『精霊』と『記録』と『レイ』と
活動報告にも上げましたが、今週はコレだけです。
【我が道】の方も上げたいですが、行けるかな……
「とーちゃく!」
「ん」
鈍色の渦を抜けた先は、草花の生えた開けた広場。
以前、『精霊の森』で『災禍の鯨』と戦った広場である。
あれほど荒れていたのにも関わらず、今その場にそれを思わせる痕跡は何一つ無く、穏やかな空間が広がっていた。
「──あれ?【帝】さま?」
「ホントだ!【帝】さまだ!」
「イリスもいるー!」
二人に気がついた『精霊』たちが集まって来る。
さらに、その声を聞いた他の『精霊』たちが集まってくるの繰り返し。
「おかえりなさい、レイさん──って、何か凄いことになってますね……」
結果、【水属性王位精霊】、ウェルシュ──通称『ウル』が現れ声をかける時にはカラフルな球体になっていた。
ちなみにそうなる前に、イリスは脱出済みである。
「【水】の王様きた?」
「あー、ウルか。ただいまー。……他のみんなは後で遊んであげるから、今はちょっと離れててね……うん、ありがとう。それで、何か変わったことは無い?」
「特にはありませんが……そちらで何か問題が?」
「んー、ちょっとね……ウル、念の為『精霊会議』を行う。準備をお願い」
「──っ!分かりました。少し時間がかかりますが、その間レイさんはどうされますか?」
「……『樹』の方に行ってくる。イリス、僕は少しの間離れるから、手伝いがいるようだったらお願いね」
「ん、わかった」
「じゃあ、行ってくるよ」
そう残して、レイは中央の巨大な樹目掛けて歩き出した。
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──『ダアト』がログインしました。
──『世界の記録』へのアクセスを確認……認証しました。
──辺境街『名称:モニア』における一週間前の記録へアクセス。
──固有名称『クァセ』の行動を『地の記憶』からアクセス……結果を提示。
──『死瘴邪龍』に関する記録を提示……一部アクセス不可記録あり。
──『黒ローブ』の人物を『地の記憶』からアクセス。
──該当無し。
「……無し、か。やっぱり──ん?」
──外部より『地の記憶』へのアクセスを確認。
──排除を実行……画像を送付されました。
「……なぜ、焼き鳥の画像を……ん?メッセージ?『帝都なう』……SNSか!?」
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「──では【全王位精霊会議】を始めます。議長は【水属性王位精霊】、『王位精霊』代表、ウェルシュに務めさせて頂きます」
「記録はワタシ、グゥアンドラ」
「湯気除け役、ウィドフィーネだよ」
「えー、と。温度担当だったかな?イグニアンネだ」
「会場提供はウェルシュさんにして頂きました」
「第二記録のイリス、です」
「えっと、あの……」
「では、ここからの進行は議長であるウェルシュに委譲させて頂きます。どうぞ」
「えっと、ありがとうございます……ですが……」
そう言い礼をするウェルシュだが、今まで感じていた疑問を口にする。
「……あの、どうして『温泉』で会議を行うのですか?」
──そう、彼らはまた、揃って温泉に浸かっていた。
「まー、まー、良いではないか、良いではないか。堅っ苦しく『会議』するよりは有意義な時間になると思うよ?」
「はぁ……レイさんがそういうのでしたら……」
少し納得いかない顔をしつつも、ため息混じりにそう応える。
『精霊会議』は元来、『精霊』全体の問題などが起きた時に行なわれる堅苦しいものであったからだ。
そういう事もあって、他の【王位精霊】たちが集まらなかったという背景があったりしたのだが──
「いやー、こんなに気楽にやれるんだったら会議も悪くないな!」
「みんなとこうやって一緒に温泉に入れるなら、ボクも賛成かな」
「……たまには温泉も、いい」
こんな言葉を聞けばウル自身も悪くないと思えて来るのだから不思議である。
(もしかしたらこれも、レイさんの思惑通り、ということなのてしょうか……?)
レイは信用できるのだが、彼は全てを語らないのだ。
伝えるべきことや重要なことは伝えてくれるのだが、それ以外を語ることは殆ど無い。
ウルから見てもその評価であり、だからこそ、今回の『精霊会議』の議題に上がるまでのものが何かを知るのが、少し怖かった。
「さて、今回集まってもらったのは伝えるべきことがあったからなんだ。つい一週間前、『精霊の森』の近くの街『モニア』で人為的な『大発生』が発生した。まあ、それだけなら『精霊会議』を開くまでも無かったんだけど……その中に、『死瘴邪龍』がいた」
「「──っ!?」」
【水】と【風】、ウルとウィンが息を呑んだ。
「『死瘴邪龍』?って……なんだっけか?」
「ワタシとニアは、アレが出たとき、別のところで戦闘してたから……あと聞きしか、知らない」
「──簡単に言えば、『光神』リムを打ち負かした存在です」
ウルのその言葉に、先程まで僅かにあった空気の余裕が無くなり張り詰める。
「アレの持つ『瘴気』は、【水】を侵し【風】を腐敗させ、リムの【光】でさえ穢しました。リムは私たち『精霊』を守るために全力で戦い──負けました。その時に『死瘴邪龍』は瀕死の重傷を負っていたため、死んだかと思っていたのですが……まだ、生きていましたか」
その言葉は張り詰めた空気の中で氷のような冷たさを持ち、空気が次第に重く苦しいものになっていく。
「ま、それは僕が倒しちゃったんだけどね」
その中であまりにも軽く紡がれたレイの言葉に、イリス以外の全ての時が止まった。
「……えと、レイさんが、倒した……?」
「うん、襲ってきたしね」
「貴方はどれだけ規格外なのですか……」
「規格外であることは認めるよ」
「ん? リムでも勝てないヤツに勝ったレイは……リムより強いってことか?」
それは、この場にいたもの全てが思っていたことでありながら、誰もが口にしなかった言葉だ。
「ちょっとニア!ボクでも思ってても口にしなかったことだよ!」
「……空気、読んで」
「ええっ!?だって、気になるじゃんか!」
「……でも、実際のところ、どうなの?」
他の『王位精霊』がニアを糾弾する中、イリスはいつもの調子でレイに問いかける。
「んー、どうだろうね……今の僕じゃあいいとこ勝負ってところじゃないかな?相性の問題もあるしね」
その言葉に、会場の『精霊』全てが絶句する。
仮にもリムは『神』だ。
それと対等に渡り合えるなど、『ありえない』。
「まあ、比べるだけ無駄だよ。『強さ』何て同じ規格の者同士で比べるものだよ?規格の違うもの同士が比べるものじゃあ無い」
その言葉にハッとなる。
リムは『神』でレイは神ではないのだ。
そして、気が付いた。
──ここにいるもの一同が皆、レイを『神』と同レベルとして見ていたことに。
「──ハイハイ、この話はもうおしまい、続きは無し!話を戻すよ」
レイの一言に、全員の意識が切り替わる。
「とりあえず、そのにいた『魔族』の感じと『世界の記録』からそれを送り込んだのは『魔王』を名乗るものを中心とした組織的なもの。さすがにこの大陸の外は見れなかったけれど……一部の情報に『制限』がかかっていたことからも恐らく『邪神』が関わっているものだと思われる」
「……とすると、この襲撃は『精霊の森』を狙うための拠点確保のための作戦……?」
「『邪神』側がこの『世界の樹』という『世界の記録』への『干渉権限』を狙っている可能性がある今、そう考えるのが普通だろうね。それを踏まえて、『精霊の森』全体の強化を図ることを提案する」
「具体的に、は?」
「『世界の樹』の隠蔽と撃退するための戦力、『精霊』たちの戦力増強、かな?とりあえずは、これに賛同するかどうかだけど……質問がある人挙手」
それに対しニアが手を上げる。
「『世界の樹』ってあのでっかい樹のことだろ?あれをどうやって隠すんだよ?」
「それについては──ドラちゃん、おいで」
「あれ?聞いてるのバレてた?」
近くに置かれていた衣服の辺りから、木が生え人形を形とる。
「服に種子を付けて、それ経由で聞いてたでしょ?他の人で気づいていたのはウルくらいかな?」
「ふふ、さてどうでしょう?」
レイの言葉に曖昧な笑みを浮かべて答えるウルだが、『気がついていたこと』に気が付かれていたことに内心では驚いていた。
「まあ、詳しく言ってもわからないだろうから、彼女に手伝ってもらうってことで理解して頂けるとありがたいな」
「ま、【樹】に関していえばそうだよな。わかった」
「他に質問は…………なさそうだね?じゃあ『会議』終了!」
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「──ってことで、門番を作りたいと思います!」
『世界の樹』の目の前に来たレイはイリスとウルに、開口一番そう言った。
「門番……ですか?」
「そ、この『樹』を守るための門番的なものを作っておこうと思ってね。──で、下準備したものがコチラになります」
そう言って虚空から取り出したのは、鉄の全身甲冑。
「……あれ、いつの間に作ったの?」
「ここに来るまでの一週間の内の三日使って作ったんだ。なかなかピンとこなくて作り直しを何回したことか……」
「こだわり、ですか……」
「でも、どこに?」
二人にはよくわからないこだわりのようだ。
「でもこれ、タダの甲冑?」
「今から仕上げなんだ。おいで」
そう言って手のひらを出すと、どこからとも無く鈍色の球体が現れた。
『……』
「なんか、これと同系色のものを、つい最近見た気がする……」
「ああ、『ムゥ』さんのこと?良く気がついたね。あれの子供みたいなものだよ」
「私はその『ムゥ』さんとやらは知りませんが……その子、『精霊』ですか?」
「あー、ちょっと違うかな? アレは『精霊』と言うより……生き物?」
よく見れば白色の光点が二つあり、同夜それは眼のようだ。
「まあ、いいじゃないの。でも、この子達まで『ムゥ』さんはあれだしなぁ……よし!今日から君たちは『ミニマムゥ』だ!ということで、よろしくね」
『……』
レイの声を聞くと、少し上下に揺れてから移動し始め、甲冑の中に入り込んだ。
「はい、これでできあがり」
「……【鑑定眼】」
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霊導鎧『ミニマムゥ』
製作者『010#00/11』
動く鎧。
動力源不明。
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「……情報が、少ない?」
「それもこの鎧の特徴だね。もう一体居れば十分か」
そう呟いてもう一体作り出す。
とは言っても『ミニマムゥ』を入れるだけなのだが……
「それにしても、これは強いのですか?」
「んー、試してみる?ちょっと模擬戦してみてよ」
そうレイが声をかけた瞬間──
──地が割れ、空気が弾けた。
「……むぅ」
「──え?」
その中心には、組み合っている二体の甲冑。
「あー、ストップストップ!ごめんごめん、武器を渡すの忘れてたよ。槍斧でいいかな?門番の定番だよね!あともう少し出力落としてくれないと消耗が激しくなっちゃうから、お願いね」
『『……』』
レイから武器を受け取ると、無言で『霊導鎧』は頷く。
「じゃあ、続きを──」
「ち、ちょっと待ってください!もういいですから!」
続きを促そうとしたレイを慌てて止めに入る。
「あれ、そう?まだ隠し機能も見せてないのに」
「ん、『隠し機能』は、隠しておくもの」
「それもそっか。なら、ここはもういいとして、次に行こっか!」
そう言ってレイは、実に楽しそうに歩みを進めていった。
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「じゃあ、行ってくるよ」
以前『災禍の鯨』と戦った草花の生えた開けた広場で、いつかと同じようにレイは言った。
「みんなにはウルから伝えてもらえるかな」
「……あの調子だと、みんな引き留めるでしょうからね」
「ん……もうむり」
二人が『精霊の森』に滞在している間、かなり忙しかったのだ。
──主に『精霊』たちとの遊びが、だが。
「少しの間とはいえ、皆も寂しかったのでしょう。そこの所は容赦して頂けると……」
「まあ、いい訓練にもなったし、いいんじゃないかな」
それは『訓練』と同義に語ってしまえるほどのものであったという事なのだが、正しくそのレベルだったのである。
「レイさん。あのことに関しては心に留めておいてください」
「あのこと?」
イリスが心当たりが無いと首を傾げるのを見て、レイは苦笑する。
「……それでも使わないといけないところでは、使っていくよ」
「ええ、ですから全く使うなとは言っておりません。だけど、もっと貴方自身のことを気にかけて下さい」
「……うん、わかってるよ」
そう答えながら広場を見渡して、少し前の会話を思い出す。
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「──そろそろ行くことにするよ」
レイがそういったのは、こちらへ来てから一週間後の事だった。
いつもの会話の中に紛れてしまうような調子で自然に、違和感の欠片すらなく。
「来た時もそうでしたが……貴方の行動は突飛過ぎませんか……」
「まあ、そう言われるとそうなんだけれどね……どうやら、『帝国』の方でも襲撃があったみたいなんだ」
「襲撃と言うと……この前と同様に?」
「『魔族』絡みからわからないけど、『悪魔種』の魔物を中心とした襲撃だったみたいだね。幸い、その場に居合わせた『勇者』一行が撃退したみたいだけど……何か仕込まれている可能性も考えて行ってこようと思ってね」
そう言って、『魔茶葉茶』を口に含む。
「うん、美味しいね。さすが【水属性王位精霊】」
「『水分』の扱いは自信がありますから。──レイさん。ひとつだけお願いがあります」
そう真剣な声音で言うウルへと視線を向けつつ、レイはそっとカップを置く。
「これ以上、【無属性王位精霊】、並びに【精霊帝】としてのチカラを使うのは、控えてください。と言うより、できることなら使わないで下さい」
「……一応聞こうか。どうしてかな?」
「私が気がついていることがわかってて言ってますよね。それに、気がついているハズです。いずれ、限界が来ます。その身も──そのココロも」
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「わかってるよ。そんなことは誰よりも、僕が一番」
「それでも、貴方は構わずに『戦う』のでしょう?」
ウルが確信めいた口調で言うのを聞いて、レイは視線を空へと向ける。
「……これがというか、このチカラは僕の『本質』が生み出したものでもあるんだ。状況を受け入れ、許容する為に成ってしまった『本質』が。だからこそ、今度は受け入れたくないものもあるんだ」
そう言って、イリスを見る。
「だからこそ、僕は『ハズレ』と言われた『生産職』でも──」
風が吹いた。
──どれだけ『ハズレ』ようとも、今を変えるために『戦いたい』。
その言葉は風に流されはしたが、レイのココロの奥底に、確かに存在していた。
次回、恐らく勇者said




