【魔王】対【邪龍】、そして……
おぉぉぉ……筋肉痛が、ツラい!
恐らくこれが今週最後、どうぞ
【魔王】と【神話最悪の邪龍】の戦いの初撃は、傍から見ても理解し難い所から始まった。
「っ!?」
「グルォオ!?」
イリスと邪龍が眼を合わせた瞬間、ちょうど中間点で何かがぶつかったのか紫色と金混じりのスパークが発生したのだ。
しかし、当事者たちは何が起きたのかを理解していた。
「わたしの『魔眼』と、『邪眼』がぶつかり合って、相殺された……?」
「ガァァアアアア!!」
理解したからこそ、目の前の小さな存在と互角の攻撃であったことに邪龍は怒りを覚えた。
邪龍が『瘴気』を纏った爪を振るう。
『瘴気』を纏った爪撃は『爪術』の補正と『瘴気操作』によってイリス目掛けて飛翔した。
「この程度でダメージになるなんて、思わないでもらいたい」
イリスの姿が消え、邪龍の頭上に現れる。
「──【魔砲】!」
魔力の砲撃が、邪龍を叩く。
しかし堅牢な龍の鱗を砕くまではいかず、邪龍は体勢を崩すだけにとどまる。
邪龍は反射的に上空に向けて【吐息】を放つがその時にはもうイリスの姿は別のところにあった。
「硬い……普通に撃ち込んでも、大したダメージにはならない。なら──」
首にかかっていた楕円の首飾り──その×の装飾を45度回転させ、十字に変える。
「──全力で、ぶっ潰す!」
紫金の魔力が、物理的な圧力を伴って吹き荒れる。
(とはいっても、多分このままの威力じゃ倒せない……なら!)
「──【水球】」
大量に現れた【魔法陣】のひとつひとつから、【水球】が連射される。
「グルゥ?……グルァァアアア!!」
自分を傷つける威力は無いものの、うっとおしく感じた邪龍はその発生元へと紫色のモヤを纏って体当りする。
それに触れた【魔法陣】は全て機能が停止し、崩壊するが──
「──これで、構わない!【氷結魔砲】!」
【転移】していたイリスが、水色の砲撃を放つ。
「グ、ガァアアア!!?」
それを受けた邪龍の身体が凍りつき始める。
いかに龍という『種族』であっても、『寒冷耐性』でもない限り他の爬虫類と似通った体を持つが故の『弱点』は補うことができない。
──しかし、龍には爬虫類と違った部分がある。
【吐息】を吐くことができる、という事だ。
その余波で氷は溶け、さらにその【吐息】がイリスを襲う。
「っ!?【転移眼】!」
「グルァアア!!」
「うぐっ!」
ギリギリ【転移】で回避するが、それ故に距離を取れずまともに尾での攻撃を受けてしまう。
──それでもイリスは、口元から血を零しながら笑みを浮かべる。
「これでいい。──捕まえた」
その視線の先を見れば、複数の巨大な【魔法陣】を囲われた邪龍の姿。
先ほどイリスを打ち飛ばした尾はその中のひとつの【魔法陣】によって拘束されている。
「弾け、ろ!【放電雷撃】!」
【魔法陣】から、電撃が迸る。
邪龍の身体は、凍結を溶かした【水】で濡れている。
「グギャアアアアアアア!!」
【水】により身体全体まで広がる痛みに邪龍の上げた悲鳴が、戦場に響き渡る。
「おい、このままならもしかして……」
「ああ、勝てるかも……」
そんな声がチラホラと上がり始める。それだけこの光景には、希望を持たせる何かがあったのだ。
しかし、【神話最悪の邪龍】とも呼ばれた『瘴邪死龍』が、この程度のハズが無い。
「グル、グルラァァアアアア!!」
「……これはちょっと、まずい」
邪龍が、紫色のモヤ──『瘴気』を纏い始めたのだ。
「……【魔砲】」
得意の【魔砲】を放つが纏う『瘴気』に触れると威力が減衰して行き鱗に当たると散ってしまった
(おそらく、このまま戦っても、勝ち目は無い……なら、せめてどうにかして、伝えないと……)
邪龍の攻撃を【転移眼】を連続使用しながらなんとか躱し続け、思考を巡らせる。
(【魔法】を街に撃ち込む?……既に両眼を【転移眼】にして躱すので精一杯──?)
そんなことを考えていると、邪龍の攻撃に空白の時間ができる。
「グルルル……ガァァアアアア!!」
邪龍の口元に、紫纏う【炎球】が現れる。
(【火属性魔法】の【炎球】?いや、死瘴邪龍は『火属性魔法』を持って無かった……なら、【吐息】──っ!?まさか、【吐息】を『瘴気』で球場に圧縮してる!?)
そうしているうちにも、【炎球】は肥大化していく。
(【転移】できるのは残りの『魔力量』からしてあと数回。たとえ残りの魔力を全て注ぎ込んでも倒せない……なら!)
「──【千里眼】!」
両眼をそれに変え、街の中を見る。
(いた!後はあそこに──っ!もう、限界!?)
「グラァァアアア!!」
邪龍の口腔から、チャージの終わった紫纏う【炎球】が放たれる。
「──【魔法眼】……【魔砲】!」
左眼に展開された【魔法陣】から【魔砲】が上空向けて放たれる。
それによる作用反作用によりイリスの身体がわずかに射線からハズレる。
「──もう一回、【魔砲】!」
続いて、右眼に展開されていた【魔法陣】から二つ目の【魔砲】を放つと、それはイリスの身体スレスレを飛んでいた【炎球】にぶつかる。
それが街へと飛んでいくのを見届けながら、イリスは重力に身を任せる。
「……魔力切れ。もう、むり」
「──お疲れさま」
脱力し落下していたイリスを、そっと抱き抱え、3対6枚の翼を広げて地に舞い降りる。
「あれが『死瘴邪龍』、ね。アレはこれからの為にも──消すか」
そう言ったレイの声音は、驚くほどに無感情であった。
------------------------------------------------------------
「とりあえず、周りの魔物から処理しておこうか──【武器庫】『展開』【自動照準設定】──ッ!? ああ、やっぱりこのままじゃキツいか……【分解】は無理だけどまあ、無しなら何とか……【射出】!」
虚空から現れた剣が、辺りにいた『死瘴邪龍』を除く全ての魔物を貫いた。
魔物達は全て頭部を貫かれており、断末魔を上げる暇すらなく死んでいった。
「今ので剣の在庫は撃ち尽くしちゃったか……なら、丁度いいかな『錬成』【抽出】【形成】」
レイがそう呟き、右手を上げると周りにあった魔物の死体から紅の血が集まっていく。
それは次第に剣の形を成していき、完全に剣を形取った時に血を払うように振るえば、その中から鉄の剣が現れた。
「あれはまさか……他の性質のモノを他の性質に変える……『極地』」
そんな声を聞きながら、レイは言葉を紡ぐ。
「さて、今から君を消すわけだけど──」
レイの姿が、消失する。
「──あまりカンタンに死んでくれないでね?」
次の瞬間には、邪龍の目前で剣を振っていた。
------------------------------------------------------------
その戦いを見ている者達は、皆唖然として空を見上げていた。
銀光が空に線を引き、天を割くかのように紫光が走る。
紫炎が飛べば銀光によって切り裂かれ、そのまま邪龍の身体に走れば苦しみの声を上げる。
邪な禍々しき龍とその全てを薙ぐ白銀の光と翼。
──そんな凄絶な戦いは、それを見るモノ達からすればまるで『神話』の一ページの様でもあった。
魔物という脅威はそれを残して周囲には存在していないことにより、皆がそれを見ていたが、誰も歓声どころか声ひとつすら上げられなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「……はぁ、この程度、か」
レイは戦闘中ながらもそう零し、ため息を吐く。
(『死瘴邪龍』、『神話』にも登場する【神話最悪の邪龍】。その【吐息】は神の光すらも穢し、その身を穿った。それに、あの悪魔の因子に混じっていた事からも、もう少し手応えがあると思っていたんだけど……)
そう、レイはこの相手に期待していたのだ。
今まで戦ってきたどの相手よりも強いと思って。
もしかしたら、この状態の自分くらいなら、倒してくれるんじゃないか、と。
その期待が大きかった分、落胆も大きい。
「これなら【白銀刃翼】も2対でも余裕あったかな」
「グォォオオオオ!!」
邪龍の放った紫色の光線の如き【咆哮】を、銀光纏う剣で切り裂く。
「もう、いっか。──『その煌めきは、地を割き天分かち空を斬る。斬られし底には何も無く、そこからは無が這いずり出でる』」
その詠唱に何を感じたのか、邪龍は【咆哮】をレイ目掛けて乱射するが、一対の翼によって防がれる。
「──『秩序乖離ス無常ノ銀煌』」
剣を、振るう。
銀の煌めきが走る。
空が、割ける。
『・・・・・』
そこから覗くは、鈍色のモヤのようなナニカ。
割かれた世界がそれが存在するというハズレた秩序を閉じようとするが、それよりも先に鈍色が這いずり出し邪龍を絡めとる。
「グル!?グルォォオオオオ!!」
邪龍が叫ぶがそれも虚しく、抵抗さえさせぬまま呑まれていく。
そして、世界が閉じられる。
「……初めて出したけど、思ったよりも使え──ぐっ!?」
唐突に口を抑え、ぐらりとバランスを崩す。
「……この状態のままじゃ、少し無理があるか……はあ、あまり気は進まないけど……仕方無い、か」
レイの翼が消え、服装が白い法衣に変わる。
「『我が望むは事象の回帰。根源への回帰を果たさんがために、それまでの事象を無へと還さん。我が無くすは、この場の生けるモノどもの傷を受けたという事象』──【事象無還】」
──瞬間、辺りにあった血の匂いが消え、それと共にそこら中にあった魔物の死体が消えた。
そして、それだけでは無かった。
「あれ、傷が無くなってる……」
「オレの、俺の腕が!治ってる!」
「あれ、わたし……」
「良かった!生きてた……!」
そこにいた、生きているモノたちの傷が全て治った。
それに各々が歓喜し、無事を喜ぶ。
「こりゃあ、いったい……」
「──あなたが、この街の『組合長』であってるよね」
いまだ戸惑う男にレイは歩み寄り、話しかける。
「ああ、そうだが……これはあんたが?」
「ま、そんなところ。魔物に関しては君たちの怪我を無くすために消しちゃったから無いけど、一応その分の『魔石』はここにあるから、分けておいて」
「おう……って、これ『魔法鞄』か?……っておい!どこに行く!?」
「もう疲れたからね。すぐに片付ける」
そう言って歩みを進めると何も無いところを掴み、剥がした。
そこに、紫色の肌をしたヒトがひとり震えていた。
「な、何なんだよ、お前。俺の、魔物達は、邪龍は、どこに……?『魔王』様から賜わった、チカラを使ったのに?な、何で……」
「『魔道具』で隠れていたこれの対処は君らに任せても?」
「こいつ……『魔族』か!?」
震えながらブツブツと呟いている『魔族』を指して驚く『組合長』だが、流石と言うべきかすぐに冷静さを取り戻し、少し思案してから答える。
「そうだな、そいつの身柄は俺らが確保しておこう」
「じゃあ、頼んだよ。いくよ、イリス」
「ん」
──こうして『大発生』の一件は、幕引きとなった。
【没案】
レイ「──【天地乖離〇開闢〇星(エヌマ〇エリシュ)】!」
黒ローブ「それはダメだね」
ちなみに【秩序乖離ス無常ノ銀煌】は【チツジョカイリすナキトコのギンコウ】と読みます。




