です。戦争をしたという話は聞きましたが・・・」


実質イントラ高学院組を率いている、内科医のノーテス34歳が怪訝な表情で答えた。

 そこからソデブ副学長と、リーズ、シルビアによる、ロームズ奪還までの話が繰り広げられた。

 特に薬剤師シルビアは、この屋敷に監禁されていた人質の酷い扱いや、当時の領主が毒を盛られたことなど、ギラ新教徒の悪逆非道振りを熱く語った。

 もちろん、イツキが行った救出作戦や軍事的機密事項は話されることはなかった。


「そうですか、捕虜になったハキ神国軍の兵士の治療を優先し、自ら薬草を採取しに出掛け、レガート軍の兵士と同じ扱いに……それでハキ神国軍の元兵士が沢山住んでいるのですね。敵国の兵士が何故ロームズに居るのか不思議でしたが、領主様にとってケガ人や病人に国境はないのですね」


基礎医学を教えるマーベリック教授28歳は、シルビアやリズの話を聞き、元ハキ神国軍の兵士がたくさん居る疑問が解決し、領主イツキの医師としての行動に感服する。


「まあイツキ君は教会の養い子だし、歳は若いが神父の勉強も終えている。ロームズの領民は領主が神父だと知っているからこそ、憎いハキ神国軍の兵士を受け入れ、ロームズをランドル大陸一の学都にするため頑張っている」


「ソデブ副学長、それでは領主様は神父様でもあられるのですね。それで領民は口々に【神に愛された町】だと言っているのでしょうか?」


「デローム教授(内科医38歳)、それもありますが、ロームズで奇跡が起こったのです。ハキ神国側の壁と堀……あれ、いつの間にか……たった3日で完成していたんです。もちろん、私達も領民も知らない間にです」


不思議なことがありますわねと、リーズはデローム教授に微笑みながら教える。


『なんだって!それは凄い奇跡ではないか!』と、何も知らなかった教授達は心の中で叫ぶが、教会組の5人がにこにこと意味あり気に微笑んでいるので、きっとブルーノア教会が絡んでいるのだと推察する。

 奇跡……それはもう神の領域である。

 これ以上の質問は出来ないだろうと、イントラ高学院組の4人は悟った。

 ここロームズ領は、ブルーノア教会の保護下にあるのだと賢い教授達は理解した。





12月30日早朝、イツキの従者パル率いる就職組が、王都ラミルを出発した。辻馬車をチャーターしながら、ロームズ領には1月8日に到着する予定である。

 ロームズ領の職員も医学大学の職員も、男性のラミル出発組は30日に出発する。

 女性は全員レガート軍の馬車に乗り、軍の交替組が警護しながら1月1日に出発し、同じく8日に到着する予定である。

 ミノス領から出発する者達は、1月3日の早朝レガートの森を通りカルート国に向かう。到着は、他の者達と同じ8日の予定だ。こちらも軍の精鋭達が護衛してくれる。


 学生達は男女の区別なく、ラミル組は1月4日に出発し、ミノス組は1月7日に出発する。

 学生の出発には、警備隊の交替組が同行し、道中の安全を守ってくれる。

 どちらも到着は1月13日の予定で、入学式の15日までには間に合う計算である。


 今回職員と学生の移動に関して、カルート国は全面的に協力体制をとってくれる。

 その段取りの為に、フィリップやソウタ指揮官達が先にカルート国に入り、シルバ皇太子と打合せをしていたのだった。

 カルート国民にとって、ロームズ医学大学附属病院が、カルート国内に建設されることは朗報だった。そして、ロームズ領の中級学校と医学大学が、カルート国の学生も受け入れると公示されると、子を持つ親たち(特に貴族や商人達)に大歓迎された。


 カルート国内は、2年に渡る戦争で教育どころではなかった。

 ギラ新教徒の教育大臣や軍事関係者が、教師や上級学校の学生まで戦争に駆り出し、戦争で亡くなった教師も多くいた。

 ギラ新教徒にとって、優秀な学生や教師は邪魔でしかなく、戦争に乗じて始末されてしまった。地方の教師や学生を動員したことは、当然シルバ皇太子には報告されていなかった。ギラ新教徒達は、シルバ皇太子も共に殺そうとしていたのだから。





 12月30日夕方、ロームズ辺境伯屋敷に住む半数の者達は教会に来ていた。

 ランドル大陸元年1月1日は、開祖ブルーノア様とランドル大帝が、混乱する大陸を平定した日である。

 全ての国で明日は祝日となり、大陸に平和をもたらした2人の英雄に感謝し、各地で感謝祭が催される。

 ほとんどの住民が教会で祈りを捧げ感謝し、教会に食料やお金等の浄財を持ち寄る。

 教会はその浄財を使い、貧しい弱者を救い医療や教育に尽力する。


 ブルーノア教会には、民からの浄財を私利私欲の為に使ってはならないという、とても厳しい戒律がある。

 教会の修復や町の発展の為に浄財を使うことは問題ない。しかし、贅沢品の購入や蓄財に関しては、監察官が厳しく取り締まりをする。

 その厳しさや容赦なさを信者はみな知っているので、ブルーノア教徒は神父様を敬い尊敬する。そして、堂々と助けを求めるのである。


「領主様、ランプの設置はこれで良いでしょうか?」

「領主様、浄財の置き場所に白い布を敷きました」

「領主様、振る舞いのパンが届きました」


領主様、領主様と、教会で行う感謝祭の手伝いに来た領民達が、教会の中庭でスープを混ぜているイツキに、嬉しそうに声を掛ける。

 イツキはそれに笑顔で応え、率先して準備を進めていく。

 普通の領主では有り得ないことである。普通の領主は、全ての準備が整った1日に教会を訪れ、領民を代表して神に感謝の祈りを捧げるだけというのが普通である。

 気前の良い領主であれば、感謝祭の日に教会に何か大きな(高額な)寄付をする。

 それは銀の燭台であったり、教会で使用する食器であったり、礼拝堂の椅子や机であったりと様々である。


 今回イツキは領主として、貧乏な為に自分の労力を浄財の代わりにしている。

 当然領民も教会も、領主様の貧乏っぷりを知っているので、ケチだとは思わない。

 そもそも領主様は、ロームズ領民以外には秘密だが、尊い神父様である。むしろ浄財をお渡ししたいと領民は思っている。

 そのせいか、ロームズ辺境伯屋敷には、新年の料理に使ってくださいと言って、朝から領民が食材を持ってきた。


 1月1日は、どこの家でも神に恵みを感謝しながらご馳走を食べる。

 貧しく食べれない者は教会でご馳走になる。その為に教会ではスープとパンを用意しておく。

 幸いロームズ領には、そこまで貧乏な家はない。なので、希望者にスープとパンを振る舞うことにした。スープはイツキ自らが作っている。



「振る舞いのスープを作る領主様が居るなんて、かなり驚きですね」


マーベリック教授28歳は、尊敬するソデブ副学長と一緒にソウタ指揮官の診察のため教会に来て、驚きの光景を見て呟いた。


「ハハハ、イツキ君……領主様はいつもあんな感じです。でもロームズの領民が、これが普通の領主様だと思ったら、それはそれで心配ですが……」


ソデブ副学長は軽く笑いながら、常識外れの領主を慕う領民を心配する。


「ソウタ指揮官、どうですか、無理に動かすと痛みを感じますか?」

「はいソデブ副学長。特に曲げた時が痛いですね」

「それは良かった。やはりイツキ君が言っていた通り、神経が通っているんだ」

「そうですね副学長、領主様が痛みを感じれば治せる可能性があると言われていましたが、毎日無理にでも動かすことにより、少しずつ感度が上がってきたようです」


マーベリック教授は、ソウタ指揮官の変化を見て嬉しそうに足を動かす。

 領主様からソウタ指揮官の診察を頼まれた時は、4人の教授が4人とも、立つことさえ無理だろうと診断をくだした。

 しかし領主様はそれに異論を唱え、痛みを感じれば可能性は有ると力説された。

 担当になったマーベリックは、毎日教会に通い無理矢理にでも足を動かしていた。すると、3日目にして痛いと感じる箇所が増えてきたのである。


「ソウタ指揮官、僕の学会発表の論文が懸かっています。頑張って必ず立ってくださいね。そして、歩いてください。領主様からリハビリは厳しく……と指示されています」


マーベリック教授は、「痛っ!」とか「もういいだろう」とか「今日はこのくらいで」と文句を言いながら逃げ腰になるソウタ指揮官に、笑顔で言いながら手を止めることはなかった。

 泣く子も黙る鬼のレガート軍指揮官も、医者には逆らえない。

 動けないので逃げることも出来ないし、時々涙を浮かべて嫌がるが、マーベリックも監視役兼リハビリ助手の警備隊エイコムも、怒鳴られても完全に無視する。



「マーベリック教授、ソウタ兄さんの様子はどうですか?」


イツキは振る舞い用のスープを4人分トレイに載せて、診察の様子を見に来た。


「これは領主様、はい、仰る通り痛みを感じる箇所が増えてきました。希望は有ると思います」


マーベリックは患者の変化を克明に説明しながら、嬉しそうに差し出されたスープを遠慮なく食べ始めた。

 なんだかソウタ指揮官から睨まれている気がするが、イツキは完全スルーして「美味しいですか?」とスープの味を尋ねた。


「いや、驚きです!美味しいです。本当に美味しいです」(マーベリック)

「美味しい!領主様のスープがまた食べれるなんて……セブルが知ったら泣きます」


休暇を取って本国に帰っている【領主様をお守りする会】の会員であるセブルに対し、申し訳ないけど『やったぜ!』と喜ぶエイコムである。




 午後6時、ファリス(高位神父)のシーバス様が礼拝堂に明かりを灯されると、教会の壁や中庭に設置された鉱石ランプにも、一斉に明かりが灯される。 

 仕事の関係で1日に来れない人や、人混みを避けたい人々は、感謝祭の前日である12月30日の午後6時から、教会で祈りを捧げても良いことになっている。


 新しく赴任してきたモーリス(中位神父)が教会の門を開けると、待っていた領民が数人、礼拝堂へと向かって行く。礼拝堂の横に設置された浄財置き場に、皆なにがしかの気持ちを置いてから、礼拝堂の中に入り、ファリス様の祈りが始まるのを座って待つ。

 この冬は例年より少し寒い。一般神父が暖をとるために焚き木に火をつけた。


 礼拝堂では、午後6時から明日の夜9時まで、3時間おきに祈りが捧げられる。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

やっと確定申告が終わった。ばんざーい(*^^*)

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