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予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
ロームズ医学大学開校

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ただいま

新章スタートしました。

 12月20日、必死で出発を引き留める全員(屋敷の者、秘書官、教会関係者)を笑顔でごまかし、御者にパル、お供に軍医のベルガを連れて、ロームズ辺境伯邸を出発した。

 ベルガがお供しているのは、病み上がりのイツキを心配する皆を、説得するギリギリの妥協策として、イツキが考えたものである。


 午後2時半、イツキはランカー商会に寄って、ロームズ出店の最終確認をする。


「これはロームズ辺境伯様、昨日は如何でしたか?返礼品の評価はどうでしたか?」

「ランカーさん。大好評でしたよ。勿論、ペンの注文も抜かりなく……フッフッフ」


事務長のティーラから預かった注文票を見ながら、イツキは黒く微笑む。


「イツキ様、顔が悪人顔になってますよ」

「何を言っているパル。これは商売なんだ。うちの優秀な事務長が勝ち取った営業努力の賜物であり、ラミル屋敷の維持費になる収入源でもある」


イツキはランカーに注文票を渡しながら、従者パルに教育的指導をする。そして、来年はパルにもノルマを課すと言い出した。


「合計86本……予想以上ですね。製造が間に合えばいいのですが……それでは1月から3月までは予約のお客様だけに販売し、金額は銀貨2,5枚(2万5千円)4月以降は予約は受け付けず、お1人限定2本までとし、金額は銀貨3枚(3万円)。それでよろしかったでしょうか?」


ランカーは予約の多さに戸惑いながらも、嬉しそうにこれからのことを確認する。


「はい、それでお願いします。で、アトスさん(トロイの兄)は予定通りロームズ領に出発されましたか?」


「はい、ロームズ辺境伯様、月末までには開店出来ると思います。中級学校の隣に仮設店は出来ています。それと、これは大学教授の皆様がお使いになるペンです」


ランカーはイツキに頼まれていたペン20本を渡し、ポム弾のことや今後の予定を確認し、お土産にと、北海の珍味をイツキに渡した。





 午後8時、予定より遅くなったが、イツキ達3人はギニ司令官の領地であるソボエに到着した。

 今日の予定は前々から決定していたので、当然ギニ司令官の屋敷には連絡済みであり、出来る執事のボイヤーさんをはじめ、屋敷で働く皆さんが大歓迎をしてくれた。

 イツキの大事な友であるミム(通信鳥)は、昨日からレガートの森に向けて飛ばしてある。きっと明日の午前中には、聖獣モンタン(空飛ぶ魔獣ビッグバラディス)を連れて、ソボエに到着するだろう。


「ボイヤーさん、これは僕が発明したペンです。昨日行われた領主就任式の返礼品なのですが、ギニ司令官にお渡しするより、ボイヤーさんの方がいいと思いまして」


豪華な夕食をご馳走になり、一緒にお茶を飲んでいた苦労人のボイヤーに、イツキはペンを差し出した。

 ちなみにギニ司令官には、大きな箱に入った皿を渡しておいた。

 ボイヤーは早速ペンを試し、涙を流して……本当に泣きながら感動していた。


「こんな素晴らしい発明品を、私などが頂いても宜しいのでしょうか?」


「勿論です。ギニ司令官には……まあまあお世話になりますが、ボイヤーさんと屋敷の皆さんには大変お世話になりますから。これは、他の皆さんでお分けください」


イツキはそう言って、給仕のために部屋で控えていた侍女長さんに、無理矢理お礼の入った紙袋を手渡した。


「ロームズ辺境伯様、このような御気遣いは必要ありません。ロームズ辺境伯様はバイヤ侯爵家の恩人でございます」


困惑しながらも、目上の者から頂いた物は、礼儀としてその場で中を確認しなければならない。全く重さを感じない、もしかしたら何も入っていないのでは?と思わせる、不思議な袋の中を確認するため、侍女長は恐る恐る袋の中に手を入れる。

 そして取り出した、妙に軽い光沢のある美しい物体を見て固まった。


「ロームズ辺境伯様、も、も、もしやこれはシルクのハンカチでは?」


「はい侍女長、シルクはロームズ領の特産品なんです。8枚しかありませんが足りたでしょうか?足りなければ、帰りにまたお邪魔しますのでお持ちします」


「いえいえ、屋敷の奉公人は私を入れても7人ですから……いや、でも、これは、こんな高価なものを頂く訳には……」


高価な心付けに恐縮した侍女長は、どうしたらいいものかと、執事のボイヤーさんに身の振り方を尋ねる視線を向ける。


「侍女長、私はもっと高価な物を頂きました。ここは、ロームズ辺境伯のお気持ちを、有り難く頂戴いたしましょう」


 和やかにお茶を飲み終えると、イツキは人払いをし急に厳しい顔をして、ボイヤーにある情報を教えた。


「ヘーデル侯爵(ミノス領主)が、ギラ新教に洗脳され失脚しました。正確にはほぼ洗脳され……ですが。これからミノス領は混乱するでしょう。考えられる対策は打っておいた方がいいと思います。既に捕らえた貴族が3人居ますが、まだ、掃除が必要でしょう。ギニ司令官は、ミノス領の大掃除の責任者です」


「なっ!……それは一大事ではございませんか!ミノスから逃げる者が、レガートの森沿いの道を選ぶなら、ソボエに来る可能性が・・・」


可能性が大きいと言い掛けて、ボイヤーはその危険性と他の問題を瞬時に考え顔色を変える。

 主であるギニ司令官が指揮を執るので、自領にまで手を回す余裕はないだろうと考えたイツキは、打つべき対策をボイヤーに授ける。

 ボイヤーは優秀な執事だが、ギラ新教徒には不慣れである。

 イツキはギラ新教徒の特徴や、【祈りの3番】のことなども教え、ソボエに逃げてくる者あらば、絶対に捕らえるように指示も出した。


 打合せを終え自室に戻ったボイヤーは唸った。

 やはりただの領主ではない。

 ハキ神国軍を撃破する軍事的才能、魔獣を操る特殊な才能、物事を先読みする才能、そして危険を回避する為の具体的な方法を考える才能……何より凄いのは、それらを他者の為に使う度量の広さである。

 主とキシ公爵が、学生ながら治安部隊指揮官補佐に任命したのも納得できる。

 今回の情報を知らずにいたら、大変なことになるかもしれない……自分の主では、そこまで気が回らないだろう……そう思うと、ここソボエが、ロームズ辺境伯の移動に必要な中継地であったことを、神に感謝しなくてはならない。




 12月21日、朝食後イツキはレガートの森の入口付近で薬草採取をし、待っていたモンタンと合流した。

 モンタンを初めて見るベルガとパルは、規格外のイツキに、最早何も言えることがなかった。そして、執事のボイヤーさんと一緒に、モンタンの頬を撫で撫でする。

 よくよく見ると愛嬌のある可愛い顔をしているモンタンを、ベルガが凄く気に入ったのは意外だった。そしてモンタンもベルガが気に入ったらしく羽まで触らせていた。

 その光景を見ていたイツキが、ニヤリと黒く微笑んでいたことをベルガは知らない。

 ベルガが高所恐怖症でないことを祈りながら、イツキは晴れた冬の空を、ロームズに向けて飛び立った。





 ◇ ◇ ◇


 21日午後4時、途中で薬草をたんまりと採取したイツキは、前回と同じではなく、ロームズ辺境伯屋敷の隣の空き地に着地した。

 当然その姿(最強魔獣ビッグバラディス)を目撃した領民や建設従事者は、驚き過ぎて腰を抜かしそうになったが、3日前に掲示板に貼り出されたお知らせを思い出し、なんとか大騒ぎにならずに……済むわけもなく、子供を中心とした野次馬が、怖いもの見たさに集まってきた。


「おーい、みんなー、領主様が帰られたぞ!」「領主様が、聖獣に乗って帰られたぞー!」と、領民達は嬉しそうに大声で叫びながら、領主の帰還を喜ぶ。


ロームズに住む領民達は、イツキの、領主様の特異性を知っていたし理解していた。

 そもそもイツキ様は、特別な神父様である。よそ者には絶対に秘密だが、ロームズの領民はイツキ様なら聖獣を操っても不思議ではないと思っていた。

 ラミル屋敷の者やイツキ組の連中、ブルーノア教会の者達同様、ロームズの領民は、既に感覚が普通ではなくなっていた。


「嘘だろう・・・ほ、本当に魔獣に乗ってるのか?」

「おい大丈夫なのか?本当に俺達は食べられたりしないのか」

「俺はまだ死にたくない!」


驚き恐れて逃げ回ったのは、よその領地から来た建設従事者達だった。


【近々領主様がお帰りになられるが、領主様は聖獣に乗って戻られる。畏れ多くもブルーノア教会の聖獣は、心優しく可愛い顔をしているので、見たい者は近くから見ても構わない】と、確かに掲示板には書かれていた。


 だけど・・・

 だからって、本当にそんなことが、この世に起こり得るとは信じてなかった。

 ロームズ領の領民は、ユーモアがあるなぁ……なんて笑い話にしていたのだ。


「「「お帰りなさい領主様ー」」」と、子供を中心に領民たちが駆け寄ってくる。


「みんな、ただいま!元気だったかー?」

「「「はーい元気でーす!」」」


モンタンに水を飲ませながらイツキが訊ねると、子供たちは元気に応えた。

 初めて見る聖獣に目を輝かせている子供達は、もっと近付きたそうにしているが、イツキはモンタンの頬を撫でて「また呼ぶね」と言って、モンタンを山に返した。

 モンタンが両翼を羽ばたかせると、砂や小石が舞い上がり、近くに居た子供は強い風に飛ばされそうになる。

 大きな大きなモンタンは、イツキたちの上空をクルリと旋回し、「モンモーン」と可愛い声で別れを告げ、ランドル山脈の峰に向かって飛んでいった。


「「「ウオーッ!すっげー」」」と、領民達は感嘆の声をあげる。

 娯楽の少ないロームズの領民は、次第に小さくなっていくモンタンを、手を振りながら見送りる。そして、うちの領主様は凄いわーと、キラキラと輝く瞳で見詰める。


「お帰りなさいませ御主人様。派手なご登場ですね」

「ただいまオールズ。留守中問題は無かったかな?」


苦労人の家令オールズ24歳が、やれやれという顔をして歩いて近付き主を出迎える。準男爵とは思えない、普通の服装なのは主の影響かもしれない。

 イツキは領民に「じゃあね!」と手を振ると、自分の屋敷に向かって移動する。移動時間僅か3分である。

 屋敷の庭で領主を迎える、医学大学の学長ハキルや教授陣、屋敷で働いている奉公人が、ポカンと口を開けているのは仕方のないことである。

 いくら掲示板を見ていたとしても、驚異に畏怖、とんでもない異端児に向けられる感情はそんなものである。


「皆さんお久し振りです。さあ、報告を聞きましょう」


何事も無かったかのような爽やかな笑顔で、イツキは皆に声を掛けた。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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