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予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
入学試験と旅立ち

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イツキ、領主任命式を放棄する(1)

 王の執務室に到着すると、王は執務机、マサキ公爵とヘーデル侯爵(ミノス領主)は応接セットの長椅子に、ギニ司令官とマキ公爵は向かいの椅子にが座った。


「そもそも国王が、あんな子供を領主に任命することが間違っているのだ!ガキのくせに生意気なことを言い、キシ公爵に媚を売り治安部隊に入ったと言うじゃないか!穢らわしい!貴族でもない孤児(みなしご)ごときが領主になるなど、レガート国も落ちたな」


座った途端、すらすらと言い澱むことなく、ヘーデル侯爵は罵詈雑言を並び立てる。

 執務室に連れてこられたのは、怒った自分に国王が謝罪するためだと思い込んでいたヘーデル侯爵は、とうとう国王や国までもを貶めていく。

 その言葉を聞いている者が、顔を歪め不快な表情をしていることにも気付かない。


「今の言葉は、お前の本心なのだなヘーデル侯爵」


バルファー王は怒りを押さえながら、確認するように問う。


「もちろんです。皆さんも現実を見たらどうです?祈りの3番なんて、3歳の子供でも唱えられる祈りを唱えろなどと、頭がおかしいとしか思えません」


「それならヘーデル侯爵、今直ぐ、祈りを3番を唱えてみたらどうだ?ブルーノア教徒であれば、()()()唱えられるはずだ。さあ唱えろ!」


ギニ司令官は怒りが押さえられず、手を震わせながら命令する。

『イツキ様は王子なのだ!そして、ご尊顔を拝するのも畏れ多いリース様なのだ!』と、今にも叫びそうになるのを堪え、ギニ司令官は自分の唇を強く噛んだ。


「ヘーデル侯爵、ギニ司令官に聞かせてやればいい。祈りの3番など1分も掛からない。貴方はブルーノア教徒だと、堂々と示せばいいのです」


まるでヘーデル侯爵に味方するような言い方で、マサキ公爵はけしかける。

 イツキをリース様だと知っているマサキ公爵は、殴り飛ばしたい気持ちを隠して、早く真実を見極めようと図る。


「そうですな。こんな馬鹿げたことは早く終らせましょう。 神の御前に立ちて誓う。清き心で自分を……自分を見つめ……見つめ……ん?なんだ?清き心で……何故だ?何故思い出せない!」


「ヘーデル侯爵どうされました?3歳の子供でも唱えられると言われましたよね?」


マサキ公爵は睨み付けるように厳しい視線をヘーデル侯爵に向け、続いて王様に視線を向け、どうなさるのですか王様?と問う。


「私はブルーノア教徒だ。お前達は俺を陥れるつもりか!」


ヘーデル侯爵はおろおろと不安気な表情をしたかと思うと、直ぐに怒りの表情に変えて暴言を吐く。

 最早、常人の言動や態度であるとは誰も思えない。


「成る程……これが洗脳された、いや、洗脳され掛けている者の実態なのですな」


マキ公爵は納得したように言うと、ハーッと大きく息を吐き、領主まで洗脳され掛けている現実に恐怖を覚えた。


「ヘーデル侯爵、お忘れのようでしたので、私がこれから祈りの3番を唱えます。その後でもう1度唱えてください。神の御前に立ちて誓う。清き心で自分を見つめ、清き心に従って生きることを。家族を愛し友を愛し、敵を憎まず悪を知る………もしも誓いを破ることあらば、懺悔し償い許しを請う。神はいつも心の中に在りて我を救うものなり」


ギニ司令官は前にイツキが言っていたことを思い出しながら、最後通告をする。洗脳者は、何度他の人が祈りを唱えても、自分は祈りを唱えることが出来ないのだと。


「ば、馬鹿にするのかギニ司令官、いいだろう、先程はど忘れしたが今度こそ、神の御前に立ちて……立ちて……な、何故だ!俺はブルーノア教徒だ!」


大声で叫びながら、執務室の中の4人を睨み付け、ヘーデル侯爵は部屋から出ていこうとする。


「何処に行くヘーデル侯爵!まだ話は終わっていないぞ!」


バルファー王は、逃げようとするヘーデルを一喝する。

 ギニ司令官は王宮警備隊の隊員を呼び、ヘーデル侯爵を縛り、治安部隊の作戦室に閉じ込めておくよう命令した。

 戸惑う隊員達にバルファー王は、「反逆罪の可能性がある」とはっきり言って、マキ公爵もマサキ公爵も「間違いない」と同意した。



 気付けば時刻は正午を回っていた。

 国王が戻ってきたので、急いで食事の準備が整えられていく。

 会議室に戻った4人は、食事をしながら待っていた領主達に、執務室での出来事を包み隠さず伝えた。


「信じられない暴言の数々だ……そこまでとは……」(キシ公爵)

「今日は特に言動が可笑しかった。前から少しあれだったが……」(カワノ領主)

「完全に王様に対する不敬罪ですよね」(ヤマノ侯爵)

「彼はいつから洗脳されていたのでしょうか?」(カイ領主)

「恐ろしい……領主を洗脳した者がミノス領に居るかもしれない……そして今日、就任式に来るかも知れない……ということですよね王様?」


渋い顔をしたホン領主であるネイヤー公爵が、確認するように王様に問う。


「そうだな。・・・ヨム指揮官、王宮警備隊は万全の体制でヘーデル侯爵を監禁しろ。そして午後からロームズ辺境伯の就任式に来る、ミノスの貴族を取り調べろ!」


「はい王様、至急手配いたします」


ヨム指揮官は返事をすると、食事の途中だが直ぐに会議室を出ていった。



「問題はこれからだ……イツキ君、ヘーデルの洗脳は解けるだろうか?」


「王様、それは僕がお答えすることではありません。午後から来られるサイリス(教導神父)様にお尋ねください。ただ、この状態のまま領主任命式などしていられません。就任式(就任パーティー)は仕方ないとして、ここに居る全員は、サイリス様の祈りで洗脳が解けるかどうか、確認する義務があると思います」


イツキは淡々とごく普通に、すべきことをすべきだと言う。


「そうですな……もしも洗脳が解けなかったら、新しい領主をどうするかを考えねばならないし、解けたとしても、ミノス領をこのままヘーデル侯爵に任せても良いのか、重要な判断をすることになります」


ホン領主であるネイヤー公爵の言葉には、ヘーデル侯爵を領主として認めるのは如何なものか……という意図が含まれている。


「以前から領主として問題はあったが、もしも洗脳が解けなかったら、それはギラ新教徒と同じだ。領主であろうとなかろうと、爵位剥奪は当然のことながら、領主になってからの所業を調べ上げ、他のギラ新教徒も捕らえねばならない。これは国を揺るがす大事件となる可能性がある。慎重かつ迅速に動かねばならない。・・・ハーッ、ソウタとフィリップが居ない今、誰が指揮を執るんだ・・・」


キシ公爵は腕を組み、独り言のような声の大きさで、呟くように発言する。

 キシ公爵の発言を聞いて、誰も何も発言できない。自分が遣りましょうと手を挙げる者など居ないし、適任だと思い当たる人物も居ない。

 国王もギニ司令官も、直ぐには指揮者を選定できない。


「レガート国はずっと平和でしたから仕方ありません。誰だって始めは素人です。僕なんて生まれつきの貴族でもない孤児です。しかも14歳の僕を王様は領主に任命された。優秀な者が多いレガート国なら、人材は腐るほど居るはず。居ないと思うのは、人を見ていないか育てていないか……それは怠慢というものです。何度も言いますが、今は有事の時なのです。失敗を恐れず人を登用しなければ、この国はギラ新教に負けます」


イツキは今日1番の辛口発言をする。

 その表情はいつもの明るいイツキとは別人のようで、言い過ぎだと忠告しようとしたカワノ領主は、真顔のイツキの迫力に気圧され、何も言えず下を向く。

 イツキがリースであると知っているキシ公爵、マサキ公爵、ヤマノ侯爵は、この国は負けるという言葉に青くなる。自分達は今、リース様にお叱りを受けているのだと反省する。


「泣き言を言う時間はない。洗脳が解けたとしても、ミノスには徹底的に介入する。人材は各部署のトップの推薦に任せる。マキ公爵、ポックの樹液は少し待ってくれ」


バルファー王もイツキの神気に当てられ、今度こそ自分の甘さを思い知る。そして秘書官のエントンに直ぐに指示を出し、これから大臣達を集めて緊急会議を行うと言って、デザートを待たずに、秘書官と一緒に会議室を出ていった。


「レガート軍は、今日中に指揮官以下の階級者を決定し、治安維持の為に大隊をミノスに向かわせる。これから軍本部に戻るが、1時間で会議を終らせ戻って来るので、ヘーデル侯爵の洗脳を解くのを待っていてくれ」


誰に向かって発した言葉なのか分からない感じでギニ司令官はそう言って、急いで会議室を出ていく。当然イツキに向けて発した言葉だったのだが、それに気付いたのはキシ公爵だけだった。



 領主以外の重要人物が誰も居なくなった会議室に、デザートが運ばれてきた。


「美味しそうなデザートですね。疲れた脳には甘いものが一番です」


今度はいつもの少年の顔をしたイツキが、パーっと溢れるような明るい笑顔でプリンを見て言う。

 そのギャップに領主達は戸惑うが、一気に部屋の中が明るくなったような気がして、『まあいいか』と思うのだった。

 なんだかとんでもない領主会議になってしまったが、イツキが無意識に癒しの能力【金色のオーラ】を放っていたので、領主達の緊張は緩み、何故だか和やかに全員でプリンを食べていた。




 ◇ ◇ ◇


 午後2時、ロームズ辺境伯任命式の為に、ラミル正教会からサイリス(教導神父)のハビテ様が到着された。

 レガート城内は国王始め秘書官、大臣、部長クラスが、緊急会議のためバタバタしていて、ハビテを迎えに出たのはヘーデル侯爵を除く、8つの領地の領主達だった。

 国王と同等の地位と見なされているサイリス様に、領主達は正式な礼をとり挨拶をしていく。

 挨拶をする順番で、現在のレガート国の領主の序列が分かる。


「ご無沙汰しておりますサイリス様。申し訳ありませんが、バルファー王は急用で、出迎えに来れませんでしたので、我等領主が揃ってお迎えにあがりました」


 ホン領主のネイヤー公爵49歳が代表で挨拶をする。続いてマサキ公爵45歳、マキ公爵39歳、キシ公爵32歳、ヤマノ侯爵25歳、カイ領主ラシード侯爵42歳、カワノ領主ラーレン侯爵50歳、ロームズ辺境伯15歳の順に挨拶を終える。ミノス領主が居たらヤマノ侯爵の後に挨拶をしていた。

 現在の序列は内乱後に出来た序列で、名門順、力のある領主順だと、序列はかなり違ってくる。


「ロームズ辺境伯、正式な領主就任おめでとう。任命式は予定通り迎賓館で?」


ハビテは嬉しそうにニコニコしながらイツキに問う。


「サイリス様、その件ですが、別に大きな問題が発生しましたので、現在その対応に追われています。そこで私の任命式は中止し、サイリス様には他のお願いをしたいのですが、詳しいことは、会議室でお話ししたいと思います」


イツキは真剣な顔をしてハビテの顔を見る。

 国事である領主任命式を中止するほどの問題とは、いったい何なのだろうかと顔を曇らせる、イツキの晴れ舞台を楽しみにしていた、父親代わりのハビテである。


 会議室に移動したハビテは、マサキ公爵とマキ公爵からミノス領主の話を聞き、深く息を吐くと意外にも「やはりそうですか……」と呟いた。

 ハビテによると、ミノス正教会のファリス(高位神父)から、領主の指示だと言いながら、数人の伯爵が住民を虐待したり、違反高利で金を貸し厳しい取り立てをしていると、11月に入ってから報告が上がり始めたそうだ。

 もっと驚いたのが、ヘーデル侯爵は3ヶ月以上もミノス正教会に顔を出しておらず、古参の子爵や伯爵の葬儀にも参列していなかった。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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