レイは魔法が使いたい!?
眠い眠いと嘆きながら世界を呪っても、この世界は回り続ける。
悲しいですね。
何て馬鹿なこと言ってないで……どうぞ
いつものように、イリスは目を覚まし、着替えると下の階に降りる。
「……レイ?」
いつもならばレイが朝食を準備していて「おはよう」と言ってくれるはずなのに、今日はない。
と言うか、この家にいない。
家の中を探し回っても、【存在眼】で隅から隅まで探してみるが、いない。
不安になったイリスは、玄関から出て外を覗う。
そこにもレイの姿は無く、あるのは一振りの剣だけ。
「……剣?これって……やっぱり【転移剣】」
刺さっている剣に触れ、魔力を流し込む。
『魔王』であるイリスでもそこそこの魔力を持っていかれる。
とはいえ、普通の『転移魔道具』よりも少ない量ではあるが。
(えーと、確か……【記録眼】でも確認してっと)
「『起動』、【転移】」
そう言うとイリスは光に包まれた。
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「ガァッ!」
着いて直ぐに聞こえてきたのは魔物の声であった。
咄嗟にイリスは身構えるが、周りには何もいなく、少しホッとする。
少し落ち着くと、その声は少し奥から聞こえてくることか分かり、そちらへ歩みを進めていくと、開けた場所に出る。
そこにはレイが居て、その周りを狼の魔物が取り囲んでいる。
(あれは、軍団狼?)
軍団狼は大きな群れで行動し、その群れで狩りをするため、地の利が無ければ戦うべきではないとされている魔物である。
イリスはそれを【鑑定眼】で知り、再度状況を確認する。
その中心でレイは一人、目を瞑って二振りの剣を持ち、立っている。
(私は、レイが強いことは知ってる。それに血を流している所を一度も見たことがない。でも、さすがにあの数は──)
そこまで考え、答えが出るよりも先に軍団狼の一部が飛びかかった。
「レ──」
声をかける、と言うよりは悲鳴に近いものではあったが、それは途中で止まってしまう。
飛びかかった狼達に対して静かに│銀色の眼を開き、音も無くレイは動き出し、音も無く斬ったのだ。
そして、瞬きをする間もなく、血が流れるよりも早く光の粒子となってレイに吸い込まれ、消えていく。
仲間があっさりと殺られたことに怒ったのか、焦ったのかは定かでは無いが一斉に飛びかかる。
それをレイは最小の動きで音もなく切り伏せていく。
そして斬られた魔物から光の粒子となってレイに吸い込まれていく。
──全てを切り捨てるのにそう時間はかからなかった。
それを見たイリスは、想像以上のことに驚き、一歩後ずさる。
瞬間、反射的にイリスは【転移眼】で上に飛んだ。
そして見ると、そこには剣を振り切った体勢のレイの姿があった。
イリスは反射的に【集束魔眼砲】を放っていた。
「『前方に魔力的高エネルギー反応を確認。──【225構層衝撃吸収構造障壁】展開。』」
それをいつかのように多構造の障壁が受け止める。
「──あれ?イリス?」
レイが今気がついた様子で声をかける。
「ああ、そういう事ね。ごめんごめん、もう大丈夫だから」
レイがそう言うとイリスも【魔眼砲】を止める。
「ふぅ、ごめんね。ちょっと実験してたんだ」
「実験?」
「そ、【生体感知】とかを併用して自分が意識しないでも戦えたり反射的に防御、反撃ができるようなものをね。それよりも、何かあった?」
「──もう、朝」
「ああ!ごめんね!今すぐ作るから!とりあえず帰ろうか」
「うん」
そう言うと二人は『転移剣』まで歩き、帰っていった。
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「突然ですがっ!僕は【魔法】が使いたいっ!」
バンッとテーブルを叩いてレイが言う。
「……?いつも、使ってるよね?」
「違うよ。あれは【魔法】じゃあ無い」
その言葉に首を傾げる。
「まあ、あれはただ単に『魔素』を【火】に変換して現象を起こしているだけに過ぎないからね」
「でも、なんで今さら……?」
「いやぁ、だってそろそろこの迷宮ラスボスでしょ?」
「──えっ?」
「えっ?」
初耳だと驚くイリスにレイが驚く。
「どうして、わかるの?」
「あー、いや、あれだよアレ。まずさ、この迷宮がまず│クリアさせる(・・・・・・)│気がない(・・・・)ってことに気づいてる?」
「──えっ?」
全く持って予想していなかった言葉に驚く。
「『試練の迷宮』って名前をしてるのに、どうしてかはわからないけども、確実にこの迷宮はクリアさせる気は無いよ」
イリスの反応に笑みを浮かべながら、再度キッパリと言う。
「どう、して?」
「さぁね。ただ、本来どれだけ強い冒険者が来たとしても『転移結晶』が使えなければまず進むことを躊躇うし、その先に行ったとしても食糧が無い。その上、『ステータス』が高くなくても厄介な特徴や『技能』を持つ魔物も多い。そんなのと休み無しで連戦できるわけもないし、武具の整備だってある。そうすれば、まずは攻略される可能性は絶望的。更に、それでも止められない特殊な『技能』持ちはこの前の深淵に座すもう一人の自分で潰される。それでも潰せないなら、後は本当に圧倒的な力で潰すしかないってわけ」
「……なら、もしかしたらだけど、最下層まで行っても、出られない可能性も、ある?」
「まあ、その時はどうにかするよ。まあ、これは最終手段で、下手に使えば死より恐ろしいことになるからやらないけどね」
少し不安そうなイリスに微笑みかけながら言う。
(そういう事じゃなくて……と言うより、死より恐ろしいことって、何……?)
「……?どうかした?」
「……何でもない」
さすがのレイも他者の内心は読めない。
「……まあ、というわけで実験に付き合って欲しいんだ」
「私に?」
「君なら見えるでしょ?ある程度は考えてはいるんだけど……第三者からの意見も欲しいかなぁって」
「……ん、わかった」
「それじゃあ、行ってみよう!」
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と言った感じで、そこそこ開けていて、見晴らしが良く多方向からの襲撃にもいち早く気づける階層に来ていた。
のだが──
「うーん、やっぱり違うなぁ」
「ん、惜しい」
レイがやっているのは火の球体を作って飛ばすと言うだけの、所詮【火属性魔法】で言うところの【火球】である。
「魔素を球状に固めて【火属性】に『変換』して飛ばしても、少し飛んで分散する。分散しないように属性を持たない魔素で覆って球状にしても、ぶつかったとき中の熱が伝わるだけで火の性質が活かされない。てか、そんなの熱した鉄球ぶつけてるようなものだしね。かと言って【風】の魔素で覆っても途中で分散しちゃうしなぁ……」
「熱した鉄球って……だいぶ攻撃としては使える、と思う」
「違うの!【魔法】が使いたいの!……はぁ、かと言って魔物の【魔法】は理論云々じゃなくて本能的に使ってるから参考にならないしなぁ。どこかに【魔法】が使える人はいないかなぁ──って、あれ?」
そこまで言った所で、ふと気づく。
「イリスってさ、【魔法】使ってたよね?」
「うん、でもあれは普通の【魔法】とは違う、よ?」
「詳しくお願い」
「ん、私の場合はイメージして【魔法】を発動してない。【記録眼】に保存されている【魔法陣】を、【魔力眼】で魔力を使って投影して、そこに魔力を流し込んで発動させてる」
「──【魔法陣】か。その方向は考えていなかったな……ごめん、【魔法陣】を展開してくれないかな?」
「いいよ。はい」
可能性を感じたレイが頼み、それを了承した瞬間、目の前に銀色の瞳があった。
端的に言えばレイが顔、と言うよりもイリスの瞳を覗きこんでいるのだ。
「え、あの、えっ、ちょっと、顔、ちか──」
「──【記録眼】内にある【魔法陣】の読み取りまでは『完全記憶』でできるね。ただ、【魔法陣】の投影展開は──いや、それこそ魔素を使って【魔法陣】が描けるかな?あとは記憶内の【魔法陣】の知識を使って……でも、これだと威力が固定になっちゃうから……ならこの関数に当たる部分を不確定にして……ああ、上限リミットは外して……」
『鑑定』しながら解析を進めるレイはイリスの様子に気がついていない。
「ならこれをこうして、これをこうして──」
〜数時間後〜
「──【魔法演算】、『開始』。──【火炎砲】!!」
レイの目の前に赤色の【魔法陣】が展開され、そこに魔力が溜まったかと思うと、そこから圧縮されたオレンジ色の炎のレーザーが飛び出し、その射線を焦がす。
レイがやったことは『【魔法陣】の効果が決まっているならば書き換えればいいじゃない』という暴論を通しただけの話だ。
そのための思考を『演算』の【並立思考】から作り出し、それを【無属性魔法】で新たに作り上げた【魔法演算】で呼び出す方法を確立したのだ。
「……ほんとにできちゃった」
「うーん、後衛としてならまだしも、前衛で戦いながらになると難しいかな?でもここまでできるならあれも……あ!これで武具にも組み込む幅が広がった!?こうしちゃいられない!」
レイはイリスの手を取り
「行くよ!イリスの武具も作らなきゃ!」
そう言って駆け出した。
ちなみにイリスは色々な意味でグッタリしていた。




