『錬成師組合』と襲撃
時間は何故、有限なのか……まあ、無限でも飽きるだけですかね。
あ、【我が道】と同時投稿です。
それでは、どうぞ。
「……のどか」
「長閑だねぇ」
「……ひま」
「暇だねぇ」
そんな会話をしているのは、芝生に寝転がっている二人。
場所は街の外で、少し離れたところではあるのだが──
「魔物、少ない」
「たまにハグレが出るくらいだもんねぇ。『薬草』は?」
「とっくに集め終わった。……ん、向こうにゴブリン一体。おそらくハグレ」
「はーい、『纏え』、【分解】【射出】」
銀光を纏った剣が虚空から現れ飛んで行く。
「これで10体かな。目標は達成したけど、何だかねぇ」
本来なら魔物が現れないなら場所を変えればいいのだが、それが出来ないのだ。
理由はこの前の『初依頼』に関わることだ。
あれから『冒険者組合』は『ゴブリン』がやって来たと思われる方向へと調査隊を派遣したのだ。
『調教師』が脚の速い魔物に馬車を引かせ、馬車など比較にならない速度を出して調査へ向かった結果、そこには大量の魔物が居たのだ。
それが、この『モニア』の街目掛けて侵攻して来ている。
それを、【転移】が使える調査隊メンバーが魔力を切らしながらも伝えに来たのだ。
とはいえ、距離はかなりあって接触まで数日かかると見られている為、その間隣の大きな都市からは増援や武器などが馬車にて運ばれ続け、逆に『モニア』からは一般市民が避難を続けている。
侵攻に備え、戦力の低下は避けるべきということで遠出や他の街への移動は禁止されているのだ。
「……ひま」
「暇だねー。依頼も終わったし、帰る?」
「ん、そうする」
その場から、立ち上がる。
「んー、ちょっと気になってた『錬成師組合』にでも行ってみようかな」
「『錬成師組合』?」
「そ、その名の通り『錬成師』の『組合』。暇すぎるし行ってみようかと思ってね 」
無為な時間を過ごした二人は、今日の新たな予定を組みながら街へと帰って行った。
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「ようこそ、『錬成師組合』へ。期待の『錬成師』さん」
扉を開けると、そこに待ち構えていたのは白髪初老の男性。
その人がお辞儀をしながらそう言った。
「これはご丁寧に。『Cランク冒険者』となりましたレイと申します。貴方は?」
「私はこの『錬成師組合』の『組合長』を努めさせて頂いています『オームズ』と申します」
互いに軽い自己紹介を済ませると、手を握り合い、そして固くなっていた表情を崩す。
「いやぁ、本日はよくお越しになられましたな。どうやら初日から活躍されたようで」
「たまたま運が良かっただけですよ。それよりも今日は僕、『冒険者』としてでは無く『錬成師』の一人として来てるから、ね?」
「ほほう。では、案内しましょう。そちらのお嬢さんも来なさい。あなたも偏見に囚われず目利きのできそうな方だ」
そう言い、二人を連れて歩く。
「あなた方は、私達『錬成師』が何故『ハズレ』と言われているかご存知ですか?」
「……『ステータス』の低さですよね」
「その通り、我々『錬成師』は元の『ステータス』は変わらずとも圧倒的にレベルアップ時の『ステータス』の増加量が低い。そのせいで『魔力量』が少ないから『魔力操作』にいくら適性が高かろうと【放出系魔法】を放つことは難しい。……まあこれには【魔法】以外の『魔力操作』が必要な『錬成』に慣れてしまうが故の弊害とも言えるのですがね……そういう訳でして、『錬成師』が『ハズレ』と呼ばれているわけです」
「……『ステータス』が、低い?【放出系魔法】が、にがて……?」
オームズの言葉を聞いてレイを見て不思議な顔をするイリス。
「しかし、『錬成師』には可能性がある。それは──」
「──『錬成』という他の『職業』には無い『技能』を扱うことができる」
「そうです。他の『職業』……例えば『剣士』であれば『剣術』を得やすくはなりますが……それは努力次第で他の『職業』でも取得することができます。ですが、『錬成』はそうではない。『錬成師』という『職業』のものだけが得ることのできる『技能』なのです」
そう言うと、彼は立ち止まり振り向いた。
「我ら『錬成師』のみに扱うことのできる『錬成』……そしてそれは、既存のものを変え、新たなものを創り出すチカラ。だからこそ、『錬成師』は神の領域へと至ることができると考えています」
それは、聞けばその発言者の正気を疑うような言葉。
「……へぇ、面白いことを考えるね」
しかし、それをレイは面白いと言った。
「この世界における『ステータス』、その『称号』、【禁忌】についてはどう考えてるのかな?」
「まず、【禁忌】に抵触する事柄についてですが、わかっているものがいくつかあります」
いわく、
一つ、『死者の蘇生』
一つ、『生命体を別の生命体へと変えること』
一つ、『新たなる生命の創造』
一つ、『生命の根源の創造』
一つ、『生命の混成』
「──これが、『禁忌目次録』に記されている情報です。これは過去の【偉大なる錬成師】とも呼ばれた者が、どこかに存在するという『世界の記録』から得た情報と言われています」
「……へぇ」
「今挙げた【禁忌】だけでも、どれも神の御技に等しい。そして、これらのことが私たちの目標です」
「……ずいぶんと、危険な思考?」
「ええ、それは私達も理解していますとも。それでも、それが、そんな未知が成せるという魅力の方が強いのです……っと、理想を語りすぎましたね。今はそれよりも、我々の研究結果を見せる方が優先ですからな」
イリスの言葉にそうとだけ返した彼は、近くにあった『魔道具』を次々に見せ、説明していく。
(『錬成師』と【禁忌】……それに神の御技ね……まさか、そこまで考えている人が居るなんて驚いたなぁ。それにしても、過去に『世界の記録』にアクセスできた人がいるだなんて、思ってもみなかった。まあ、考えてみれば『世界の記録』に完全にアクセスできて全ての情報を閲覧できるなら……それはその世界において『全知』とも言えるわけだし、神の領域って言うのはあながち間違ってはいないのかもね)
「──どうかされましたか?」
「……ん?ああ、ごめんね。考え事をしてたや。……それより、それはもしかしてだけど……」
人の話中に考え事をするのは失礼だったかな、と思いつつも視界に入った、どこか見覚えのあるカタチのものを指す。
「ああ、これですかな?これは所詮、『失敗作』とも言えるものなのですがね。とある書物に記されていた『カヤクジュウ』なるものがありまして、『火薬』というものの爆発によって鉛の弾を飛ばすのですが……魔物の外殻などを貫通することが出来ないのでそれ自体は使われなくなってしまったのですが、この仕組みに近いものとして【弾丸】系統の【魔法】を飛ばす『魔道具』を作ろうとしたのですが……消費魔力や威力、射程の観点からどれもが【魔法】よりも劣ってしまい『失敗作』と……」
(へぇ、『火薬銃』、ね。この【魔法】の存在する世界において飛び道具が無くとも遠距離攻撃ができる上、海上戦ができるほどの船は無いから『火薬』はあまり発展してないのにも関わらず、それが文献に残されていたとなると……『モノ』だけが飛ばされたというよりもそれを伝えた者がいたというわけかな……ここら辺も【召喚】に関わることであるならば知りたいところだけど、さすがに今は無理か……それよりも──)
そこまで思考を巡らせたところで、目の前の『銃型魔道具』に興味が湧いた。
「それ、貸してもらってもいい?」
「ええ、構いませんが……どうぞ」
渡された銃を手に取り、どこからか鉄の容器を取り出し宙に投げると数回スピンさせてから引き金を引く。
すると、銃口から【魔法陣】が展開され、そこから土の弾丸が飛び出しチュインッと見事それに当たるが──
「お見事、なのですが……」
「んー、少しへこんだ程度かな?」
「これじゃ、戦闘には使えない」
その容器の当たった部分が少しへこんだ程度で、これでは戦闘には使えそうにない。
『ステータス』なんてものが存在する世界ならば尚更だ。
「音は【魔法陣】展開時の『魔素』が動いてなる僅かな音だけ……展開した時に『魔力感知』に引っ掛かりはするけど……それでも無ければ立派な暗器か」
「れ、レイさん?何か、問題でもありましたか?」
「ん、多分ああなったら、しばらくの間は戻ってこない」
突然ブツブツと呟き始めたレイにオームズは戸惑うが、イリスは落ち着いた様子でそう言った。
「やっぱり魔力変換効率が悪いのか。なら──『【魔弾】系統の【魔法陣】へ干渉──『書き換え』。【魔力貯蔵】、及び【変圧】の【魔法陣】を『付与』。射撃時、【加速術式】を三段階で任意展開』」
「な──【魔法陣】の書き換えに、制作済みの『魔道具』に追加『付与』、ですと!?そんな、馬鹿な……」
「うん、これでよし。ちょっと気をつけてね」
オームズの驚愕を他所に、石を三つ放り投げ、腕を横に軽く振った。
──次の瞬間、三つの石が砕け散った。
「「──は?」」
「うん、こんな感じかな」
「いやいやいやいやいや、今のは……いったい何が……」
「わたしには、見えたけど……速い」
「んー、少し改造した、かな」
「──これなら、戦闘に役立つかも知れない!いや、それどころか『錬成師』のような戦いにはあまり向かない『職業』のものにだって、チャンスになる!レイさん──いや、レイ様、どうか、どうかコレの製法を!」
歳を感じさせずに目を輝かせたオームズはそう言ってレイの手を掴む。
「まあ、いいけと……簡単に言えばあの原型に魔力変換効率の不足分を補う【魔力貯蔵】を組み込んでそこに【変圧】を入れることによって威力調整。さらに銃口付近に三点バーストとして【加速】を『付与』した感じかな」
「なるほど……ですが、ひとつの『魔道具』にそれ程の数の【魔法陣】を『付与』するのは……」
「なら、組み立ての時に部品ごとに……」
「でもそれだと相互干渉が……」
「ならそれを逆に利用して効果を……」
「そうか、なら魔石を……」
「……その発想はなかった。だったら──」
「……わたし、混ざれない……」
イリスを他所に、『錬成師』二人は通ずるものがあったのか、どんどんと話し合いは盛り上がって行く。
──しかし、それも長くは続かなかった。
「『組合長』!大変です!」
「……なんじゃ!責めてノックくらい──」
「魔物です!魔物が街に、攻めてきました!」
「早すぎないか?予想では早くてもあと一日はあったと思うが……」
「突然空間に穴が空いて、そこから現れたんです!恐らく【空間魔法】の【空穴】かと思われます!」
その言葉に『錬成師組合』中が騒めく。
(……まあ、戦闘に向かない『生産職』だと、こういう反応が普通──ん?)
そこまで思ったところで違和感を覚える。
誰も避難行動に移らないのだ。
「やっと来たか……これで俺の新作が試せる……」
「新しく作ったドーピング薬の効果、試す暇が無かったからな。いい機会だ」
「暗器の準備は済んでいるが、この毒はどこまで通用するだろうか……」
「「あれ?」」
レイとイリスが疑問符を浮かべる中、隣でオームズが息を吸い込んだ。
「──お前らァァあああ!待ちに待った『大量発生』だァああ!今こそ我らのこれまでの成果をみせつけてやれぇ!そして、各々が望む素材を片っ端からぶんどってこいやァァあああ!!行くぞぉぉおおおおお!!!」
「「「うぉぉぉおおおおおお!!!」」」
オームズの号令に、『錬成師組合』全体が震えた。
「……ああ、そういう事か。こいつら──『変態』だ!」
レイがそう結論づけ他と同時、ドドドドド、地響きを鳴らしながら移動が始まった。
「イリス、行くよ!手を!」
「ん!」
はぐれないように手を取りながら、二人もその中を駆けていく。
「はっはっは!二人も行くのですかな?」
「ええ、『冒険者』ですしね」
「ん、戦える?」
「私ですか?これでも一時期『Bランク冒険者』だったのですよ!」
そう言いながら何人で、集団の先頭を走る。
(──?黒いローブの人?逃げ遅れかな? ま、怪しい人物でも接触しておくに越したことは無いか)
「ごめん、人を見つけた。一旦離脱する。イリスはそのまま先に行ってて。すぐに行く」
「了解」
「まあ、その頃には倒しきってしまうかもしれませんがね!」
その中で一人、レイだけが集団から逸れていく。
そして彼らが暫く走り続け、着いたのは閉じられた門の前。
「半分に別れて左右の階段から上がります!後衛で壁上から狙いたい人は早くズレてください!」
「ん、どう行くの?」
閉じた門を見ながら言うイリスにオームズは──
「──勿論っ!飛び降ります!」
走る勢いのまま、宙に身を投げ出した。
「行くぞぉぉおおおお!!」
「「「うぉぉぉおおおおおお!!!」」」
魔物達の咆哮にも負けぬ声が、その戦場に響き渡った。




