said不明:とある『最強』と
少し短めです。
どうぞ。
──『SSランク冒険者』。
それは一種の憧れであり、羨望の対象であり──ある意味『災害』のように、その牙が己へと向けば抵抗する事など叶わないような存在であった。
そして、実力のある『冒険者』に付けられる【称号】──俗に言えば【二つ名】は『Sランク』ともなれば例外無く付けられる。
無論、『Aランク』のなかでもかなりの実力者ともなれば【二つ名】を受けることもあるが……
そして、その【二つ名】は『ランク』が上がることにより、変わることがある。
──【矛盾】から【混沌】。【災害】から【厄災】へ。【絶影】から【冥土】へ。
──周りに何も無い街道を歩く人影がひとつあった。
それは、良く見ると女性のようで、腰まで伸ばした黒髪を持ち、腰にはひと振りの『刀』を挿している。
彼女は【絶刀】という【二つ名】を持ち──
──【最強】へと至った者だ。
彼女は、強かった。ただひたすらに。
それは、『気配』だけで周囲のものが畏れを抱くほどに。
『気配』を抑えれば人の中に紛れることはできるが、『人間』以上に『気配察知』が得意な『獣人』や動物にはすぐに気づかれてしまうほどであった。
故に彼女はひとり、何も無い街道を歩いていた。
その彼女が、ふと足を止め視線を上げると声を出す。
「──何者だ」
「ありやりゃ?バレちゃった?」
その声がすると同時、そこには黒いローブの人物が立っていた。
「何故、姿を隠していた?」
「隠してたって言うよりは、そういう移動方法だっただけなんだけど──」
「じゃあ、言い直そう。何故、私を見ていた?」
「──そこまで気づいてたんだ?さすが【最強】と呼ばれるだけはある──ねぇ?」
──瞬間、宙に光が閃き何かを断ち切る。
「──その程度の『情報系統』の『技能』で見れると思われているなら、勘違いも甚だしい。それに、私はその【最強】という【二つ名】が好きでは無い」
「いや、それ『世界の記録』の情報閲覧なんだけど……情報接続を切り裂くとかどういう事さ……」
そんなことを言いながらも、へらへらと薄ら笑いを浮かべ──
「ま、このくらいじゃぁ無いと、期待すらできないからね。少し、遊ぼうよ」
そう言って、トントン、と足を踏み鳴らした瞬間、地が隆起し襲いかかる。
「──【刹那瞬閃】」
まるで生き物のようにうねり、襲いかかったそれらが一瞬にしてバラバラになる。
「……どういうつもりだ?あなたと私に戦う理由は無い筈だが?」
「そうだね。僕には特に理由はないよ。でも、面白そうでしょ?」
「確かに、強者との戦いは滾るものがあるが……率直にいえば、あなたには強者特有の『オーラ』が見えないのだが、どれほど強いのだ?」
「僕は強く無いよ。俺はある意味強いのかもしれないが……私は元々戦闘向きではないのでね」
「それなら、尚更だ。戦う理由がわからないな。まさか、死にたいわけでもあるまい?」
「──だが、それで戦えないとは言っていない」
再び地がうねり、先程より倍の数が襲いかかる。
だが、それも先程同様に光が閃けばバラバラになり崩れ落ちる。
「抜刀から納刀まで、普通の人間には見えない速度で振るわれる刀は閃のみを残して切り刻む、ね」
「先程も言ったが、その程度で──」
「さて、これはどうかな?」
地が隆起し、今度はそのまま襲いかかるのではなく集まりうねり、脚を身体を、翼を尾を形どっていき、最後に頭部を象る。
「これは……竜か?」
「まだまだこんなものじゃあ無いさ」
その言葉に続くようにして周囲の大地が一斉に盛り上がり、今と同じように竜を象っていく。
「全く、これのどこが戦えないというのだ……」
「さてね。──行くよ」
『『『グォォオオオ!!』』』
造られた存在でしかない筈の竜達は咆哮し、襲いかかる。
「──『天地断つ一太刀』【虚空一閃】!」
納刀を考えずに振るわれ、繰り出された一太刀は閃きを残すことは無かった。
『『『グギャァァアアア!?』』』
しかしその代わりに、空を飛ぶ竜たちを横一文字に切り裂いた。
それらが落ちるのを見送ること無く、今度は宙に足を掛けて、そのまま駆けた。
宙を蹴り、竜の身体を蹴り、竜の間を縫うように駆け抜けて行く。
そして抜けると同時に、抜き身のままであった刀を納刀する──
「──【壱昇陽百煌】」
──瞬間、彼女の後方にいた竜たちがバラバラに切り刻まれた。
「これが『飛竜』の巣を、単独で潰した技、か」
「貴様が何者であれ、そこらの人間が受ければ確実に死ぬであろう攻撃を放ったのだ。相応の対応をさせて貰うぞ!」
納刀したまま腰だめにチカラを溜め、宙を蹴る
「──【百昇陽千夜】!」
その言葉とともに抜刀されると、そこから千もの斬撃が、黒ローブめがけて飛んだ。
「──これが、かの『黒龍』を倒したという技ね。百の陽が登る時、千の夜が訪れると。でもさ──」
斬撃が目前まで迫る中、黒ローブの人物はこう言った。
「ひと振りだけでで千の斬撃ってさ、ひと振りでひとつの斬撃なんだから『矛盾』してるよね」
──瞬間、その斬撃が全て消え去った。
「──は?」
「ああ、そう言えばだけど、人の身で翼も無く、なんの道具も無しで飛べるのも可笑しいよね」
「──っ!?ぐぁ!?」
その言葉が紡がれると同時、そのままの勢いで黒ローブの隣の地面に落下した。
「……こんなものか。『概念干渉』にすら対抗できないなんて。ま、この程度か」
「待て。さっきのチカラ。まさか、あなたは──【混沌】」
立ち去ろうとしていたが、その言葉に動きを止める。
「あなたは、100年ほど前に、死んだ筈じゃあ……」
「そうだね、ひとつ言わせて貰うなら──死んだからって、生きていないわけじゃあ無いでしょ?」
そういうと同時、何かの音が鳴り響く。
それに気が付いた黒ローブは懐から長方形の物を取り出し、触れてから耳に当てる。
「ああ、私だ。え?定時連絡がまだだって?済まない。忘れていたよ。ああ、そうだった。今回もやっぱり駄目だったよ。取り敢えず、一部接触してみたが正直に言って微妙だね──ああ、いや。一人だけ面白そうな奴がいたよ。キミの方で把握していたのとは違うヤツがね」
そう言いながらチラリと視線を、地に這う【最強】に向けながら
「確かこう名乗っていたな──『レイ』、と。伝えることは伝えたからね。じゃあ」
そう言って二度足を踏み鳴らせば、そこにその姿は無くなっていた。
──ああでも、もしかしたら『きっかけ』さえあれば『こちら側』に来れるかもね。
そんな言葉を残して。
そしてこの時、初めて【最強】が【最強】となってから敗北し、初めて彼の者の名を聞いた瞬間であった。




