温泉とこれからと
のんびり回です。
戦闘はもう少し先かな?
どうぞ。
「いい湯だねぇ」
「ん、『精霊の森』のとは、また違ったよさ」
「私は温泉自体が初めてですが、気持ちがいいですねー」
「村にいた時はどうしてたの?」
「狐の獣人は『狐火』が使えますからね。それでお湯を沸かしてのお風呂でしたね」
「「へー」」
そんな会話をするのは、頭に小さなタオルを乗せ、湯に浸かる三人組だ。
「でも、貸切状態なのは、らっきー」
「そうだね。わざわざ『世界の記録』にアクセスして空いてる時間に来てよかったよ」
「へー、レイさんも『世界の記録』にアクセスできるんですね」
「『も』ってことは、シリの周りにもいるの?」
「おばあちゃんですねー。今年で1100歳になるんですよー」
「へー、今度会わせてよ」
「……んー、しばらくは難しそうですね……今すぐ会いたいと言うなら、あなたにとって多少の苦労と引き換えになら会えるとは思いますけれど……」
「んー、無理にとは言わないよ。君にだってやることはあるでしょ?」
「……そうですね」
「……それは、そうとして。レイは何でこっちにいるの?」
そう言えば、と言った感じでイリスが問いかける。
「えっと、どういう事ですか?」
「ん、レイは確か……男だった」
「…………!!?」
「あー、うん。それなんだけどね……男湯に行ったらさ、悲鳴上げられちゃって……」
「……理解、納得」
「いやいやいや、納得しちゃあダメでしょう!男ですよ!?女湯に入ってはダメでしょう!」
「えー、そんなこと言ったら温泉入れなくなっちゃうよ。今の僕に明確な『性別』は無いんだから」
「いやいやいや、まずそこがおかしいですから……本っ当に常識の通用しない方々ですねぇ……」
「女湯……常識……ああ、じゃあ僕の身体が女のものになればいいと!」
「できるんですか……いや、私が混乱するんでやめてください。本当に、心の底から」
「……そう?まあ、失敗したら肉体が消えるかもしれないし、そっちの方が助かるんだけどね」
「いや、なに恐ろしいことをサラっと言ってくれてるんですか」
そんな他愛も無い会話をしながら、しみじみ思う。
「平和だねぇ」
「ん、平和」
「ここは本当に平和ですね」
「あ、そうだ。フルーツ牛乳作ったんだけど、飲む?」
「のむ」
「あ、よくわからないですけど私も」
本当に平和な空間が、そこには広がっていた。
------------------------------------------------------------
「はい、突然ですが、武器を作りたいと思います!」
「……本当に突然、どうしたんですか?」
いつもながら唐突なレイに早くも慣れてきたのか、シリが問いかける。
「取り敢えず『帝国』に行く予定だったんだけど、その前に寄り道というか、寄りたい都市があるんだよね」
「……【冒険者都市】、『アドヴェアス』ですか?というか、寄らない予定だったんですか?」
「え?」
「えっ?」
宿の一室を、静寂が支配する。
「いや、えっと、『帝国』に行くんですよね?ここら辺では『アドヴェアス』からしか馬車は出てませんよ?他に大きな街道もありませんし……そこそこの常識だと思ったんですが……ああ、この人たち常識知らずでした」
説明しながら二人の常識の無さを思い出して納得すると、逆に首を傾げる。
「でも、それなら何で『アドヴェアス』に寄ろうと思ったんですか?」
「んー、言っちゃえば『地盤固め』のためかな」
「「地盤固め?」」
二人が揃えて疑問の声を上げる。
「そ、僕ら二人は『冒険者組合』の『昇級試験』があるから、たくさんの人に知ってもらいたいっていうのが一つかな」
「へぇ、昇級目前何ですか。そう言えば聞いていませんでしたけど、今のランクってどのくらい何です?」
「二人とも、『Cランク』」
「へぇ、一人前とも呼ばれる『Cランク』ですか。ということは今回の『昇級試験』が上手く行けば『Bランク』ですか」
「ちがう、レイは『Aランク』になる」
「はぁ!?『Bランク』を飛ばして『Aランク』って、かなりヤバいことをしないと起こらないことですよ!何をやったんですか!?」
「いやー、『死瘴邪龍』を倒したらねぇ」
「そりゃあそうなりますよ!!何サラっと【神話最悪の邪龍】を倒しちゃってるんですか!?」
「んーと、成り行き?」
「『成り行き』でやられる立場にもなって上げてくださいよ!いや、こんなことを言ってもどうしようも無いんですけどねぇ……はぁ、言ってても仕方ないですし、話を戻しましょうか。で、一つということはまだ理由があるんですよね?」
ため息をつきながらも、これでは進まないと話を促す。
「そうそう、もう一つなんだけどね……ちょっとした商売もしようと思ってさ」
「商売ですか?ちなみに何を?」
「『武器』とかの『装備』を売ろうと思ってるんだよ」
「……『武器』、ですか? 何か伝い手でもあるので?」
「無いっ!」
「……あの、【冒険者都市】とも名高い『アドヴェアス』では、既に腕のある『鍛冶師』は個人運営でなければ専属契約してますから、立ち入る隙は無いと思いますよ?それこそ、自分で作れれば別ですが……」
「いや、作れるよ?というか、もともとそのつもりだったし。って、アレ?言ったよね?僕、『錬成師』だって自己紹介の時に」
「……そうでしたっけ?イリスさんの『魔王』が衝撃的過ぎて飛んでました。えっ!?てことはあの『ハズレ』と名高い『錬成師』の身で、【神話最悪の邪龍】を倒したってことですか!?本当によく分からなくなって来ましたよ!」
「シリ、うるさい」
「えー、そういう扱いですか、私……確かに叫んでしまったのは悪かったですが……酷くないですか?」
「そうそう、それでね?作った武器をシリに見てもらって性能とかそれに見合った値段とかを『常識』に照らし合わせて考えてほしいんだ」
レイは落ち込むシリを無視して、虚空から箱を取り出す。
「無視ですか、そうですか……で、確認でしたっけ?正直に言って、『錬成師』の作る武器がそれほど強いとは思えませんが……『鑑定』、『看破』」
------------------------------------------------------------
霊刀『虚』
製作者
魔力を斬ることができる刀。
魔力を一定量以上通すことで『霊化』し、物体をすり抜けるようになる。
なお、普通の状態の斬れ味も名刀レベルである。
------------------------------------------------------------
「……何ですか?このカタナ」
「ん?刀知ってるんだ?」
「ええ、とは言っても、どこかにあると言われている『竜人の郷』でしか作られていないらしいですが……それにしても、これは……」
「あ、ちょっとまって。刀ならもう一つあるんだ。はい」
シリの言葉を遮って、もう一つ箱を取り出して開く。
「こっちは少し短めのカタナ……二本ですか……『鑑定』、『看破』」
------------------------------------------------------------
双魔刀『綴』
製作者
ふた振りで一組の魔刀。
触れた者の記憶から『死に至る可能性』の存在する記憶をコピーし、『固有虚数記録庫』にて保存する。
使用者に、その記録に付随する危機が迫るとそれが起こる直前にその映像を脳裏に刻むことで死を回避可能にすることができる。
なお、普通の切れ味も名刀レベルである。
------------------------------------------------------------
「……これを、『錬成』で?あの、これをいったいどれ程の値段で売るつもりですか?」
「金貨数枚……数万エルくらい?」
「それじゃ売れませんよ!?何考えてるんですか!?」
「あ、高かった?ならもうちょっと安くして──」
「そうじゃなくてですね、性能が高すぎて、それをこの値段でなんて売れないって意味です!」
「えー、これでもかなり性能は落としたんだけどなぁ……」
「それでもですよ!こんなものをそんな値段で売り出したら、市場が崩壊しますって!」
「むー、わかったよ……」
シリの言葉で多少思い直したのか、渋々ではあるが納得する。
「あ、でも、身内の武器は自重しなくてもいいよね?」
「それはあまり常識を逸脱しすぎない程度でお願いしますよ……」
レイの言葉に、「全くこの人は……」なんてことを呟きながらまたひとつ、ため息をつくのであった。




