表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
怒濤の後期スタート

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/222

忍び寄る影

◇◇ マサキ公爵邸 ◇◇


 7月29日、ナイトになったパルは、従者の勉強の為マサキ公爵邸を訪れていた。

 従者の心得を教えてくれるのは、ヨシノリの兄であるタスク20歳の従者ノランである。ノランは23歳のごっつい系武闘派で、マサキ領の伯爵家の次男であり、タスクやヨシノリとは母方の従兄弟だった。


「俺は領主様の従者ではないが、タスク様の従者として毎日のようにレガート城に行っている。タスク様は現在外務部で働かれていて、俺はその間、警備隊本部で体を鍛えたり、時々仕事をさせてもらったりしている。大臣や領主の家族の従者の中でも若い者は、大体俺と同じように警備隊に居る」


ノランはレガート城の見取り図を書きながら、馬車の置場所や従者の待機場所を教える。また、レガート城の北西にある警備隊本部の簡単な図面等も書いてくれた。


「それじゃあノランさん、俺も警備隊本部で働かせて貰ったり出来るんでしょうか?」


警備隊本部で働けるかもしれないと聞いたパルは、目を輝かせながら質問する。本当は警備隊にも憧れていて、ちょっと嬉しかったりする。


「お前は武術も出来そうだし頭も良さそうだから、大丈夫だろう。その前に大事なことは、レガート城で働いている大臣や大物貴族を覚えるんだ。勿論その従者も覚えなければならない。貴族としての立ち居振舞いは、上級学校で友人から教わればいい。まあ従者とは、何があっても主を守り抜くことが1番だから、怪しい奴を近付けず、何時でも戦える準備をしておくことだ」


そう言いながらノランは、レガート城の組織図を書き始める。国王の直ぐ下に秘書官が居て、その下に10人の大臣が居る。その下は副大臣だか、他に担当官とか呼び名の違う役職もある。


「はい分かりました。見取り図も組織図も直ぐに暗記します。剣は朝イチで用意しました。ノランさん、これまで暴漢や暗殺者に遭遇したことはありますか?」


「勿論あるさ。マサキ領から王都に向かう道中とかな。マサキ領からキシ領までの間は、田舎道が続くから山賊紛いの奴等が出るんだ」


ノランは思い出して腹が立ったが、ふとロームズ領のことを考え、気の毒そうにパルを見る。ロームズ領はあまりにも遠かった。レガートの森を通れば魔獣と戦うことになる。何よりも他国の中の飛び地なのだ。

 そんなこんなの授業を受けていると、昼前になって、宿題することに飽きたヨシノリがやって来た。


「あー終わらない……パル、ちょっと手伝ってくれないか?」

「30分だけだぞ。それより、さっきから屋敷の前を何度も同じ人間が彷徨いてます。大丈夫でしょうかノランさん」


「なんだと!本当か?」

「はい、身形は平民風ですが、俺から見たらなんか違うんですよ……どう言ったらいいかなぁ……1人は傭兵風で1人は貴族っぽい感じです。あれ?今正門の前を通り過ぎたように見えたのに……」


パルは確認するように窓の外を覗く。ヨシノリとノランも窓に近付いていく。


「お前、勉強しながら外の様子まで監視していたのか?」

「いいえノランさん偶然です。俺がここに来た時に門の前に居た奴等なんんです。10時頃ふと窓の外を見た時にも、中を覗き込んでいた気がして……ヨシノリが入って来た時も姿が見えたんです」


おかしいなあ何処へ行ったんだろうと呟きながら、パルはノランを連れて屋敷の外まで確認しに出てきた。すると2人の怪しい男が屋敷の庭の植え込みの中に居た。


「お前達、誰の許可を得て屋敷の庭に入って来たんだ!」


ノランは叫びながら剣を抜く。そしてパルに視線を向け門番の居る方を顎で指した。パルは頷き門番の居る詰所に走って向かう。

 するとそこには、変わり果てた姿の門番が血を流して倒れていた。


「ノランさん、斬られています!気を付けてください!」


パルはそう叫ぶと剣を抜き、緊張した表情でノランの元へ駆け付ける。


「目的はなんだ?誰の差し金だ!」


ノランの問いに答えることもなく、侵入者はいきなり斬り掛かってきた。1人は手練れのようでニヤリと笑うと、ノランに向け容赦なく剣を振り下ろす。

 パルはもう1人の男と対峙する。そして、おや?っと首を捻りながら男を見る。


「もう1人の男はどうした?お前達の雇い主は一緒じゃないのか?」


先程までチラチラと屋敷の様子を窺っていた貴族っぽい男の姿がない。パルは剣を構えながら傭兵らしき男に問う。男は「チッ!」と舌打ちし、問答無用と斬り込んできた。

 パルの腕は上級学校の学生の中でもトップ5に入る実力なのだが、真剣で戦うのは初めてだった。そのせいか致命傷を負わせるような攻撃が出来ない。相手の腕を斬ることが精一杯だった。

 その時、ヨシノリから知らせを受けた警備の2人が、屋敷の中から飛び出してきた。これで状況はこちらの圧倒的有利になった。


 パルが相手をしていた男は警備の人に取り押さえられたが、ノランが相手をしていた男は、ノランにケガを負わせて逃げていった。


「ノランさん大丈夫ですか?」

「大したことはない。それより逃げた奴を追ってくれ!」


ノランにそう言われたパルは、逃げた奴を追い掛ける警備の人の後を追って走りだす。

 しかし逃げた男は、屋敷の前に待機させていた馬車に飛び乗り、あっという間に町の中の消えていった。

 どうやら犯人は3人か4人組だったようだ。侵入した2人と馬車で待っていた者が1人か2人・・・自分が目撃した貴族っぽい男は、馬車に乗っていたのかもしれないとパルは思った。

 取り押さえた犯人は、結局何も真相を語らないまま警備隊に引き渡された。



 王都で領主の、しかも公爵家の屋敷が白昼襲撃された事件は、直ぐに国王まで報告され、レガート城では大騒ぎになった。

 知らせを聞いたヨシノリの兄タスクは、従者であるノランの代わりに連れてきていた屋敷の警備責任者と、王宮警備隊5人に伴われ直ぐに屋敷へと戻った。

 父であるマサキ公爵は領地へと帰っていたので、全ての判断は長男であるタスクがすることになる。

 王宮警備隊の5人とは別に、治安部隊の指揮官ヨムが、3人の部下を連れ王命により事件の調査に向かった。





◇◇ ボンドン男爵の別邸 ◇◇


 レガート城の南西方向、上級学校から4キロ離れたキシ領に向かう街道沿いに、ボンドン男爵は新しく別邸を購入していた。

 ボンドン男爵の長男であるルシフ16歳は、イツキの同級生でありギラ新教徒である。明日には学校に戻らねばならない為、2日前から別邸に滞在していた。


 ヤマノ侯爵暗殺事件以後、上手く逃げ延びていたボンドン男爵は、そろそろ活動の場を王都ラミルに移そうと考え、その準備を信頼する部下のグラフに任せていた。

 ボンドンはヤマノ領で生活していたが、ヤマノ侯爵から爵位を貰った訳ではなく、ボンドンの父親が先々代の王(バルファー王の父)から準男爵位を授かり、クーデター後の王(バルファー王の叔父)から男爵位を授かっていた。本来なら領地なしの男爵として、王都で生活しているところである。

 しかしバルファー王になってから、ヤマノ領に住居を移していた。


 国王から爵位を授かった貴族の内、領地を持たない貴族は、王の許可があれば何処の領地で生活しても良いことになっている。しかしその場合、爵位手当が貰えなくなる。だから国王から爵位を授かった男爵以上の貴族は、ほぼ王都ラミルで生活している。

 男爵の爵位手当は金貨2枚である。それが有ると無いとでは生活が大きく変わってくるのだ。(ちなみに、クレタやヤンの家も国王から爵位を授かった、領地なしの男爵家の子孫である)


「ねえグラフ、爵位を失ったギラ新教徒の子息を匿ってどうするの?」

「ルシフ様、それは男爵様から直接お聞きください。ただ彼等は……まあ色々と使えるので、使い捨ての駒程度には働いて貰おうかと……」


グラフは少し吊り上がった焦げ茶色の瞳を輝かせ、右口角を上げ不気味に微笑んだ。

 グラフは年齢35歳、細身だがかなり身体は鍛えている。焦げ茶の髪は肩よりも長く、前髪で顔の右半分が覆われているため、神経質そうな細面の顔の頬の傷は隠れている。

 殺人罪で処刑されるところを、天才的な剣の腕をボンドンに買われ、処刑を上手く免れた。それ以来グラフはボンドンに仕えている。

 グラフは血を見ることが好きな男で、人殺しに対し何の罪悪感も持たない、破戒者であり異端者である。ギラ新教の大師ドリルに会ってから、その傾向はより強くなっていた。善人にとって汚い仕事が、グラフにとっては楽しい仕事だったりする。


 ヤマノ侯爵暗殺事件後、ヤマノ領に現れた大師ドリルを守り、隣国ミリダまで無事に送り届けたグラフは、途中、治安部隊の精鋭を苦もなく斬り死傷させていた。


「ふ~ん、それでマサキ公爵から爵位を奪われ、親を捕らえられた憐れな子息に、復讐するように勧めたんだ」


ルシフは手に持った皿の上のクッキーを食べながら、怠そうに話し掛ける。


「ルシフ様、彼等は貴族以外の生き方を知らないのです。ですから、ギラ新教が新しく創る国の貴族になれると教えれば、何だって遣ってくれます。商人としての才をお持ちの男爵様のように、国王だとか領主に頼らずに生きてゆける貴族など、ほんのひと握りしか居ないでしょう」


「へ~っ、そんなもんなんだ。この屋敷の裏の家に居る奴等は傭兵だよね?あれは駒の手伝いをする為に飼ってるの?」


「ルシフ様、そんな、飼ってるなんて……立派な殺し屋になれるよう私が指導しているのです。警備隊や治安部隊よりも強い暗殺部隊を作るよう、私が大師様から直々に命を受けたのです」


グラフはテーブルの上に並べた形状の違う5本の剣を順に手に取り、うっとりと眺めながらルシフに説明する。どの剣も護身用ではなく、人を殺す為に作られた剣である。



 ボンドン男爵は、ヤマノ領では他国の優れた商品を取り扱う輸入商として暮らしていた。輸入商としてボンドンは、ヤマノ領の貴族に珍しい商品を売ることで人脈を広げていった。その裏では貧乏な貴族に高利で金を貸し、支払いが滞ると屋敷を奪い資産を増やしていた。

 治安部隊と王の目にマークされていると充分承知の上で、ボンドンはラミルでも輸入商として、堂々と商売をするつもりである。

 表向きの屋敷や商店は、レガート城にもっと近い場所に用意してあった。勿論、借金のかたに手に入れた物件である。


「そう言えば、ヤマノ領に新しい伯爵が誕生したそうですよ。つい先日ヤマノ侯爵が発表したようです」


「ふ~ん、後期から僕はラミル出身ってことになるから、もう関係ないけどね。学校でもヤマノ領の奴はクズしか残ってないからな……まあでも、僕が指導しないと何も出来ないだろうから、仲間の振りくらいはしておくよ」


 上級学校では、ヤマノ組を引っ張っていたギラ新教徒のブルーニとドエルが居なくなり、実質1年のルシフが指揮を執っていた。

 しかし、ギラ新教徒に対し厳しくなった学校では、崇高なギラ新教の教えを布教するのも難しい。夏休みの間に信者を増やしたかったが、大師ドリルは忙しくてレガート国に来なかった。


 ルシフの目標は、自分が執行部の役員になることだが、別に急いではいない。

 3年生になってからでも構わないと思っている。面倒な正義を振りかざす現執行部や風紀部の上級生が卒業したら、敵らしい人間は2人しか居ない。

 同級生のイツキとナスカがいくら頑張っても、同学年には他に敵は見当たらない。

 邪魔なら、イツキもナスカも消して貰えばいい……そんなことを考えながら、ルシフはグラフの方を見てニヤリと笑った。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

大雨の被害に心が痛みます。

私も初めて大事な物を2階に移動し、直ぐに避難できるよう準備して一晩過ごしました。

こうしてまた小説が書けて良かった・・・

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ