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暴力嫌いの学園拳闘記  作者: てんつゆ
1/1

1話

うぉーー!!

雄叫びが観客席から流れ出す。


もう慣れたと思っていたが、この雄叫びを聞くと、やはり身震いを我慢できなくなる。


これから始まる地獄を想像すれば当然のことだ。


そして俺は今日もいつもと同じように、ルーティーンとして言う。


「俺が守る。」


この言葉を自分に言い聞かせて俺は、今日も戦う。


頼れるものは自分しかいない。甘えは許されない。守れるのは俺だけだ、と恐怖する自分を鼓舞する。


12歳の少年はそうやって日々を生きていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


高校入学試験が間近に迫ったある日の放課後、担任が俺に向かって言った。


「柳心、お前に客が来ているそうだから校長室へ行きなさい。」


「?

はい。」


不思議に思いながらも、担任の言葉に返事をする。

俺を訪ねてくる客?正直想像がつかなかった。


コンコン

「失礼します。3年6組、竜造寺柳心(りゅうぞうじりゅうしん)です。」


そう言って俺は校長室に入った。

校長室にはいつも全校集会で何回も見たことがある、校長と、もう一人見たことのない人がいた。


「やあ、柳心くん。そこへ腰掛けてくれたまえ。」


校長はそう言って見知らぬ人が座っているのと向かい側のソファーをゆびさした。


「はい。失礼します。」


ふかふかだな。そんなことを思いながら席に着いた。


「では、私はこれで。」


そう言って校長は出ていってしまった。

…ここ、校長室なのに。


口火を切ったのは、校長と一緒にいた見知らぬおじさんだった。

「率直に言おう。君、うちの学校へ来る気はないかい?」


…………は?何を言ってるんだこのおじさんは?


「…あの、すみません。仰っている意味がよく分かりません。」


「言葉通りの意味だとも。君に、うちの学校、つまり

鷹ノ巣学園(たかのすがくえん)へ来て欲しいんだ。」


鷹ノ巣学園、この名前には聞き覚えがあった。

今年、中学1年生になる妹がここの学園の中等部に行きたいと言っていた。


まあ、うちにそんな余裕はないわけだが…


「なんで俺、いや僕が?」


そう。俺には人より秀でた所があるわけではない。

成績もどちらかと言うと悪い方であるし、部活動もやっていなかった。

だから、不思議だった。なぜ俺なのか、と。


「龍鳴寺地下闘技場、聞き覚えがあるよね?」



「いえ、ありません。人違いではありませんか?」


「おかしいなあ。3年前、君はこの場所で何かをしてたはずなんだけどなあ?」


「…脅しているんですか?」


「いやいや、そう言うわけではないよ。ただ、君の才能を見込んで、うちの学校に誘っているだけだよ。」


…龍鳴寺地下闘技場。思い出したくもない名前だった。


「そうですか。とても良いお話ですが、僕は行きたい学校が決まっているので。」


そう言って、ソファーから立ち上がった。


「まあ、そう焦らないで。結論は私の話をもっとよく聞いてからでも遅くはないだろう?」


「……」


正直あまり乗り気ではなかったが渋々座り直した。


「まず、うちの学校へ来ることのメリットから話そうか。

第1に、君の妹君のことをうちの学校へ入学させてあげよう。もちろん学費はうちが免除しよう。」


「…なぜ、それがメリットになるとおもったんですか?」


「なぜって…君の妹君はうちの学校へ行きたがっているのではなかったのかな?」


「…なんでそんなことを知っているんですか?」


「うちの情報収集力、なめてもらっちゃ困るよ?」


…このことは、妹が俺にだけ話してくれたことだった。

俺にはこの言葉が妹をどうにでもできるぞ、という脅しにも聞こえた。


「…そうですか。


なんで、そんなことを知っているのかは知らないですけど、

……妹に手ぇ出したらどんな奴でもぶっ潰すぞ?」


「まあまあ、そんな怒らないで。ね?

僕はただ君がどんなことをしてもらったらうちの学校へ来てくれるか、考えての行動してるだけだから。

君の妹君に手を出そうなんて、考えていないよ?」


全然信用出来なかったが、ひとまずは納得することにした。

…今日から妹には周りに変な奴がいなかったか、逐一報告してもらうことにしよう。


「話が逸れたね。次に、第2のメリットは、君に衣食住を提供しよう。引っ越しはしてもらうことになるけど、今より数段階は良い生活を保障しよう。」


「!!」


そう。この提案は、今の俺にとっては喉から手が出るほど欲していたものだった。貯金はあるが、正直妹2人を養っていくには心もとない額であった。


「最後に、君に入ってもらおうと思っている学部は…


武闘科だ。」


武闘科。それは自分の持っている武力がそのまま成績になっていく学科。


…俺が最も入りたくないと思っていた学科だった。


「なんで俺が武闘科なんかに…」


「だから、君の才能を見込んで、だよ。ちなみに、妹君も中等部の武闘科に入りたがっているみたいだから入れるつもりだよ。」


「…そうですか。」


妹が武闘科に入ることに文句はない。妹は、小学生や中学生とは逸脱した強さを持っているから。

この前なんか、中学生の男子20人をボコボコにして放課後、俺が呼び出されたくらいだ。


ただ、俺は武闘科に入りたくはなかった。正直いって、俺は暴力が嫌いだった。だから、暴力で這い上がる武闘科には微塵の魅力も感じていなかった。


生活費はでかい、だけど武闘科には入りたくない。そんな思いが拮抗した。


そして、結論が出た。


「…本当に生活費を頂けるんですよね?」


「ああ、もちろんだとも。」


俺はこの日、生活費という魅力に負けたのであった。






家に帰って、今日あったことを2人の妹に伝えた。ちなみにもう1人の妹はまだ5歳で幼稚園に通っていた。


「…まじで?」

小学6年生とは思えないほど背が高い妹が驚愕に満ちた顔で俺を見て言った。ちなみに身長は172センチメートル。名前は優華(ゆうか)だ。


「ああ、まじだ。」



「ふーん、あっそ。」


あれ?思ったよりも薄いリアクションだった。

もっと、よっしゃー!とか言って大はしゃぎして喜ぶと思ったのに。

あれさ、と続けて妹が言った。


「兄貴は、だいじょぶなの?」


目的語が足りなくて何が言いたいのかが分からなかった。


「なにがだ?」


「だって…武闘科に入るんでしょ?」


ああ、そういうことか。いつもツンツンしている妹が急にしおらしく言うもんだから何事かと思った。


「まあ、だいじょぶだよ。心配すんな。」


そう言ってニッコリ笑ってやった。


「…心配なんかしてねぇし。」


お、いつもの調子に戻ったようだ。


「にぃにぃ、だいちょうー?」


少し間延びした喋り方で心配してくれる5歳の妹。名前は日和(ひより)。…ものすごくかわいい。


「だいじょうぶだよー、ひーたんー。それよりもねー、ひーたん、おひっこししちゃうと、いまのようちえんにはいけなくなっちゃうの。

だから、おともだちと、はなれちゃうんだけど、だいじょぶかな?」


「んー…うんー。にぃにぃとねぇねぇがいっちょならだいちょうだよー?」


んー!かわいい!!


「ありがとー!ひーたん!

ひーたんはかわいいなぁ、うん。」


「…きもっ」



「聞こえてるぞー?」


「聞こえるようにいったんだよ」


こっちの妹も昔はこうだったんだけどな…


こんな風にして俺たちの新しい生活は始まるのだった。




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