『イリス』
まだ【我が道】を読んでいない皆様は一週間ぶりです。
やっと帰って来れました。
やはり戦闘シーンになると文字数が増えてしまいますね。
少し違和感を感じるかも知れませんが……どうぞ
「──【武器庫】『展開』、『付与』【分解】──【一斉射出】!」
【白銀刃翼】で宙に舞うレイの周囲に浮いていた剣が一斉にイリス目掛けて飛んでいく。
それをイリスは障壁を作り出して防ぐ。
「やっぱりイリスが強くなった分【障壁】そのものの強度が上がってるね」
(……【分解】じゃあ威力不足かな。かと言って【過剰ナル分解】は下手したらそのまま殺しちゃうし──)
レイが思考を巡らせる中、爆音が鳴り響く。
「またか……邪魔くさいなぁ、もう!」
【白銀刃翼】をはばたかせその場をズレると、黒いナニカが一直線に通り過ぎていく。
「──黒い、速い、硬い上さらに飛ぶとかお前はGの付く方の悪魔か!?【白銀刃翼】『形態変換』──【千華繚乱、紅染ノ銀】、『様式』【自動迎撃】!」
いつしか聞いたようなことを言いながら翼をひとつはばたかせると、刃の羽が全て飛び、悪魔を追う。
(『悪魔』も簡単には倒せそうも無い、か。はぁ、ずっと傍観してればいいのに……)
というか、傍観しているだけであった悪魔に先に攻撃したのはレイである。
ただ見ているだにも関わらず、無数に剣が、それも異様なチカラを纏って降り注いでくれば誰でも怒るであろう。
(術者を先に潰せば解けるって言うのがセオリーだと思ってたんだけど……術者が強すぎる件について)
「──っと、【魔砲】の拡散型か。『爆翔天地』!」
細く数の多い光線を空中に足場を作る事で回避しつつ、小爆発を起こす事で加速し距離を詰める。
「──【白銀刃翼:第二翼展開】。【加速】、【噴射】、【慣性誘導】。『起動』!」
先程まで使用していた翼とは別のものを展開し、それに『付与』されている【魔法陣】を起動する。
パンッと乾いた音が鳴り響いた刹那、レイの姿はイリスの目の前にあった。
「『纏え』【分解】──『一閃重、十字』」
いつの間にか手に持たれていた剣に【分解】を纏わせそのままイリスを切り裂く──
「……浅い、か」
深く切り込む寸前で【転移】され、躱される。
「僕もまだまだ甘いってことなのかな?──【胡蝶舞踊、斬解】」
レイを覆うように飛来する光線を【白銀刃翼】を器用に使い空中で身体を捻りながら躱し、二振りの剣で切り刻み、【分解】する。
(この翼にも防御機能を付けておけばよかったな。それにしてもやっぱり僕が教えた使い方まで使えるか……)
この光線も【魔砲】で、拡散した光線の先に反射する【氷】などを生成することで目標を包み込むように攻撃するというレイが教えた使い方だ。
(はぁ、【分解】であの身に纏う『瘴気』はある程度なら消せるんだけど……)
イリスを見れば十字に切られたところだけ瘴気が無くなっているが、周りの瘴気が集まり埋めていく。
(アレを全部無くさない限り解けないか。さて、どうしたものか……っ!?)
思考を巡らせる途中、殺気を感じたレイは翼を全力ではばたかせてその場を飛び退く。
ドガァァァァン!!
数瞬遅れてレイのいた場所が爆発でも起きたかのように轟音をたてて吹き飛んだ。
「あぶな……【千華繚乱】の全てを蹴散らして来たというわけか。全く」
土埃が晴れる前に、その中からレイを目掛けて悪魔が飛び出した。
その直線的な動きを見たレイは宙に出現させた剣を次々に悪魔目掛けて【射出】するがそれら全てを弾きながら突っ込んで来る。
「──『舞え』」
その声に応じてレイの翼がばらけ、羽であったひとつひとつの刃がレイと悪魔を含めた空中に舞う。
「──【転剣嵐閃】!」
その中をいくつもの剣閃が煌めき、悪魔を細切れにせんとする。
──しかし、それほどの速度を持ってしても、移動しているのであればイリスの『魔眼』に見えないものは、無い。
レイの動きに合わせるようにして光線が放たれた。
「あぶっ!流石に【転移】を繰り返していても、切るときは移動してるから流石に見えるか!」
そう言って刃が舞う空間から姿を消す。
そして姿を現したのは悪魔が弾いた剣が落ちている場所。
「っていうか、【分解】纏わせても切れないってどんだけよ……まあ、実際は効いても効かなくても問題無かったんだけどね──【空間凝固】」
レイが言葉を紡ぐと、舞っていた刃の全てがその場に停止し、淡く光る。
──それはまるで時間が止まっているかのような、幻想的な空間であった。
「時間を止めてるんじゃあ無くて正確には空間の動きを止めてるんだけどね」
その空間に捕らわれた悪魔は身動きも取れずにただただ固まっている。
「……流石に長くは持たないか。──【武器庫】『階層変更』、【鎖階層】『展開』」
瞬間、何も無い空間から大量の鎖が飛び出した。
「空間を固定して固めてるから外部から内部への干渉は出来ないけど……こういうことは出来るんだよね」
その鎖は停止している空間のその側を覆っていく。
そこにレイは広げた手を向け、次第に握り締めていく。
鎖はそれに応じるように大きさを縮め、小さくなっていく。
「──【銀鎖ノ獄】っと。これでしばらくは出て来れないでしょ」
そう言ってイリスへと視線を向けると、レイとイリスの直線上で剣がひとりでに浮いている。
悪魔を捕らえている間も勿論イリスはレイへと攻撃していたのだが、その攻撃を近くにあった剣が迎撃していたのだ。
「──『無刀剣術』。その境地に至るものは自らの手に剣がなくとも剣を操るってところだね」
次の瞬間、イリスを無数の刃が包み込んだ。
悪魔に散らされていた【千華繚乱】を再度使用したのだ。
「『付与』【分解】──『それは何者にも穢されず、そこにあるものを解す』【千華繚乱、光煌ノ銀】」
イリスを包み込む刃がほんのりと輝きを放つ。
それはまるで、舞う花びらが悪しきものを浄化しているようにも見える。
しかし、少しするとペシャンと潰れ、刃はその場に漂う。
「視界は遮っていたハズなんだけれど……ああ、【千里眼】との組み合わせか。なら【自動迎撃】を起動してっと」
【千華繚乱】がイリスを追いかけ始めたのを見送ると、視線を鎖の塊へと戻す。
「──来る」
そういったのと同時、鎖が弾け飛ぶ。
「グルァァァァアアアアアアア!!」
その中から現れたのは、身体中に刃が刺さり、血濡れになった黒い悪魔。
その目には激情──憤怒が見て取れる。
「さて、やるか」
レイは新たに二振り剣を出し、さらに宙に浮かせながら悪魔へと駆け出した。
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(ここは?たしか階層主の『悪魔』と──)
現状を確認するために視線を回らせようとすると、自分の身体が自分の意志に反して動いていることに気がつく。
(身体が、勝手に?いや、これは、思考も制限されてる?)
その制限された思考を巡らせる。
(そうだ、わたし、操られて……!レイは!?)
その時、視界にこちらに向かってくる暗い光が見えた。
が、次の瞬間、それをナニカが遮る
(──良かった。無事、みたい)
微かに視界に入ったレイを見て、安堵する。
──しかしその言葉は次の瞬間、覆された。
『悪魔』と目が合う。
ニタリと、嗤う。
ヒカリが、見える。
──イリスの身体は一瞬の逡巡すらすること無く、動いていた。
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「グオオオ!」
悪魔の振るう豪腕を片方の剣で受け流し、もう片方の剣を悪魔目掛け振るう。
その斬撃は後方に飛ばれることで躱されるが、悪魔が飛んだタイミングで宙の剣が飛び、悪魔に突き刺さる。
「浅いか……!【過剰ナル分解】!」
刺さった剣を犠牲にしつつ、銀色の光が爆発と見紛う程に溢れる。
「ガ、アアア!」
しかし、それは悪魔の身体を少し抉ったのみであった。
その悪魔はさらなる怒りを滾らせレイに襲いかかる。
「これでもダメか──はっ!」
魔力を纏った一撃を剣一本では捌ききれ無いと判断したレイは両方の剣で押しのけるように流し、周りの剣が悪魔を切りつける。
「グルラァ!!」
悪魔が魔力を放出し吹き飛ばそうとするとレイはそれに乗るようにして後方へ飛び、距離を取る。
「……再生能力、ね。厄介なものだ」
再度悪魔に視線を向ければ、既に傷は癒えている。
今に至るまでにもレイは幾度と無く斬っていたのだがその度に『再生』され、倒し切れないでいる。
──故に辺りの地面はいたるところに血溜まりがあり、この戦いを見る人が見れば地獄にて天使と悪魔が戦っているような、芸術とも言えるような光景が広がっていた。
(やっぱり簡単にはいか無いか!)
斬っては『再生』され、斬っては『再生』されの繰り返しで攻撃は当たっているのだが致命傷には至らず、悪魔はそもそもレイにダメージらしいダメージを入れることすら出来ていない。
勿論、体力や魔力にも限界はあるのだがレイにおいては『魔素支配』によって空気中の『魔力』や『魔素』からある程度回復出来る上、それで間に合わない場合は『生体魔素』から『変換』出来るので問題ない。体力も回避は最小限で行っているし、防御では無く受け流しているので問題ない。
(でも、このままだと勝負は着かない。僕のチカラじゃあ殲滅力が足りないしなぁ……はぁ、まさか【分解】どころか【過剰ナル分解】まで効かないなんて……『魔耐性』高すぎでしょ)
ため息を吐きつつそんなことを考える。
(まあ、こんな永遠を思わせる戦いもイリスが復活するまでの辛抱かな。イリスの【魔砲】に【分解】を混ぜればどうにかなりそうだしね)
他力本願な気もするがこの際仕方が無い、と割り切って思考を打ち切る。
「『其は金を成す木ではなく、鉄をもって木を成し、紅き生命の果実を求める貪欲なる樹木。しかし、その欲が満たされることは、無い』──【際限無ク求ム貪欲ナル禁樹】」
そう紡ぎ、小指の爪サイズの小さな鉄の塊を放る。
それが地に触れた瞬間、凄まじい速度で鉄色の木が生え始める。
「さあ、お食べ」
その木はその大量の鋭い枝を悪魔目掛けて伸ばし始める。
悪魔は上空に逃げることで射程外へと逃れようとするが、枝は際限無く伸びる。
旋回しようが、緩急を付けようが、急激に角度を変えようが、フェイントを掛けようが、追いかける、追いかける、追いかける追いかける追いかける。
「地面を鉄に『変換』して自らの枝を伸ばす。うん、思いつきで作った割には良さげだね」
そう言うと剣をひとつ飛ばし、【転移】したのは悪魔の目の前。
「──いくら【魔法】や斬撃が効かないって言っても限度があるよね」
身体に捻りを加え、『天翔爆地』を利用して爆発を起こして威力を底上げした回し蹴りが決まり、悪魔は枝の方へと飛ばされる。
勿論、その【禁樹】は悪魔を逃すまいと枝で優しく包み込み──
「グ、ガルァァアアアア!!?」
──滅多刺しにする。
一切の慈悲も無く、ただただ血を、肉を求めるかのように枝を突き刺し、さらに深く深く潜り込もうとする。
──それでも枝は紅く、染まることは無い。
「血の中の鉄も吸収して自分のものに変えてるからね。まあ、自分でも酷いとは思うけれど……まだ足りないか」
「ガァァアアア!」
悪魔がさらなる魔力を解放し、枝を吹き飛ばした。
「ガアアアァァ……」
悪魔はこれでもかと言うくらいに目を血走らせてレイを睨みつけている。
一目見ただけで怒り狂っているのがわかるであろう。
「だから?【千華繚乱、紅染ノ銀】」
しかしそれに構うこと無く攻撃をする。
「僕だって少しは怒って……ああ、いや、それはいいか」
そんなことを言いながら無感情に逃げる悪魔を見ている。
悪魔もただ逃げるのではなく、【魔法】を使って撃ち落としていくが、それでも刃の花びらは紅く彩られていく。
それはさながら、大木の周りに舞い、彩る桜吹雪の様でもあった。
(これでも倒せないのか。そうなると後はイリス頼みだけど……もう少ししたら復活するかな?──ん?イリスが【転移】を止めた?魔力はまだ残ってるハズなのに……)
疑問に思いつつ、支配している悪魔に視線を戻す。
(やっぱりまだ死んでないし、悪魔にも魔力は残ってる──ん?なんで嗤って……)
悪魔がニタリと嫌な笑みを浮かべ口を開くと、そこには膨大な魔力が集中していた。
(?【咆哮】かな?さっきの僕じゃあ無いけど術者を先に潰そうって魂胆かな?)
それは【吐息】とは違い、収束した光線のようなもの──イリスの【魔砲】に近いものだ。
それが、放たれた。
──イリス、目掛けて。
「なっ?!まさか復活する前にイリスを!?【転移】!」
比較的イリスに近いところに落ちていた剣に【転移】すると地に小爆発を起こしながら駆ける。
(間にっ、合えぇ!)
「──『無刀剣術』、【零閃】!」
その光の砲撃を、【咆哮】へ向けて剣を持たずに振るうと、光は二つに分かたれ避けるように流れていく。
(よかった。間に合った──)
レイの背筋に、悪寒が走る。
反射的に振り向くと、すぐ側の血溜まりが発光している。
(まさか、『魔素隠蔽』!?血で魔力ごと隠していたのか!)
状況はさらに悪化する。
切り裂かれた光線の中から紫色のモヤが現れてレイを包み込んだ。
「【転移】が使えない!?まさか【転移阻害】か!」
そのヒカリは膨大な光量を有し、爆発的に広がっていく。
(イリスの【転移】を止めさせたのもこのための布石──!)
ヒカリがレイを包み込み──
何か、柔らかいものを感じた。
轟音が鳴り響いた。
しばらくし、ようやく土埃が晴れる。
そこには──
「──イリ、ス?」
血塗れの身体で横たわるイリスを見つめる、土埃と誰かの血に濡れたレイの姿があった。
ヒロイン死亡のお知らせ。
さて、どうなる事やら……




