牛肉
先週は諸事情により投稿できませんでした。
タイトルからしていろいろとおかしいですが……まあ、そういうこともありますよね。
それでは、どうぞ!
「ブモオオオオ!」
二足歩行をする人型の牛の魔物……ミノタウロスが大きな斧を横薙ぎに振るうが、白い髪を腰まで伸ばした者に音も無く受け流される。
「『我が描く。それは激流にあらず、多が集う唯一滴の岩をも穿つ雫であった』──【点滴岩穿】」
続いてそう呟くと空中に青色の【魔法陣】が現れ、そこから一滴の水の雫が重力を無視するかのように横向きに落ちていく。
その雫はミノタウロスの額に当たると弾ける──ことは無く、そのままミノタウロスの頭に孔を開けた。
「うーん、そこそこだねぇ……進んだのも頭の中間までくらいかな……?そうだ!いいこと考えた!」
そう言い振り返ると、突進して来るミノタウロスが視界に入る。
「そうだねぇ……『我が描く。それは激流にあらず、多が集う唯一滴の雫。故に、汝は花開くことを知らなかった』」
再び青色の【魔法陣】が現れたかと思うと、今度は真っ赤な雫がミノタウロス目掛けて落ちていく。
ミノタウロスはその速度に躱せ無いと理解したのかその太い腕で受けた。そのため、貫通はしなかったが──
「『──今、咲き誇れ。開花せよ』」
次の瞬間、真っ赤な花が開いた。
「ブォォオオ?!」
しかし、その花は唯の花ではなく、ミノタウロスの血と肉によって生み出されたものであった。
「腕で防いでも、腕は持っていけるね。【滴穿血花】って所かな?即興にしてはいいデキだね。イリスーもういいよー」
「──ん、【魔法眼:石錐】、【重力眼:過重】」
ミノタウロスの頭上に円錐形の石が現れ、串刺しにする。
「なかなかにエグいことするね」
自分のしたことを棚に上げてそう言ったのは、すでにお分かりの通りレイである。
「それほどでは、ない。……それより実験、は?」
「んー、【魔法陣関数化】については概ね成功かな?」
レイが今回行った実験はその名の通り、【魔法陣】を特定の『詠唱』によって呼び出すというもので、この場における【関数】は数学ではなくプログラムに近いものだ。
『我が描く』と言う言葉を「これから【魔法陣】の呼び出しをする」と言う宣言として専用の【並立思考】を作り出し、その後に『魔力』を乗せた特定の言葉を『詠唱』することで、それに付随する効果の【魔法陣】が構築されるという仕組みだ。
なので別に『火』『玉』『飛翔』だけでも【火球】は飛ばせるが『規模』や『威力』、『目的』などを決めていないので、込めた『魔力量』やその【魔法】を使った状況によって左右されてしまう不安定な状態になってしまうのだ。
「別に、普通に【魔法陣】をそのまま展開して使えるなら、そのままでも良いんじゃ、ない?」
「いや、それがそうでも無くてね……ほら、イリスの場合は無自覚かも知れないけれど『魔眼』で見ることで座標を特定して【魔法陣】を展開できるわけだけど……僕の場合はそれができないから『この距離をこの規模で』っていう規格されたモノしか使えないわけ。だからその場で【魔法陣】を構築した方が精度も規模も段違いってこと」
「ん、それなら納得。で、もう一つの実験は?」
「ああ、【多元重層魔法陣】のこと?改善点あり、かな?まあ、そのお陰で新しいパターンも作れたんだけどねぇ」
ちなみに【多元重層魔法陣】は簡単に言えば【魔法陣】を重ねたり少しズラして展開することで新しいものを作っていくというものだ。
言わずともわかるかもしれないが、これらのものはレイが独自に作り出したもの、いわばオリジナルである。
「解析しきれなかったけれど……アレで失敗なの?」
少し思考にハマり始めているレイにイリスが疑問も投げかける。
「うーん、先に打った【点滴岩穿】の方なんだけどね……アレは最初に『たくさんの水滴を作る【魔法陣】』を【展開】してその水滴の中に『形状・性質維持』の【魔法陣】を【展開】するっていうものなんだけど……」
「……まって、いろいろまって。まず一つ、水は一滴にしか、見えなかったけど……」
「あー、あれねぇ。一滴に見えるかも知れないけど本当はたくさんの水滴の集まりなんだよ。その水滴同士がくっつかない様に『形状・性質維持』を掛けたんだけどね……ほら、水滴が長い時間を掛けて石に穴を開けたりするでしょ?あんなのを擬似的に作り出してやりたかったんだけど……」
「……で、何で失敗なの?」
長くなりそうなのを察したイリスは話の進行を促していく。
「ああ、その『形状・性質維持』が互いに干渉しあっちゃって水滴同士が反発しあってね?威力が分散されちゃったんだよね。……まあ、そのお陰で熱を発生させる……すなわち『分子運動を加速させる』【魔法陣】を代わりに入れて、体内に入った瞬間起動することで水滴も血も一瞬で気化させて爆発させる【滴穿血花】も開発できたんだけどね……」
それを聞いたイリスが一言、
「レイが一番、エグいことしてる……」
そんなことを言った。
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普段静かな、少し木の生えた平原に何かを焼くような音が聞こえていた。
「はい、タン塩一丁上がり!レモンは無いから代わりに味の似た果物の汁に付けてどうぞ!」
──まあ、その原因もレイなのであるが。
「ん、おいしっ」
現在、レイが作ったホットプレートのような魔道具で焼き肉中である。
これにはプレート部分を熱するための【魔法陣】が施されており、さらには熱が偏らないように工夫もあるのだが……まあ、ここで語るほどのものではないだろう。
「レバーとかホルモンっていける?」
「ん、多分」
そんなやり取りをしつつ、次々に焼いていく。
基本焼く係はレイなのだが、『演算』をフル活用しながら焼いているため美味い上にスピーディなので普通に食べれている。
「いやぁ、美味しいねぇ」
「ん!ほんとにおいしい」
二人が食べているのは牛肉──もといミノタウロスの肉である。
それを二人で食べているのだ。
「いやぁ、迷宮の中だとは思えないねぇ」
「ん、いまさら」
レイのそんなのほほんとした物言いにイリスはそう言いながら肉をタレに付けて食べる。
ちなみにこのタレもレイが作ったものである。
「……最近、レイが万能すぎる件について」
「ん?なんて?」
「……何でも、ない」
そう言って今度は食用の葉っぱに肉を包んで食べる──
「……そうか。包む、か。」
そう言って何かを考え始めたレイを尻目に、イリスは食べ進めながら自分がいかに恵まれているのかを実感していくのであった。
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「張り切って迷宮、探索して行きましょー……と、張り切っていたのは良いものの……これってやっぱり?」
「うん、とびら」
二人は大きな扉の前にいた。
レイが張り切っていたのは少しの間作業をしていて探索に乗り出せなかったからなのだが……想像以上に早くついてしまったのだ。
「ハァ、今までのパターンだとボスはもう一階下の階層のハズなんだけど……」
「ん、どうする?」
「いや、行こっか」
不安そうに聞くイリスに即答する。
「実験の続きなら階層主のが強い分捗るだろうし……それに、この階層だとレベルも上がらなくなってきてるでしょ?それと、かなりの時間この迷宮にいるからそろそろ出たいってのもある。特に甘味が欲しいしね。それに──」
チラリとイリスを見てから、言う。
「──君の記憶のこともあるからね」
「記憶……」
レイがそう言うとイリスは顔を引き締める。
「さて、そろそろ行こっか」
「うん」
少し不安そうな顔をしたイリスが視界に入るが、そこには触れずに扉を開ける。
その先には、
「……【転移魔法陣】か。久しぶりだね」
そこには一つだけ【魔法陣】があった。
「?……ボス、は?」
「ああ、そういやアレは君と会う前だったか。まあアレだね。【転移魔法陣】の先にいるだけだよ」
そう言い、イリスを連れて【魔法陣】に向かう。
「ああ、そうそう。言い忘れてたけどさ。前に迷宮はそろそろ終わりかもって話したでしょ?」
「うん」
そんな会話をしているうちに【魔法陣】の中に入り【転移】される。
「──最後の方はネタが切れてくるのか知らないけれど、多数で攻めてくることもあるかもしれないから気を付けてね」
「うん──?魔物が、いない?」
イリスが声を上げたのに続いて、辺りの地面が輝き始める。
「……まさか、これ全部【魔法陣】!?数え、きれない」
そして一瞬、一際強く輝くと、光は収まっていく。
「うわぁマジか……『瘴気』を大量に取り込んで強化されてるとか……正気かねぇ?」
「……ネタ切れ?」
「僕のボケにはつっこんでくれないのに、言葉だけは辛辣だねぇ」
イリスは抑えていた魔力を解放し、レイは何も無いところから二振りの剣を抜き、言う。
「実験開始、かな?」
それを皮切りとして、戦闘が始まった。




