『仮登録』を脱しよう!
少し遅れましたが、どうぞ
「よし、じゃあまずは『雑務系』からだね。えーと、『倒壊寸前の建物の取り壊し』?行ってみよー!」
「……そんなことも、やるんだ……」
ノリノリのレイに対し、イリスは依頼内容に首をかしげながらもついて行く。
「ここだね!んー、吹き飛ばすのは危ないし……そうだ、『魔素感知』で……うん、イリス、今から言うところに【風刃】の【魔法陣】を展開して」
「ん、【千里眼】、【魔法眼】」
「うん、そうそう。そんな感じ……じゃあ、行くよー…………Go!」
その言葉と同時、【魔法陣】から風の刃が放たれ、建物の柱を切り飛ばす。
倒壊寸前の建物の柱を切り落とせばまあ、当然──
「おおー、綺麗に崩れたねぇ。」
「ん、これで終わり?」
「そうだね、終了のサインを貰って次に行こうか。次は……『薬草採集20株』と『ゴブリン討伐』だね。じゃあ行こっか」
と言って向かったは良いものの
「【鑑定眼】……『薬草』見つけた」
「さすが『魔王』。目標数の二倍をすぐに集めるとは……」
【魔眼の王】が見つけられぬはずも無く
「『ゴブリン』の群れ発見!斬り込みます!」
「グギャア!?」
「ギャァァアアア!」
「グォォオオオオ!?」
「ギュォォオオオ!?」
「……70程の『ゴブリン』が、舞うように斬殺されてく。……? なんか違うのが混ざってた気が……」
まあ、この程度で【精霊帝】に勝てる理由も無く、ふた振りの剣に切り刻まれていた。
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「終わりましたー」
「……えっと、どの依頼がですか?」
「ぜんぶー」
「えっと、受けた依頼って何でしたっけ?」
「これ」
「……『建築物解体』って一日二日で終わるシロモノでは無いのですが……依頼表にはサインもありますので完了ですね。後は『薬草』と『仮証明』の提出をお願いします」
「ん、『薬草』と、『仮証明』?」
「ああ、倒した魔物の『生体魔素』を感知して記録する効果があるんだよ。まあ、『仮証明』ってだけはあって一週間程で効果が切れる劣化版だけどね」
なぜ? と疑問を口にしたイリスにレイが答える。
「……なぜ説明すらされていないあなたが知っているのかは甚だ疑問ではありますが……その記録を見るために提出を求めるわけです」
「ん、じゃあだす」
「はい、確かに。討伐記録を読み取りますので、少々お待ちを……っと、え?」
そうして記録された用紙の内訳がこれだ。
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レイ ランクE
討伐記録
『ゴブリン』×42
『ホブゴブリン』×18
『ゴブリンジェネラル』×9
『ゴブリンキング』×1
『走竜』×5
『上位走竜』×1
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「……初日でなんてモノ倒してくれてるんですか!?……というかこんなものどこで倒して来たんです?」
驚愕しつつも受付嬢としては聞かなくてはならない情報を聞く。
「んー、そこら辺?」
「そこら辺て……それがもし本当ならおかしい……調査隊を派遣するべきか……了解しました。こちらでも対処します。それにしても、これほどの短時間で、これほどの成果を成すなんて……」
「すごい?」
「頭がおかしいとしか思えません」
「辛辣だね……」
少しは賞賛を期待していたのだが、厳しい言葉を送られたレイは少し落ち込む。
「はぁ、こんな人たちがいたなんて……全く、あなた達は何者ですか?」
「──僕は『レイ』。それ以上でも、以下でも無い。そして僕は──何でも無い」
「そこで止められると余計気になるのですが……余計な詮索は褒められたものではありませんし、しないようにしましょう。それで、『選定試験』は受けていきますか?」
「受けられるなら受けるけど……すぐに受けられるの?」
「ええ、今なら『A』ランクの【光盾】のタルドさんが……タルドさーん!」
「ん?呼んだか?」
その声に反応したのは、大きな盾を持ったごつい大男で、この人がタルドというらしい。
「この方々の『選定試験』をお願いしたいのですが……」
「ああ、それはいいが……この嬢ちゃんたちか?」
「いや、僕は男ですよ?」
「「えっ?」」
「……ええ、もう慣れましたよ。そんな事だろうと思ってましたよーどーせー」
既にこのことについては諦め始めているレイであった。
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場所は変わって、『冒険者│組合』に併設されている修練場。
「先ほど紹介に預かった『A』ランク【光盾】タルドだ。今回の『選定試験』の教官……まあ、対戦相手だな。よろしく」
「ん、イリス」
「レイでーす」
互いに自己紹介をしながら、互いに「『冒険者』の割に意外と礼儀がある」とか考えていたのだが、互いがそれを知ることは無い。
「で、どっちからやる?俺からしたら二人いっぺんにでも構わんが……」
「お二人は『ゴブリンキング』の率いる群れを討伐してきましたが……それでもですか?」
「マジで!?……撤回だ。一人ずつで頼む」
「切り替え早っ」
「危険に挑みながらも危険を避けるのが『冒険者』の長生きするコツだ」
「へぇー、それはそうとして、どっちから行く?」
「ん、じゃあわたしから。真打は後で」
イリスが一歩、前に出る。
「嬢ちゃんが先か。『ゴブリンキング』を倒した腕前、試させてもらうぞ」
「……?『ゴブリンキング』含め、群れを倒したのはレイ」
「一人で倒したのかよ……ま、それなら嬢ちゃんが先で助かったな。片方相手にして戦闘不能にでもなったらカッコ付かねぇからな」
「ん、こういうときは確か、『倒してしまっても、かまわんのだろう』?」
「あー!それ僕が言おうとしてたのに!」
「ん、ごめ。そろそろ、始める?」
「俺も舐められたもんだが……その伸びきった鼻圧し折ってやるぜ!」
「では、両者の準備が整ったようなので……これより、『選定試験』を開始します!」
「ん、とりあえず──【魔砲】」
「ッ!いきなりかよ!『光纏いて我が身を守れ』!【光盾】!」
初撃として放たれた【魔砲】を、光を纏った盾を斜めに当てることで威力を流しつつ躱す。
「ん、さすがの『A』ランク。正直言って今ので倒せると思ってた」
「……まさか、俺の代名詞とも言える【光盾】をこんなにも早く……というか一撃目で使わされるとはな。俺も見くびっていたようだ」
(……なんて言ってみるが……コイツはやべえな。正面から受け止めてたら吹き飛ばされていた。それだけの威力が、今の攻撃にはあった)
外面は強がってはいるものの、内心では冷や汗タラタラである。
「今度はこっちから行くぜ──『身体強化』、【光爆】!」
「うぅ!?まぶし、見えない……えっと、こういうときは……目が……なんだっけ」
(貰った!【盾撃】!)
「うぐっ!」
視覚を潰されたイリスは、タルドの盾での一撃に、何かの欠片を散らしながら吹き飛ばされる。
「ふぅ、一瞬焦った──」
吹き飛ばされ土煙に呑まれたイリスを見送り、一息つきかけた瞬間の事だった。
──背筋に悪寒が走る。
それは今まで『冒険者』をしてきた中で何度も助けられた『直感』。
その『直感』によって感じる、明確な【死】の気配。
──それを感じた瞬間、反射的に横に飛んでいた。
そこを、尋常ではない魔力が通り過ぎた。
そしてその奥の壁に当たり、大爆発を引き起こす。
「なっ!?いったい何が……」
「ふ、ふふふ……」
戸惑うタルドの耳に、誰かの嗤う声が聞こえる。
そちらを向けば、今の魔力によって一部が吹き飛ばされた土煙──そこに佇む人影。
「ふふふ、あはははは……壊れちゃった?なら、それを壊したヒトも、壊してかまわない?」
その言葉に続いて、タルドの頭上に【魔法陣】が現れる。
「──【│堕ちる風】」
「ぐうっ!なっ、重っ!」
風のあまりの圧力に、タルドは膝を着く。
それでも視線を逸らさずにイリスへと向けていれば、その眼前に【魔法陣】が重ねて現れる。
──そこに込められている『魔力量』は、先程の比では無い。
「──っ!そこまで!『選定試験』は終了、直ちに攻撃を止めてください!」
「【多重連層魔砲】」
制止の声をかけるが、それも空しく攻撃は放たれた。
「不味い、これはマジで死──」
「【銀閃】」
魔力の砲撃が、視界を覆い尽くし死を感じると同時、目の前で銀の光がそれを真っ二つに斬り裂いた。
「もういいよ。お疲れさま」
眼前にある【魔法陣】が斬り裂かれると、レイはイリスの額に手を当て呟く。
そのまま崩れ落ちるイリスを抱え、その首から新しいネックレスをかけてやる。
「とりあえずはスペアだけど……今度は物理耐性のあるやつを用意しておかないとだね」
そう言いながらその場に横たえさせると──
「さて、次は僕の番かな」
──その数瞬後、タルドの首には剣が突きつけられていた。
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『選定試験』結果報告書。
『イリス』 『C』ランクへアップ。
【備考】
『A』ランク【光盾】、タルドの攻撃を受けたのにも関わらず結局は圧倒。
実力的には『A』ランクを上回る可能性あり。
『レイ』 『C』ランクへアップ。
【備考】
『A』ランク【光盾】、タルドを瞬殺。
そのため実力を測ることは難しいが、上記にあるイリスの戦闘中における最大の攻撃を防いでなお余裕があったため、彼女を大きく上回る可能性あり。
男であるらしい。




