本質無くして──
先程書き終えたばかりでの投稿なので誤字脱字があるかもです。見つけ次第感想欄で御報告頂けると有難いです。
では、どうぞ
小学生程の少年が一人、何人かに囲まれていた。
その理由は、簡単で、ありがちと言えばありがちなもの。
この位の年代であれば何かと周りと違う人がいると排除しようとする。
──彼は、簡単に言ってしまえば、男の子にしては可愛かった。
それを『女々しい』、『男らしくない』などと捉えて、気に入らないからと攻撃しているだけだ。
──しかし、彼はやり返すということをしなかった。
自分が悪くないとわかっていたから。
だからこそ、被害者である自分は、このまま耐え続け、我慢していれば【正義】が助けに来てくれると信じていた。
──だが、誰も助けにこなかった。
そこには巻き込まれるのが嫌だ、という感情が幼い彼らにもあったからかもしれない。
──なんて【理不尽】なのだろうかと、少年は思った。
「おい!悔しかったらやり返してみろよ!」
──少年の耳に、何故かその声は明瞭に聞こえた。
そして次の日から、彼は時々ではあるが女装をするようになった。
──『来るかもわからないような、遅れて登場するような【正義】なんて、要らない。なら、その【理不尽】を【理不尽】と思わない自分を無から作り出して、その【理不尽】に適応してしまえばいい』と決めたからだ。
自分を守るために、今までの自分全てを無くして、世界に適応していくかのように──
------------------------------------------------------------
零刀の頭を氷の弾丸が掠める。
(──おっと、打開策のヒントがないか過去を振り返って見たけれど……ちょっと深く入りすぎたかな?)
次々に飛んで来る氷の弾丸を二振りの剣で受け流していく。
「──『付与』【過剰ナル分解】、続いて【掃射】!」
零刀の技の中でも最高峰の威力を誇る組み合わせで攻撃するが
「……やっぱダメかぁ。うまい具合にいくつかにだけ衝撃を与えて誘爆させるとか。考えるねぇ」
(んー、このままだと本当にどうしようもないな……)
「んー、最悪生きてればいっか。とりあえず──」
零刀の姿が消える。
「──手足を切り落として動けなくしてから話を聞くかな?」
『魔王』の背後にあった剣に【転移】して切りかかるが──
「──さすがにそれは予想外かな」
突然、空間を引き裂いて巨大な右腕が現れ、『魔王』の少女を守ったのだ。
そしてそのまま振るわれる腕を【転移】で回避する。
「なんかかっこいい──っと『上位鑑定』」
------------------------------
魔王e4svka50epの腕
魔王r60'3i@8l8の右腕。
その腕は護る為に、危険を排除する為に。
------------------------------
(──文字化けしてる?『上位鑑定』が失敗した気配は無いけど…ってことは隠蔽されていたと言うよりも、誰かが意図的に改竄して誰にもわからないようにした?──とりあえずは考えるだけ無駄か)
「死角からの攻撃もダメかぁ。なら──【一斉射出】」
連続して剣が飛ぶが、『魔王』は自分に当たる軌道のものだけを『衝撃の魔眼』で余裕を持って落とす。
他の剣が横を通る瞬間に、零刀は【転移】して──
「──ん?えっ?」
──次の瞬間には地面に押さえつけられていた。
何とか顔を上げると『魔王』は両眼を瞑っていた。
(えー、『千里眼』で俯瞰視して飛んだところにピンポイントで『重力の魔眼』とか……ありですか。いや、実際にやられてるからありなんでしょうけども……)
『魔王』は零刀の方を向いてから両眼を開く。
次いで片眼が緋色から紺色に変わる。
「『封魔の魔眼』、ね。なるほど、魔力を封じて【転移】させないと……簡単に言うと『逃がさないゾ☆!』ってことかな?」
『魔王』は無表情のまま、零刀から眼を離さずに少し歩み寄る──
「──君はずっと……一人で抗い続けているんだね」
──踏み出したままの体勢でピタリと止まる。
そして、ほんの少し『封魔の魔眼』の効力が乱れた瞬間に大量の魔力を無理矢理操作して【転移】する。
(──やっぱり、か)
零刀は『魔王』に向き直り、言う。
「一人で抗い続けることは……僕にはできなかった。諦めてしまった。だからこそ、君のその行為は僕にとって好意に値する。だから──」
零刀は、決心した。
「──僕の全身全霊で、君に救済を与えよう」
『演算』によって無駄が排除され、モノクロになった世界で思考を巡らせる。
(時々、思っていたんだ。誰もが『魔力』を持っていて、その『魔力』には個体ごとに色があって、それはその個体の『性格』や『本質』によって変わる)
『魔王』の【魔法眼】によって飛ばされてきた【魔法】をほんの少し分割されていた思考で最小の動きで躱す。
(だけど…僕の魔力には色が、無い。つまり、僕には本質が無い)
両眼を、瞑る。
──すると、気がつけば零刀はいつか夢で見た、真っ白で何も無い空間に漂っていた。
(ここが、これが僕の本質。後は、僕がこの本質を受け入れるだけ──)
何も無い空間に唯一存在していた零刀自身が、溶けて、無くなった。




