『王位精霊』捕獲作戦
夜投稿です。
多数の自分と会議をしている夢を見ました。
後は自分が首から上だけを地面から出している夢とか……
それでは?どうぞ
「改めまして、ようこそ『精霊の森』へ」
青髪の女性は切り株に座った二人にそう言った。
「『精霊の森』か。……人間には『迷いの森』って呼ばれているところの奥深くってことで合っているかな?」
「ええ、確かに人間達には『迷いの森』と呼ばれていますね。よくご存知で……どうぞ」
「あ、どうもどうも」
そう言って渡された飲み物を飲む。
「……美味しい。桃に近い味……『トウ』っていう果物だね。しかもこれは果物の甘さのみ……普通のと比べても甘みが強いのはこの地特有かな?」
「ん、それに、多量の魔力が、混ざってる。これだけでも『魔力回復薬』としての効力がある」
「喜んでもらえて何よりです。……それで、どうしてここにやって来れたのです?ああ、もちろんあの子達が連れてくる前の話です」
青髪の女性は真面目な顔でそう問いかける。
「ああ。『光神』リムに飛ばされたんだ」
「彼女ですか……『加護』から考えてもリムちゃんというのはわかりますが……通りでいきなり上空に現れたのですか……」
「それにしても、あの『迷いの森』の奥地にこんなところがあるとはね。驚きだよ」
「ここは精霊以外は上空の決められた位置からしか入れませんから。人間たちが知らないのも当然ですよ。とは言っても、あなたは驚いて居ないように思えますが……知っていたのですか?」
「いや、知らなかったよ。識ってただけ。それよりも、その物言いだとキミはリムのことを知っているってことでいいのかな?」
「ええ、昔からちょっと抜けている子でしたから……あそこまで高い……それこそ雲の中に飛ばす必要はありませんし……それに何より、場所がだいぶ離れていますから」
「まあ、あった時からどこか残念だったからねぇ」
「ん、残念女神」
「程々にして上げてくださいね。あの子は昔からちょっとおっちょこちょいですから」
知り合いであるハズなのにも関わらず、止める気は無いようだ。
「ん?そう言えば『雲の中に飛ばされてきた』って、なんで知ってる?」
「それでしたら私のチカラです。──?ああ、自己紹介がまだでしたね」
そう言ってポン!と手を叩くと立ち上がり、礼をする。
「私は【水属性王位精霊】で、【王位精霊】の中でもまとめ役を請け負っている『ウェルシュ』と申します。同僚からは『ウル』と呼ばれていますね」
「僕は──『レイ』とお呼び下さい」
「……ん、『イリス』。一応『魔王』らしい」
「これはこれはご丁寧に。それと、私に敬語は不要ですよ。先程の話に戻らせていただくと、私は【水】を司るので『水分』でできた雲の中に現れればわかりますよ」
「ああ、そういうこと。なら代表って言うのも納得できるね」
「……なんで?」
「【水】……と言うより『水分』になるのかな?汎用性がとてつもなく高いんだ。空気中の水分だけである程度把握できそうだし……それに霧なんてかかってたら絶対的。生物相手ならかなり有利だよ。何せ、生物は少なからず体内に『水分』を持っている奴が多いからね。さらに言えば【火】は消せる上【風】は通さないし【土】なら穿ち削り、押し流せる」
「あらあら、そこまでわかるのですね。でも、さすがに他者の体内の『水分』に干渉するのは『魔耐性』や『魔力量』によっては難しくなりますけどね」
レイの台詞を聞いてふふふ、と笑みをこぼすウェルシュ。
「……『王位精霊』程の魔力量の持ち主なら、ある程度の相手には使えるハズだよ。──さて、そろそろ本題に入ろう。話ってのは?」
ウェルシュに指摘をしながら、本題へと移るように促す。
「ええ……そう行きたい所なのですが……まだ集まって居ないのです」
「集まって、いない?」
「ええ、各【属性】の『王位精霊』全員での話し合いにしようと思っていたのですが……ご覧の通り、私以外集まっていなくて……」
「大変だね」
「申し訳ありません……あの、今から探しに行きますので……」
「ああ、ならちょっと待って……『我が知らずとも、我は識っている。識別00』【コノ地ノ知識ヲ我二】」
──瞬間、ウェルシュは反射的に【水球】を生成し、戦闘態勢を取っていた。
(なに、今の──)
「ああ、ごめんね。『王位精霊』ともなれば気がつくよね。大丈夫、わからなくていい。理解できなくていい──それよりも、見つけたよ」
「へ?」
「他の『王位精霊』だよ。僕らも行こうか」
「ん、私も行く」
「ありがとうございます。では、私の心当たりのある【火】からで宜しいでしょうか?」
「ええ、構いませんよ」
レイの助力に、笑顔で立ち上がるが──
(今の感覚、普通の【魔法】じゃない?いや、どちらかと言うと私たちの……いな、まさか──)
──心の中では、今レイが行使したチカラについて思考を巡らせていた。
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「まず、私達『王位精霊』は各【属性】事に一人ずついるのはご存知であると思われますが……」
「ああ、どうせあれでしょう?『今から会いに行く【火属性】の『王位精霊』は気性が荒いので気を付けて下さい』とかそんなとこでしょう?」
「あら、ご存知で?」
「知ってたの?」
「僕ら側では知ってる人は多いんじゃあ無いかな?まあ、さすがに当たってるとは思わなかったけどね」
まさか元の世界の創作物を参考にして言ったことが当たっているとは思わず、そう零す。
「あの!……失礼を承知で問いますが……貴方は『外側』の方なのですか?」
それに対し、異様な反応をする者がいた。
ウェルシュだ。
「いや、違うよ。『外側』じゃあ無い。この世界とは違うところから来たけどね」
「まさか、【異世界人】ですか?」
「うーん、そうだったけど、そうじゃない。僕は…………何でも無いよ」
イリスとウェルシュは表情から読み取ろうとするが、無機質な表情からは何も読み取れない。
「ん、そこで、止められると気になる」
「私もそう思いますが……彼女は知らないようなので、一応説明を」
こほんっ、と咳払いをひとつしてから話し始める。
「先程仰っていたように【火】は気性が荒く、【風】は自由気まま、【土】は……考えてることが分からない……というか、独特の考え方の子でして、大体どこかの地中で寝ていますね」
「……【土】、引きこもり?」
「ええ、まあ最近姿を見ていませんから、何とも言えませんね」
「へぇ──【不可視ナル腕】」
「キャアッ!」
レイが話しの中で呟くと、何も無いところから悲鳴が響いた。
「ッ!?いったい、何が──」
「──!【魔力眼】!」
「ああ、普通には見えないのね。【無力】」
困惑するウェルシュと、気がついて『魔眼』を使うイリスを見て、気がつき呟くと、緑髪の女性が姿を現す。
「……あれれ?捕まっちゃった?おかしいな……隠密はかんぺきだったハズだけど……」
「ん、我が『魔眼』に見えないモノは、あまり無い。そして、レイに見えないものは、無い」
「どうして君が自慢げなの……まあいいけど。あ、ちなみに逃がさないからね?」
「あー、試したけど逃げられなかったからね。さすがに諦めるよ。ボクは『ウィンディード』って言うんだ。ウィンって呼んでね」
そう言って脱力し、だらーんとするウィン。
「すごいですね。あのウィンをこんなにも早く見つけるなんて……あなたも『魔眼』持ちですか?」
「僕は持ってないよ。それに、彼女はさっき僕がやったことに反応してこっちに向かっていたからね」
「あれれ?気がついてた?」
「うん、まあそれに関しては後で聞きたいこともあるからその時に。あ、このまま真っ直ぐに歩いて行ってね」
そう言って歩き出す。
「──って、え?何それ!?」
「うん。わたしなんて初対面で、やられた。その時は生首みたいに、なってた」
「うっわ、怖すぎでしょそれ……」
(そう言えば、さっきウィンを拘束した【魔法】って……)
後ろでそんな会話が行われる中、ウェルシュはそんなことを思い、質問しようと二人へと振り返り──
「──って、あれ?二人?あのレイさんは?」
何故かレイがいなくなっている事を二人に確認すると、何故か二人揃って下を指さす。
「へ?した──」
「──ふぅ、ただいまー」
下を見た瞬間、地面からにょきりと白髪と茶髪、二つの首が生えた。
「え、きゃぁぁああああ!!」
「そうそう、これこれ」
「うっわ、怖すぎでしょ。先に知ってなかったら私も叫んでたよ……」
唐突な生首にウルは悲鳴を上げ、前にやられたことのあるイリスと、それを聞いていたウィンがそんなことを言う中、
「……あれ、ピンポイントで出すぎたかな?」
「むぅ、これおもしろい。また今度やろう」
そんなことを言う生首二人組であった。
「──で、地面の中を移動して逃げてたんだけど、追いかけられて……」
「いや、【土属性】の『王位精霊』が地中で移動してるのに、それに追いつくってどうなのさ……」
「ん、レイは常識の中には居ない、よ?」
「常識は外れるためにあるってよく言うじゃないか」
捕まえた側も、捕まえた側もどちらも友好的に、楽しげに話している。
「はぁ、互いを警戒し合わないだけマシなのかも知れませんが……」
そんなことを言いながら、一つため息をこぼす。
「あ、そろそろですよ。そこら辺、足下に気をつけて下さいね」
「ん?足下って──『下方より急接近する物体を確認。物体が高温の【水】であることを確認。【拡散型障壁】、【展開】』」
足下から水が噴き出し、零刀を呑み込まんとしたが、直前で【障壁】が張られ、ぶつかった【水】が幾万にも分散されて宙に舞う。
よく見れば湯気が出ており、かなりの温度の熱湯であることがわかる。
(やっぱり、【無属性魔法】!?それにしてもこんな精度で構築できるなんて!)
「ここら辺は地下熱による『温泉』が多く、それによって間欠泉が多いのです。忠告が遅れて申し訳ございません」
内心は表に出さず、注意点と謝罪を伝える。
「それはいいけど……咄嗟に散らしちゃって……みんな大丈夫?」
「大丈夫、ウィンが【風】の【障壁】を張ってくれた」
「なら良かったけど……湯気で濃霧みたいになっちゃったね。見つけにくくなったかな?」
「いえ、ここまで来れば私の感知で──あ、捕捉できました。すぐ近くです」
「じゃ、わたしが湯気を散らすよ。ほい」
そんな軽い掛け声で湯気は確かに薄れていく。
「【魔法】、【無詠唱】?」
「私たち『精霊』が使うのは人間が使う【魔法】とは少し違うんだよ。まあ、そこら辺はレイくんが知ってるんじゃないかな?」
「ま、それは話し合いが終わってからでも良いでしょ?ほら、見えてきたし」
そう言ってレイが指さす先は、湯気に隠れてはいるが、シルエットが浮かんで見える。
「さて、これで役者は揃った。会議を始めようか」
そう言い、真剣な面持ちで歩みを進め、また濃くなり始めた湯気の中へと姿を消した。
次回、『会議』
の予定です。




