さらば、『モニア』
『モニア』でのお話はこれで終わりです。
どうぞ。
「──おめでとうございます。レイさんは『Aランク』、イリスさんは『Bランク』の『昇級試験』を受ける権利を得ました」
後日、しばらくしてから『冒険者組合』に赴いた二人は、受付嬢に開口一番そう言われた。
「『昇級試験』ですか?僕達は『Cランク』になってから……というか、正式に『冒険者』になってからは『ゴブリン討伐』程度の依頼しかこなしていませんよ?」
レイの言うことも確かなのだが、これにはしっかりとした理由があった。
「『大発生』の対応に参加した『冒険者』は、その間の討伐した魔物を『依頼』と同じように評価しています。なので、イリスさんはかなりの魔物を倒した記録がありますし、レイさんの場合、何故か記録は残っていなかったのですが、上の方で審議したところ目撃数の多さと『録画魔道具』による記録が残っていましたので討伐したという証拠になり、決定されました」
「へぇー、上での決定ね。そこには『精霊使い』もいるのかな?」
「え? ええ。『組合本部長』、【精霊姫】の二つ名を持つ『Sランク冒険者』の方がいらっしゃいますが……」
「そっか。なんかちょっとばかりズルい気もするけれど……それなら納得だね」
レイの唐突な質問に、意図がわからず答える受付嬢だが、レイは何やら納得した様子である。
「うーん、そろそろ僕達も次の街に行こうと思っていたんだけど……今じゃなきゃダメかな?」
「──えっ、もう行ってしまわれるのですか!?」
その言葉に、『冒険者組合』内がざわめく。
──『大発生』が終わってからというもの、レイは英雄の如き扱いを受けていた。
否、実際に【英雄】なのだ。
『大発生』による襲撃を退け、【神話最悪の邪龍】を討伐し『モニア』の街を守ったのだ。
更に、それだけでは無くこの戦いに参加した『冒険者』や『錬成師組合』の者達のほとんどを無傷で帰したのだ。
【神話最悪の邪龍】を放っておけば、被害は『モニア』だけに留まらず、それより先の都市……さらにその先の『王都』までにも及んでいたかも知れないのだ。
──これを【英雄】と呼ばずして、誰を【英雄】と呼べようか。
そしてその【英雄】が街を離れるとなれば、ざわつくのも当然と言えよう。
「『冒険者』は自由ですから、急な移動は考慮されています。ですので、権利の獲得より三週間までなら保証されます」
「そっか。なら大丈夫そうだね」
「……?どこか、行くの?」
「ちょっとばかり、調整と準備に、ね。そう言えば、捕縛した『魔族』の方は?」
「それなのですが……」
「ああ、死んだのね」
「──っ!?」
言い澱んだ内容を言い当てられ、受付嬢は息を飲む。
「その反応からすると、自害か……」
「わたしは、『魔眼』でわかったけど……レイは、なんでわかるの?」
「雰囲気、かな。まあ、それは置いておいて、どうやって死んだのかな?」
「『魔力阻害』の『魔道具』を使っていたのですが……突然、身体中から『瘴気』を発生させて、そのまま……」
「ああ、『瘴気喚起』だったかな。そんな『技能』を持っていたんだっけ。それは盲点だったや」
(『技能』を封じる『魔道具』を作ってみるかな?)
そんなことを考えながら、話を元に戻す。
「ま、死んじゃったなら仕方無い。とりあえず、懸念してた問題は解決しそうだし……そろそろ行くかな」
「出発はいつ頃に?」
「んー、一応関わりのある人たちに挨拶してからだから……今が昼前だから……準備も考えて明日の朝かな。イリスもそれでいい?」
「問題、なし」
「──って感じかな。短い間だったけれど、ありがとうね」
「いえ、こちらこそ。私達が今生きていられるのは貴方のお陰ですから。これからも頑張ってください」
その会話を最後に、『冒険者組合』を去っていった。
------------------------------------------------------------
「ほう、もう行ってしまわれるのですか……」
続いて『錬成師組合』に訪れた二人は、先ほどと同じような会話をして今に至る。
「我々としても、かなりの数の新たな発想を与えてくれましたし、正直このまま同志、同職のものとして研究などにも関わっていただきたかったのですが……」
「僕も楽しかったし、そうしたい気持ちもあるけれど……僕らにもやらないといけない事があるからね」
「そうですな。では、またいつかお会いした時に意見交換などはいかがですかな?」
「ええ、それくらいならむしろお願いしたいくらいですよ。僕一人の発想にも限界はありますから」
「では──」
「──これからもよろしくお願いします」
そう言葉を交わしながら、握手する。
「ところで、相談なのですが……『大発生』で使われていたあの剣、私たちにひとつ、売ってはいただけないでしょうか?」
「? どうしてですか?」
「あれがかなりの業物であることは我らにもわかります。それで、研究材料として参考にさせていただけれは、と」
「ああ、そういう事でしたら差し上げますよ。『錬成師』の地位向上は、僕にとっても利益ですからね」
そう言って、ひと振りの剣を虚空より出現させると、オームズに手渡す。
「こ、ここ、これが……凄い……これ程までに緻密で、精巧な【魔法陣】を……しかも、『錬成』で……」
震えながら受け取ったオームズは、一度強く握り、高く掲げる。
「お前らぁ!レイ様からあの剣を賜わったぞ!それに報いるためにも、これを研究し尽くすぞぉぉおおお」
「「「うぉぉぉおおおおおお!!!」」」
歓声が、『錬成師組合』に響き渡る。
「あのー、そこまで気負う必要は……つて、ダメだこりゃ。聞こえてないや」
この状態では言葉も通じないと判断したレイは、ひとり誰にも気付かれずにその場を後にしたのであった。
------------------------------------------------------------
「──さて、この街ともおさらば、か」
「ん、さびしい?」
「まあ、短い間ではあったけれとそれなりに仲良くなった人も多かったしね。多少は感傷に浸るってものだよ」
そう言いながらも、朝日に照らされた道を歩いて行く。
「──?この差に、集団がいる?」
「イリスも気がついたんだ。警戒は必要ないと思うよ。というか、もうすぐに見えるしね」
そう言って、目の前の角を曲がる。
すると、その先には──
「うぉぉおおお!!」
「この街を守ってくれて、ありがとー!」
「お前は俺たちの【英雄】だぁ!」
──街の人たちが大通りの両脇に集まって、思い思いの言葉を二人にかけてきた。
「ね? 警戒することじゃあ無いでしょ?」
「ん、それに何か、嬉しい」
「そっか……それならよかった」
二人は街の住民たちによって作られた道を歩きながら、周りの歓声に言葉を返しながら進んで行く。
途中、何故かレイに求婚の言葉をかけた男が周りの住民にフルボッコにされるということも起きたが、それ以外は順調に進んで行った。
「本当に助かったぜ。もしお前さんらがいなかったらと思うとゾッとするぜ」
最後に、そう声を掛けてきたのは『冒険者組合長』であった。
「お前さんらだったら、正直『Sランク』くらいはおかしくねぇとは思うんだが……まあ、実績も無かったしここまでになっちまった。ここから離れても、ここまで噂が届くくらいの活躍を期待してるぜ」
それを最後に、二人は門を抜ける。
そして最後に
「また来るね!」
「ん、その時には、何かお土産がある、かも?」
振り返って笑顔で言ってから、二人は去っていった。
その後ろ姿を、街の住民たちは見えなくなるまで歓声とともに見つめていたのであった。
──『称号』、【辺境の英雄】を取得しました。
------------------------------------------------------------
「これから、どうするの?」
住民たちから見えなくなった場所で、イリスはレイに問いかける。
「んー、ここら辺までくればいっか。一応、調べたいことと、それに対応できるような準備もしないといけないから……一回戻ろうと思ってね」
「どこ、に?」
「まあ、今度は本当に少しの間だけだけれど、『精霊の森』にだね。っと、これでよし。行くよ」
レイが手を伸ばすと、目の前に鈍色の渦が現れる。
そのなかに、二人は飛び込んだのであった。
一旦『精霊の森』に戻りますが、すぐに戻ります。
……次は数話勇者saidかも




