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予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
入学試験と旅立ち

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イツキ、領主会議に出席する(2)

 カイ領主屋敷・警備隊本部・キシ領・軍本部・キシ公爵襲撃事件についての説明が終わり、イツキが今のレガート国及びランドル大陸の現状を語ったところで、お茶が運ばれて来たので休憩となった。

 休憩時間、イツキはわざとらしくキシ公爵の側に行き、心配そうにケガの具合はどうですかと訊ねた。

 本当はケガなどしていないと知っているバルファー王、エントン秘書官、ギニ司令官は、1度も自分達と視線を合わせようとしないイツキに、はーっと深く息を吐き、どうすれば許して貰えるのだろうかと考える。



「それでは次に、特産品の進捗状況を各々の領地毎に報告してくれ」


お茶が下げられると、秘書官が次の議題に話を進めていく。

 

「それでは原材料であるポックの木の栽培と、樹液の採取を担当しているマサキ領の現状から報告します。現在順調にポックの木は育っており、ポックを【マサキ領の木】として領民に広め、栽培に従事する専属の職人も雇いました。カワノ領とホン領への納入も滞りなく行っております」


マサキ公爵は、技術開発部の指示に従い、目標量のポックの樹液を、お隣のカワノ領とホン領に出荷していると報告した。


「我がカワノ領では、技術開発部から1ヶ月間指導を受け、工場を建設し、マサキ領から届いた樹液を使い、11月には目標のポムベルトの大量生産に成功しました。お陰さまで雇用も出来ました」


カワノ領主はにこにこと嬉しそうに、順調に生産できていると報告する。


「ヤマノ領では、先に竹を加工する工場を建て、ポムベルトが納入される前に、大量の竹の製造をしました。カワノ領から届いたポムベルトを装着し、先日試作品が完成し、昨日ロームズ辺境伯に検品をしていただき、正式に了承を得ましたので、帰り次第、本格的な大量生産に入ります。来月には納品可能です」


ヤマノ侯爵は、全てはマサキ公爵とラーレン侯爵(カワノ領主)のお陰ですと、新米領主らしく御礼を言って報告を終えた。


「ホン領も順調だが、レガート国内の注文だけでも既に手が回らず、国外に販売するポルムゴールを製造するのは、春以降になるだろう。技術開発部から来ている2人が、付きっきりで指導しているが、我が領の職人を持ってしても、製造は容易ではなかった。・・・ロームズ辺境伯、貴方は本当に凄い物を作ってしまった。この技術は門外不出とし、厳しく管理しています。?・・・もしや、ギラ新教はこの技術や製品を狙っているのか?」


ホン領主は嬉しい悲鳴半分、製造の難しさに対する愚痴半分で現状を報告する。そして、自領にギラ新教徒が居たら、技術や製品を狙っているのではないかと心配になる。


「絶対にないとは言えませんが、あるとしたら……ある貴族が、どこぞの大商人を連れて面会を求め、ホン領の為に必ず役立つ人間だから、製造を任せてはどうか……とか、逆に領主が信用している大商人が、ある貴族を連れて面会を求め、是非この貴族に製造の責任者を任せてはどうか……などど言ってきた場合、ギラ新教が関与している可能性は、おおいに考えられるでしょう」


「…………」


イツキはホン領主の顔色を窺いながら、仮説として意見を言うが、途中からホン領主の顔色が悪くなっていくのを、イツキやヨム指揮官は決して見逃したりはしなかった。


「うちはミノスから、なかなかポックの樹液が届かないので、とりあえずアタックインの競技台の製造をしている。台も普通の台から豪華な装飾入りの台まで、値段にも差を付けて工夫をしている。玉の製造が遅れているので、注文の半分も納入できていない。ミノスではポックの木の栽培は難しいのかなヘーデル侯爵(ミノス領主)?」


マキ公爵は不機嫌だった。アタックインが大好きなマキ公爵は、自らが陣頭指揮を執り工場を建設し、選りすぐりの職人を集め仕事をさせていた。

 しかし、ポックの樹液が納品されないので、お客様を待たせているのだ。


「はあ、下の者にきちんとやるように言ってありますが、担当者が無能なのかもしれません。大事な仕事だから3人も担当の貴族を付けているのに、何をやっているんだ!帰ったら急ぐように命令しましょう」


どこか他人事のように答えるミノス領主に、マキ公爵の顔が歪む。

 他の領主達も、またか……といった感じでミノス領主を見て、同情する視線をマキ公爵に向ける。


 上級学校のイツキの担任であるポートはミノスの出身、従者のパルもミノスの出身で、ロームズ屋敷の家令のオールズもミノスの出身だが、3人ともヘーデル侯爵に対しての評価は低かった。

 イツキが9歳までミノスで過ごしていた頃の領主は、今の領主の父親だったが、息子の代になってから、どうも統治が上手くいってないようで、貴族も纏まりがなかった。


 それは他の領主達も感じていることだが、当の本人はその地位に胡座をかき、仕事という仕事をしている様子もない……らしかった。

 マキ公爵は、どうするのでしょうか王様?という視線をバルファー王に向ける。

 特産品には関わっていないキシ公爵とカイ領主のラシード侯爵は、呆れたような視線をミノス領主に向ける。

 ミノスの隣の領地の領主である2人は、ここ最近ミノス領とのトラブルが増えていて、何度もヘーデル侯爵に善処するよう手紙を送っているが、なしのつぶてだった。


「ヘーデル侯爵、担当貴族は、まさかギラ新教徒ではあるまいな」


バルファー王は厳しい顔をしてミノス領主を見る。お前は無能なのか!とは言えない王である。


「王様、ミノス領の調査はまだ出来ていません。来月には新しい治安部隊が発足するので、直ぐに調査に向かわせます。大事な国の事業である特産品作りが滞るなど、あってはならないことです。誰かが意図して遅らせている可能性があります」


警備隊の責任者として出席しているヨム指揮官が、イライラしながらヘーデル侯爵に脅しをかけた。ミノス出身者は軍関係者が多いが、警備隊はそうでもない。

 これまでも全てに非協力的なヘーデル侯爵に対し、腹に据えかねていたヨム指揮官は、堂々とミノスに調査に入れるチャンスが出来たと、心の中でニヤリと笑う。


「ヨム指揮官、君は我が領にギラ新教徒が居ると疑っているのか?失礼にも程がある」


「貴族の数が1番多いミノス領は、可能性が無いとは言えない。今のヘーデル侯爵の代になられて、5人以上の準男爵が誕生し、子爵から伯爵に陞爵した者が3人も居る」


ヘーデル侯爵の横柄とも思われる物言いに、ギニ司令官が噛み付く。


「失礼にも程がある……ですか……。それはギラ新教徒が居た、カイ領、ヤマノ領、マサキ領、そしてマキ領に対しての嫌味でしょうか?」


不機嫌な顔をしてそう言ったのは、名門マサキ公爵である。

 同時に不快を顕にしたマキ公爵は、ポックの樹液が来なくて実害を受けている。申し訳ないと謝るのならいざ知らず、大人の対応もそろそろ限界だった。



 イツキは何も語らず、無表情なまま成り行きをじっと見ていた。

 ヘーデル侯爵の顔の周りが、次第に黒いもやもやした煙のようなもので覆われていく。濃い黒ではなくグレーに近い色だが、これは明らかに悪意の顕れだ。


「ヘーデル侯爵様、最近ミノス正教会に行かれましたか?今、ミノス正教会のファリス(高位神父)様は、何というお名前でしたでしょうか?」


イツキは落ち着いた口調で、全く関係のない話をミノス領主に振る。


「はあ?ロームズ辺境伯、君は空気が読めないのか?今は特産品の話をしているのだ。私は領主だ。ファリスなど用があれば呼べばいだろう。私は忙しいんだ!」


「成る程。ファリスの名前をご存知ないのですね。それでは、祈りの3番【神の(しもべ)になりて】を唱えることは出来ますか?」


イツキは何かを確信し、天使のような悪魔のような微笑みで、ヘーデル侯爵に問う。


 イツキの言葉を聞いて、ギニ司令官が立ち上がり、秘書官も立ち上がる。同時にマサキ公爵、ヤマノ侯爵、ラシード侯爵(カイ領主)、ヨム指揮官も立ち上がり、6人は驚愕の表情でイツキに視線を向けた。


「ほら、皆も呆れて席を立たれた。ロームズ辺境伯、君は自分の分をわきまえるべきだ。気分が悪い!少し席を外させていただく」


ヘーデル侯爵はそう言い捨てて、国王の許可も取らず勝手に会議室を出ていった。



「イツキ君・・・あれは、ヘーデル侯爵はギラ新教に洗脳されているのか?」


ギニ司令官は半分怒りを滲ませながらイツキに問う。

 ギラ新教徒は、祈りの3番を唱えられないと知っている者は、まさか領主が……と、大きな衝撃を受けたままである。


「フーッ……祈りの3番が唱えられれば問題ないでしょう。でも、それを確認するのは僕の役目ではないはず。唱えることを拒めばギラ新教徒、唱えようとするが何故か唱えられないのであれば、軽い洗脳を受けていると見なしていいでしょう」


イツキはギニ司令官とは視線も合わせず冷静に答える。未だに自分を頼ろうとしているギニ司令官の姿勢に、確認するのは自分の仕事ではないとキッパリと言う。


「なんの話だイツキ君、ギニ司令官もどういうことか説明してくれ!」


何も知らなかったマキ公爵が、イツキとギニ司令官、そして立ち上がっている秘書官を始めとする他の領主に向かって、大きな声で問い質そうとする。


「実はブルーノア教会から、ギラ新教徒であるかないかを確かめる方法として、祈りの3番が唱えられなければギラ新教徒である可能性が高いと聞いた。実際に洗脳されかけたラミル上級学校の教師が、何度も祈りの3番を唱えようとしたが出来なかった。本人は自分はブルーノア教徒だと思っているのに、どうしても祈りが思い出せなかった。そこで、神父様が祈りを捧げられると、きちんと祈りの3番を唱えられるようになった。洗脳され掛けて発した数々の暴言や、悪意で教えられた情報が、間違っていたのだと理解でき洗脳が解けた」


ギニ司令官は俯いて答える。大事な情報を、他の領主にきちんと伝えていなかったのだ。国王も、秘書官も、全領主に情報を伝える必要がないと思っていた。

 当然何も知らなかったマキ・カワノ・ホンの領主は、どういうことかとギニ司令官に問い質そうとする。もちろん責める視線は王様と秘書官にも向けられる。


「いや、今回の領主会議で発表しようと思っていたのだが、まさかヘーデル侯爵が……これは直ぐに確認しなければならない。午後からの就任式に来るミノスの貴族のチェックも必要だ」


ギニ司令官は慌ててこれからのことを考える。正直、特産品について論じている場合ではなくなった。

 ギラ新教徒が就任式に紛れていれば、王様の身の安全や他の領主の身も危険に曝すことになる。


『大変なことになった!』イツキ以外の全員が動転する。自領のファリス様の名前が言えないなんて、常識では考えられないことだ。

 それにあの態度・・・成人したばかりの新米領主だとしても、自領に新しい産業を与えてくれ、利益をもたらしてくれている領主に対して、失礼を通り越して無礼過ぎる物言いも、ギラ新教徒の特徴と類似していた。


「まあ、まだそうだと決まった訳ではない。マサキ公爵とマキ公爵は、悪いがヘーデル侯爵が祈りの3番を唱えることが出来るか、確認するので立ち会って欲しい」


バルファー王はそう言うと、他にギニ司令官を伴って、4人でヘーデル侯爵が洗脳を受けているかどうかを確認すると決断した。場所は4階の王の執務室である。



 その後、悪態をつくヘーデル侯爵を執務室に連れていった4人は、洗脳の恐ろしさを思い知ることになる。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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