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予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
ロームズ医学大学開校

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ソウタ指揮官の悲劇(2)

 エイコムは、領主の言葉と様子(涙を零す)に戸惑いながらも決心する。

 そう言えば領主様は成人されたばかりだ。不安なことや辛いことがたくさんあるはず……俺なんか只の下端だけど、そんな俺をイツキ様は信用してくださっている。だったら俺は男として、その信頼に答えるしかないと。


「分かりましたキ……領主様。俺で役に立てるのなら、誠心誠意ソウタ指揮官のリハビリに協力いたします」


思わずキア様と言い掛けて訂正し、エイコムはイツキの方をきちんと向いて答えた。


「ありがとうエイコム。気難しくて、我が儘で、強情なソウタ兄さんだけど、ビシバシ監視……いや、指導してくれ」


「・・・今、監視って言い掛けましたよね?」


ぱーっと明るい笑顔でお礼を言う領主の口から、なんだか不穏な言葉をたくさん聞いたような気がして、エイコムは眉を寄せる。


「気のせい気のせい……あつ!馬車が来た。きっとあれだな」


秘技はぐらかしで会話を逸らし、イツキは正面からやって来た馬車を指差した。

 何をもってあの馬車だと特定するのか、エイコムには全く分からない。どう見ても普通の小型の馬車であり、何処でも走っている何の特徴もない馬車だった。

 イツキは御者台から降りると、やって来る馬車に向かって元気よく手を振る。

 向かって来た馬車は少しスピードを緩め、イツキの前で止まってくれた。


「どうした坊主、何か用かい?」と御者が尋ねるのと同時に、馬車のドアが開き中からフィリップが飛び出してくる。


「イツキ様!どうされたのですか?」

「どうって、皆を迎えに来たんだけど。ソウタ兄さんは大丈夫って……おいフィリップ」


フィリップは嬉しさと安堵でイツキを抱き締める。イツキは照れたように文句を言っているが、その顔はフィリップと同じで嬉しそうだった。

 まるで久し振りに会う兄弟のような感じだなと、その光景を見てエイコムは思った。

 でも、馬車の中からその光景を見ていたドグとガルロは、「は~っ」と特大の溜め息を吐いていた。

 ラミルを離れてから、イツキ様は無理をしていないだろうか……倒れていないだろうかと、心配性の母親、兄、はたまた恋人?みたいに、毎日ブツブツ言いながら心配する、鬱陶しいフィリップに辟易していたのである。


「このままロームズ教会に向かってください。全員そこで降ります」


イツキはフィリップと御者に行き先を告げ、自分も馬車に乗ると、エイコムに教会へ向かうように指示を出した。




 フィリップ達の乗った馬車は、教会の中まで入った場所で停車した。

 イツキは馬車の横に少し大きめの、背凭れと肘置きの付いた丈夫そうな椅子を置く。

 ドグとガルロが、自分では動けないソウタ指揮官を2人がかりで抱えて、慎重に馬車から降ろしてゆく。そしてイツキが用意していた椅子に座らせた。


「ソウタ兄さん、久し振りのロームズはどうですか?」


2年前にハキ神国がロームズに戦争を仕掛けた時、ソウタ指揮官は冒険者としてイツキと共にロームズに来ていたので、2度目のロームズ入りだった。 


「イツキ君、普通は体調はどうかと訊くんじゃないか?それに、いつから俺は兄さんになったんだ?」


久し振りに剣の弟子と再会したソウタは、憎まれ口がきける程度に回復した様子で、椅子の座り心地を確認する。背凭れに置いたクッションも気に入ったようである。


 ソウタは自分が再び歩けるようになるとは思っておらず、同情したイツキが、ロームズでのんびりと生活できるよう計らってくれたのだろうと勘違いしていた。

 そう、完全に、すっかりと勘違いしていたのだ。


「フッフッフ、つい先程からですよ。ソウタ兄さんは、僕と同じように教会で育った仲間ということにします。ソウタ兄さんは、名医の揃ったロームズに治療とリハビリに来たんです。勿論、学生達の実験体としての役割も担っています」


「はあ?実験体だと!」


ソウタは全身でイヤそうにし顔も歪めるが、イツキは全くお構いなしである。

 イツキは4人をシーバス様の執務室に連れて行くと、これからの予定を打合せする。

 ソウタ以外は顔見知りなので、何の問題もなく?話し合いは直ぐに終わった。


「今日からここがお2人の住居になります。何せソウタ指揮官もフィリップ秘書官補佐も、レガート国内では死んだことになっているので、フィリップさんは再び神父様になり、あぁ、髪はバッサリ切ってくださいね。ソウタ兄さんの変装は・・・緑の髪の毛にホクロくらいですね。ドグさん、指導をお願いします」


イツキは4人を神父の住居に連れて行くと、部屋は手前の部屋で、フィリップとソウタには変装するよう命令した。

 お願いではない。指示でもない。命令である。

 ここはロームズ領であり、職も失った死人扱いの2人は、ロームズ辺境伯が養うので、基本的には居候待遇となる。

 勿論イツキが、ただ飯を食わせるはずもなく、容赦なくこき使われる2人である。

 嬉しそうに微笑むイツキを見て、ドグとガルロは、軍学校の同期生の2人に同情の視線を向ける。

 この2人は、イツキの黒い微笑みの怖さを、身をもって体験済みだった。


「明日、隣のビビド村から、子守りがひと段落したミリド(44歳)さんが手伝いに来てくれます。ミリドさんなら全員顔見知りだし、安心して任せられます。医学大学の入学式が終わって来賓が帰国したら、うちの屋敷に移動していただきます。それまでは教会で頑張ってください。それでは長旅でお疲れでしょうから、僕は失礼いたします。ああ、ドグさんとガルロさんは外出自由ですよ」


じゃあねとイツキは明るく手を振って、いろいろ言いた気なソウタの視線をかわし、次の訪問先である完成した医学大学へと向かう。




 レンガと木材を使って完成した大学の本館は、壁も綺麗に仕上げられ、どこから見ても立派な学校に見えた。

 大きさは上級学校の特別教室棟より大きく、1階は35人収容できる一般教室が6部屋と、50人収容できる中教室が1部屋、事務室と資料室、そして、広いエントランス。

 2階は学長室、教授室8部屋、助教授室3部屋、共同助手室、70人収容できる中教室が2部屋。

 3階は図書室、350人収容できる大教室、倉庫2、資料室2となっている。

 2階と3階の教室は階段式になっていて、明るくて広い。


 現在はカーテンの取り付け等が行われているが、正式な開校は1年後ということもあり、2階、3階の教室の机や椅子、本棚はこれからの工事になる。

 入学式迄に工事を急いでいるのは、3階の大教室だった。ここは、ロームズの領民が交代で工事をしており、イツキの姿を見付けた領民達が、嬉しそうに手を振り挨拶してくれる。

 医学大学の本館は、ロームズ領民が血と汗と涙を流して造り上げた建物である。その為、皆の思い入れも強く、今では領民の愛すべき学校であり誇りであり希望である。


 イツキは学長室のドアをノックし、自分の名前を告げた。

 中から「どうぞ」という複数の声が返ってくる。


「皆さんお揃いだったのですね。ちょうどいい。実は皆さんにお願いがあります」


学長室の中には、執務机に座ったハキル学長の他に、応接セットに座った4人の教授達が揃っていた。

 イツキはにっこりと微笑むと突然お願い事を伝え始めた。


「本日レガート国より、大ケガをして歩けなくなった患者が到着しました」


3人掛けの長椅子の端にちょこんと座り、挨拶もそこそこにイツキは本題に入る。


「足をケガしたのでしょうか?」


内科と外科の基礎医学を教える、マーベリック教授28歳が質問する。


「いいえ、彼はある人物からナイフで刺されました。人混みを歩いていた時、後ろから突然腰の上辺りをひと突きにされ、一命は取り止めましたが下半身から下が動かなくなりました」


「それでは下半身に繋がる神経をヤられたのですか?」


眉を寄せ不快な表情で、ハキル学長が確認するように訊ねる。


「はい、そう思われます。ラミル正教会病院のパル院長は、再び歩けるようになるのは98%無理だろうと言われました。刺した犯人はギラ新教のプロの殺し屋で、体の作りを熟知しています。迷うことなく1箇所だけを刺し、廃人同様の体にしました」


「プロの殺し屋ですか?そんな恐ろしい奴に狙われた人物とは、いったいどの様な男性なのでしょうか?」


内科医のデローム教授38歳は、殺し屋に狙われるような人物に興味が湧いた。


「一言でいうと軍人。グレーの髪にグレーの瞳のがっしりした体型。剣の腕は一流で弓でも馬術でも、彼の右に出る者は数える程しか居ないでしょう。性格は頑固な俺様だし、泣く子も黙るような鬼上官で、僕の剣の師匠でもあります。違う方向から彼を見ると、伯爵家の子息だというのに貴族らしくない気さくな性格。しかし、策略家であり一筋縄ではいきません。年齢は32歳位だったと思います」


「それでは、貴族でありレガート軍の上官と言うことですか?」


薬学担当のムッター教授は、少し嫌そうな顔をして質問する。ムッターはどちらかと言うと外傷用の薬草が専門である。なので多くの軍人やケガ人に薬草を処方してきた。その所為か軍人が嫌いだった。


「そうですね。彼がギラ新教に命を狙われたのは、軍のナンバー2であり、大変優秀だったからです。レガート国王は血を好みません。王も国民も戦争を望まぬ平和主義ですが、ギラ新教徒は血と金を好み、人の命など何とも思っていません。そして各国で、国王や王子の暗殺や、王家の崩壊を計画をしています。勿論、3度にわたる戦争も、後ろで糸を引いていたのはギラ新教でした。奴等は、ただ単に邪魔者を排除しようとしたのです」


「ギラ新教……大陸中の薬草を買い占め、薬草を高騰させている奴等ですね?」


内科医のノーテス教授34歳は、ピクリと眉を動かし学長の方を見ながら質問した。

 此処に居る教授達は、政治に興味など無かった。それはイントラ高学院で働く医者に共通することである。

 しかし先日、ノーテス教授は薬草学のムッター教授と一緒に薬草の買い付けに出掛け、驚愕の事実を目の当たりにしたばかりである。

 薬草は何処の店でも、信じられない値段になっており、しかも品薄でとても必要な量の薬草を揃えることなど出来なかったのだ。

 ノーテス教授は、その原因がギラ新教であると、親友でもあるハキル学長に聞いていた。そしてその事実を、他の教授達にも報告していた。


「奴等にとって薬草は、人の命の為にあるのではなく、単に金儲けの道具でしかありません。そんな奴等と戦うために、僕はそのケガ人を……ソウタ指揮官をリハビリで歩けるようにしたいと思ってます。2%の可能性に懸けてみたいのです。その根拠もお話ししましょう」


イツキはそう言って、ソウタ指揮官がケガをした日からの病状を、事細かに説明していく。歩けると信じる根拠や厳しいリハビリ訓練についても、独自の持論を展開する。


 1時間後、取り合えず明日全員でソウタ指揮官を診察し、有効だと考えられる全ての方法を試しながら、歩けるようになるまでの診療記録をつけ、学会で発表するテーマのひとつとして、挑戦してみようということになった。

 何故か全員、フフフと不敵に笑っている。

 難解な課題を与えられた教授達は、その優秀さ故に闘志を燃やすのだった。


 頑張れソウタ指揮官・・・  

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

次の更新は23日(土)の予定です。

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