『レラント』と『常識』と……
日曜日は、まだ今週……
勇者saidの予定でしたが……やめました。
ということで、どうぞ
ガタリゴトリという音とともに、中にいるもののお尻にダメージが入る。
「いやー、それにしてもまさか【英雄】さんと同じ馬車に乗れるとはなぁ」
「ははは、僕は堅苦しいのは苦手だし、いち『冒険者』として接してくれると嬉しいかな」
そう返すのは白く長い髪が特徴的な【英雄】と呼ばれる人物──言わずもがな、レイである。
「そうか?ならそうさせてもらうが……そういや、だいぶ前に街は出たって言ってなかったか?なのに何で同じ馬車に?」
そう、レイ達二人は『モニア』から乗合馬車に乗っていた。
「んー、近くに用事があったから先にそこに行ってたんだよね。で、それが終わったから馬車に乗ったってわけ」
ちなみにレイは嘘をひとつも言っていない。
『モニア』から『精霊の森』──人間達からすれば『迷いの森』だが、そこまで馬車で一日かかるのだが、レイからして見れば対して差は無い。
こうして嘘をつかないようにしているのはもし嘘を察知する『技能』持ちが聞いていた場合を考えてのことで、今の内に身に馴染ませているのだ。
──というのも、この話し相手が『虚実判定』という『技能』持ちであるというところが大きく、今の内にどれほどまでなら通用するのかを試していたのだ。
「このペースだとあと半日くらいですかね」
「あー、そうだな。本来ならもうちょっとかかるんだが、今回は乗客がそれほどでもないからな。そんなもんか。ま、そろそろ日も暮れるし、もう少ししたら街道の近くで野営準備だろうな……っと、言ったそばからか」
「皆さん、そろそろ夜営準備をしましょう」
ちょうどその会話をしていた時に馬車は停められ、御者が顔を覗かせる。
「だってさ。ほら、行くよイリス」
「うぅ……目が、ぐるぐるする……世界が、まわる……」
ちなみにずっと一緒に乗っていたイリスではあるが、馬車酔いでダウンしていた。
「全く……【魔王】ともあろう者が情けない。……とは言っても、色々と余計なものまで見えちゃうからこそ、酔いやすいのかもね」
「ううぅ……吐きそ」
「わわわっ、ちょっと待って!もう休めるから!」
何やかんやありつつも、夜営の準備を進めていくのであった。
ちなみに、イリスは吐かなかったとだけ言っておこう。
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「『──母なる大地は、創世よりこの地を見続けてきた。ならば、我は其の【地】を【知】と転じ、其の【泥土】を【知識】とす』」
地が隆起し、横に伸ばした手に触れると音も無く崩れ去る。
時刻は明け方。丁度太陽が登り始め世界を明るく彩っていく。
「……ふむ、やっぱりアクセス権限は少し落ちるか。それに、あまりやり過ぎればこちらの行動が気づかれる可能性もある、か。難儀なものだ」
朝日に一人そう呟いていると、後方のテントから物音が聞こえ始める。
「さて、今はとりあえずやれることをやりますか」
そう言って器具や材料を取り出すと、手際良く朝食を作り始めた。
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「見えてきたな。あれがここら辺の【中継都市】とも言われる街、『レラント』だ」
そう言って指差すのは眼前に見えてきた街。
あの後朝食を食べた一行は周囲の視界が確保出来たと同時に出発したのだ。
「いやー、それにしても魔物の襲撃に合わなくって退屈だったが安全でもあったな。これも【英雄】さんのお陰かねぇ」
「ははは、どうだろうね。少なくとも僕自身は何もして無いよ」
これも嘘では無い。
【自動射出】を使っていたのだから剣が勝手にやっていたに過ぎないのだ。
屁理屈と言われればそれまでだが、実際嘘ではないのだから、これが効果的ではある。
「まあ、そう言うならそうなんだろうな。短い間だったが、世話になった」
「いーえー、こちらこそ。色々とタメになったよ」
「ん?よくわからんが、そうか。じゃあ、これからも頑張ってくれな!」
そう言って彼は先に街に入っていく。
「さて、僕達も行きたいんだけど……イリス大丈夫?」
「う、うん。だいじょぶ、だいじょぶ」
「……ダメそうだね。はぁ、仕方無い。【精霊化】」
そう言ってひとつ手を叩くと、一瞬白い包囲へと代わり、蹲っていたイリスがガバリと起き上がる。
「ん……治った。ありがと」
「はいよー、ついでに」
そう言ってパチンと指を鳴らすと法衣が消え去る。
「……? 何か、あった?」
「あ、そっか。この類いのモノはまだ見えないのか……うーん、ちょっとばかり気になるモノがいたからね。それの掃除。……そろそろ行こうか」
「ん、」
二人は会話をしつつ進み、『ギルドカード』を見せて街に入る。
「さて、イリスさん。ここで問題です。僕達に今、足りないものは何でしょうか」
「……?お金、もこの前手に入れたし、時間……でもない……わかんない」
レイの突然の質問に戸惑いながらも答えるが、わからないようだ。
「正解は……自分で言うのもなんだけど、『常識』でした!」
──と、いう理由で。
「『奴隷』を買おうと思います」
「……『奴隷』?」
「まあ、常識を教えてもらおうってわけ」
そう言って訪れたのは『奴隷商館』だった。
「いらっしゃいませ。本日はどういった奴隷をお探しで?」
そう言って現れたのは黒のスーツ姿の男性で、その格好仕草から見てもそれなりの店であることがわかる。
「うーんと、常識のあってある程度は戦闘もできる人で……できれば女の子がいいかな?『種族』は問わないからさ。もちろん教育の有無も」
「では、該当する者を連れてきますので──」
「ああ、いいよ。僕らが直接見て決めるからさ」
「……なるほど、『鑑定系統』の『技能』持ちでしたか。了解しました。では、コチラに」
店員を遮っての言葉に納得したようで、そのまま奥へと歩みを進める。
(……うーん、あまり戦闘が得意なのも少ない、か。そこそこにはできてくれないと、僕やイリスが戦ったらその余波や流れ弾で死んじゃいそうだしなぁ)
案内される中、様々な『奴隷』を見ていくが、そんな感想しか出てこない。
現に、イリスも『魔眼』で見てはいるのだが首を傾げるばかりである。
──と言うよりも、【精霊帝】と【魔王】レベルの『そこそこ』が高過ぎるのではあるが……
「次で最後の部屋になります」
そしてとうとう、案内される部屋も最後となってしまった。
「ん……ハズレ、かな?」
「いや、最後の最後に、少しだけ面白そうなのがいるよ」
扉の前でのイリスの言葉に、レイは今開き始めたそれの奥を見てそう呟く。
「では、ご覧ください」
そう通され、中へと入る。
「……ひぃっ!」
その中の、ひとりの『奴隷』が、悲鳴混じりの声を上げる。
「……? あれ?」
「……ね?面白そう、でしょ?」
イリスの疑問の声にそう言いながら、その『奴隷』に近づいていく。
レイの銀色の瞳に射貫かれた『奴隷』は、まるで蛇に睨まれた蛙のように、怯えてしまっている。
「……うん、いい。そうだね、この子にしよっか」
「まだ『教育』もしていませんが、『踊り子』となれば十万セル程はしますが……」
「いや、決めた。この子にするよ。はい、お金」
虚空から金貨をだし、そのまま渡す。
「じゃあ、この子は貰っていくよ。……あ、宿取るの忘れてた」
「ん」
そして、『契約』を終えると、怯える『奴隷』を連れて、宿を探しに行くのであった。




