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予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
怒濤の後期スタート

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イツキ、学校へ行く

 イツキがパルを従者に決めたことで、ずっと俯き黙っていたヤンが口を開いた。


「イツキ君、俺も従者にしてくれ!俺だってイツキ君の役に立ちたいし守りたいんだ」


「ヤン先輩、いやヤン、僕はヤンには絶対軍に入って欲しいと思っている。入隊後は実力で情報部か治安部隊に配属され、僕と共にギラ新教と戦って欲しいんだ!インカ先輩もヤンも、将来レガート軍を引っ張る人材になると僕は思っている。其々の道で頑張れば、僕達は共に戦う同志として、必ず同じ場所に立つだろう」


イツキは自分の思いを素直にヤンに伝える。イツキの教会での立場を知っているエンター、クレタ、ヨシノリには、それはまるで予言のようにも聞こえた。


「共に戦う同志・・・そうか、そうだな。いつかイツキ君と同じ作戦に参加できるよう、絶対に出世して見せるよ!」


「ヤン、だったらもっと成績を上げろ!」


突っ込んだのはエンターだった。イツキの言葉で進むべき目標を決めたヤンの、その単純さに呆れながらも、自分だってイツキと共に戦いたい、いつも側にいたいと願っているという想いが強くなる。


「ハッハッハ」と皆がヤンの方を見て笑う。ちょっと剥れたヤンの顔を見て、また全員が笑った。



「なあみんな、僕はこれからあるセレモニーをするから、皆にはその見届け役をお願いしたいんだけどどうかな?」


イツキはそう言うとテーブルの上に置いた茶色のファイルを手にした。


「なんだか面白そうだね。当然見届けさせて貰うよ。なあみんな!」

「「「勿論ですインカ隊長!」」」


何が始まるのだろうかとワクワクしながら、全員がインカに賛同する。

 イツキは見届け役の代表としてインカを選び、皆には見えないように茶色のファイルを開いてインカに見せた。


「さすがイツキ君だ。こんな嬉しいセレモニーの見届け役を任されて嬉しいよ」


インカはそう言うと、何故か全員を身分毎に整列させた。


「全員礼をとるように。これよりロームズ辺境伯様は、爵位授与式を行われる」


『ええっ?爵位授与式?』と全員訳が分からないまま、正式な礼をとる。


「パル・ギラス前へ出なさい」とインカはパルの名を呼び、イツキの前でひざまずくよう命令する。


何が起こるのだろうかと不安な表情のまま、パルは深く頭を下げた。貴族である他の者達はセレモニーの意図を知り、頭を下げながら笑顔になる。



「爵位授与証。ミノス領のパル・ギラスに、ロームズ領の騎士(ナイト)の爵位を授ける。【フィルバ】の騎士爵位名を与え、パル・フィルバ・ギラスと名乗ることを認める。ナイトの報奨として、ひと月金貨1枚を与えるものなり。ナイトの名に恥じぬよう務めよ。1098年7月28日 ロームズ領主 ロームズ辺境伯 キアフ・ルバ・イツキ・ロームズ」


イツキの力強い声がリビングに響き渡った。固まったままのパルを見て、インカはパルに返事をするよう促す。


「私パル・ギラスは、賜った騎士の爵位に恥じぬよう、命を懸けて任務を全うすることを誓います。これよりは、ロームズ領、パル・フィルバ・ギラスとして、ロームズ辺境伯様の従者となり責務を果たします。ありがとうございます」


思ってもみなかった爵位授与に、パルはまだ実感が湧かない。しかし、主であるロームズ辺境伯から爵位授与証を渡され、これは現実なのだと実感する。

 震える手で授与証の内容を確認すると、そこには本当に自分の名前が書いてあった。これも、この授与証も事前に準備されていたのだと分かると、パルは嬉しくてポタポタと涙が溢れてきた。


「おめでとうございますロームズ辺境伯様、おめでとうギラス騎士。私インカ・デル・ラシードは、見届け役として爵位授与式が無事終了したことを宣言します」


インカは満面の笑みで宣言し、イツキに向かって礼をとった。


「おめでとうございますロームズ辺境伯様、おめでとうギラス騎士」


インカに続いて全員が祝いの言葉を掛ける。ナイトになったパルよりも、ヤンの方が声をあげて泣いている。そして皆は立ち上がるとパルに駆け寄った。

 ヤンはパルに抱きついて泣き、イツキに抱きついて泣き、なんだか忙しい。

 インカとヨシノリも安堵し、貴族の先輩としてパルを支えてやろうと頷き合う。


「さあみんな、朝食が冷めるわよ!続きはダイニングでどうぞ」


いつの間にか事務長のティーラがリビングの入り口に立っていた。ダイニングのドアの前では、リンダがハンカチで涙を拭いている。

 子供達の熱い友情と、主となったロームズ辺境伯の聡明さに感動した事務長だって、涙を拭いていから声を掛けていた。


 息子のクレタから、イツキ君という後輩は凄い天才だが、誰にも真似できないカリスマ性もあるんだ……と聞いていたティーラは、成る程なと納得した。

 昨夜書かせた名簿を家に持って帰り、全員の名前や学年、家柄やイツキとの関係を暗記していてティーラは驚いた。全員が堂々と【イツキ組】と記入していたのだ。そして息子以外が執行部や風紀部役員で、息子はイツキ親衛隊の……隊長だった。

 人を従える側の人間が持つオーラを、ティーラもイツキから感じ取っていた。だからこそ、若き領主を全力で支えなければと、再び気合いを入れる。





 朝食後、イツキはパルを連れマサキ公爵様に挨拶とお願いに伺おうとしたが、ヨシノリから今朝早く領地に帰ったと聞きガッカリした。が、ヨシノリがパルの件は自分に任せて欲しいと言ってくれたので、任せることにした。

 クレタとヤンとナスカは、このまま屋敷に残り事務長の手伝いをすることになった。延泊決定である。

 イツキとエンターとインカは、イツキの部屋替えの件で上級学校へ向かう。


 上級学校の教師達は、7月25日までに学校へ戻ってくることになっているが、学生達は29日からでないと入校出来ない厳しい決まりがある。

 そこで一計を案じたインカは、領主である父親がカイ領に戻る馬車を使って、学校へ入ることにした。


「ラシード侯爵様、個人的なことでご迷惑をお掛けし申し訳ありません」

「ロームズ辺境伯、いや、イツキ君、君はロームズの領主なのだ。君が北寮に入れない時は、うちのインカを他の部屋に移さねば、キシ公爵様やヤマノ侯爵に私が叱られる」


ラシード侯爵は笑いながらそう言うと、学校の正門で領主として校長との面会を希望すると門番に伝えた。

 カイの領主様が何用だろうかと、教頭は慌てて迎えに出てきた。ラシード侯爵は子息であるインカを伴って馬車から降りてきたので、何か学校で不手際でもあったのだろうかと不安になる。しかし続けてエンターとイツキも降りてきたので、益々何事?と混乱する。


「ラシード侯爵様、本日はどういったご用件でしょうか?」


「ああ、ボルダン校長、息子がお世話になっています。今日はイツキ君のことでちょっと……イツキ君は子爵だったが東寮に居るとか……」


「はい申し訳ございません。イツキ君の希望もあり東寮になっています」


校長と教頭は、イツキの寮のことでラシード侯爵がやって来たのだと分かり驚いた。


「それは聞いている。しかし今回、どうしても北寮に入らねばならない事態になり、こうして私がやって来たのだ」


「それでは……イツキ君はヤマノ領の伯爵を名乗ることにしたのかね?」


校長も教頭も、何故ヤマノ領主ではなく、関係のないカイの領主がやって来たのかが、どうしても理解出来ない。


「はい校長先生。15歳の誕生日がくるまでは、伯爵として過ごそうと思っています」

「成人するまでは伯爵として?それはどういうことかな?」


校長と教頭は顔を見合わせ、益々混乱していく。


「校長、イツキ君は正式な名前が変わった。新しい名前はキアフ・ルバ・ロームズだよ。ルバの後にイツキを付けても構わない。先月イツキ君はレガート国9番目の領主、ロームズ辺境伯に任命された」


「はい?9番目の領主ですか・・・ええぇーっ!領主?」


「だから私が来たのだ。辺境伯は領主の侯爵と同じ地位である。明日にはヤマノ侯爵が家具を搬入してくるだろう。その時に部屋が無かったら大変なことになる。ロームズ辺境伯は当分ヤマノ領の伯爵を名乗るそうだが、領主と発覚するのは時間の問題だろう」


「「…………」」


校長も教頭も完全に固まったまま、視線だけはイツキに向けている。

 上級学校に領主が入学したのは、キシ公爵以来である。様々な伝説を作ったキシ組だったが、違う意味でイツキも数々の伝説を……既に作ってしまっている。


「承知しました。今日中にロームズ辺境伯の為に北寮の個室を空けます」


校長も教頭もすっかり青ざめて、ラシード侯爵に返事をした。

 校長の返事を聞いて、カイの領主は安心して帰っていった。「イツキ君、次は領主会議で会おう」と言い残して。



 大変なことになった・・・どうすればいいんだ!と頭を抱えたのは校長と教頭である。現在北寮にいる誰を追い出せばいいのか……絶対に揉める……頭が痛い。


「校長先生、僕に良い案があります。その為に今日我々はやって来たのですから」


そう言ってエンターは、北寮を出ていく学生のリストと、個室から2人部屋に移動する学生のリストを教頭に渡した。


「そもそも北寮には、伯爵家の長男が入ることは出来ない筈です。その規則を破ったのは、ブルーニの兄カスナーでした。本来なら貴族の成績優秀者を入れる筈の2人部屋に、伯爵家の長男の入寮を許した学校の責任もあると思います。風紀部隊長として北寮の伝統を守るため、伯爵家の子息の北寮の使用を禁止したいと思います」


インカはハッキリと、そして堂々と、学校側に要求を突き付けた。校長も教頭も、正しいことを言っている風紀部隊長に何も言い返せなかった。


「これを機会に、ヤマノ組が好きにしていた他の寮の部屋割りも規則通りに戻します」


執行部部長のエンターも、ニッコリと笑って付け加えた。 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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