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予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
入学試験と旅立ち

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イツキ、領主任命式を放棄する(2)

 領主達がサイリス(教導神父)のハビテから話を聞き始めた時、国王と秘書官、司令官も同時に戻ってきた。

 ハビテはミノス正教会が掴んでいる情報を、始めから説明し直していく。


「なんだと!ヘーデル侯爵は税率を勝手に上げたというのか?」


「はい王様。年末に納める後期の税率を上げると通達が出たのは12月5日だそうです。ただ、不思議なことに、それはミノス領の全ての領地ではなく、5つの領地だけに適応されたようです」


国王は驚きと怒りの表情でハビテに問い、ハビテは残念ながらと……冷静に答えた。


「その領地の貴族は、ギラ新教徒とみて間違いないだろう。私の所に報告が上がって来ていないと言うことは、ホン領に続き治安部隊の者が消された可能性がある……」


キシ公爵は厳しい顔をして、直ぐに確認する必要があるなと呟く。


「では、イツキ君が言っていたように、ギラ新教徒は本当にホン領やミノス領も狙っていたと……ハーッ、すまないイツキ君。君が先程言っていた特産品の製造に関して、懇意にしている豪商の主が、ある貴族に新しい工場を任せたらどうかと助言に来た・・・我が領にもギラ新教徒が居る可能性がある」


突然のホン領主の告白に、場の空気が一段と重くなる。


「それでは、ミノスとホンの両方の貴族を調べましょう。ミノスはギニ司令官にお任せし、ホン領は秘密裏に王の目が動くことにします。下手に感付かれては不味い」


キシ公爵は、青くなっているホン領主に同情しながら、自分が動くと宣言する。


「では、時間の関係もあるので、早速ヘーデル侯爵の洗脳が解けるかどうか、サイリス様に祈りを捧げて頂こう」


バルファー王は立ち上がると、ハビテにお願いしますと頭を下げてから、全員でヘーデル侯爵を監禁している部屋へと移動していく。





 部屋に入ると、あまりにも煩く叫ぶせいで猿ぐつわをされ、椅子に座った姿勢で縛られていたヘーデル侯爵が、部屋の奥でウーウーと唸りながら皆を睨み付けた。

 領主達は黙ったまま、大きな円形テーブルを囲むように席についていく。


 サイリスのハビテだけがヘーデル侯爵に近付き、「これはヘーデル侯爵様、大丈夫ですか?」と言いながら猿ぐつわを取った。


「お前達、どういうつもりだ!領主である私に対し、こんな無礼なことをして徒では済まさんぞ!」


「ヘーデル侯爵様、国王陛下に向かって、そのようなご発言は宜しくありません。それではギラ新教徒だと勘違いされてしまいます」


ハビテは穏やかにゆっくりとした話し方で、ヘーデル侯爵を落ち着かせようとする。


「お前は……新しく来たサイリス・・・」


声を掛けて来たのがサイリスだと気付き、ヘーデル侯爵は口を噤んだ。

 その場に居た全員が『やはり……』と思った。ヘーデル侯爵はサイリスの後に様を付けていなかった。ブルーノア教の信者だったら有り得ないことである。


「いつのまにか自分が洗脳されていく……そして自我を失う……なんて恐ろしいんだ」


カワノ領主は、ようやく他人事ではないと気付き呟く。


「ヘーデル侯爵、もしかしたら貴方は、ギラ新教徒に洗脳され掛けているかも知れません。これから私が祈りを捧げて、洗脳を解いてみようと思います」


目を見開いて固まっているヘーデル侯爵に微笑み掛けて、ハビテは祈りを捧げ始める。

 国王始め領主達は、ハビテの指示通り椅子に座り静かに祈りを聞く。


 祈り始めて10分、ヘーデル侯爵は少しだけ穏やかな表情に変わってきた。しかしその2分後「私はギラ新教徒ではない!祈りなど必要ではない」と叫び、落ち着かない様子で縄を解こうと暴れ出した。

 それでもハビテは、ヘーデル侯爵の瞳をじっと見たまま祈り続ける。


 祈り始めて15分、ハビテは祈りを終え、ヘーデル侯爵は疲れたように、ハアハアと肩で息をしていた。


「ヘーデル侯爵、貴方はギラ新教徒ではないですよね?」

「当たり前だ。私はブルーノア教徒だ」

「そうですね。それでは、祈りの3番をゆっくり唱えてみてください」

「祈りのさ、さ、3番だな。・・・か、神の御前に立ちて誓う。清き心で自分を見つめ、清きこ、心に・・・」


ヘーデル侯爵は必死で思い出そうとするが、どうしても思い出せない。


「ヘーデル侯爵、貴方はギラ新教徒ですか?それともブルーノア教徒ですか?」

「私は・・・ブルーノア教徒だ」


祈りの3番が思い出せないヘーデル侯爵は、絶望的な顔をしてカタカタと震え始める。


「貴方は貴族こそがこの国を動かし、貴族の為の国を作り、平民は自分の前で平伏すものだと思いませんか?そして選ばれし者の為の国を作りたいと思いませんか?」


ハビテはギラ新教徒の教えの一節を、思い出させる為にわざと口にしてみる。


「私は貴族だ。それに領主だ。だから平民は私に平伏すのは当然であり、私は特別に選ばれし者だ。お前達も貴族なら崇高な教えに従うべきだ!」


絶望的な表情からガラリと雰囲気を変え、今度は語気を強めながら、ヘーデル侯爵は自信に満ちた顔でハッキリと話す。

 そして何だか唸り始めたと思ったら、「私はブルーノア教徒だー!」と叫んだり、再び聞くに耐えない罵詈雑言を吐いたり、支離滅裂な感じになりガタガタと大きく体が震え始め、苦しそに顔を歪める。

 



「王様、残念ですが、私では洗脳を解くことは難しいようです」


ハビテは申し訳なさそうにバルファー王の前に進み出て、結果を報告する。


「どうしたら洗脳者から自分を守れるのだ……」


ホン領主は、明日は我が身だという不安に支配されていく。


「皆さんはヘーデル侯爵をギラ新教徒にして、爵位を剥奪し罪人にしたいですか?それとも救ってやりたいと思いますか?そして、自分を洗脳から守りたいですか?」


イツキは立ち上がると、国王、秘書官、司令官、全領主に向かって質問した。

 何故だか誰も救ってやりたいとは言わない。でも、罪人にしたいとも思えないようで、答えることができない。

 ヘーデル侯爵の領主としての能力や人間性を、皆は快く思っていなかった。だから、領民のことを思えば、領主を変えるべきだと考えていた。


「洗脳を解くことは難しい。でも、まだ方法が1つだけあります。試したことはありませんが、ギラ新教徒ではなくなるでしょう。そして、皆さんを洗脳され難い体質に出来るかも知れません」


ヘーデル侯爵に視線を向け、イツキはなんだか辛そうな顔をして言った。

 ハビテはそんなイツキの表情を見て、何をする気なのかと心配になる。


「それはどんな方法だろうロームズ辺境伯?サイリス様でも行えることだろうか?それとも・・・」


それともリース(聖人)様として行われることでしょうか?とは質問できず、バルファー王は口を濁し、サイリスのハビテに確認するような視線を送った。

 ハビテはそんな方法があるとは聞いておらず、王様に向かって知らないと首を振る。


「罪人にするのは忍びないが、領主にしておきたくもない……そう受け取って宜しいのでしょうか?そして、自分は洗脳されたくないと……そうなのですか皆さん?」


イツキは全員に向かって、ハッキリと審判を下せと迫る。


「早くしないとヘーデル侯爵は、完全にギラ新教徒になってしまいます。1分1秒を争います。王様、誰が決めるのですか?僕ではありませんよね!全員の総意とするか王の判断とするか、・・・2分で決めてください」


イツキはそう言うと、目を閉じて耳を塞ぐと、精神統一をするように意識を集中し始める。

 その場に居た全員が、なんだかよく分からないがイツキに気圧され、結論を出さねばならなくなった。


「私はイツキ君の言った通りに考えます。罪人にしたくはないが、領主としては認めたくありません。そして、出来るなら洗脳されたくない」


マサキ公爵が立ち上がり口火を切った。

 するとホン領主、マキ公爵、キシ公爵と続き、他の領主達もギニ司令官も秘書官も、マサキ公爵に同意し立ち上がった。


「分かった。私もその意見に同意し、領主会議の総意とする」


バルファー王はそう言うと立ち上がり、イツキに視線を向けた。


 イツキはゆっくり目を開き、耳を塞いでいた両手を外すと「分かりました。しかし簡単ではありませんよ」と、忠告するように答えて席をたった。

 イツキが立ち上がった途端、室内の気温が一気に下がっていく。


 イツキは、苦しみ悶えているヘーデル侯爵の前に立ち、【祈りの最終章・破壊と再生】という祈りを捧げ始めた。

 サイリス(教導神父)のハビテは、その祈りが【禁忌の祈り】であり、唱えた者に苦しみを与える祈りであると分かると、大きく目を見開き絶望的な表情をした。


【祈りの最終章】は、ファリス(高位神父)になって始めて目にすることが出来る祈りであり、目にしても祈ることを禁じられていた。

 そもそも【祈りの最終章】は、祈りの言葉が呪文のようであり、なんの為の祈りなのかも、またその意味も理解できていなかった。

 そして祈ろうとすると、2分もしない内に意識を失うか血を吐くか、最後まで祈れた者は居ないとされていた。


 イツキが祈り始めると、ハビテは覚悟を決めイツキの後ろでひざまずく。そしてイツキの身が守られますようにと、深く頭を下げブルーノア様にお願いする。

 サイリス様がひざまずかれたのを見た領主達は、何が起こっているのだろうと不安になっていく。

 そして次第に体が重くなり、身動きが全く出来なくなっていく。


 10分が経過した頃、イツキはヘーデル侯爵にブルーノア語で話し掛け始めた。

 意味など誰も分からなかったが、ヘーデル侯爵はイツキの問に答えるかのように「違う、私はそんなことを望みはしない!」と叫んだり「私は選ばれし者だ!」と目を見開きイツキを睨み付ける。

 再びイツキが祈り始めて5分、ヘーデル侯爵は大声で泣き出した。

 それと同時に、体を動かせなくなった国王や領主達は、頭に強い痛みを感じたり、腕に激痛が走ったり、手の指が腫れ上がったり、足が痺れたり、背中が痛くて息が出来なくなったり……全員が体に異変を感じていた。


 全員が苦しくて痛くて、いったいこれは何なのだ!と恐怖を感じていると、突然、強い光の玉がテーブルの上に現れ、あまりの眩しさに目を瞑った。



「欲深き者達よ、望みは叶えられた。しかし、その代償は我が身をもって償うことになる。破壊と再生を願う者は、血を捧げ祈ることになる。痛みを知らず苦しみを知らず、望みが叶うことはない。神の使いである者により、記憶の破壊と再生は完了した」


その声は、全員の頭の中に直接語り掛けてきた。

 その声を聞いた途端、イツキ以外(ハビテとヘーデル侯爵を含む)の者は、強い神気に当てられ気を失った。

 机に突っ伏してしまう者、椅子からずり落ちる者、部屋の中は混沌と化していた。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

次話はいよいよ領主就任式です。

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